3 認定こども園における食育の推進
認定こども園は、就学前の子供を保育の必要の有無にかかわらず受け入れ、教育と保育を一体的に提供する、いわば幼稚園と保育所の両方の機能を併せ持ち、保護者や地域に対する子育て支援も行う施設です。
認定こども園における食育については、平成26(2014)年に策定された「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」に基づき、各園において食育の計画を策定し、教育・保育活動の一環として計画的に行うこととしています。
平成29(2017)年に改訂され、平成30(2018)年度から施行されている「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」においても、第2章「ねらい及び内容並びに配慮事項」や、第3章「健康及び安全」の中で、食育に関する内容の充実が図られました。特に第3章においては、食育の推進として、食育のための環境の整備や「保護者や関係者等との連携した食育の取組」について新たに明記されました。食育は幅広い分野にわたる取組が求められる上、家庭の状況や生活の多様化といった食をめぐる状況の変化を踏まえると、より一層きめ細やかな対応や食育を推進しやすい社会環境づくりが重要になってきます。
また、認定こども園では、栄養教諭や栄養士、調理員等がその専門性を生かし、保育教諭等と協力し、食育における様々な関係者と多様に、かつ、日常的に連携を図るよう努め、各園の実態に応じた取組が工夫されています。
事例:よく噛んで食べる子供の育成 ~かみかみごっくんたのしいね~
社会福祉法人育栄会菊川(きくがわ)保育園(静岡県)
菊川(きくがわ)保育園は、静岡県菊川市(きくがわし)にあり、「よく噛んで食べる子供を育てる」を目標に、食育に取り組んでいます。
乳児期から高齢期に至るまで、噛む、飲み込むなどの機能を担う、歯や口の健康が重要となりますが、菊川(きくがわ)保育園では、子供たちが食べ物をよく噛まずに食べている状況がみられました。そこで、噛む力の形成と向上のために、子供たちの噛む力の実態を調べる取組をスタートし、その結果を踏まえた評価を行い、発育や発達状況に合わせた食育活動を展開しています。具体的には、畑で野菜を栽培、収穫し、噛む力の向上を意識した料理を作り、食べることで、食べ物の生産から消費までの食の循環を意識した食育を進めたり、子供たちが食材や噛むことなどについて楽しみながら学べるよう視覚的な教材を用いた活動を行うなど、噛む力を育みながら、日々の生活の中で食に興味を持つことができるよう、一貫した取組を進めています。
さらに、子供たちの噛む力に関する調査結果と合わせて、子供の噛み方や食べ方の様子等を保護者に伝えたり、給食参加会を開催し、親子で一緒に料理を作るなど、保育所での子供たちの様子を保護者に知ってもらうことで、家庭での食育につながる取組となるよう努めています。
これらの取組により、子供たちと保護者がともに、よく噛んで食べることの大切さを認識し、食への関心を高めていることが伝わってきます。
今後も、子供たちの発育や発達状況を踏まえ、食に関わる体験が広がるように工夫した取組を展開していきます。
事例:幼稚園・小学校・家庭・地域が一体となった食育の取組
~郷土の料理「ねったぼ」作りを通して~
宮崎県都城市(みやこのじょうし)立石山(いしやま)幼稚園
幼稚園における食育は、食べる喜びや楽しさを味わい、様々な活動を通して、食べ物への興味や関心を通じて自ら進んで食べようとする気持ちが育つようにすることが大切です。
石山(いしやま)幼稚園は、鹿児島県と隣接する都城市(みやこのじょうし)にあります。周りには桜の名所である観音池(かんのんいけ)公園や田園地帯があり、豊かな自然に囲まれています。昔から地域で子供を育てる気風が強く、幼稚園・小学校が併設され、地域との連携が密接な行事も多くあります。
石山(いしやま)幼稚園では、小学1年生から3年生までの児童とともに、5月からサツマイモを栽培します。畑の耕しから畝(うね)作り、マルチ張りまでは、保護者・地域の方々の協力を得て取り組み、その後、小学生と一緒に芋の苗植え、成長するまでの草取りや観察を行い、収穫をします。その収穫した芋を小学4年生から6年生までの児童が栽培した餅米と合わせて「ねったぼ」作りをします。「ねったぼ」は、ゆでた餅と蒸したサツマイモを合わせて作る芋餅の一種で、都城市(みやこのじょうし)付近で食される郷土料理です。「すこやかフェスタ」と銘打って行われるこの活動は、小学生・保護者・地域の高齢者や食生活改善推進員の方々との多世代交流を通した、食に関する大きな行事です。10個の石臼(いしうす)が用意され、幼稚園・小学校の縦割り班で伝統的な餅つきを体験します。
幼児は、餅をついたり、あんこを丸めて餅に入れたり、「ねったぼ」を作ることに夢中になって活動していました。途中、芋をふかした匂いに「いい匂い」と顔をほころばせたり、つき終わった「ねったぼ」を大きなしゃもじですくって食べてみて「おいしい」と歓声を上げたりしていました。自分たちで栽培した芋を使っての「ねったぼ」作りは、できあがった感動とともに食に関する興味・関心を高めることができています。このような取組を通じた地域の方々との交流により、周りの支えてくれる人に感謝する気持ちが育まれ、自然に囲まれた地域の良さを改めて認識できる活動となっています。
今後は、自分たちの手で栽培・収穫した芋を「ねったぼ」作りへとつなぐ活動を充実させ、小学校との密接な連携を生かしながら家庭や地域の方々との交流を図り、郷土に密着した幼児らの食に関する興味・関心を更に深めていきたいと思います。
事例:地域力を生かしながら体験的に学ぶ食育 ~みかん狩り~
静岡県静岡市(しずおかし)立由比(ゆい)こども園
由比(ゆい)こども園は、静岡市(しずおかし)の最東端に位置し、前面に駿河湾(するがわん)、背面には浜石岳(はまいしだけ)があり、海の幸、山の幸にあふれ、豊かな自然に囲まれています。その豊かな自然での体験や地域の方たちとの温かな関わりの中で、子供の生活や食、遊び、学びがより豊かとなり、さらには子供たちの心に地域の自然への関心が深まり郷土愛が育まれています。
由比(ゆい)地区では、温暖な山の斜面で酸味と甘味がちょうど良いみかんが作られ、地場産業の一つとなっています。地域の方にお借りしている畑で、毎年初夏になると夏みかん狩りをしています。自分で収穫し、五感を使い香りや味など、夏みかんを堪能します。保育教諭が収穫したての夏みかんをむくと、いい香りに誘われ、自然に子供たちが集まってきます。家庭では、皮をむいてもらったみかんを食べる子供も多いのですが、3年間、夏みかん狩りをした年長児になると、皮も自分たちでむくようになり、年少児や年中児にも教えてあげるなど、自信がつき、だんだんたくましくなってきます。
園に戻ると、夏みかんジュースにしたり、夏みかんを凍らせアイスにしたりなど工夫して、夏の暑い時期にいろいろな形でおいしく食べます。家庭へもお土産に持ち帰り、親子でゼリーやマーマレードを作って食べました、という嬉しい声も聞かれ、園と家庭や地域がつながっていることが感じられます。また、夏みかんを味わうだけでなく、絵を描いたり色水でみかんジュースを作ったり、さらには子供たちから「ありがとうしたいね」との声が上がって畑を提供した方にお礼の手紙を描いたりするなど、その後の遊びに発展しました。経験だけで終わるのではなく、自分たちの遊びに取り入れ、体験的な学びにもつながっています。
秋には地域の方の協力を得て、青島(あおしま)みかんのみかん狩りをしました。平成30(2018)年は、いのししに食べられてしまいできなかったのですが、令和元(2019)年はたくさんのみかんの中から「これにしようかな。こっちも甘そうだな」と真剣に選んで収穫する子供、「先生、丸い形より平らなみかんの方がおいしいんだって」と地域の方から教わったおいしいみかんの選び方を保育教諭にそっと知らせにくる子供等、自分なりのこだわりを持っての収穫となりました。「いのししから守るから、また来てください」との地域の方からの声掛けに、子供たちは「やったー!」と大喜びでした。地域の方の話を聞き、園で育てたサツマイモがいのししに食べられたことを思い出し、いのししが食べにくる理由等への関心も高まっていました。
今後も、由比(ゆい)地区の自然と地域の方たちとの触れ合いを保育に生かし、子供たちの五感を働かせる体験を通して、生活と遊び、食へのつながりをより豊かなものとできるよう工夫し取り組んでいきたいと思います。
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