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農林水産省

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  • aff02 FEBRUARY 2022
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豊かな海を次世代に繋ぐ 環境に配慮して育てられた広島県の「牡蠣」

今回は、自然環境に配慮した高品質な牡蠣の養殖と、それを次世代に繋ぐために行われている取り組み、また、牡蠣養殖の現場における課題の解決に向けて行われた、ICTを活用した実証実験の様子などについてお届けします。

高品質な牡蠣の養殖と
豊かな海を守る取り組み

地御前漁業協同組合 集合写真

広島湾の西側に位置する地御前漁業協同組合で生産されている「地御前かき」は、身入りがよく濃厚な味わいが特徴。組合員の皆さんの「より高い品質の牡蠣作りを目指す」という想いは、海の環境を守り、次世代へ繋いでいくための活動にも現れています。地御前漁業協同組合の峠さんと増木さんに、その活動について伺いました。

今回教えてくれたのは・・・

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地御前漁業協同組合所属

峠 誠二 さん(左) 増木 進一 さん(右)

広島県廿日市市地御前にて牡蠣養殖業を営み、共に3代目。これまで先代が築き上げてきた養殖技術を継承しながら日々変化する自然環境と向き合い、試行錯誤しながら環境改善などに取り組む。 モットーは「すべてはおいしい牡蠣を届けるために!」

地御前漁協の牡蠣筏。

「牡蠣の排泄物などが堆積した海底を耕すことで、環境を改善する“海底耕うん作業”は50年ほど前から続けています。これほど長く続けているのは地御前漁協だけではないでしょうか」と語るのは組合員の峠さん。また、海底に堆積するヘドロからの硫化水素の発生を抑制するとされる焼成粉砕牡蠣殻の散布や、間伐や植林により山の環境を整え、豊富な養分を含んだ水を海へ還元するといった活動も行っています。

から海底耕うん機/牡蠣殻散布作業の様子。

から散布する牡蠣殻/植林活動の様子。

そしてこの取り組みが、牡蠣の養殖で初めて水産エコラベル認証のひとつである「MEL認証(マリン・エコラベル・ジャパン)」を取得するという成果につながりました。
「次世代へ地御前の牡蠣づくりを継承していくにあたり、1つの指標が必要ではないかという考えがきっかけで認証取得に向けて取り組みました。認証を受けるためには、水質や養殖手順などさまざまな記録を提出する必要があります。養殖手順は確立されたものがあり記録をつけること自体はこれまでも行っていたことなのですが、組合員17業者それぞれの養殖手順を、統一した手順として文章化するのは大変でした。ですが、今まで真面目にやってきたことを認められたということはやはり嬉しく、取得したからにはより品質の良い牡蠣の養殖を追求したいと、身の引き締まる想いです。」

MEL認証を取得した地御前漁協の牡蠣/MEL認証授与式の様子。

認証取得後に改めて掲げるのは“高品質で環境にも優しい牡蠣づくり”。
「量を求めて過密養殖をしてしまうと、1つ1つの牡蠣に十分な栄養が行き渡らない上に、死んでしまう牡蠣や糞が増えてしまい海底環境にも悪影響を及ぼします。品質を重視しながら、後世へ豊かな海を残すためにも、持続可能な牡蠣づくりをしていきたいと思います」と組合員の峠さんは語ります。

広島の牡蠣の魅力をもっと知りたい方は、下記もご覧ください!
牡蠣食う研:https://kakikuken.com/
広島牡蠣道:https://kaki-hiroshima.com/

〈MEL認証とは?〉

資源の持続的利用や環境に配慮した漁業・養殖業により生産されたものであることを示す水産物認証制度。日本国内では、国際水準の水産エコラベルとして主に、漁業のみを対象とするMSC(海洋管理協議会)、養殖業のみを対象とするASC(水産養殖管理協議会)、漁業・養殖業の両方を対象とするMEL(マリン・エコラベル・ジャパン協議会)の取得が進んでいます。

画像提供:全て地御前漁業協同組合

AIの力で牡蠣養殖を
サポート
海の中を「見える化」する

リアルタイムで
海洋情報を収集・発信!

牡蠣養殖に必要な情報(海水温、栄養状態、幼生分布など)を、ICT(情報通信技術)を活用して収集し「見える化」することで、安定した採苗を実現し、生産量の増加や効率化を図ることを目的としてスタートした「スマートかき養殖IoTプラットフォーム事業」。各分野から専門家が集結して行われたこの取り組みについて、プロジェクトの代表である東京大学大学院工学系研究科の中尾教授にお話を伺いました。

今回教えてくれたのは・・・

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東京大学大学院工学系研究科

中尾 彰宏 教授

広島県出身。東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 教授・東京大学総長特任補佐。東京大学次世代サイバーインフラ連携研究機構・機構長。「情報通信・情報科学」の学術に基づき「未来社会を支える次世代サイバーインフラの創成」に取り組む。5G・ローカル5Gや、IoT/AI・機械学習を駆使し、膨大なリアルタイムデータを収集し解析することにより、地域における課題解決や産業振興など地域創生の推進の研究を進めている。

瀬戸内海の気候と豊かな海が育てる広島の牡蠣は、生産量全国一位を誇るとともに、その味わいで高い人気を集めています。中でも江田島市は、市町村生産量の全国トップを争う一大産地です。しかし、近年、養殖牡蠣が生産低下の傾向にあるといいます。牡蠣の養殖には、卵から「幼生」となったものを、ホタテ貝の貝殻などに付着させる“採苗(さいびょう)”という重要な工程があります。採苗の際、生産者はできるだけ卵が多い時期に、多い場所を見つけて、船で筏(いかだ)を引いて移動しますが、牡蠣の卵が潮の流れにのってどこに移動しているのか、また、いつ幼生になるのかといったことは生産者の経験などから判断するしかないため、採苗不良となったり、牡蠣の成長段階での海洋環境の変化による育成不良などが原因となっているというのです。こういった問題の解決を目指し、広島県のAI/IoT実証プラットフォーム事業「ひろしまサンドボックス(https://hiroshima-sandbox.jp/)」に公募、採択されたことにより「スマートかき養殖IoTプラットフォーム事業」の実証実験をスタートさせました。
「これまで採苗は生産者が伝承してきた知識や経験だけに頼っている部分が多く、なぜうまくいかないのかその理由もよくわからないままでした。この事業ではデータサイエンスを用いることで、より確実にその原因を究明し、対策を立てることが目標でした」と語るのは同プロジェクトを牽引する中尾教授。

通信機能付きの「ICTブイ」。
画像提供:(株)NTTドコモ

牡蠣は6月から8月頃に産卵し、約2週間で幼生がホタテ貝などに付着する状態になります。効率の良い採苗を目指して今回主に注力したのが、親貝の産卵時期と幼生が流れ着く海域の予想です。漁場のブイや養殖用の筏にセンサーを設置し、構築した通信インフラから水温や塩分濃度、溶存酸素などを計測し、数値化するセンシングを実施することで、養殖に関する広範囲かつ多様なデータを収集しました。
「海は、電波が飛びにくい、電気が取りにくい、装置が塩分で腐食してしまうなど、センシングには厳しい条件ばかりの環境ですが、プロジェクト期間中に23箇所のセンサー設置を実現。30分に1回モニタリングをし、リアルタイムでクラウドへ上がるシステムを作り上げました。生産者がスマホ一つでその情報へ簡単にアクセスできるアプリも開発。産卵時期の予測に加え、離れた場所からも牡蠣の生育環境を把握することで、採苗不良や育成不良を防ぐことにつながります」(同教授)

漁場の水温の把握や産卵予測などに活用される漁業者専用アプリを操作している様子。

産卵場所の想定と幼生が流れ着く海域のシミュレーションにはドローンを活用。牡蠣の産卵が始まると、数時間から1日程度で海が白く濁る「白濁現象」が起こります。その様子をドローンで上空から撮影し、AIで解析することにより、産卵場所を想定します。

ドローンを飛ばして産卵状況を確認する。

「広島湾は非常に潮の満ち引きが激しいことや、島が多くあり、地形が入り組んでいることなどから、川が流れるような速さで幼生が運ばれる可能性があるんです。しかし、潮流のシミュレーションを行うことで、かなり広範囲に散らばっている幼生の位置も想定することができるようになります」(同教授)

潮流シミュレーションの様子。

技術的な基礎が完成し、今後さらなるデータの蓄積を行い事業化を目指しているという同プロジェクト。
「最初の取り組みとして想定よりも広範囲にセンサーの設置ができ、ここまでのシステムが作れたのは、チームの思いや地元の方たちが密に連携をとって下さったおかげだと思っています。地域課題に最新テクノロジーが活用できたという実例を作れたことはとても光栄です。今後は、さらなる実証実験を通し、何年にもわたりデータを蓄積することで、より充分なデータを取得すること、また安心して運用できるようメンテナンス体制も強化していければと思っています」(同教授)
産卵と浮遊という2つの事象の安定化というゴールの先には、新しい漁場の発見という目標も見据えています。“伝承からデータサイエンスへ”を合言葉にした同プロジェクトをきっかけに、確実に進む江田島での牡蠣養殖における“見える化”。
広島の牡蠣のおいしさをこれからも多くの方に届けられるよう、プロジェクトのさらなる躍進が期待されます。

実証事業を終えて、
今後の展望は?

今回教えてくれたのは・・・

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広島県農林水産局水産課 水産振興グループ 主査

戸井 真一郎 さん

水産業改良普及員として、キジハタ稚魚の生残・定着を高める放流方法や、干潟で消失するアサリ稚貝の有効利用手法を開発している。2021年4月より、水産課水産振興グループリーダーとして、牡蠣の養殖振興に取り組んでいる。

「近年、天然採苗の不調が散見されるようになり、産地としての危機を感じている中、付着直前の牡蠣幼生をAIで検出する技術を活用できる、ひろしまサンドボックスの取り組みはとても画期的でした」と語るのは広島県水産課水産振興グループの戸井さん。
これまでは顕微鏡で熟練者が観察して牡蠣の幼生を計数しなければならなかった作業が、誰でも写真を撮ってサーバに送信するだけで、自動的に検出・計数が可能に。この技術が発展すれば、今まさに海上で採苗しようとしている生産者が、海の中に付着直前の牡蠣幼生がどの程度の密度でいるのか知ることができるため、失敗の少ない採苗が可能になると考えられます。

生産者が採水し,デジタルカメラで撮影した画像でAIが牡蠣の幼生を検出する。
写真提供:中国電力(株)/(株)セシルリサーチ

「今後はこうした技術を生産現場に積極的に取り入れ、データに基づいた効率的な牡蠣養殖を実現することで、日本一の産地を守っていきたいと思います」(戸井さん)

牡蠣だけではない、
瀬戸内ひろしまの
地魚にも注目!

陳列された地魚の画像

中国山地と多くの島々に囲まれた広島県の豊かな海では、四季を通じて牡蠣だけではなく多彩な旬の地着きの魚を楽しむことができます。
広島県農林水産局水産課資源管理グループの杉岡さんに、そんな広島の地魚の魅力などについてお話を伺いました。

今回教えてくれたのは・・・

プロフィール画像

広島県農林水産局水産課資源管理グループ 主査

杉岡 光 さん

広島県広島市出身。2001年4月広島県入庁(水産職)、2021年4月より現職。水産基盤整備、栽培漁業、資源管理、新規就業、デジタル・スマート化、ブランド化と幅広い業務を所掌している。

Q1

広島県で水揚げされる魚の
特徴を教えてください。

A1

広島県で獲れる魚の特徴といえば、白身の魚が多く、四季を通じて旬を迎えた魚を味わうことができることです。
漁場環境や季節によって、小型底びき網、あるいは刺網、一本釣りといった多様な漁法で様々な種類の魚が水揚げされます。また、小ぶりながらも淡白さの中に旨みが詰まっていることから、生(刺身)だけでなく、煮る、焼く、蒸す、揚げる、といったシンプルかつ多様な調理法で、アラや骨の出汁まで、丸ごとおいしく味わえます。
広島県の海は、中国山地からの森の恵みの供給に加え、瀬戸内海の中でも特に島が多いといった、多様な環境が凝縮されています。このような環境で育まれることが、広島県で獲れる地着きの魚の味わい深さを生んでいるのかもしれません。

小型底びき網操業風景。瀬戸内海ならではの小型漁船(5トン未満)により海底付近をひく漁法です。

Q2

オススメの冬の魚を
教えてください。

A2

白身で刺身、塩焼き、煮つけなど多くの料理に向くクロダイがオススメ。「にっぱち」といい、年二回、2月と8月がおいしさの旬と言われますが、特に冬は「寒チヌ」とも呼ばれ、脂がのっており、刺身にしても、炊き込みご飯にしても最高です。

(左)(上)クロダイ(チヌ)の炊き込みご飯、(右)(下)塩焼き。

Q3

広島地魚の魅力の
さらなるPRに向けた
取り組みを
教えてください。

A3

「広島では年間を通じておいしい魚がいろいろ食べられる」ということを、多くの方にPRする取り組みを続けていきたいと思っています。
全国一の生産量を誇る「牡蠣」の知名度が高い一方で、県内で水揚げされる他の魚介類についてはそれほど知られていないのが現状です。そこで、「牡蠣」だけではない、季節の多様な地魚を広島らしい価値のあるものとして売り出していけるよう、県として新たな取り組みを始めたいと考えているところです。すでに県内においては、市域単位で地域の特産的な魚種を中心にPRする取り組みが展開されています。
こうした取り組みも生かしながら、県としても漁業者や市場、飲食関係者と連携して、県内外の多くの方々に、季節の多彩な魚の味わいを満喫できる広島ならではのひとときがあると知っていただくことで、「瀬戸内ひろしま地魚」の消費拡大につなげていきたいと思っています。

取り組み例
・広島湾7大海の幸
http://www.hiroshima-wan.net

・尾道季節の地魚の店
http://www.onomichi-matsuri.jp/jizakana/

画像提供:記載しているもの以外は広島県

冬が旬の海産物を味わう

編集後記

2年目の農村派遣研修で1ヶ月間、石川県の能登半島でお世話になりました。日本海に面する能登半島では、定置網で獲れた新鮮な海の幸が豊富で、魚が本当に美味しかったのがとても印象に残っています。私がお世話になったのは夏の終わりから秋にかけてですが、冬の時期はブリやカニ、牡蠣など、さらに豊富な魚介類が楽しめるとのことで、現地の方にはぜひ冬の時期にもおいで、と言って頂きました。東京に帰ってきた直後からコロナ禍となり、残念ながらまだ冬の能登には一度も行けていないのですが、必ずまた行きたいなと心から感じています。(広報室AY)

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お問合せ先

大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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