

野生鳥獣の肉を意味するフランス語「ジビエ(GIBIER)」。近年日本でもジビエが注目されています。今回は、捕獲された鳥獣の命を無駄にせず、鳥獣被害という農村の問題をマイナスからプラスにつなげる取り組みとして期待されているジビエについて、そのおいしさや魅力、また安全に楽しんでいただくための近年の取り組みについて紹介します。
拡大するジビエ利用

出典:農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査結果」を加工して作成

出典:農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査結果」を加工して作成
令和2年度のジビエ利用量は1,810トン。平成28年度と比べると、1.4倍に増加しました。しかし、年間に捕獲されるシカやイノシシのうち、ジビエとして食肉流通されている割合は約1割(ハンターによる自家消費を除く)。農林水産省では令和7年度にこの利用量を約4,000トンとすることを目標として、皆さんにジビエをもっと知って、食べていただくため、さまざまな取り組みを行っています。
ジビエの安全を確保する
取り組みを知ろう!
ジビエの利用拡大を進めるにあたり、重要なのは安全なジビエの提供。そのため、2014年に「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」が策定されました。また、流通するジビエの安全性の更なる向上と透明性の確保のため、2018年には「国産ジビエ認証制度」が制定されています。現在この認証制度に基づく食肉処理加工施設は全国に約30施設存在しています。
今回はそのうちの1つ「信州富士見高原ファーム」の戸井口裕貴さんにお話を伺いました。

長野県諏訪郡富士見町にある信州富士見高原ファーム外観。
まず、ジビエの
食肉処理加工施設では
どのようなことをして
いるのか教えてください。
私たちの施設では、まず契約猟師が捕獲したシカがここに運び込まれます。処理施設では、ガイドラインに沿って、個体の特徴や健康状態を確認後、皮を剥ぎ、内臓検査をした上で、枝肉にして、その後、流通形態に合わせて捌いていきます。例えば納品先がレストランであれば部位ごとにばらして枝肉や塊に、スーパーなどの小売店であれば使いやすくカットした精肉状態にします。

真空パックになったシカ肉。
安全なジビエを
提供するために
留意していることを
教えて下さい。
長野県では、安全で高品質な信州産シカ肉を提供するため「信州ジビエ衛生管理ガイドライン・衛生マニュアル」を策定しています。このガイドラインに基づき、徹底した品質・衛生管理はもとより、捕獲・止め刺しから処理施設へ搬入するまでを短時間で行い(冬は90分以内、夏はさらに時間を短縮した上で、施設も早朝4時半頃から稼働)、素早く解体することで、高品質な食肉生産を心がけています。また、内臓検査の判断は、ガイドラインの遵守はもちろんのこと、獣医師にもアドバイスをもらっています。
さらに、捕獲から処理までの個体情報を出荷肉から追跡できるような仕組みも作っています。
「国産ジビエ認証制度」
導入のメリットについて
お聞かせ下さい。
認証には専門家が関わっているので、客観性のある安全なジビエを提供できる仕組みになっていると思います。安全・安心の担保があるからか、小売店や飲食チェーン店などのバイヤーが、ジビエの存在を広めてくれるようにもなりました。
また、認証施設同士で連携して安定供給の仕組みをつくることで、大規模ロットにも対応できるようになりました。

信州富士見高原ファームで製造されているシカ肉ソーセージ。
国産ジビエ認証制度とは?

農林水産省が指定する国産ジビエ認証委員会が認証機関を審査・登録し、認証機関が処理加工施設を審査・認証する仕組みです。制度上の審査員の要件を満たす専門家により、食品衛生法やガイドラインの遵守のみならず、衛生管理等について約80項目もの基準を審査し認証される、客観性のある安全なジビエを提供できる制度です。
今後、どのような取り組みが
ジビエの更なる普及に
繋がると思いますか?
消費者の皆さんに「国産ジビエ認証制度」のことや「ガイドラインを守って処理された肉は安全・安心である」ということを知ってもらえれば、食べてもらえる機会がもっと増えるのでは、と考えています。
また、最近ではSDGs教育の一貫から修学旅行生が見学にきてくれるようにもなりましたが、彼らが家に帰った後でも、自宅近くでジビエ料理を見かける機会があれば、「修学旅行のときに話を聞いたから食べてみよう」と思ってくれるのかなと。多くの人にジビエの魅力を知ってもらうためには、誰もが知っているような大企業でジビエを扱ってもらうことなども必要なことだと思いました。
ジビエに関わる人たちみんなで「安全・安心なジビエ」のイメージを作っていければと思います。
今回教えてくれたのは・・・

信州富士見高原ファーム
戸井口 裕貴 さん
ジビエを貴重な地域資源として「信州ジビエ」のブランド化を推進し、ジビエの普及に取り組む。
ジビエポータルサイト「ジビエト」
ジビエについてもっと知って頂くための動画やコンテンツ、
様々なジビエ料理などの情報は、こちらからご覧いただけます。
奥深いジビエ料理の魅力。
ジビエを食べに行こう!

レストラン「エレゾゲート」のエゾシカ100パーセントのハンバーグ。
昔から猟をする人々が伝統的に食べてきた「マタギ料理」から、ヨーロッパの「貴族の伝統的料理」、そして現代的にアレンジしたオリジナル料理まで、ジビエ料理は数多く存在しています。
ここでは、北海道豊頃町を本拠地に、狩猟から食肉処理加工、販売まで一貫して行う食肉料理人集団(株)ELEZO社が運営するレストラン「エレゾゲート」の髙橋 和寛さんに、レストランで提供されているジビエ料理を紹介してもらいました。

2020年に東京・虎ノ門ヒルズ内「虎ノ門横丁」に開業した「エレゾゲート」。

北海道庁が交付する「エゾシカ肉処理施設認証」「北海道HACCAP」を取得した施設で食肉加工した肉を使用していることが掲示されている。
2005年に創業した同社は「生産狩猟部門」「枝肉熟成流通部門」「シャルキュトリ製造部門」「レストラン部門」で事業を展開しており、北海道庁が交付する「エゾシカ肉処理施設認証」「北海道HACCP」認証の下、おいしく安全なジビエの普及に努めているとのこと。
東京・虎ノ門ヒルズに2020年に開業した「エレゾゲート」では、「骨1本、肉筋1つたりとも無駄にせず使い切り、美食に転換し、命を大切にいただく」という信念のもと、季節ごとに変化する肉の状態を見極め、その魅力を最大限に活かした料理を提供しているそうです。

期間限定で登場しているミート&チップス。
例えば、お店のオリジナルワインを作っているオーストラリアのワイナリーへ全社員で訪れたときに食べたフィッシュ&チップスからヒントを得て生まれた「ミート&チップス」。
「1月のシカの運動量を考えたときに、この時期に締まった肉質になっている外もも肉を使ったら、美味しく提供できるのではないかと考えたメニューです。ビールを使った薄い衣をつけることでビール酵母の力も加わりジューシーな仕上がりになっています。」と同シェフ。

「素材を超えた味付けはしない」というエレゾゲートの料理。ハンバーグも肉の力強さがしっかりと感じられる。
ランチコースのメインとしても人気の「蝦夷鹿100%ハンバーグ」は、玉ねぎやパン粉などのつなぎはほぼ加えておらず、肉のうま味がみっちりと詰まっています。
「肉の鮮度が保たれているので結着力が強く、つなぎはほぼ使わず、ハリのあるハンバーグに仕上げています。これにはエゾシカのウデ肉を使っています」と高橋シェフは教えてくれました。
今回教えてくれたのは・・・

ELEZO GATE(エレゾゲート)
髙橋 和寛 シェフ
東京都港区虎ノ門にある、狼ののれんが目印のレストラン「エレゾゲート」のシェフ。
全国ジビエフェア
全国ジビエフェア(2021年11月1日から2022年2月28日)開催中。
全国のジビエが食べられる・買えるお店が1000店舗以上参加、地図上で検索可能。
自宅でジビエ料理を作ろう!
シェフ直伝「調理のコツ」
最近では全国どこにいても、ECサイトなどで、ジビエが手軽に手に入るようになりました。自宅で調理する際にはどんな点を注意すればよいか、ジビエの特徴を考慮したレシピや調理ポイントを、長野県蓼科にあるオーベルジュ・エスポワールの藤木シェフに伺いました。
「ジビエを食べる際は、中心部まで十分加熱するようにしましょう。一方、シカ肉やイノシシ肉は火の通し方によっては肉が固くなってしまう場合もあるので、下処理の一工夫でおいしく仕上げることができます。」(藤木シェフ)
1
シカ肉は唐揚げがおすすめ!
柔らかさの秘訣はヨーグルト
さっぱりしたシカ肉は、下味をつけて揚げる唐揚げがおすすめです。調味液に無糖ヨーグルトを入れるのがポイント!乳酸菌でお肉が柔らかく仕上がります。


お好みの調味料を入れて、そこに無糖ヨーグルトを加えるだけでジューシーな唐揚げになります。
ボールに、しょうが、ニンニク、醤油、みりん、酒、無糖ヨーグルトを入れて混ぜ、そこに食べやすく切ったシカ肉を入れ、30分から60分ほど漬け込み、鶏の唐揚げと同じようにきつね色になるまで揚げてください。
2
圧力鍋で煮込む場合は、
茹でこぼしをしましょう!
煮込み料理にシカ肉などのジビエを使う場合は、一度茹でこぼしをしてから、圧力をかけましょう。この一手間をかけると、圧力鍋の栓がアクで塞がることもなく、独特の臭みがある場合でも解消できます。
3
ひき肉料理は、
カリカリになるまで
肉を焼くのがポイント
シカのボロネーゼソースなど、ひき肉を使う料理の場合、テフロン加工のフライパンを使い、油はひかずにカリカリになるまで肉を焼きましょう。肉汁が出てきますが、その肉汁がなくなるまで焼き付けてから調味料を加えることで、香ばしくおいしく仕上がります。
今回教えてくれたのは・・・

オーベルジュ・エスポワール
藤木 徳彦 シェフ
(一社)日本ジビエ振興協会代表理事も務め、国内におけるジビエ料理の第一人者として活躍する藤木シェフ。エスポワールでは信州ジビエを使用した数々のダイナミックな料理が楽しめます。
自宅で手軽にジビエを
楽しもう!

そのおいしさや栄養が魅力のジビエ!加工食品や料理セットは、自宅でも手軽にジビエ料理を楽しむことができる優れものです。ジビエへのさまざまな思いから生まれた商品や地域の特産品、こだわりの商品と、そういった品々をお取り寄せできるコンテンツを紹介します。
おおち山くじら
島根県美郷町のブランドイノシシ『おおち山くじら』 。地域住民が主体となって鳥獣被害対策からジビエ商品販売までを手掛けています。春から夏の農繁期に田畑を荒らすイノシシを捕獲。脂が少なく調理が難しい夏場のイノシシを自宅で簡単に楽しんでいただけるよう、シェフ監修のもと、煮込み料理の缶詰にしました。
取材協力:(株)クイージ


北海道知床産鹿肉のキーマカレー
北海道産のエゾシカ肉を北海道産玉ねぎと香ばしく炒め、素材のおいしさを引き出すために手間ひまをかけた、シカ肉のコクと旨味の引き立つキーマカレー。ジビエは高価なイメージがありますが、エゾシカのおいしさをもっと知ってもらい、日常使いができるよう、牛肉、豚肉を使用した他のカレーシリーズ商品と同じ価格で提供。
取材協力:ベル食品(株)

ジビエ餃子(猪・鹿)
福岡県みやこ町は、ジビエを特産品にしています。直売所と加工施設を運営する(有)犀川四季犀館は、今年「ジビエ餃子(猪・鹿)」を発売しました。焼くだけ・揚げるだけで、手軽に家庭でジビエ料理が楽しめます。
取材協力:直売所「よってこ四季犀館」

丹波猪と栗のテリーヌ
秋から冬にかけて旬となるイノシシと、代表的な秋の味覚である栗を合わせ、自宅でワインなどを楽しめるように作ったテリーヌです。イノシシ肉は丹波から質の良いものを仕入れ、相性の良い栗を合わせました。爽やかな香りと柑橘感が特徴のティミュットペッパーを使用し、イノシシのクセを和らげて仕上げていますので、ジビエに慣れない方へのギフトなどにもおすすめです。
取材協力:(株)なんつね

HELLO!ジビエ

『HELLO!ジビエ』(令和元年度農林水産省補助事業)は、温めるだけ・切るだけでおいしく食べられる加工食品から、本格的にジビエ料理を楽しむためのブロック肉、ペットフードまで様々なジビエ商品を扱っているインターネット販売サイトです。
今回教えてくれたのは・・・
(一社)日本ジビエ振興協会
ジビエ料理の普及拡大によって増え続ける鳥獣被害を減らし、地域の活性化や社会貢献の実現を目指して設立。

この記事のPDF版はこちら
(PDF : 1,802KB)

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いま各地でおきている
鳥獣被害を考える -
地域のチカラで
野生鳥獣から田畑を、
地域を守る -
アイデアとICTを活用し
若い力がリードする
鳥獣対策 -
食べて発見!
ジビエの魅力
編集後記
今回のジビエの特集を読んで、思わず食わず嫌いな父親の顔を思い出してしまいました。そんな父ですが、新しい食べ物を好きになることもあるのです。どんな時かって?それは、ほんとうにおいしいモノを食べた時です。ジビエがもっと普及するためには、食わず嫌いの方にも食べていただけるよう、初体験の時こそ、最高においしく食べてもらいたいですね。(広報室YT)
お問合せ先
大臣官房広報評価課広報室
代表:03-3502-8111(内線3074)
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