
2026年9月号
ジビエの
新しい価値
野山を駆け回り、自然の中で育った野生鳥獣の肉であるジビエは、力強い旨みや独特の風味が特徴です。良質なたんぱく質をはじめ、ビタミン、ミネラルなど、私たちの体にうれしい栄養素を含む食材としても注目されています。
日本では近年、処理加工施設の整備や冷凍流通の発達などにより、ジビエは外食でも気軽に食べられるようになりました。また、安全性を確保しながら一年をとおして手に入りやすくなったため、レストランの通年メニューとして見かける機会も増えています。家庭用としても、冷凍・真空パックのジビエを少量から通販で購入できるため、家庭で手軽にジビエ料理を楽しめるようになりました。しかし、「牛肉や豚肉とは何が違うの?」「家庭ではどう調理すればいいの?」と思う人も少なくないのではないでしょうか。そこで今回は、管理栄養士で料理研究家の牧野直子さんに、ジビエの栄養や特徴、おいしく安全に楽しむためのポイントについて伺いました。
高たんぱく・低脂質で栄養豊富なシカ肉
「シカ肉やイノシシ肉は、おいしさだけでなく栄養価の高さでも注目されています。中でもシカ肉は、高たんぱく質・低脂質が特長で、100グラム当たりのエネルギー量を比べると、牛肉やイノシシ肉より低く、キュウシュウジカはエゾシカよりもさらに低エネルギー。また、牛肉と比べて脂質を抑えながら良質なたんぱく質を摂取できるだけでなく、鉄や亜鉛、ビタミンB2、ビタミンB6などを含んでいます。こうした栄養特性から、成長期のお子さんをはじめ、健康的な食生活を心掛ける人や、鉄を意識して摂りたい方など、幅広い方々に取り入れていただきたい食材なんです。一方、イノシシ肉はシカ肉よりエネルギー量は高めですが、良質なたんぱく質を含み、濃厚なうま味とコクが魅力です。味わいは豚肉に近く、"ぼたん鍋"のような鍋料理や煮込み料理によく合います。 ジビエは種類によって栄養や味わいにそれぞれ特長があるため、料理や好みに合わせて使い分けるといいですね」
シカは牛肉、イノシシは豚肉に近い味わい
「『ジビエは臭みが強い』と思われがちですが、適切に処理された肉であれば臭みはほとんど気になりません。シカ肉は牛肉に近い上品な味わい、イノシシ肉は豚肉に近いコクのある味わいが特徴です。独特の風味が気になる場合は、オレガノやタイムなどのハーブを合わせることで、香りや味わいに奥行きが生まれるのでおすすめです。安全においしく食べるためには、普段の肉料理と同じように、中心部までしっかり火を通すことができていれば大丈夫。特別な調理法は必要ありません」
料理研究家の牧野直子さんに、ジビエ調理が初めての人でも、家庭でおいしくつくれるレシピを紹介していただきました。
【材料:4人分】
シカひき肉・・・300グラム(冷凍・真空パック)
冷蔵庫で1日かけて自然解凍を
たまねぎ・・・2分の1個(約100グラム)
にんじん・・・4分の1本(約50グラム)
セロリ・・・4分の1本(約50グラム)
にんにく・・・1かけ(みじん切り)
赤ワイン・・・2分の1カップ
オリーブ油・・・大さじ2
塩・粗びきこしょう・・・各少々
餃子の皮(市販品)・・・20枚
A) 塩・・・小さじ2分の1
砂糖・・・小さじ1
水・・・大さじ1
B)トマト水煮缶(ホール)・・・2分の1缶(200グラム)
フォークなどでつぶしておく。
水・・・2分の1カップ
顆粒コンソメ・・・小さじ1
ドライハーブ(オレガノ、タイムなど)・・・少々
〈仕上げ用〉
エキストラバージンオリーブ油、パルメザンチーズ適量
ルッコラ(適宜)
フライパンは2個使用(1つは小鍋で代用も可)
【作り方】
【作り方】
1食感をよくするため、ひき肉によく混ぜ合わせたAをもみ込み、10分ほどおきます。
2たまねぎ・にんじん・セロリはすりおろすか、フードプロセッサーでペースト状にします。
3フライパン(または小鍋)にオリーブ油大さじ1、にんにくを入れて、中火にかけ、香りが立ったら2を加え、水分を飛ばすようにじっくり炒めます。
4別のフライパンにオリーブ油大さじ1を中火で熱し、1を入れて焼きつけます。肉の色が変わったら、3のフライパン(または小鍋)に移します。
5肉を炒めた4のフライパンに赤ワインを入れ、中火でアルコールを飛ばしながら、フライパンに残った肉の旨味と混ぜ合わせます。3のフライパン(または小鍋)に移し入れ、混ぜながら煮汁が少なくなるまで煮詰めます。
65にBを加え、弱火で20分ほど煮て、塩・粗びきこしょう各少々で味を調えれば、ミートソースの完成!
7完成したミートソースの半量を使って餃子の皮20枚分を包みます。沸騰したお湯に1%の塩(分量外)を加えて茹で、浮き上がってきたらざるに上げます。肉は加熱済みのため、皮に火を通す程度でOK。
8器に盛り付け、ルッコラを添えます。エキストラバージンオリーブ油を回しかけて、パルメザンチーズをふれば完成。
ミートソースの残り半量は冷凍用保存袋などに入れて冷凍保存するといいでしょう。
撮影=田子芙蓉
家庭で楽しむジビエレシピ
ジビエ料理の参考にしたいのが、農林水産省が開催する「ジビエ料理コンテスト」[外部リンク]の受賞レシピ。2025年度は「ご家庭でのジビエ料理」をテーマとし、家庭でもチャレンジしやすいアイディアが満載。こうしたレシピを参考にすれば、ジビエは特別な食材ではなく、普段の食卓に取り入れやすい存在だと気付きます。まずはいつもの料理の感覚で、豚肉や牛肉の代わりにトライしてみてはいかがでしょうか。
捕獲した有害鳥獣の有効活用という意味だけでなく、子どもたちが地域の自然や野生鳥獣による農作物被害の現状を知り、「命をいただくこと」の意味を考える食育の機会としても、全国各地で学校給食へのジビエ導入が進んでいます。
学校給食でジビエを活用することは、農作物被害や有害鳥獣被害対策への理解を深めるだけでなく、捕獲から処理加工、流通までの多くの人の努力を知り、自然の恵みや命への感謝を学ぶ機会にもなります。そのため、地域の食文化や産業への理解を深め、学校と地域をつなぐ食育の機会としても期待されています。また、ジビエの味や魅力を知るきっかけにもなります。その一方で、ジビエに馴染みのない子どもたちが食べやすい献立づくりなど、導入には様々な工夫が欠かせません。それぞれの地域はこうした課題をどう乗り越え、学校給食へのジビエ導入を実現しているのでしょうか。鳥取県と長野県の事例を紹介します。
多彩な献立でジビエを身近な食材に
鳥取県若桜(わかさ)町の若桜町立若桜学園(小中一貫校)では、2019年からジビエ給食を月1回から3回程度提供しています。これを支えているのが、町内にある処理加工施設「わかさ29工房」です。工房からジビエを安定的に供給してもらえることで、定期的に学校給食に取り入れることができ、多彩な献立づくりが可能になっています。ひき肉やスライス肉、角切り肉を、タコライスやビビンバ、ゴボウとジビエの炒め物といった献立に合わせて使い分けています。若桜学園の栄養教諭・山本貴美子さんは、子どもたちの様子をこう語ります。「給食で初めてジビエを食べた子どもが多いのですが、だんだんとジビエのおいしさがわかってきて、今ではジビエ料理を楽しみにするほど。子どもたちにとってジビエは身近な食材となっています」。地域の課題と自然の恵みをひと皿にのせた給食が、地産地消と食育を無理なく日常へ根付かせています。
給食にジビエを取り入れ、子どもたちを応援
次に紹介するのは、市内の中条地区に処理加工施設「長野市ジビエ加工センター」が整備されたことをきっかけに、シカ肉を給食に取り入れ始めた長野県長野市立中条(なかじょう)小学校の取り組みです。「シカ肉は栄養豊富で成長期の子どもたちにぴったりの食材。鉄分豊富なため、運動会や試験前に『がんばって!』という思いを込めて献立に取り入れることもあります」と話すのは、同校・栄養教諭の清水智子さん。長野県はシカ解体頭数全国3位(農林水産省「令和6年度 野生鳥獣資源利用実態調査」)ですが、校内の先生方や子どもたちの中でジビエを食べた経験のある人は少なかったそうです。「中条は山里の原風景が残る自然豊かな地域。子どもたちは、畑が有害鳥獣の被害に遭い、困っている人たちの姿を身近に見ているため、命をいただくことの意味をすぐに理解してくれました」と清水さん。年5回から6回程度のジビエを使った給食の経験によって、子どもたちは地域が抱える課題への理解を深めています。
イラストレーション=小池ふみ
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