参考3 第3次食育推進基本計画(平成28年3月18日食育推進会議決定)
平成28年3月18日
食育推進会議決定
はじめに
1.食をめぐる現状
食は命の源であり、私たち人間が生きていくために食は欠かせない。また、健全な食生活を日々実践し、おいしく楽しく食べることは、人に生きる喜びや楽しみを与え、健康で心豊かな暮らしの実現に大きく寄与するものである。
しかし、我が国では、急速な経済発展に伴い、生活水準が向上するとともに、食を取り巻く社会環境が大きく変化する中で、食に関する国民の価値観やライフスタイル等の多様化が進んでいる。
このような中、国民の意識の変化とともに、世帯構造の変化や様々な生活状況により、健全な食生活を実践することが困難な場面も増えてきている。さらに、古くから各地で育まれてきた地域の伝統的な食文化等、国民の食文化に関する意識が希薄化し、失われていくことも危惧されている。
我が国は世界でも有数の長寿国となり、平均寿命は男女共に80年を超え、今後も平均寿命が延びることが予測されている。その一方で、国民の食生活においては、エネルギーや食塩等の過剰摂取や野菜の摂取不足等の栄養の偏り、朝食の欠食に代表されるような食習慣の乱れが見られる。これらに起因する肥満や生活習慣病は引き続き課題である一方で、若い女性のやせ、高齢者の低栄養傾向等の健康面での問題も指摘されている。
食については、情報が社会に氾濫し、情報の受け手である国民が、食に関する正しい情報を適切に選別し活用することが困難な状況も見受けられる。食品の安全性に関わる国内外の事案の発生により、食品の安全性に対する国民の関心は引き続き高く、国民による情報の適切な選別、活用が促進されるようにしていく必要性が高まっている。
加えて、我が国は食料を海外に大きく依存しており、食料自給率及び我が国の農林水産業が有する食料の潜在生産能力である食料自給力の維持向上が急務となっている。一方で、開発途上国を中心に多くの人々が飢餓や栄養不足で苦しんでいる中で、我が国は大量の食品廃棄物を発生させ、環境への大きな負荷を生じさせている。国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2015年)(以下「2030アジェンダ」という。)においても、小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料廃棄の半減等が目標として掲げられており、こうした食料問題を世界全体の問題としても捉えていくことが求められている。
2.これまでの取組と今後の展開
「国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性をはぐくむ」(食育基本法第1条)ことを目的として、平成17年6月に食育基本法(平成17年法律第63号)が制定された。
その後、同法に基づき、食育推進基本計画(平成18年度から平成22年度まで)及び第2次食育推進基本計画(平成23年度から平成27年度まで)を作成し、国は10年にわたり、都道府県、市町村、関係機関・団体等多様な関係者とともに食育を推進してきた。
その間、日常生活の基盤である家庭における共食を原点とし、学校、保育所等が子供の食育を進め、都道府県、市町村、様々な関係機関・団体等、地域における多様な関係者が様々な形で食育を主体的に推進してきた。
その結果、「食育に関心を持っている国民の割合」や「朝食又は夕食を家族と一緒に食べる「共食」の回数」、「栄養バランス等に配慮した食生活を送っている国民の割合」、「農林漁業体験を経験した国民の割合」、「食品の安全性に関する基礎的な知識を持っている国民の割合」、「推進計画を作成・実施している市町村の割合」が増加するとともに、家庭、学校、保育所等における食育は着実に推進され、進展してきている。
しかしながら、特に若い世代では、健全な食生活を心がけている人が少なく、食に関する知識がないとする人も多い。また、他の世代と比べて、朝食欠食の割合が高く、栄養バランスに配慮した食生活を送っている人が少ないなど、健康や栄養に関する実践状況に課題が見受けられる。
また、近年、家族や生活の状況が変化する中で、高齢者を始めとする単独世帯やひとり親世帯、貧困の状況にある子供に対する支援が重要な課題になっている。さらに、我が国において、高齢化が急速に進展する中、健康寿命の延伸は、国の重要な課題であり、食育の観点からも積極的な取組が必要である。
加えて、食料を海外に大きく依存する我が国において、大量の食品廃棄物を発生させ、環境への負荷を生じさせていることから、食に関する感謝の念や理解を一層深めることは引き続き重要であり、生産から消費に至る食の循環を意識し、食品ロスの削減等環境にも配慮する必要がある。
また、食を取り巻く社会環境が変化する中にあっても、我が国の大切な食文化が失われることがないよう、食文化の継承も重要な課題である。
今後の食育の推進に当たっては、食をめぐるこれらの課題を踏まえ、様々な関係者がそれぞれの特性を生かしながら、多様に連携・協働し、その実効性を高めつつ、国民が「自ら食育推進のための活動を実践する」(食育基本法第6条)ことに取り組むとともに、国民が実践しやすい社会環境づくりにも取り組むことで、食をめぐる諸課題の解決に資するように推進していくことが必要である。
これまでの食育の推進の成果と食をめぐる状況や諸課題を踏まえつつ、食育に関する施策を総合的かつ計画的に推進していくため、平成28年度から平成32年度までの5年間を期間とする新たな食育推進基本計画を作成する。
第1 食育の推進に関する施策についての基本的な方針
1.重点課題
今後5年間に特に取り組むべき重点課題を以下のとおり定める。
(1)若い世代を中心とした食育の推進
国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育むためには、子供から成人、高齢者に至るまで、生涯を通じた食育を推進することが重要である。
しかし、特に、20歳代及び30歳代の若い世代は、食に関する知識や意識、実践状況等の面で他の世代より課題が多い。このため、こうした若い世代を中心として、食に関する知識を深め、意識を高め、心身の健康を増進する健全な食生活を実践することができるように食育を推進する。
また、20歳代及び30歳代を中心とする世代は、これから親になる世代でもあるため、こうした世代が食に関する知識や取組を次世代に伝えつなげていけるよう食育を推進する。
(2)多様な暮らしに対応した食育の推進
食育の取組は、日常生活の基盤である家庭において、確実に推進していくことが極めて重要である。
しかし、我が国では、少子高齢化が進む中、世帯構造や社会環境も変化し、単独世帯やひとり親世帯が増えている。また、貧困の状況にある子供に対する支援が重要な課題になるなど、家庭生活の状況が多様化する中で、家庭や個人の努力のみでは、健全な食生活の実践につなげていくことが困難な状況も見受けられる。
こうした状況を踏まえ、地域や関係団体の連携・協働を図りつつ、子供や高齢者を含む全ての国民が健全で充実した食生活を実現できるよう、コミュニケーションや豊かな食体験にもつながる共食の機会の提供等を行う食育を推進する。
(3)健康寿命の延伸につながる食育の推進
我が国は、世界有数の長寿国であり、更に平均寿命が伸長することが予想される。一方、生活習慣病が死因の約6割、国民医療費の約3割を占める中にあって、その予防や改善は引き続き国民的課題となっている。健康づくりや生活習慣病の発症・重症化の予防を推進することにより健康寿命の延伸を実現し、子供から高齢者まで全ての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を実現することは、国が優先的に取り組むべき課題の一つである。
このため、国民一人一人が生活習慣病の発症・重症化の予防や改善に向けて、健全な食生活を実践できるよう支援するとともに、食環境の改善が国民の健康に影響を及ぼすことを踏まえ、関係機関・団体や食品関連事業者等様々な関係者が主体的かつ多様な連携・協働を図りながら、健康寿命の延伸につながる減塩等の推進やメタボリックシンドローム、肥満・やせ、低栄養の予防や改善等、食育を推進する。
(4)食の循環や環境を意識した食育の推進
食に対する感謝の念を深めていくためには、自然や社会環境との関わりの中で、食料の生産から消費に至る食の循環を意識し、生産者を始めとして多くの関係者により食が支えられていることを理解することが大切である。
また、我が国は食料及び飼料等の生産資材の多くを海外からの輸入に頼っている一方で、推計で年間約642万トンにのぼる食品ロスが発生しており、環境への大きな負荷を生じさせていることから、食品廃棄物の発生抑制を更に推進するなど、環境にも配慮することが必要である。
このため、国、地方公共団体、食品関連事業者、国民等の様々な関係者が連携しながら、生産から消費までの一連の食の循環を意識しつつ、食品ロスの削減等、環境にも配慮した食育を推進する。
(5)食文化の継承に向けた食育の推進
南北に長く、豊かな自然に恵まれ、海に囲まれた我が国では、四季折々の食材が豊富で、地域の農林水産業とも密接に関わった豊かで多様な食文化を築いてきた。また、長寿国である日本の食事は世界的にも注目されている文化である。
しかし、近年、グローバル化や流通技術の進歩、生活様式の多様化等により、地場産物を生かした郷土料理やその食べ方、食事の際の作法等、優れた伝統的な食文化が十分に継承されず、その特色が失われつつある。
このため、「和食;日本人の伝統的な食文化」が、「自然の尊重」という日本人の精神を体現した食に関する社会的慣習としてユネスコ無形文化遺産に登録(平成25年12月)されたことも踏まえ、食育活動を通じて、郷土料理、伝統食材、食事の作法等、伝統的な食文化に関する国民の関心と理解を深めるなどにより伝統的な食文化の保護・継承を推進する。
なお、重点課題に取り組むに当たっては、次の2つの視点に十分留意する必要がある。
○子供から高齢者まで、生涯を通じた取組を推進
食育の推進に当たっては、子供から成人、高齢者に至るまで、生涯を通じた取組を引き続き目指していくことが重要である。
特に、子供のうちに健全な食生活を確立することは、生涯にわたり健全な心身を培い、豊かな人間性を育んでいく基礎となるため、子供への食育の基礎を形成する場である家庭や学校、保育所等との連携により、食育の取組を確実に推進する。
また、高齢者が健康で生き生きと生活できるよう、生活の質にも配慮しながら、健全な食生活の確保に向けた取組を推進する。
○国、地方公共団体、教育関係者、農林漁業者、食品関連事業者、ボランティア等が主体的かつ多様に連携・協働しながら食育の取組を推進
食育に関する施策の実効性を高めていくためには、国、地方公共団体、教育関係者、農林漁業者、食品関連事業者、ボランティア等、食育に係る様々な関係者が主体的かつ多様に連携・協働して、地域レベルや国レベルのネットワークを築き、取組を推進していくことが極めて重要である。
さらに、全国各地で地域に密着した食育に関する活動が推進されるためには、全ての市町村が食育推進計画を可能な限り早期に作成するとともに、都道府県及び市町村が食育推進計画の実施を通じて取組の充実を図ることが必要である。
このため、国は都道府県とも連携して、食育推進計画の作成が促進されるよう積極的に働きかけるとともに、食育に関する取組の充実が図られるよう必要な資料や情報の提供等適切な支援を行うなど、取組の推進の強化に努める。
2.基本的な取組方針
(1)国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成
「国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成に資すること」は、食育を推進する際の目的の要であり、食育に関するあらゆる施策は、これを踏まえて講じられるべきである。また、健康寿命の延伸という観点からは、肥満に加え、やせや低栄養の問題も起きているとともに、生活習慣病の発症だけでなく、重症化の予防や改善も視野に入れる必要がある。
このため、健全な食生活の実践に向けて、栄養の偏りや食習慣の乱れを改善するよう、引き続き取組の推進が必要である。
一方、我が国では、様々な種類の食材が多様な形で加工・提供されるようになってきており、健全な食生活を自ら実践していくためには、食に関する知識や食品の選び方等も含めた判断力を国民一人一人が備える必要性が従来以上に高まっている。
このため、健全な食生活に必要な知識や判断力については、年齢や健康状態、更には生活環境によっても異なる部分があることに配慮しつつ、国民の生涯にわたる健全な食生活の実現を目指して施策を講じる。
(2)食に関する感謝の念と理解
世界の食料事情は、現在、約8億人の人々が飢餓や栄養不足で苦しんでいることを始めとして、楽観視できない状況にある。このような世界の厳しい状況を理解し、食事ができることに感謝の念を持ちつつ、国内では大量の食料が食べられないまま廃棄されているという食料資源の浪費や環境への負荷の増加にも目を向ける必要がある。
これらを踏まえ、「もったいない」という精神で、食べ物を無駄にせず、食品ロスの削減に取り組むことは、食育として極めて大切である。
また、日々の食生活は、自然の恩恵の上に成り立ち、食べるという行為自体が貴重な動植物の命を受け継ぐことであることや、食事に至るまでに生産者を始めとして多くの人々の苦労や努力に支えられていることを実感できるよう、動植物の命を尊ぶ機会となるような様々な体験活動や適切な情報発信等を通じて、自然に感謝の念や理解が深まっていくよう配慮した施策を講じる。
(3)食育推進運動の展開
食育推進運動の展開に当たっては、国民一人一人が食育の意義や必要性等を理解するとともに、これに共感し、自ら主体的に食育を実践できるよう取り組む必要がある。
このため、国民や民間団体等の自発的意思を尊重しながら、産学官による連携等、多様な主体の参加と連携・協働に立脚した国民運動を推進することを目指した施策を講じる。
(4)子供の食育における保護者、教育関係者等の役割
我が国の未来を担う子供への食育の推進は、健全な心身と豊かな人間性を育んでいく基礎をなすものであり、子供の成長、発達に合わせた切れ目のない推進が重要である。
そこで、父母その他の保護者や教育、保育に携わる関係者等の意識の向上を図るとともに、相互の密接な連携の下、家庭、学校、保育所、地域社会等の場で子供が楽しく食について学ぶことができるような取組が積極的になされるよう施策を講じる。
子供への食育を推進する際には、健全な食習慣や食の安全についての理解を確立していく中で、食に関する感謝の念や理解、食品の安全や健康な食生活に必要な栄養に関する知識、社会人として身に付けるべき食事の際の作法等、食に関する基礎の習得について配意する。
また、社会環境の変化や様々な生活様式等、食をめぐる状況の変化に伴い、健全な食生活を送ることが難しい子供の存在にも配慮し、多様な関係機関・団体が連携・協働した施策を講じる。
(5)食に関する体験活動と食育推進活動の実践
食は観念的なものではなく、日々の調理や食事等とも深く結び付いている極めて体験的なものである。
このため、食との関係が消費のみにとどまることが多い国民が意欲的に食育の推進のための活動を実践できるよう、食料の生産から消費に至るまでの循環を理解する機会や、食に関する体験活動に参加する機会を提供するなどの施策を講じる。
その際は、体験活動を推進する農林漁業者、食品関連事業者、教育関係者等多様な主体により、できるだけ多くの国民が体験活動に参加できるよう、関係機関・団体等との連携・協働を図るとともに、上記(2)の「食に関する感謝の念と理解」にも配慮し、施策を講じる。
(6)我が国の伝統的な食文化、環境と調和した生産等への配慮及び農山漁村の活性化と食料自給率の向上への貢献
食をめぐる問題は、伝統的な食文化や食生活に見られるように、人々の精神的な豊かさと密接な関係を有しており、先人によって培われてきた多様な食文化を後世に伝えつつ、時代に応じた優れた食文化や豊かな味覚を育んでいくことが重要である。
このため、我が国の伝統ある優れた食文化や地域の特性を生かした食生活の継承・発展、環境と調和のとれた食料の生産及び消費等が図られるよう十分に配慮しつつ施策を講じる。
その際、我が国の食料需給の状況を十分理解するとともに、都市と農山漁村の共生・対流や生産者と消費者との交流を進め、消費者と生産者の信頼関係を構築していくことが必要であり、農山漁村の活性化と食料自給率・食料自給力の維持向上に資するよう施策を講じる。
(7)食品の安全性の確保等における食育の役割
食品の安全性の確保は、国民の健康と健全な食生活の実現に当たって基本的な問題であり、国民の関心は非常に高い。
また、食品の提供者が食品の安全性の確保に万全を期すだけでなく、食品を消費する立場にある国民においても、食品の安全性を始めとする食に関する知識と理解を深めるよう努めるとともに、自分の食生活について、自ら適切に判断し、選択していくことが必要である。
このため、国際的な連携を図りつつ、国民の食に関する知識と食を選択する力の習得のため、食に関する幅広い情報を多様な手段で、国民が理解し、十分に活用できるよう提供するとともに、教育の機会を充実させるなど、行政や関係団体、国民等との間の情報・意見交換が積極的に行われるよう施策を講じる。
第2 食育の推進の目標に関する事項
1.目標の考え方
食育基本法に基づく取組は、国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成、食に関する感謝の念と理解等の基本理念の下に推進されるものである。
このような考え方に則り、食育を国民運動として推進するためには、国や地方公共団体を始め、多くの関係者の理解の下、共通の目標を掲げ、その達成を目指して連携・協働して取り組むことが有効である。また、より効果的で実効性のある施策を展開していく上で、その成果や達成度を客観的で具体的な目標値により把握できるようにすることが必要である。
このため、基本計画においては、国民運動として食育を推進するにふさわしい定量的な目標値を主要な項目について設定することとし、その達成が図られるよう基本計画に基づく取組を推進するものとする。
第3次基本計画においては、第2次基本計画を踏まえ、<1>目標を達成しておらず、引き続き目指すべき目標、<2>目標は達成したが、一層推進を目指すべき目標、<3>今日新たに設定する必要がある目標を設定する。
また、食育は、食育基本法の目的や基本理念を踏まえて、地域の実態や特性等に配慮して推進されるべきものであり、安易に目標値の達成のみを追い求めることのないよう留意する必要がある。
2.食育の推進に当たっての目標
(1)食育に関心を持っている国民を増やす
食育を国民運動として推進し、成果を挙げるためには、国民一人一人が自ら実践を心がけることが必要であり、そのためにはまず、より多くの国民に食育に関心を持ってもらうことが欠かせない。このため、引き続き、食育に関心を持っている国民を増やすことを目標とする。
具体的には、平成27年度までに90%以上とすることを目標としていたが、目標を達成していないため、引き続き、平成32年度までに90%以上を目指す。
(2)朝食又は夕食を家族と一緒に食べる「共食」の回数を増やす
家族が食卓を囲んで共に食事をとりながらコミュニケーションを図ることは食育の原点であり、共食を通じて、食の楽しさを実感するだけでなく、食や生活に関する基礎を習得する機会にもなっていく。第2次基本計画の目標は計画期間中に既に達成されているが、朝食や夕食を家族と一緒に食べる頻度がそれぞれ1週間に2~3日と低い人が一定割合を占めており、こうした低頻度の人の共食の回数を増やすことにより、全体の共食の回数を増やすことを目指すことが必要である。
このため、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)等の推進にも配慮しつつ、朝食又は夕食を家族と一緒に食べる「共食」の週当たりの回数を、平成27年度の9.7回から、平成32年度までに11回以上にすることを目標とする。
(3)地域等で共食したいと思う人が共食する割合を増やす
近年では、ひとり親世帯、貧困の状況にある子供、高齢者の一人暮らし等が増え、様々な家族の状況や生活の多様化により、家族との共食が難しい人も増えている。家族との共食は難しいが、共食により食を通じたコミュニケーション等を図りたい人にとって、地域や所属するコミュニティ(職場等を含む)等を通じて、様々な人と共食する機会を持つことは重要である。このため、地域等で共食したいと思う人が共食する割合を増やすことを目標とする。
具体的には、平成27年度に64.6%となっている割合を、平成32年度までに70%以上とすることを目指す。
(4)朝食を欠食する国民を減らす
朝食を毎日食べることは、基本的な生活習慣を身に付ける観点から非常に重要であるため、引き続き、子供の朝食欠食をなくすことを目標とする。具体的には、第3次基本計画での調査項目の見直しに伴い、より詳細に子供の朝食欠食状況を把握できるよう考慮し、平成27年度に4.4%(「全く食べていない」及び「あまり食べていない」)となっている子供の割合を、平成32年度までに0%とすることを目指す。
また、第2次基本計画では、20歳代及び30歳代の男性を対象に目標を設定してきたが、女性も20歳代を中心に朝食を欠食する割合は高く、加えて、男女を問わず若い世代は次世代に食育をつなぐ大切な担い手でもあるため、20歳代及び30歳代の男女全体での目標とする。
具体的には、平成27年度に24.7%となっている割合を、平成32年度までに現在の国民全体の朝食欠食と同様のレベルである15%以下になるよう目指す。
(5)中学校における学校給食の実施率を上げる
学校給食は、栄養バランスのとれた豊かな食事を児童生徒に提供することにより児童生徒の健康の保持増進や体位の向上を図るものである。また、児童生徒が食事について理解を深め、望ましい食習慣を養うなど実体験に基づく継続的な指導を展開することができる重要な手段でもある。しかし、完全給食がおおむね実施されている小学校と比べ、中学校ではその実施率が低い。
このため、学校給食を通じた、より効果的な食育を推進することを目指し、公立中学校における学校給食の実施率について、平成26年度に87.5%となっている割合を、平成32年度までに90%以上とすることを目指す。
(6)学校給食における地場産物等を使用する割合を増やす
学校給食に地場産物を使用し、食に関する指導の「生きた教材」として活用することは、地域の自然や文化、産業等に関する理解を深めるとともに、生産者の努力や、食に関する感謝の念を育む上で重要であるほか、地産地消の有効な手段であるため、引き続き、学校給食において都道府県単位での地場産物を使用する割合を増やすことを目標とする。
具体的には、平成27年度までに30%以上とすることを目指していたが、目標を達成していないため、引き続き、平成32年度までに30%以上とすることを目指す。
また、都道府県内において、当該都道府県産の農林水産物の供給が不足している場合に国内産の農林水産物を活用していくことも、学校給食に地場産物を使用する目的に鑑みれば有効であり、我が国の食文化や食料安全保障等への関心を高めることから、引き続き、学校給食における国産食材を使用する割合を増やすことを目標とする。
当該目標については、平成25年12月に第2次基本計画に追加したところであり、平成27年度までに80%以上とすることを目指していたが、目標を達成していないため、引き続き、平成32年度までに80%以上とすることを目指す。
(7)栄養バランスに配慮した食生活を実践する国民を増やす
生涯にわたって心身の健康を確保しながら、健全な食生活を実践するためには、国民一人一人が栄養バランスに配慮した食事を習慣的にとることが必要である。このため、国民にとってもわかりやすく、食事全体における栄養バランスを表している「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事」を栄養バランスに配慮した食事の目安とし、そのような食生活を実践する国民を増やすことを目標とする。
具体的には、平成27年度に57.7%となっている割合を、平成32年度までに70%以上にすることを目指す。
また、生涯にわたって健全な心身を培うためには、20歳代及び30歳代の若い世代から、健全な食生活を実践することが必要であることから、若い世代についても、具体的な目標値を設けることとし、平成27年度に43.2%となっている割合を、平成32年度までに55%以上にすることを目指す。
(8)生活習慣病の予防や改善のために、ふだんから適正体重の維持や減塩等に気をつけた食生活を実践する国民を増やす
生活習慣病の予防や改善には、日常から望ましい食生活を意識し、実践することが重要である。しかし、エネルギーや食塩の過剰摂取等に代表されるような栄養等の偏り、朝食欠食等の食習慣の乱れ、それに起因する肥満ややせ・低栄養等、生活習慣病につながる課題はいまだ改善するまでには至っていない。
このため、ふだんから適正体重の維持や減塩等に気をつけた食生活の実践状況について、平成27年度に69.4%となっている割合を、平成32年度までに75%以上とすることを目指す。
あわせて、国民の健全な食生活の実践に寄与する食環境整備の観点から、食品中の食塩や脂肪の低減に取り組む食品企業の増加についても目標とする。
具体的には、食品中の食塩や脂肪の低減に取り組み、スマート・ライフ・プロジェクトに登録された企業数について、平成27年度に67社となっている企業数を、平成32年度までに100社以上とすることを目指す。
(9)ゆっくりよく噛んで食べる国民を増やす
国民が健やかで豊かな生活を送るには、口腔機能が十分に発達し、維持されることが重要となる。最近では、健康寿命の延伸に向け、噛み方や食べる速さにも着目し、口腔の健康や口腔機能の獲得・維持・向上と関連させた食育が重要となっている。このため、ゆっくりよく噛んで食べる国民を増やすことを目標とする。
具体的には、平成27年度に49.2%となっている割合を、平成32年度までに55%以上とすることを目指す。
(10)食育の推進に関わるボランティアの数を増やす
食育を国民運動として推進し、国民一人一人の食生活において実践してもらうためには、食生活の改善等のために全国各地で国民の生活に密着した活動に携わる食生活改善推進員等のボランティアが果たしている役割は重要である。このため、引き続き、食育の推進に関わるボランティアの数を増やすことを目標とする。
具体的には、平成27年度までに37万人以上とすることを目指していたが、目標を達成していないため、引き続き、平成32年度までに37万人以上とすることを目指す。
(11)農林漁業体験を経験した国民を増やす
食に関する関心や理解の増進を図るためには、広く国民に農林水産物の生産に関する体験活動の機会を提供し、農林水産業についての知識や理解を深めてもらうことが重要である。第2次基本計画の目標は計画期間中に既に達成されているが、国民の更なる食や農林水産業への理解増進を図る観点から、子供も含めて幅広い世代に対する農林漁業体験の機会の提供を拡大していくことが必要となっている。このため、引き続き、農林漁業体験を経験した国民(世帯)を増やすことを目標とする。
具体的には、平成27年度に36.2%となっている割合を、平成32年度までに40%以上とすることを目指す。
(12)食品ロス削減のために何らかの行動をしている国民を増やす
まだ食べられるのに廃棄されている食品ロスについては、年間642万トン(事業系331万トン、家庭系312万トン(平成24年度推計))発生していると推計されているが、その削減を進めるためには、国民一人一人が食品ロスの現状やその削減の必要性についての認識を深め、自ら主体的に取り組むことが不可欠である。このため、食品ロス削減のために何らかの行動をしている国民を増やすことを目標とする。
具体的には、平成26年度に67.4%となっている割合を、平成32年度までに80%以上とすることを目指す。
(13)地域や家庭で受け継がれてきた伝統的な料理や作法等を継承し、伝えている国民を増やす
四季や地理的な多様性による特色を有し、地域の伝統的な行事や作法と結び付いた我が国の豊かで多様な食文化は、世界に誇ることのできるものである。しかし、近年、核家族化の進展や地域のつながりの希薄化、食の多様化により、日本の食文化の特色が徐々に失われつつある。「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録され、その継承のため必要な措置をとることが求められている。このため、伝統食材を始めとした地域の食材を生かした郷土料理や伝統料理等、地域や家庭で受け継がれてきた料理や味、箸使い等の食べ方・作法を受け継ぎ、地域や次世代(子供や孫を含む)へ伝えている国民を増やすことを目標とする。
具体的には、平成27年度に41.6%となっている割合を、平成32年度までに50%以上とすることを目指す。
また、特に、20歳代及び30歳代の若い世代については、食文化を十分受け継いでいないことに課題があることから、具体的な目標値を設けることとし、地域や家庭で受け継がれてきた料理や味、箸使い等の食べ方・作法を受け継いでいる割合について、平成27年度に49.3%となっている割合を、平成32年度までに60%以上とすることを目指す。
(14)食品の安全性について基礎的な知識を持ち、自ら判断する国民を増やす
健全な食生活の実現に当たっては、食品の選び方や適切な調理・保管の方法等について基礎的な知識を持ち、その知識を踏まえて行動していくことが重要である。これまでは、食品安全に関する基礎的な知識を持っている国民の割合を目標としてきたが、国民の7割が基礎的な知識を有すると回答するに至っていることから、今後は、食品の安全性に関して、基礎的な知識に基づき自ら判断する国民を増やすことを目標とする。
具体的には、平成27年度に72.0%となっている割合を、平成32年度までに80%以上とすることを目指す。
また、食品の安全性については、生涯を通じて健康等を損なわないよう若い頃から健全な食生活に留意することが重要であることから、20歳代及び30歳代の若い世代についても、具体的な目標値を設けることとする。
具体的には、平成27年度に56.8%となっている割合を、平成32年度までに65%以上とすることを目指す。
(15)推進計画を作成・実施している市町村を増やす
食育を国民運動として推進していくためには、全国各地において、その取組が推進されることが必要であり、食育基本法においては、都道府県及び市町村に対して、食育推進計画を作成するよう努めることを求めている。このため、都道府県とともに、市町村も平成27年度までに食育推進計画を作成、実施している割合を100%とすることを目指していた。しかし、いまだ1/4の市町村では、食育推進計画が作成されていないことから、引き続き、平成32年度までに食育推進計画を作成・実施している市町村の割合を100%とすることを目指す。
食育推進計画を既に作成・実施している市町村については、その効果的な実施に資するよう、食育推進計画の見直し状況等の把握に努める。
第3 食育の総合的な促進に関する事項
1.家庭における食育の推進
(1)現状と今後の方向性
食に関する情報や知識、伝統や文化等については、従来、家庭を中心に地域の中で共有され、世代を超えて受け継がれてきた。
しかしながら、社会環境が変化し、生活習慣が多様化する中で、家庭における食に関する作法や望ましい食生活の実践等が十分ではないとの指摘がある。加えて、健康寿命の延伸の観点から、家庭における日々の食生活を見直すとともに、生涯にわたり生活習慣病の予防や改善にも努めていくため、次世代に伝えつなげる食育の推進がこれまで以上に重要となっている。
このため、家庭においても食育に関する理解が進むよう、食育活動を通じて学んだことについて、家庭での共有も促進しながら、適切に取組を行うことが必要である。
(2)取り組むべき施策
国は以下の施策に取り組むとともに、地方公共団体等はその推進に努める。
(子供の基本的な生活習慣の形成)
朝食をとることや早寝早起きを実践することなど、子供の基本的な生活習慣の形成について、個々の家庭や子供の問題として見過ごすことなく、社会全体の問題として企業や地域が一丸となり、子供の基本的な生活習慣を育成し、生活リズムの向上を図るために、学校、家庭、地域、企業、民間団体等の協力を得ながら、優れた「早寝早起き朝ごはん」運動の推進に係る文部科学大臣表彰や、保護者向け啓発資料の作成等を始めとする「早寝早起き朝ごはん」国民運動等により全国的な普及啓発を推進する。
特に、生活圏の拡大や行動の多様化等により生活リズムが乱れやすい環境にある中高生以上の普及啓発を推進する。
(望ましい食習慣や知識の習得)
子供が実際に自分で料理をつくるという体験を増やしていくとともに、親子料理教室等食事についての望ましい習慣を学びながら食を楽しむ機会を提供する活動を推進する。
また、学校を通じて、保護者に対する食育の重要性や適切な栄養管理に関する知識等の啓発に努めるとともに、各地域で実施している食育に関する保護者向けプログラムを始めとした様々な家庭教育に関する情報をホームページに掲載し、様々な学習機会等での活用を促す。
(妊産婦や乳幼児に関する栄養指導)
低体重(やせ)の若い女性や低出生体重児の割合の増加等を踏まえ、妊産婦の安全な妊娠・出産と産後の健康の回復に加えて、子供の生涯にわたる健康づくりの基盤の確保は重要であることから、妊娠期及び授乳期における望ましい食生活の実現のため、何をどれだけどのように食べたらよいかをわかりやすく伝えるための指針である「妊産婦のための食生活指針」の普及を進める。
また、乳幼児期は心身機能や食行動の発達が著しい時期であることを踏まえ、授乳・離乳の支援に関する基本的考え方やポイントを示した「授乳・離乳の支援ガイド」の普及を進めるなど、栄養指導の充実を図る。
さらに、平成27年度より開始し、全ての子供が健やかに育つ社会の実現を目指す「健やか親子21(第2次)」の趣旨を踏まえ、疾病や障害、経済状態等の個人や家庭環境の違い、多様性を認識した栄養指導を含む母子保健サービスの展開を推進する。
(子供・若者の育成支援における共食等の食育推進)
様々な子供・若者の育成支援に関する行事、情報提供活動等において、食育についての理解を促進する。
特に、家族が食卓を囲んで共に食事をとりながらコミュニケーションを図る共食の推進とともに、食に関する学習や体験活動の充実等を通じて、家庭と地域等が連携した食育の推進を図る。
(「ゆう活」等のワーク・ライフ・バランス推進)
「ゆう活」等の取組を通じた仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が推進されていることを踏まえた家庭における共食等の食育を推進する。
2.学校、保育所等における食育の推進
(1)現状と今後の方向性
社会状況の変化に伴い、子供たちの食の乱れや健康への影響が見られることから、学校、保育所等には、子供への食育を進めていく場として大きな役割を担うことが求められている。
例えば、様々な学習や体験を通し、食料の生産から消費に至るまでの食に関する成り立ちを知ることは、食に関する感謝の念や理解を深めることにつながるなど、子供への食育活動になるとともに、家庭へ良き波及効果をもたらすことも期待できる。
このため、給食の時間はもとより、各教科等の時間や総合的な学習、農林漁業体験の機会の提供等を通じて、積極的に食育の推進に努めることが求められている。
また、栄養分野では、肥満等栄養の過剰摂取に加え、近年、やせ傾向にある若い女性が増加しているなど新たな課題も生じている。これらを踏まえ、生活習慣病の予防及び健康寿命の延伸を図るため、適切な栄養バランスの確保に留意するとともに、身体活動の観点も含めた食と健康に関する総合的な対策についても推進していくことがより一層重要となっている。
(2)取り組むべき施策
国は以下の施策に取り組むとともに、地方公共団体等はその推進に努める。
(食に関する指導の充実)
学校では、学習指導要領に示された食育の推進を踏まえ、給食の時間、家庭科や体育科を始めとする各教科、総合的な学習の時間等、学校教育活動全体を通じて食育を組織的・計画的に推進する。
栄養教諭は、学校の食に関する指導に係る全体計画の策定、教職員間や家庭との連携・調整等において中核的な役割を担う職であり、各学校における指導体制の要として、食育を推進していく上で不可欠な教員である。全ての児童生徒が、栄養教諭の専門性を生かした食に関する指導を等しく受けられるよう、栄養教諭の役割の重要性やその成果の普及啓発等を通じて、学校栄養職員の栄養教諭への速やかな移行を図るなど配置の促進に努める。
学校教育活動全体で食育の推進に取り組むためには、各学校において食育の目標や具体的な取組についての共通理解を持つことが必要である。このため、校長や他の教職員への研修の充実等、全教職員が連携・協働した食に関する指導体制を充実するため、教材の作成等の取組を促進する。
また、食に関する指導の時間が十分確保されるよう、栄養教諭を中心とした教職員の連携・協働による学校の食に関する指導に係る全体計画の作成を推進する。
さらに、地域の生産者団体等と連携し、学校教育を始めとする様々な機会を活用して、子供に対する農林漁業体験や食品の調理に関する体験等の機会を提供する。
加えて、効果的な食育の推進を図るために、各地域において、校長のリーダーシップの下、栄養教諭を中核として、学校、家庭、PTA、関係団体等が連携・協働した取組を推進するとともに、その成果を広く周知・普及する。
(学校給食の充実)
児童生徒が食に関する正しい知識や望ましい食習慣を身に付け、適切な栄養の摂取による健康の保持増進が図られるよう、中学校の給食を拡充させるとともに、十分な給食の時間の確保及び指導内容の充実を図る。また、各教科等の食に関する指導と関連づけた活用がされるよう献立内容の充実を図る。
さらに、食生活が自然の恩恵や食に関わる人々の様々な活動の上に成り立っていることについて、児童生徒の理解を深め、感謝の心を育むよう、市町村が中心となり、生産者や学校との連携を強化し、学校給食における地域の農林水産物の安定的な生産・供給体制を構築する。また、引き続き米飯給食を着実に実施するとともに、児童生徒が多様な食に触れる機会にも配慮する。地場産物や国産食材の活用及び我が国の伝統的な食文化についての理解を深める給食の普及・定着等の取組を推進する。
加えて、学校給食の一層の充実を図るため、関係各省と連携しながら、全国学校給食週間に係る取組の充実を図る。
(食育を通じた健康状態の改善等の推進)
栄養教諭は、学級担任、養護教諭、学校医、学校歯科医等と連携して、保護者の理解と協力の下に、児童生徒への指導において、やせや肥満が心身の健康に及ぼす影響等、健康状態の改善等に必要な知識を普及するとともに、食物アレルギー等、食に関する健康課題を有する子供に対しての個別的な相談指導を行うなど、望ましい食習慣の形成に向けた取組を推進する。
(就学前の子供に対する食育の推進)
乳幼児期からの食育の重要性が増していることに鑑み、就学前の子供が、発育・発達段階に応じて健全な食生活を実践し、健康な生活を基本として望ましい食習慣を定着させるとともに、豊かな食体験を積み重ねていくことができるよう、保育所、幼稚園及び認定こども園等において、家庭や地域と連携しつつ、様々な食育を推進する。
その際、保育所にあっては「保育所保育指針」に、幼稚園にあっては「幼稚園教育要領」に、認定こども園にあっては「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」に基づき、食育を教育及び保育の一環として位置付けている。食育の指導に当たっては、施設長や園長、保育士・幼稚園教諭・保育教諭、栄養士・栄養教諭、調理員等の協力の下に食育の計画を作成し、各施設において創意工夫を行うものとする。
また、特に保育所及び認定こども園にあっては、その人的・物的資源を生かし、在籍する子供及びその保護者のみならず、地域における子育て家庭からの乳幼児の食に関する相談への対応や情報提供等に努めるほか、地域の関係機関等と連携しつつ、積極的に食育を推進するよう努める。
取組を進めるに当たっては、保育所にあっては、子供の発達段階に応じた食育の狙いや留意事項を整理し、「保育所における食育に関する指針」の普及を図り、その活用を促進するとともに、食を通じて、健康な心と体を育て、人と関わる力を養い、伝承されてきた文化の理解や郷土料理への関心、自然の恵みとしての食材や、調理する人への感謝の気持ちを育むよう努める。
具体的には、子供の発達段階に応じた食事の提供についてまとめた「児童福祉施設における食事の提供ガイド」や「保育所における食事の提供ガイドライン」を踏まえ、乳幼児の発育及び発達の過程に応じて、計画的に食事の提供、食育の実施が行えるよう努めるとともに、食に関わる保育環境について配慮する。
幼稚園においては、「先生や友達と食べることを楽しむ。」ことを指導する。その際、<1>幼児の食生活の実情に配慮し、和やかな雰囲気の中で教師や他の幼児と食べる喜びや楽しさを味わうこと、<2>様々な食べ物への興味や関心を持つようにすることなど、進んで食べようとする気持ちが育つよう配慮する。
さらに、幼保連携型認定こども園にあっては、学校と児童福祉施設の両方の位置付けを有し、教育と保育を一体的に行う施設であることから、食育の実施に当たっては、保育所と幼稚園双方の取組を踏まえて推進することとする。
3.地域における食育の推進
(1)現状と今後の方向性
心身の健康を確保し、生涯にわたって生き生きと暮らしていくためには、人生の各段階に応じた一貫性・継続性のある食育を推進することが求められる。
なかでも、日本人の最大の死亡原因となっている生活習慣病を予防し、健康寿命を延伸する上では、健全な食生活が欠かせない。また、生活の質の低下を防ぐため、糖尿病の重症化予防も重要である。
特に、メタボリックシンドロームを予防するためには、栄養・食生活や身体活動・運動等の生活習慣の改善が重要である。メタボリックシンドロームの該当者及び予備群は、若干減少傾向にあるものの、引き続き、栄養・食生活、身体活動・運動の改善に関する対策を総合的に推進していくことが重要である。
このため、生活習慣病の予防及び改善や健康づくりにつながる健全な食生活の推進等、家庭、学校、保育所、生産者、企業等と連携しつつ、地域における食生活の改善が図られるよう、適切な取組を行うことが必要である。
また、主食・主菜・副菜がそろう栄養バランスに優れた「日本型食生活(*1)」の実践の推進も重要である。
近年、様々な家族の状況や生活の多様化により、健全な食生活の実現が困難な立場にある者も存在する。このため、食品ロスの削減の取組とも連携しながら貧困の状況にある子供等に食料を提供する活動をはじめ、地域で行われる様々な取組が一層重要となっている。家庭における食育の推進に資するよう、地域における食育を促進し、支援する。
*1 主食であるごはんを中心に、魚、肉等の主菜、野菜、海藻等の副菜、牛乳・乳製品、果物等の多様な副食等を組み合わせた栄養バランスに優れた食生活
(2)取り組むべき施策
国は以下の施策に取り組むとともに、地方公共団体等はその推進に努める。
(「食育ガイド」等の活用促進)
「食育ガイド」や「食事バランスガイド」を通じて、一人一人が自ら食育に関する取組を実践できるよう、関係機関や関係団体はもとより、家庭や学校、小売や外食、職場等を通じて国民への普及啓発に努める。
また、国民の食生活の改善を進めるとともに、健康増進や生活の質的向上及び食料の安定供給の確保等を図るための指針として公表した「食生活指針」について、引き続き普及啓発を進める。
(健康寿命の延伸につながる食育推進)
生活習慣病の予防及び改善につながる食育を推進するとともに、生活習慣病を予防し、健康寿命の延伸を図ることを目的とした国民健康づくり運動(「健康日本21(第二次)」)等を通じて、健全な食生活、健康づくりのための身体活動の実践につながる取組を推進する。
特に、20歳以上の糖尿病が強く疑われる者及び可能性が否定できない者は約2,050万人と推計されていることから、生活習慣病の重症化予防も重要である。糖尿病については、ひとたび発症すると治癒することはなく、症状が進行すると腎臓の障害等の様々な合併症を引き起し、生活の質を低下させることから、日頃より、適切な食事管理を中心とした取組を推進する。
また、減塩が血圧を低下させ、結果的に循環器疾患を減少させると考えられており、「日本人の食事摂取基準2015年版」においても高血圧予防の観点から、ナトリウム(食塩相当量)の目標量を、18歳以上の男性で8.0g/日未満、18歳以上の女性で7.0g/日未満と男女とも値を低めに変更した。これを踏まえ、引き続き、食塩摂取量の減少に向けた取組を推進する。
食育を通じて、生活習慣病の予防等や健康寿命の延伸を図るため、保健所、保健センター等において、管理栄養士が食育に関する普及や啓発活動を推進するとともに、市町村等が行っている健康診断に合わせて、一人一人の健康状態に応じた栄養等指導の充実を図る。
また、健全な食生活の実現に向けて、個人の行動に変化を促すための一環として、重要な役割を果たすことが期待されている栄養表示について、更なる普及啓発や認識醸成のための環境づくりを進める。
(歯科保健活動における食育推進)
健康寿命の延伸には、健全な食生活が大切であり、よく噛んでおいしく食べるためには口腔機能が十分に発達し維持されることが重要である。このため、歯科口腔保健の推進に関する法律(平成23年法律第95号)に基づき、摂食・嚥下等の口腔機能について、乳幼児期における機能獲得から高齢期における機能の維持・向上等、生涯を通じてそれぞれの時期に応じた歯と口の健康づくりを通じた食育を推進する。
具体的には、80歳になっても自分の歯を20本以上保つことを目的とした「8020(ハチマル・ニイマル)運動」や、ひとくち30回以上噛むことを目標とした「噛ミング30(カミングサンマル)」の推進を通じて、各ライフステージに応じた食べ方の支援や食品の物性に応じた窒息や誤嚥防止を含めた食べ方の支援等、歯科保健分野からの食育を推進する。
(栄養バランスに優れた日本型食生活の実践の推進)
高齢化が進行する中で、生活習慣病の予防による健康寿命の延伸、健康な次世代の育成の観点から、健全な食生活を営めるよう、関係府省が、地方公共団体等と連携しつつ、食育を推進する。
ごはんを中心に多様な副食等を組み合わせ、栄養バランスに優れた「日本型食生活」の実践を推進するため、内容やメリット等をわかりやすく周知する。
また、これらの推進に当たっては、年代、性別、就業や食生活の状況等に応じて国民の多様なニーズや特性を分析、把握した上で類型化し、それぞれの類型に適した具体的な推進方策を検討し、実施する。
さらに、健康で豊かな食生活を支える役割を担う食品産業において、「日本型食生活」の推進に資するメニューや商品に関する消費者への情報提供等の取組を促進する。
こうした「日本型食生活」の実践に係る取組とあわせて、学校教育を始めとする様々な機会を活用した、幅広い世代に対する農林漁業体験の機会の提供を一体的に推進し、食や農林水産業への国民の理解を増進する。
(貧困の状況にある子供に対する食育推進)
「子供の貧困対策に関する大綱」(平成26年8月29日閣議決定)に基づき、子供の食事・栄養状態の確保、食育の推進に関する支援を行う。
また、ひとり親家庭の子供に対し、放課後児童クラブ等の終了後に学習支援や食事の提供等を行うことが可能な居場所づくりを行う。
さらに、子供の未来応援国民運動において、民間資金による基金の活用等を通じて、貧困の状況にある子供たちに食事の提供等を行うNPO等に対して支援等を行う。
(若い世代に対する食育推進)
健康や栄養に配慮した食生活の実践等、若い世代はその他の世代よりも課題が多く、男性はよりその傾向が強い。
このような状況を踏まえ、若い世代が食育に関心を持ち、自ら食生活の改善等に取り組んでいけるよう、マスコミやインターネット、SNS(ソーシャルネットワークサービス)等を通じて、若い世代にとって効果的に情報を提供するとともに、地域等での共食によるコミュニケーションを通じて、食に関する理解や関心を深められるように食育を促進する。
(高齢者に対する食育推進)
高齢者では、咀嚼能力の低下、消化・吸収率の低下、運動量の低下に伴う摂取量の低下等が存在するため、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討会報告書においては、低栄養と関連の深い虚弱の予防にも配慮し、高齢者(70歳以上)の目標とする体格指数(BMI)の範囲を提示したところである。
健康寿命の延伸に向けて、高齢者に対する食育推進においては、個々の高齢者の特性に応じて生活の質(QOL)の向上が図られるように食育を推進する必要がある。また、増大する在宅療養者に対する食事支援等、地域における栄養ケアサービスの需要増大に対応できるよう、管理栄養士の人材確保等に取り組む。
加えて、高齢者の低栄養の問題に対応する「新しい介護食品(スマイルケア食)」の普及を図る。さらに、高齢者の孤食に対応するため、他の世代との交流も含めた地域ぐるみの様々な取組が促進されるよう、優良事例の紹介等の情報提供を行う。
(食品関連事業者等における食育推進)
食品関連事業者等は、様々な体験活動の機会の提供や健康に配慮した商品やメニューの提供等に、「生活習慣病その他の健康増進を目的として提供する食事について(目安)」等も活用しつつ、積極的に取り組むよう努める。
また、健康で豊かな食生活を支える役割を担う食品関連事業者等においては、健康に配慮した商品やメニューの提供を行う際、減塩に関する取組等を行うとともに、消費者に対して、商品やメニュー等食に関する情報提供、工場・店舗の見学、調理体験、農林漁業体験、出前授業の開催等多様な取組を推進する。
さらに、職場の食堂等においても、より一層健康に配慮したメニューの提供や栄養、食生活等に関する情報提供がなされるよう努める。
これらの活動を支援するため、国及び地方公共団体において必要な情報提供等を行う。
(専門的知識を有する人材の養成・活用)
国民一人一人が食に関する知識を持ち、自らこれを実践できるようにするため、食育に関し専門知識を備えた管理栄養士や栄養士、専門調理師等の養成を図るとともに、食育の推進に向けてその多面的な活動が推進されるよう取り組む。
また、地域において、食育の推進が着実に図られるように、都道府県や市町村における管理栄養士等の配置を推進するとともに、高度な専門性を発揮できる管理栄養士の育成を図る。
あわせて、食生活に関する生活習慣と疾患の関連等、医学教育の充実を推進するとともに、適切な食事指導やライフステージに応じた食育の推進等、歯学教育の充実を図る。
4.食育推進運動の展開
(1)現状と今後の方向性
食育については、これまで、毎年6月の食育月間及び食育の日を中心に、全国各地で様々な関係者がそれぞれの立場から取り組み、国民的な広がりを持つ運動として推進されてきた。
また、平成26年度時点で34.4万人以上にのぼる食育の推進に関わる食生活改善推進員等の食育ボランティアは、今後とも地域での食育推進運動の中核的役割を担うことが期待される。
これらの状況も踏まえ、今後とも国、地方公共団体、教育関係者、農林漁業者、食品関連事業者、ボランティア等、食育に係る関係者が主体的かつ多様に連携・協働して地域レベルや国レベルのネットワークを築き、多様な食育推進運動を全国的に展開していく必要がある。
特に、食の外部化が進展していることもあり、食品関連事業者を始めとして多様な関係者が連携・協働し、国民の健全な食生活の実践を支援する食環境の整備を進めていくことが必要である。
食育の推進に関しては、マスコミやインターネット、SNS(ソーシャルネットワークサービス)等を通じた国民への働きかけを積極的に行い、関係団体、事業者、地域等への周知徹底を図る。
(2)取り組むべき施策
国は以下の施策に取り組むとともに、地方公共団体等はその推進に努める。
(食育に関する国民の理解の増進)
食をめぐる諸課題や食育の意義・必要性等について広く国民の理解を深め、あらゆる世代、様々な立場の国民が、自ら食育に関する活動を実践できるよう、ライフステージに応じた具体的な実践や活動を提示して理解の増進を図り、全国において継続的に食育推進運動を展開する。
また、年代、性別、就業や食生活の状況等に応じて国民の多様なニーズや特性を分析、把握した上で類型化し、それぞれの類型に適した具体的な推進方策を検討し、実施するとともに、地方公共団体、関係団体、教育関係者、農林漁業者、食品関連事業者、ボランティア等、食育関係者による国民の多様なニーズに対応した取組を支援する。
その際、世代区分、その置かれた生活環境や健康状態等によっても必要な情報が異なる場合があることに配慮するとともに、各種広報媒体等を通じて提供される食に関する様々な情報についてこれに過剰に反応することなく、国内外の科学的知見や伝統的な知恵に基づき、的確な判断をすることが重要であるとの認識が国民に十分理解されるよう留意しつつ取り組むことする。
(ボランティア活動等民間の取組への支援、表彰等)
食育を国民に適切に浸透させていくために、国民の生活に密着した活動を行っているボランティア活動の活発化とその成果の向上に向けた環境の整備を図り、地域での食育推進の中核的役割を担うことができるよう支援する。
その際、食生活改善推進員を始め、各種ボランティアの草の根活動としての食育活動を、学校等との連携にも配慮して促進する。
また、教育関係者、農林漁業者、食品関連事業者、ボランティア等の民間等の食育関係者が自発的に行う活動が全国で展開されるよう、関係者間の情報共有を促進するとともに、優れた活動を奨励するため、民間等の食育活動に対する表彰を行う。
(食育推進運動の展開における連携・協働体制の確立)
食育推進運動の展開に当たっては、教育関係者、農林漁業者、食品関連事業者、ボランティア等、食育に係る多様な関係者による主体的な取組を促すとともに、国や地方公共団体も含めた関係者による広範かつ横断的な連携・協働を呼びかけ、関係者相互間の情報及び意見の交換が促進されるように実施する。
また、国民にとって身近な地域において、食育の推進が図られるよう、地方公共団体を中心とした協働体制の構築等を推進する。
(食育月間及び食育の日の設定・実施)
毎年6月を「食育月間」と定め、関係者の緊密な連携・協働を図りつつ、食育推進運動を重点的かつ効果的に実施することにより、国民の食育に対する理解を深め、食育推進活動への積極的な参加を促し、その一層の充実と定着を図る。
特に、「食育月間」中、国は、地方公共団体、民間団体等の協力を得て、全国規模の中核的行事を毎年開催して、食育について国民への直接的な理解促進を図るとともに、関係者相互間の連携が推進されるよう実施する。
「食育月間」の実施に当たって、食育推進を担当する大臣は、同月間で重点的に実施していくテーマ等を示した実施要綱を予め定め、関係機関、団体等に通知するとともに公表する。
また、一年を通じて継続的に食育推進運動を展開するため、毎月19日を「食育の日」と定め、「家族そろって食卓を囲む」など実践的なものになるよう十分配慮しつつ取り組む。
(食育推進運動に資する情報の提供)
様々な分野での食育を推進し、全国的な運動として、全国各地において食育推進運動を促進するため、食育を推進して成果を挙げている地域の事例や手法を収集し、広く情報提供する。
また、スマート・ライフ・プロジェクトにおいて、生活習慣病予防の啓発活動や、健康寿命を延ばすことを目的とする、優れた取組を行っている企業・団体・自治体を表彰する。
さらに、国産農林水産物の消費拡大に向けた国民運動「フード・アクション・ニッポン」の中で、食育推進に資する活動を行っている企業・団体の紹介等を通じ、消費者への発信等を推進する。
5.生産者と消費者との交流の促進、環境と調和のとれた農林漁業の活性化等
(1)現状と今後の方向性
食育の推進、特に食に対する感謝の念を深めていく上で、食を生み出す場としての農林漁業に関する理解が重要である。消費者と生産者が互いを意識する機会が少ないことから、生産者と消費者との顔が見える関係の構築等によって、これを改善していくことが求められている。
また、農林水産物の生産、食品の製造及び流通等の現場は、地域で食育を進めていく上で貴重な場であり、人々の触れ合いや地域の活性化を図るためにも、これを支える農山漁村コミュニティの維持・再生が必要である。
さらに、食料の生産は自然の恩恵の上に成り立っており、自然との共生が求められている。このため、生産者と消費者との交流の促進、環境と調和のとれた農林漁業の活性化等が図られるよう、適切な取組を行う必要がある。
こうした食育の取組を通じて、農林漁業への関心と理解を深めることにより、後継者等の育成も期待できる。
加えて、国連サミットで採択された「2030アジェンダ」において、小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄の半減、生産・サプライチェーンにおける食料の損失の減少が目標として設定されるなど、食品ロス削減の必要性が国際的にも重視されつつあることも踏まえ、食品ロス削減を国民運動として展開することが求められる。また、その際には、様々な家族の状況や生活の多様化に対応し、貧困の状況にある子供等に食料を提供する活動にも資するよう取り組む必要がある。
(2)取り組むべき施策
国は以下の施策に取り組むとともに、地方公共団体等はその推進に努める。
(農林漁業者等による食育推進)
農林漁業に関する体験活動は、農林水産物の生産現場に関する関心や理解を深めるだけでなく、国民の食生活が自然の恩恵の上に成り立っていることや食に関わる人々の様々な活動に支えられていることなどに関する理解を深める上で重要であることから、農林漁業者等は、学校、保育所等の教育関係者を始めとした食育を推進する広範な関係者等と連携し、幅広い世代に対して教育ファーム等農林漁業に関する多様な体験の機会を積極的に提供するよう努める。
これらの活動を支援するため、国や地方公共団体において必要な情報提供等を行う。
(子供を中心とした農林漁業体験活動の促進と消費者への情報提供)
子供を中心として、農林水産物の生産における様々な体験の機会を拡大し、食に対する関心と理解を深める必要があることから、農林漁業体験活動を促進するため、情報提供の強化、受入体制の整備等を進める。
(都市と農山漁村の共生・対流の促進)
グリーン・ツーリズムを通じた都市住民と農林漁業者の交流を促進するため、都市住民への農山漁村の情報提供と農山漁村での受入体制の整備等を推進する。
(農山漁村の維持・活性化)
農林水産業や人々の生活の場である農山漁村は、食育を進める上で重要な役割を果たしており、人口減少社会を踏まえ、地域住民が主体となった将来ビジョンづくり、集落営農組織等を活用した集落間のネットワーク化を通じ、地域の維持・活性化を図る取組を推進する。
(地産地消の推進)
直売所等における地域の農林水産物の利用促進を図るため、多様な品目の生産・供給体制の構築及び加工品の開発を推進するとともに、学校給食等における地域の農林水産物の安定的な生産・供給体制を構築し、地域の農林水産物の利用拡大を図る。また、地域ぐるみでの取組を推進するため、地域における関係者の連携の場等の設置、地域の戦略等の策定を推進する。
また、国産農林水産物の消費拡大に向けた国民運動「フード・アクション・ニッポン」を展開し、地元でとれる食材の食事への活用等について国民への普及・啓発等を行う。
さらに、食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(平成12年法律第116号)の再生利用事業計画(食品リサイクル・ループ)制度の活用等により、地域で発生した食品循環資源を再生利用して得られた肥料や飼料を利用して生産された農林水産物の地域での利用を推進する。
(食品ロス削減を目指した国民運動の展開)
2015年の国連報告によると、世界では約8億人の人々が飢餓や栄養不足で苦しんでいる。その一方で、我が国では世界全体の食料援助量である約320万トンを大きく上回る約642万トンの食品ロスが発生している。
このような世界的な食糧問題の改善には、食品ロス削減の取組が不可欠である。このため、食品ロス削減関係省庁等連絡会議の下、関係省庁等が連携し、食品ロスの実態及び関係省庁等における取組等を情報交換するとともに、個々の食品関連事業者だけでは取り組むことが難しい商習慣の見直しや、消費者自らが食品ロスの削減を意識した消費行動等を実践する自覚の形成等を実施するため、「もったいない」という精神で、食品ロス削減に関わる国、地方公共団体、食品関連事業者、消費者等の様々な関係者が連携し、食品の製造から消費に至るまでの一連の食品供給の行程全体で食品ロス削減国民運動を展開する。
(バイオマス利用と食品リサイクルの推進)
地域で発生・排出されるバイオマスの総合的・計画的な活用に向けて、「バイオマス活用推進基本計画」(平成22年12月17日閣議決定)に基づき、バイオマスの活用に必要な基盤の整備、農山漁村の6次産業化等によるバイオマス製品等を供給する事業の創出、研究開発等を促進することにより、バイオマスの種類ごとの特性に応じた最大限の有効活用を図る。
また、食品リサイクルについて、食品関連事業者、再生利用事業者及び農林漁業者等の関係主体の連携の強化を通じて、特に取組の少ない地域を中心に食品リサイクルの取組を促進する。
加えて、食品廃棄物の発生抑制や再生利用等の必要性等を普及啓発するため、ホームページ等を通じた情報提供を実施する。
さらに、家庭や外食における食品の廃棄状況等を把握するための調査や、食品産業における食品廃棄物等の発生量や再生利用等の実施状況を把握するための調査を実施するとともに、必要な取組を進める。
6.食文化の継承のための活動への支援等
(1)現状と今後の方向性
南北に長く、豊かな自然に恵まれ、更に海に囲まれた我が国は、四季折々の食材に恵まれ、長い年月を経て、地域の伝統的な行事や作法と結び付いた食文化が形成されてきた。このような我が国の豊かで多様な食文化は、世界に誇ることができるものである。また、歴史的に行われてきた「食養生」の再評価も必要である。
戦後は、この食文化を生かし和食の基本形である一汁三菜(*2)の献立をベースに、畜産物や乳製品等も取り入れ、主食・主菜・副菜のそろう栄養バランスに優れた「日本型食生活」が構築され、国民の平均寿命の急上昇にもつながった。
しかしながら、長期的には経済成長に伴う所得の向上等を背景として、国民のライフスタイル、価値観、ニーズが多様化する中で、米を中心として、水産物、畜産物、野菜等多様な副食から構成され、栄養バランスに優れた日本型食生活や、家庭や地域において継承されてきた特色ある食文化や豊かな味覚が失われつつある。
このため、食文化の継承のための活動への適切な支援等がなされるよう、引き続き、適切な取組を行う必要がある。
特に、「和食;日本人の伝統的な食文化」が、「自然の尊重」という日本人の精神を体視し、<1>多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、<2>健康的な食生活を支える栄養バランス、<3>自然の美しさや季節の移ろいの表現、<4>正月などの年中行事との密接な関わり、という4つの特徴を持つ食に関する社会的慣習としてユネスコの無形文化遺産に登録されたことも踏まえ、「和食」の保護・継承を本格的に進める必要がある。
*2 「一汁三菜」とは、米を炊いた「ごはん」を主食とし、味噌汁やすまし汁等の「汁」、主菜一つに副菜二つの「菜」三品に「漬物」を組み合わせた和食の基本となる献立
(2)取り組むべき施策
国は以下の施策に取り組むとともに、地方公共団体等はその推進に努める。
(ボランティア活動等における取組)
食生活改善推進員等のボランティアが行う料理教室や体験活動等において、地域の郷土料理や伝統料理を取り入れることにより、食文化の普及と継承を図る。
(学校給食での郷土料理等の積極的な導入や行事の活用)
我が国の伝統的な食文化について子供が早い段階から興味・関心を持って学ぶことができるよう、学校給食において郷土料理等の伝統的な食文化を継承した献立を取り入れ、食に関する指導に活用されるよう促進する。
また、「和食給食応援団」のように料理人が地元産の農産物等を使用した和食給食の献立の開発や和食の調理指導等を行い、児童と一緒に給食を食べながら食文化の大切さを伝えていく取組を通じて、「和食」の継承を推進する。
さらに、地域における祭礼行事や民俗芸能等に関する伝統文化の保存団体等が実施する食文化に係る取組を促進し、我が国の伝統ある優れた食文化の継承を推進するとともに、全国各地で開催する行事等において、我が国の伝統ある食文化、地域の郷土料理や伝統料理等の紹介や体験を盛り込み、多くの国民がこれらに触れる機会を提供する。その一環として、毎年度開催している国民文化祭を活用し、地域の郷土料理や伝統料理、その歴史等を全国に発信する。
(専門調理師等の活用における取組)
我が国の食事作法や伝統的な行事等、豊かな食文化を醸成するため、高度な調理技術を備えた専門調理師等の活用を図る。
(「和食」の保護と次世代への継承のための産学官一体となった取組)
「和食;日本人の伝統的な食文化」に関する国民の関心と理解が深まるよう、学校給食や家庭における食べ方や作法も含めた「和食」の提供機会の拡大、「和食」の継承に向けた地域における食育活動、和室等を活用した和の文化の一体的な魅力発信、「和食」の栄養バランスの健康への寄与等に関する科学的解明とその普及等を推進することにより「和食」の保護・継承を図る。また、「和食」の保護・継承に当たっては、ユネスコの登録に際して示した、保護措置に責任を持つ組織である「一般社団法人和食文化国民会議」を始め、食育に関わる国、地方公共団体、教育関係者、農林漁業関係者、食品関連事業者、ボランティア等、多様な関係者が密接に連携し、産学官一体となって効果的に進める。
特に、継承に課題のある若い世代については、若い世代への「和食」の継承を進めることで、家庭の共食の中で「和食」の料理や味、食べ方・作法等が親から子供へ受け継がれていくように取組を進める。
(地域の食文化の魅力を再発見する取組)
郷土料理や伝統野菜を始めとする伝統食材等の魅力の再発見や日本型食生活の実践を促すため、地域における地方公共団体、農林漁業者、食品関連事業者等が連携した食育活動を推進する。
(関連情報の収集と発信)
食育推進運動の一環として全国各地の事例や手法を収集・発信するに当たり、食文化の普及啓発に係る取組についても積極的に取り上げ、食文化の継承に向けた機運の醸成を図る。
7.食品の安全性、栄養その他の食生活に関する調査、研究、情報の提供及び国際交流の推進
(1)現状と今後の方向性
健全な食生活の実践には、食生活や健康に関する正しい知識を持ち、自ら食を選択していくことが必要である。しかし、インターネット等の普及により、食に関する様々な情報があふれ、信頼できる情報を見極めることが難しい状況もあり、健全な食生活の実践に当たっては、国際的な研究を含めた最新の科学的知見に基づく客観的な情報の提供が不可欠である。また、情報の提供に当たっては、国民自身がその内容を理解し、自律的に食生活の実践につなげられるよう配慮が必要である。
加えて、食育をより効果的に推進していく上で、国内外の各種の資料や情報を収集・分析し、これに立脚しつつ取り組むことが欠かせない。
このため、国は各種関連団体等と連携を深めながら、食品の安全性、栄養成分等の食品の特徴、その他の食生活に関する国内外の調査、研究、情報の提供等がなされるよう、適切な取組を行う必要がある。
(2)取り組むべき施策
国は以下の施策に取り組むとともに、地方公共団体等はその推進に努める。
(生涯を通じた国民の取組の提示)
国は、子供から高齢者まで、生涯を通じた食育を推進するため、一人一人の国民が自ら食育に関する取組が実践できるように、「食育ガイド」を活用するとともに、国民のニーズや特性を分析、把握した上で、それぞれの対象者に合わせて具体的な推進方策を検討し、適切な情報を提供する。
(基礎的な調査・研究等の実施及び情報の提供)
食育に関する国民の意識や食生活の実態等について調査研究及び分析を行うとともに、その成果を広く公表し、関係者の活用に資する。
また、食育に関する関心と理解を深めるために、必要な情報を容易に入手することができるよう、総合的な情報提供を行う。
(リスクコミュニケーションの充実)
国、地方公共団体、各種団体が連携しつつ、食品の安全性についてのリスクコミュニケーションを積極的に実施する。
特に、国民の関心の高いテーマについては、科学的知見に基づいた正確な情報提供によって、消費者を始めとする関係者間での意見交換会を開催し、理解の増進に努める。
(食品の安全性や栄養等に関する情報提供)
国民が健全な食生活を実践するために必要な食品の安全性や栄養等に関する様々な情報について、国民が十分に理解し活用できるよう考慮しつつ、国民にとってわかりやすく入手しやすい形で情報提供する。
地域において地方公共団体、関係団体やNPO等が行う意見交換会等への取組を支援する。
また、平成24年7月に作成・公表した「健康日本21(第二次)」による健康づくり運動として、国内外の科学的知見に基づく食生活の改善に必要な情報の普及啓発を図る。
さらに、摂取すべきエネルギーや栄養素等の量を定めた「食事摂取基準」を定期的に作成・公表し、その活用を促進するとともに、食品成分の基礎データを収載した「日本食品標準成分表」の充実を図り、幅広く提供する。
また、国民健康・栄養調査を実施し、食育推進の基礎的なデータとして、その成果を活用するとともに、肥満や糖尿病等の生活習慣病を効果的に予防するためには、食生活や栄養と健康に関する科学的根拠の蓄積が必要であることから、関係府省や関係研究機関が連携しつつ、様々な分野にわたるデータの総合的な情報収集や解析等を推進し、その成果を公表する。
農林漁業や食料の生産、流通、消費に関する統計調査を実施し、公表する。
(食品表示の適正化の推進)
食品表示に関する規定を一元化した食品表示法(平成25年法律第70号)の下、食品の安全性及び消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会を確保することができるよう、「総合的なTPP関連政策大綱」(平成27年11月25日TPP総合対策本部決定)も踏まえ、食品表示の適正化に取り組む。
また、関係府省の連携を強化して立入検査等の執行業務を実施するとともに、産地判別等への科学的な分析手法の活用等により、効果的かつ効率的な監視を実施し、食品表示の適正化を担保する。
さらに、新たに創設した機能性表示食品を始めとした食品の機能性等を表示する制度について、消費者、事業者等の十分な理解増進を図る。
(地方公共団体等における取組の推進)
地方公共団体や関係団体等は、地域の実情に沿った情報や当該団体等の活動内容に即した情報を収集・整理し、より多くの国民が関心を持ち、また、活用できるよう、その提供に努める。
(食育や日本食・食文化の海外展開と海外調査の推進)
我が国の食育の理念や取組等を積極的に海外に発信し、「食育(Shokuiku)」という言葉が日本語のまま海外で理解され、通用することを目指す。
また、「食育ガイド(英語版)“A Guide to Shokuiku”」について、インターネット等を活用して海外に対する食育推進の普及啓発を図る。
さらに、海外において行われてきた食生活の改善等に関する取組について、その具体的な手法と成果を調査し、その活用を図る。
このほか、2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会等の機会を積極的に活用し、日本食や日本の食文化の海外展開を戦略的に推進するため、官民合同の協議会を通じて、関係者が連携した取組を推進する。
(国際的な情報交換等)
国際的な情報交換等を通じて、食育に関する研究の推進や知見の相互活用等を図るため、海外の研究者等を招へいした講演会の開催や海外における食生活等の実態調査等を進める。
また、国際的な機関の活動に協力するとともに、これを通じて積極的な情報の共有化を推進する等、国際的な連携・交流を促進する。
さらに、国際的な飢餓や栄養不足の問題等に対して、国民の認識を深めるために、その実態や国際的な機関による対策等の情報を積極的に提供するほか、栄養改善事業の国際展開に取り組む。
第4 食育の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
1.多様な関係者の連携・協働の強化
食育に関連する施策を行っている主体は、国の関係府省庁や地域に密着した活動を行っている地方公共団体、教育、保育、社会福祉、医療及び保健の関係者、農林漁業の関係者、食品の製造、加工、流通、販売、調理等の関係者、料理教室、その他の食に関わる活動等の関係者、更には様々な民間団体やボランティア等に至るまで多様かつ多数である。
また、「第1 食育の推進に関する施策についての基本的な方針」や「第3 食育の総合的な推進に関する事項」で述べたように、食育は幅広い分野にわたる取組が求められる上、様々な家族の状況や生活の多様化といった食育をめぐる状況の変化を踏まえると、より一層きめ細やかな対応や食育を推進しやすい社会環境づくりが重要になっている。
したがって、食育に関する施策の実効性をこれまで以上に高めていくためには、食育に係る多様な関係者が、その特性や能力を生かしつつ、主体的に、かつ、互いが密接に連携・協働して、地域レベルや国レベルの緊密なネットワークを築き、多様な取組を推進していくことが極めて重要であり、その強化に努める。
2.地方公共団体による推進計画の作成等とこれに基づく施策の促進
食育基本法第17条及び第18条においては、都道府県及び市町村に対し、国の基本計画を基本として、都道府県及び市町村の区域内における推進計画を作成するよう努めることを求めており、平成27年度までに全都道府県及び76.7%の市町村において推進計画の作成がなされた。
食育推進計画を既に作成した都道府県及び市町村においては、推進計画に基づき、また、第3次食育推進基本計画を基本として、新たな計画の作成や改定を行いながら、継続的に食育の推進を検討し、その充実を図ることが求められる。一方、全国各地で地域に密着した食育に関する活動が推進されるためには、残りの23.3%の市町村についても食育推進計画を可能な限り早期に作成することが求められる。
このため、国は都道府県とともに、市町村における推進計画の作成が促進されるよう積極的に働きかけ、食育の推進がより一層充実するよう必要な資料や情報を提供するとともに、技術的な支援にも努めていくなど、適切な支援を行う。
また、都道府県及び市町村は、食育に関する活動を行う教育関係者、農林漁業者、食品関連事業者、ボランティアや関係機関等の協力も得つつ、地域において多様な関係者の連携・協働の下、食育を推進する中核となる人材の育成と地域の特性に応じた実効性の高い食育の推進に一層取り組むことが期待される。
国は、そのための情報の提供等適切な支援を行う。
3.積極的な情報提供と国民の意見等の把握
食育は、個人の食生活に関わる問題であることから、子供から成人、高齢者に至るまで、国民一人一人による理解と実践を促進することが何よりも重要である。
このため、ライフステージのつながりを意識しつつ、生涯にわたって大切にしたい食育について具体的な取組を促す「食育ガイド」の活用も含め、多様な手段を通じて積極的な情報提供を行うよう努める。
また、食育に対する国民の関心や意識を高めていくためには、対象者の特性や多様なニーズも考慮しつつ、国民の意見や考え方等を積極的に把握し、できる限り施策に反映させていくことが必要であり、その促進に努める。
4.推進状況の把握と効果等の評価及び財政措置の効率的・重点的運用
食育に関する施策を計画的に推進するためには、その推進状況を把握しつつ取り組むとともに、限られた予算を有効利用することが必要である。特に「1.多様な関係者の連携・協働の強化」で述べたように、食育は幅広い分野に関わり、多様な関係者による一体的な取組が必要であることに鑑みると、その必要性は一層大きいと考えられる。
このため、本計画に基づく施策の総合的かつ計画的な推進を図るとともに、目標の達成状況を含めてその推進状況について、毎年度、適切に把握し、その効果等を評価して、広く国民にも明らかにし、また、評価を踏まえた施策の見直しと改善に努める。
また、厳しい財政事情の下、限られた予算を最大限有効に利用する観点から、引き続き、選択と集中の強化、施策の重複排除、府省庁間連携の強化、官民の適正な役割分担と費用負担、執行状況の反映等の徹底を図る必要がある。
5.基本計画の見直し
国内外の社会経済情勢は常に変化しており、今後、食育をめぐる状況も大きく変わることも十分考えられるため、基本計画については、計画期間終了前であっても必要に応じて見直しの必要性や時期等を適時適切に検討する。
また、基本計画の見直しに当たっては、「4.推進状況の把握と効果等の評価及び財政措置の効率的・重点的運用」において述べた施策の成果の検証結果を十分活用する。
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