第3節 地産地消の推進
地域で生産したものを地域で消費する地産地消の取組は、消費者に「顔が見え、話ができる」関係で地場産物を購入する機会を提供し、農山漁村の活性化を図る上で重要な取組です。また、農山漁村の6次産業化(生産・加工・販売の一体化等)にもつながる取組です。
直売所や量販店での地場産物の販売、学校や病院・福祉施設の給食、外食・中食産業や食品加工業での地場産物の利用等により、消費者は身近な場所で作られた新鮮な地場産物を入手できるだけでなく、地場産物を使った料理や地域の伝統料理を食べることができます。また、農林水産業を身近に感じる機会が得られ、「食」や「食文化」についての理解を深められることが期待されます。さらに、直売所は、地場産物の販売だけでなく、地場産物の特徴や食べ方等の情報提供を行っており、消費者と生産者とのコミュニケーションを生かした食育の場にもなっています。
なお、地産地消については、平成22(2010)年12月に公布された「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(平成22年法律第67号)に基づき、平成23(2011)年3月に「農林漁業者等による農林漁業及び関連事業の総合化並びに地域の農林水産物の利用の促進に関する基本方針」(平成23年農林水産省告示第607号)を定めました。同基本方針においては、地場産物の使用の促進の目標として、<1>令和7(2025)年度までに年間販売額が1億円以上の直売所の割合を50%以上とすること、<2>令和7(2025)年度までに学校給食において都道府県単位での地場産物を使用する割合について、算出方法を食材数ベースから金額ベースに見直し、その割合を現状値(令和元(2019)年度)から維持・向上した都道府県の割合を90%以上とすること、<3>令和7(2025)年度にグリーン・ツーリズム施設の年間延べ宿泊者数及び訪日外国人旅行者数のうち農山漁村体験等を行った人数の合計を、令和7(2025)年度に1,540万人とすること等を規定しています。同法及び同基本方針に基づく地方公共団体による促進計画の取組が進められていくこと等により、地産地消の一層の促進が図られることが期待されます。
農林水産省では、地産地消の取組を一層促進するため、地産地消や国産農林水産物の消費拡大に資する地域の創意工夫ある取組の表彰を行うほか、地域資源を活用した新商品の開発等を進める地域ぐるみの6次産業化としての直売所の売上げ向上に向けた取組や施設整備への支援を行いました。また、学校給食等におけるメニュー開発・導入実証等への支援や、学校給食等への地場産農産物の利用拡大を促進するため、専門的知見をもつ人材育成の研修や安定供給システムの構築を進めるため地産地消コーディネーターの派遣への支援を行いました。さらに、直売所の売上げ向上に向け、インバウンド等需要向けの新商品の開発、消費者評価会の開催、直売所と観光事業者等とのツアー等の企画、集出荷システムの構築などの取組への支援を行っています。
我が国は、多種多様な農畜水産物・加工食品を多くの国・地域から輸入しています。食料の輸送量に輸送距離を乗じた指標として「フード・マイレージ」があります。これは、1990年代からイギリスで行われている「Food Miles(フードマイルズ)運動」を基にした概念であり、「生産地から食卓までの距離が短い食料を食べた方が輸送に伴う環境への負荷が少ないであろう」という仮説を前提として考え出されたものです。我が国の人口一人当たりの輸入食料のフード・マイレージは、平成22(2010)年には6,770t・kmと試算されています。平成11(2001)年のアメリカ1,051t・km、イギリス3,195t・km、フランス1,738t・km、ドイツ2,090t・kmと比較すると高い水準となります。食料の輸送に伴う環境への負荷軽減に向け、国内生産・国内消費の拡大、地域の風土や文化を学ぶ食育と一体となった地産地消の推進等の取組を行っていくことが重要です。
事例:庄内浜(しょうないはま)の地魚のおいしさや食文化を伝える「庄内浜文化(しょうないはまぶんか)伝道師」
庄内浜文化(しょうないはまぶんか)伝道師協会(山形県)
山形県庄内地域の沿岸域である庄内浜(しょうないはま)では、多品種の魚介類が水揚げされ、季節ごとに様々な旬の地魚(*1)を楽しむことができます。庄内浜(しょうないはま)では、かつて「アバ」と呼ばれる漁村の女性たちがリアカーを使って地魚を庄内地域各地に行商し、消費者に地魚の食べ方も伝えるという流通の文化がありました。しかし、そのような流通方法は時代とともに減少し、さらに、自宅で魚介類をさばく機会が減るなど消費者の食生活も変化しています。近年では、地元の人でも地魚に触れる機会が減少し、地魚の種類、旬、さばき方、何より「おいしさ」を知らない人が増えてきました。そこで、山形県では、平成19(2007)年から、庄内浜(しょうないはま)において、地魚の「おいしさ」や食文化を伝える人を「庄内浜文化(しょうないはまぶんか)伝道師」(以下「伝道師」という。)として認定し、地魚の消費拡大につなげていく取組を開始しました。飲食店の料理人、漁師、魚市場関係者、スーパーの水産物担当者など、水産物に携わる職業の人のほか、一般の会社員や主婦など、様々な立場の人268名(令和2(2020)年12月時点)が認定されています。伝道師は、県等が実施する料理教室等で、地魚のさばき方や調理方法についての講師を務めるなど、各漁村や地域に伝わる庄内浜(しょうないはま)の地魚の食べ方や食に関わる行事、風習などの文化等について一般の方への情報発信、普及啓発活動を行っています。
庄内浜文化(しょうないはまぶんか)伝道師協会(以下「協会」という。)は、平成22(2010)年に伝道師間の連携、技術・知識の向上等を目的として設立されました。協会の取組として、伝道師が講師となり、地域の一般の方や子供たちに、地魚を使った調理実習を行う取組「伝道師食育教室」を行っています。令和元(2019)年度は計30回、令和2(2020)年度は、一般の方対象の教室を3回、調理師専門学校や小中学校、保育所等が対象の教室を12回開催しています(令和3(2021)年1月時点)。また、情報発信の取組も行っており、地域のラジオ番組や協会のSNS等で旬の地魚や調理方法を紹介しています。さらに、地元で開催されるイベントやお祭り等に、「伝道師協会」として出展し、地魚を使った料理などのPRや販売を行っています。
令和2(2020)年は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、「伝道師食育教室」等の取組は例年の半分ほどしか実施できておらず、イベント等も中止となりました。そのような中でも、庄内浜(しょうないはま)の地魚のおいしさや食文化を伝えるための活動を積極的に行うため、現在はSNSを活用した情報発信にも力を入れています。また、「オンラインによる講座」開催等も検討しています。
*1 その地方の近海で取れた魚介類や、その地方の漁港に水揚げされた魚介類
事例:学校給食へのジビエ提供の取組
大分ジビエ振興協議会(大分県)
日本における野生鳥獣による農作物被害額は令和元(2019)年度で158億円と深刻な問題になっています。農山村地域で深刻な被害をもたらす野生鳥獣の被害防止対策により、野生鳥獣の捕獲数が増加する中で、これを地域資源ととらえ、ジビエ(*1)として観光や外食、学校給食等に有効に活用する前向きな取組が広がっています。
大分県は、イノシシ・シカの捕獲実績が年間約7万頭と全国2位(平成29(2017)年度)でしたが、ジビエ利用については、県の処理加工施設の多くが小規模で、販路開拓についても各施設が独自に実施していたことから、流通量が少なく不安定という課題がありました。そこで、行政や関係者が連携し、学校給食やペットフードへの利用など幅広い需要を開拓するため、平成29(2017)年に大分ジビエ振興協議会を立ち上げました。県内外での需要の開拓のため、ジビエグルメマップの作成、ジビエスタンプラリーやジビエ料理教室の開催、各種イベントへの出展等のほか給食調理場従事者、栄養教諭などに対するジビエの取扱いや調理に関する研修会の開催、PR活動に取り組んでいます。
需要の開拓の一つとして、県内の小中学校等でジビエを使った学校給食の提供を支援しています。平成29(2017)年度は4市での実施でしたが、令和2(2020)年度現在、11市町216校へと取組が広がっています。メニューの一例としては、猪肉を使ったカレーや鹿肉を使ったミートソースパスタなどがあります。ジビエを給食で提供するに当たり、学校給食衛生管理研修会で栄養士等への説明会や市町村及び学校への意向調査などを実施しています。また、給食の時間には、子供たちに大分県の獣害の状況を説明するとともに、「命をいただく」ことの大切さを伝える等の活動をしています。さらに、「共生とは何か」を考えるきっかけになる題材として、クリアファイルを配布し、子供たちに食育を行っています。
*1 食材となる野生鳥獣肉のことをフランス語でジビエ(gibier)という。現在我が国では、シカやイノシシのジビエとしての利用が全国的に広まっている。「害獣」とされてきた野生動物が、食文化をより豊かにしてくれる味わい深い食材、あるいは山間部を活性化させてくれる地域資源とみなされるようになっている。
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