私を支えた「食」
羽根田卓也さん(カヌー日本代表)
東京2020オリンピック・パラリンピック大会開催に向け、
トップアスリートなどの地元食材を生かした思い出深い「和食」を紹介します。
家族で食べた「味噌カツ」「とろろご飯」が原動力
私の故郷は愛知県豊田市。元カヌー選手だった父をはじめ、兄弟とともに幼少期からスポーツに親しんでいました。私は7歳から9歳まで器械体操に励み、9歳から父と兄の影響でカヌーをはじめました。
スポーツ一家でしたが食生活はごく一般的で、和食を中心とした母の手料理で育ちました。食卓に並んだ郷土料理の中では、「味噌カツ」が好きでしたね。コクのある赤味噌(八丁味噌)に鰹だしなどを加えて煮詰めたタレは、濃厚な味わい。我が家では市販の味噌ダレを使うのが定番でした。
「自然薯(じねんじょ)」を使ったとろろご飯も大好物。毎週末、父と通っていたカヌーの練習場がある矢作川近くの竹林には、天然の自然薯がたくさん生えていました。練習が終わると、父とよくパドル(櫂)をスコップ代わりにして(笑)、自然薯を掘り、その日の夕食にしていました。新鮮なとろろに醤油やだしをかけると、ご飯が何杯でも進みましたね。
好き嫌いがなく、何でも食べていた私の「食」への意識が変わったのは、初めてドイツでの世界選手権に出場した高校1年生のとき。競技終了後、会場近くでファストフードを食べていたら、イタリアの金メダリストが近づいてきて「This is not our food.(これは我々の食べ物ではない)」と言ったんです。憧れていたトップ選手に諭されたことで、食生活の重要性に気づきました。この頃から、独学で栄養の知識を学び、身体に良い食べ物を取捨選択するようになりました。
高校卒業後、より充実したトレーニング環境を求めてカヌーの強豪国スロバキアへ単身で渡り、現地の大学に通いながら練習を重ねました。スロバキアではワンプレートの食事が一般的で、品数が少なく、1食の栄養価が低いと感じるように。不足している栄養は、スーパーに行って食材を調達し、自炊して補うようにしていましたね。その点、多様な食材で栄養が摂れて、バランスの良い和食は理想的な食事だと思います。
激流に挑む計算しつくされた
繊細な動きに注目
カヌースラローム競技は、コースの20カ所以上に吊るされた2種のゲートを通過しながら、激流を下り、そのスピードを競います。緑のゲートは上流から下流へ、赤のゲートでは下流から上流へ遡って通過しなければなりません。スラロームには、激流に立ち向かうダイナミックなイメージがありますが、実はとても繊細な競技。例えば、ゲートを通過する際は、数センチメートルからミリメートル単位までの動きを計算しないと、大きなミスにつながります。
コースを進むイメージングをシビアに行っていても、ミスをする可能性が随所に潜んでいます。小さな油断が順位を下げてしまうので、試合では冷静な判断力、対応力を発揮できる選手が勝利に近づくのです。その時々の水の流れを読み、波を味方につける選手の技術力、バランス力が詰まったパフォーマンスにぜひ、注目してください。よりスリリングに観戦できると思います。
自国開催のオリンピックは
一生に一度の大舞台
私にとっても皆さんにとっても、東京2020は特別な大会ではないでしょうか。リオ五輪以降、カヌー競技に注目いただき、応援してくださる人が増えたことは、私の励みになっています。苦しい場面でも、皆さんから届く声援が大きな力になります。観戦時はぜひ「アップ、アップ」とエールを送ってください。今大会を機に建設されたコースは、難易度が高く、挑戦のしがいがあるコース。私も自国開催のオリンピックという一生に一度の大舞台で最大限の力を発揮し、期待に応えられる結果を残したいと思っています。
カヌースラローム競技のルールとメダルへの道
東京2020オリンピックのカヌースラロームは2020年7月26日から31日、東京都江戸川区のカヌー・スラロームセンターで行われる(2019年11月時点)。
カヌーは、ブレード(水かき)が片端だけのパドルで行うカナディアンカヌーと両端あるパドルで行うカヤックの2種類がある。変化に富んだ流れのある川に、2本のポールをぶら下げたゲートを20前後設け、これに触れないように通過しながら上流から下流へと下るワイルドなタイムレース。ゲートのうち6個から7個は、上流に向かって通過しなくてはならず、ゲートに触れた場合は2秒、決められた順に通過しなかった場合は50秒が、スタートからゴールまでの時間に加算される。この総時間数が少ない選手が上位者となる。
激流の中で艇を自由に操る技術力やバランス力に加え、川の流れや波の状況、風を読みながら敏捷性(びんしょうせい)を発揮する選手が勝利に近づく。
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