3 認定こども園における食育の推進
認定こども園(*1)における食育については、「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」(平成29年内閣府・文部科学省・厚生労働省告示第1号)において、指導する内容や目標が示されており、各園において食育の計画を作成し、教育・保育活動の一環として位置付けるとともに、創意工夫を行いながら食育を推進していくことが求められています。
特に同要領の第3章においては、食育の推進として、「食育のための環境」や「保護者や関係者等との連携した食育の取組」について明記されています。食育は幅広い分野にわたる取組が求められることに加え、家庭状況や生活の多様化といった食をめぐる状況の変化を踏まえると、より一層きめ細やかな対応や食育を推進しやすい社会環境づくりが重要です。
認定こども園では、栄養教諭や栄養士、調理員等がその専門性を生かし、保育教諭等と協力しながら、食育における様々な関係者と多様に、かつ、日常的に連携を図るよう努め、各園の実態に応じた取組が工夫されています。
*1 就学前の子供を保育の必要の有無にかかわらず受け入れ、教育と保育を一体的に提供する、いわば幼稚園と保育所の両方の機能を併せ持ち、保護者や地域に対する子育て支援も行う施設
事例:「食」から始まり、つながる気付きと学びの輪
社会福祉法人幌北(こうほく)学園 下落合(しもおちあい)そらいろ保育園(東京都)
下落合そらいろ保育園は東京都新宿区にあり、食を身近に感じられる保育の環境づくりに力を入れ、こどもたちが自分で考え、行動する力を育む食育に取り組んでいます。
食への関心を深める保育の環境作りとして、ガラス張りの調理室を設置し、調理室の前におままごとのコーナーを作りました。こどもたちは、調理室から漂う料理の匂いを感じて、調理室内にある食材や調理の様子を見に行きます。そこから食材や調理への興味がわいて、おままごとコーナーで友達との料理のごっこ遊びを展開していきます。
また、植物や畑の肥えた土を見たり触れたりする機会として、畑でのジャガイモの収穫体験を行っています。これまで園では体験する機会がなかったことから、こどもたちはジャガイモへの興味を持ち、収穫したジャガイモを使って郷土料理を作りました。
さらに、いのちを考える視点からの食育活動として、釣り遊びや市場の競りごっこを通して、魚が食卓に並ぶまでの過程を学んでいます。調理員が魚をさばいた時には、こどもたちはうろこを実際に触って喜んだり、大きな骨があることに驚いたりしました。こどもたちの発見や気付きを踏まえて、魚の骨を使用した堆肥作りを行うなど、自然の恵みとしての食材にも触れ、いのちを育む営みにつながる食育にも取り組んでいます。
このように、日常生活の一部として身近に自然に関わることで、自らの感覚で食材を意識するようになり、自然と食事のつながりに気付いていきます。今後も、園や地域の特徴を生かし、一人一人のこどもたちが豊かな感性を育み、「食」を楽しむ体験ができる食育活動を発展・継続していきたいと考えています。
事例:地域の特徴を活かした食育の取組
「牛さん、ありがとう」感謝の気持ちと食べ物を大切にする気持ちを育む活動
上板町(かみいたちょう)立高志(たかし)幼稚園(徳島県)
幼稚園における食育は、食べる喜びや楽しさを味わい、様々な活動を通して食べ物への興味や関心をもったりするなどし、食の大切さに気付き、自ら進んで食べようとする気持ちが育つようにすることが大切です。
本園は、徳島県の北東部に位置する上板町にありすぐ横には吉野川が流れ豊かな自然に恵まれています。農業・畜産業など一次産業が盛んな地域で、幼稚園や小学校とのつながりも深く、幼児の生活や遊びにも大きく関わりがあり、地域の特性を活かした活動が多く行われています。
その一つの活動が牛舎見学です。校区内にある牛舎へ歩いて見学に行き、餌やりや乳搾りを体験しています。令和元(2019)年度には赤ちゃん牛が生まれ、幼児に名前を付けさせてくれました。幼児は、牛の特徴をよく見ながら多くの名前を考え、その中から牛の名前は「イーストウッド ピンクロ ミル モモ サリー」(以下「サリーちゃん」という。)に決まりました。
令和4(2022)年度の見学では、卒園した幼児が「サリーちゃん」と命名した話をすると、「幼稚園に写真がある牛やなあ。」、「サリーちゃん、かわいい。」などとサリーちゃんに話しかけながら、餌やりをしました。酪農家の方から、「お母さん牛が赤ちゃん牛のために出している乳を、みんなは牛乳として飲んでいる。」、「牛から出た乳は工場に運ばれ、牛乳となって、みんなの給食として出されている。」と教えてもらったり、「牛乳や野菜を残さず食べてほしい。」という願いを聞いたりしました。幼児は「ありがとう。また、来るね。」と牛に感謝をしながら、牛をなでて園に帰ってきました。帰園後、「さっきの牛さんの牛乳かなあ。」と言いながら給食の牛乳を残さずに飲めるようになった幼児や、毎日飲んでいる牛乳と身近にいる牛が結び付いたことで「いつもよりおいしい。」と話す幼児もいました。
これらの活動を通して、幼児に「食べ物への感謝の気持ち」や「食べ物を大切にする気持ち」が育まれたと同時に、地域と園の結びつきがより深くなったように感じられました。今後も地域の特性を生かした活動を通して、幼児の食べ物への感謝の気持ちや、食べ物を大切にする気持ちが育まれるよう、取り組んでいきたいと思います。
事例:サツマイモの栽培を通して、育てる大切さに気付き、感謝の気持ちを持つ
~食育活動の中で、探究心を培う~
幼保連携型認定こども園 元総社(もとそうじゃ)幼稚園(群馬県)
元総社幼稚園では、自然とのふれあいを大切にした食育活動に取り組んでいます。園には、こどもたちがサツマイモやジャガイモの栽培から収穫までを体験できる専用の農園があり、毎年6月には4種類のサツマイモ(紅はるか、紅あずま、シルクスイート、ふくむらさき)を苗から植え付けを行います。また、収穫までの期間には畑の様子を観察し、秋にはサツマイモ掘りを行い、収穫されたサツマイモを園で調理し、給食として提供しています。
令和3(2021)年度に、こどもたちにサツマイモの種類について話したところ、「しっとり系のサツマイモが食べてみたい。」、「ねっとり系のサツマイモが食べてみたい。」等の声があがりました。そこで、サツマイモの見た目や味の違いを感じることで生長過程にも興味が持てるよう、スイートポテトや焼き芋等、給食の献立を工夫してこどもたちに提供しました。
令和3(2021)年度にこどもたちが興味を持った様子を踏まえ、令和4(2022)年度は食べてみたいサツマイモ、育ててみたいサツマイモの種類をこどもたちと一緒に選ぶことから始めました。また、サツマイモを育てるだけでなく、サツマイモを洗う活動を取り入れ、太さや長さ、重さを測定、観察して記録しました。
それぞれのサツマイモを食べ比べた園児は、「紅はるかは、切ると白いよ。紅あずまは黄色いよ。」と色の違いに気付き、「紅はるかが甘くておいしい。」、「シルクスイートはしっとりしている。」、「ふくむらさきは色が違う。」といった感想も聞かれました。いろいろな種類のサツマイモを植え、サツマイモの品種間の比較を行ったことで、こどもたちに観察する力が養われ「なぜ」という不思議に思う気持ちが芽生えました。さらに、サツマイモを通して調べたり、考えたり、話し合ったりといった、生きるために必要な意欲、探究心等がこどもたちの中に、育まれていきました。
今後も、これまでの食育活動を継続し、こどもたちの声を更に聞いて対話を続けながら、観察力を伸ばす食育の取組を実践していきたいと考えています。
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