2 食卓と農の現場の距離を縮めるための今後の取組方向
食育に「関心がない」と回答した約2割の人に、関心がない理由について聞いたところ、「食事や食生活への関心はあるが、食費を安くすることの方が重要だから」と回答した人の割合が40.9%で最も高く、次いで「食事や食生活への関心はあるが、他のこと(仕事、趣味など)で忙しいから」と回答した人の割合は38.8%でした(図表1-1-5)。
「食育に関する意識調査」の結果では、家族の中で、田植え(種まき)、稲刈り、野菜の収穫、家畜の世話などの農林漁業体験に参加したことがある人が「いる」と回答した人の割合は57.0%という結果で、近年はこうした体験に参加したことがある人の割合は減少傾向で推移しています。
一方、農林漁業体験に参加した人は、「自然の恩恵や生産者への感謝を感じられるようになった」、「地元産や国産の食材を積極的に選ぶようになった」と回答している人の割合が高く、こうした体験に参加することにより人々は生産者の姿を思い描いて、地元産や国産の食材を選ぶようになるといった意識の変化が生じていることが分かります。
このことからも、農林漁業体験に参加することが、農林水産業への意識や理解を深めるために大変有効な手法の一つであるといえます。
このような食料消費の志向を持続可能な食料システムの実現に向けて変容させていくには、行動変容につながることが期待される農林漁業体験について、学校等での農林漁業教育の充実を含め、参加者の増加に転ずるような取組の強化が求められます。
また、参加していない人からは「参加する方法がわからない」、「食事や食生活への関心はあるが、他のこと(仕事、趣味など)で忙しいから」という回答が多く見られ、これらのことが農林漁業体験の参加者増加の大きな障壁となっていると分かりました。国をはじめ多様な主体により国民生活の様々な場面を通じて農林漁業体験の機会を提供するとともに、多くの人に向けて取組内容や参加方法について周知に努めることが必要と考えられます。
農林漁業体験に参加するに当たって「親子や友人など、いろいろな参加の仕方ができる」、「地域の伝統行事などのイベントに合わせて参加できる」、「収穫物の調理体験ができる」と回答している人の割合が高いことから、人々は様々な工夫を求めていることがわかります。
こうした人々の多様なニーズに対応するために、参加方法が分からない人に向けた周知の工夫や、都心からも交通の便が良い農地における体験活動の実施等、時間が取れない人に向けた参加しやすい方法を創出するなど、人々が農林漁業体験にアクセスしやすいよう、全国各地の農山漁村での宿泊体験を含む農林漁業体験の機会を広く消費者に提供することも重要だと考えられます。
さらに、食育に「関心がない」と回答した人の中で、その理由として「食事や食生活への関心はあるが、食費を安くすることの方が重要だから」とした人の割合が40.9%で最も高く、食料消費等に関して経済性志向が強いことがうかがわれました。
このため、農林漁業体験はもとより、産直活動等の生産者と消費者が直接つながる取組を進めることや、各種広報活動等を通じて、持続的な供給に要する合理的な費用を考慮した価格形成への国民の理解を深めることが必要であると考えられます。
本特集では、こうした取組を進めていく上での参考の一助となる農林漁業体験の機会を提供する特徴的な取組を中心に、生産者と消費者や児童・生徒等の交流を進める多種多様な取組事例を紹介します。
事例:食の生産者と料理人がタッグを組み、生産から消費までの体験活動を通して子供たちの未来を育む(第8回食育活動表彰農林水産大臣賞受賞)
サスティナ鶴岡(つるおか)(山形県)
サスティナ鶴岡は、「食を通じて子供たちの未来を育む」ことを目的として、<1>自活力を育む、<2>体験の貧困を減らす、<3>郷土の食文化と食材の豊かさを伝承する、<4>将来農業や漁業に携わる人材を育成する、という4つのミッションのもと、食材の生産のプロである農家や漁師と、食材の活用のプロである料理人がタッグを組み、生産から調理まで一貫した食農食育活動を行っています。
主な活動内容として、Tsuruoka(つるおか)フードハブキッチンとサスティナ学校があります。Tsuruokaフードハブキッチンは、子供から大人までを対象とした大人数での農業体験や、農業体験で収穫した食材を用いて子供たちと料理人で調理実習、みんなで一緒に食べて片付けるという生産から調理、片付けまでの一連の流れを実践しています。サスティナ学校は、フードハブキッチンよりも少人数で年10回開催しているものであり、少人数ならではのテーマに特化した体験や、対象年齢を絞った体験等を行っています。また、積極的に地域で活動している他の団体や学校等と連携を図って食文化の伝承も行っています。活動には、生産者と料理人のスタッフの他にも、高校生や大学生がボランティアスタッフとして参加し、幅広い世代の方々が一緒となり地域一帯となって取り組んでいます。
参加者からは、「子供が自ら考え行動し生き生きとしていて良かった。」、「何でもネットで見られる世の中だが、現地で実際に五感で感じられる機会は本当に貴重。」等の感想が聞かれました。参加者は、実体験を通して、子供から大人まで自分たちの住む地域の食文化や食材について理解を深め、食に対する意識が変わる貴重な機会となっています。
今後も、学校や地域の活動団体とも連携を深め、生産から調理まで一貫した体験を通して「いただきます」、「ごちそうさま」の食の心を育てる取組を続けていきます。
事例:学校と農業の現場をつなぐ、地域と密着した食農教育の実践
JA東京中央会(東京都)
JA東京中央会では、地域の食や農への理解を深めることを目的に都内の生産者や小・中学校と連携し、「畑の見学会」や「出前授業」などの積極的な食農教育に取り組んでいます。
この取組は、東京都と連携し、令和5(2023)年度から都内で農地が無い又は少ない23区の小・中学校を対象に行われています。
「畑の見学会」は、小・中学校の栄養教諭や学校栄養職員等に対して、東京産農畜産物や都市農業への理解を深めてもらい、学校給食への東京産農畜産物の利用を促進することを目的として、JA農産物直売所の見学や地場産野菜の試食、収穫体験等を行っています。収穫体験では、生産者の圃(ほ)場で地域の野菜や果物についての話を聞きながら収穫し、実際に収穫したものを食べて味わう機会を設けています。参加者からは、「都内で新鮮でおいしい野菜を作っていることに驚いた。参加して得た知識や情報、生産者の思い等を児童・生徒に積極的につなげていきたい。」等の声がありました。
「出前授業」は、農業と接点の少ない区部の小学校・中学校の児童・生徒の食や農への関心を高め、都内の農業に関する理解を促進することにより、大人になってからも東京産野菜に親しんでもらうことを目的として行われています。出前授業では、JA東京グループの若手生産者が講師となり、実際の生産現場での経験談を交えながら講話を行います。授業の中では、クイズ形式で児童らに考えてもらう機会を設けたり、実際に学校で栽培をしている農作物を教材にすることで、児童・生徒が興味・関心を持てるよう工夫をしています。授業終了後には、児童・生徒に対して、収穫に関するエピソード等を話しながら東京産野菜を配付しており、それぞれの家庭での東京産野菜への理解をより深める契機となっています。授業を受けた児童・生徒からは、「野菜を育てることの大変さも楽しさも知ることができた。」、「畑にある全ての野菜がきれいに育つわけではないので、大事に食べようと思った。」等の声がありました。
都市部の農地は、生産緑地法(昭和49年法律第68号)という法律で担い手により農業が続けられている間は守られています。一方、農業の担い手不足等のため、近年では減少しています。都市部において減少していく農業と農地を守っていくことは、食育の観点だけでなく、防災等様々な観点でも重要な課題です。大消費地東京のような農地が少ない地域であっても若手生産者が、創意・工夫により学校給食関係者や児童・生徒に対して地域の食や農への理解醸成に取り組んでいます。
事例:JA女性部のボランティアによる食農教育活動~食と農を愛しつなぐ架け橋に~
(第8回食育活動表彰消費・安全局長賞受賞)
西美濃(にしみの)農業協同組合ふるさと隊(岐阜県)
JAにしみのに所属する農家の女性部会員が、地域で始めた田植え体験等のボランティア活動をきっかけに小学校や保育所と関わりを持つようになり、食農ボランティア「ふるさと隊」の発足に至りました。この名前については、食に関する知識等と併せてふるさとを思いやる気持ちも一緒に伝えたいという思いから命名しました。次世代を担う地域の子供たちに向けて、私たちが作る米や大豆、野菜を使った食育とその食材を作る過程、食の根本を支える農業を組み合わせた食農教育活動を展開しています。
全国でも有数の会員数を誇るJAにしみの女性部内のふるさと隊は、管内で盛んに生産されているにもかかわらず食料自給率の低い大豆を中心に、地域住民と協力して、生産から加工して食べるまでの一連の流れを体験できる学習を提供しています。活動の中では、子供たちが食の在り方や農との関係を学び、命の尊さや大切さを感じられるよう、単発の収穫体験や調理実習だけにとどまらず、栽培、収穫、加工の各過程を取り入れた包括的な食農教育を行っています。また、農業の凄さや楽しさだけではなく、例えば農薬を使用せずに野菜を育てた場合に生じる虫や害獣の被害、生育不良等の課題についてまでも包み隠さず伝え、体験と気づきを学習に織り交ぜることで、子供たちの「次もやりたい、学びたい」という気持ちを引き出すように工夫を凝らしています。
長年にわたる活動の中では、地域と食と農をつなぐ架け橋となれるよう、各方面の関係者に働き掛けながら、地域の中で食と農の体験を広げてきました。今後も、管内の教育機関(小学校、中学校、高等学校、大学等)と連携し、それぞれの発達段階に合わせた持続的な食農教育活動や、研修会等を通した新規ふるさと隊員の育成を継続し、ふるさと隊の存続と拡大を目指していきます。
事例:地域と連携したプロスポーツチームの食育の取組
国内のプロスポーツチームでは、農業体験等の食育の実践、地域活性化や農業振興等の地域貢献活動に積極的に取り組んでいます。また、プロスポーツチームと行政や企業、団体等が連携し地域で食育を実践しています。こうした活動を通して、様々な世代の人に「食」への関心を持ってもらうきっかけづくりとなるような取組事例について紹介します。
地域と密着した農業プロジェクト(第8回食育活動表彰消費・安全局長賞受賞)
株式会社松本山雅(まつもとやまが)(長野県)
株式会社松本山雅は、本拠地である長野県松本市の農地の有効活用や地域における農業技術の継承等の課題に直面する中で、市内の農業従事者、直売所、及び障がい福祉サービス事業所と共同で「スマイル山雅農業プロジェクト」を発足しました。
本プロジェクトでは、松本市、安曇野(あづみの)市、生坂村(いくさかむら)内の遊休農地を活用し、青大豆「あやみどり」を栽培しています。プロサッカーチーム松本山雅FCの選手やサポーター等多くの方々が協力し、「遊休農地の活用」、「地域住民の交流活性化」、「青少年の育成」を図り、地域が直面する課題の解決にチャレンジしています。例えば「遊休農地の活用」では、毎年6月頃に青大豆「あやみどり」の種まきを行い、9月頃には枝豆の収穫、11月頃には大豆の収穫を行っています。採れた青大豆「あやみどり」は、障がい福祉サービス事業所にて選別し、地域の保育所、幼稚園、認定こども園、小学校の給食やおやつとして提供されています。「地域住民の交流活性化」では、保育所や幼稚園、認定こども園へ、松本山雅FCオフィシャルマスコット「ガンズくん」の手紙を添えた大豆の種を提供し、食育絵本「ガンズくんとあやみどり」を保育所、幼稚園、認定こども園(*1)、小学校へ寄贈するなど、子供たちが農業や地元の農作物に関心を持ってもらうことに力を入れています。さらに、地域への理解とつながりを持つきっかけとなることを目的に、松本山雅FCトップチームの選手の新人研修の一環として、選手自らが青大豆「あやみどり」の種まきや枝豆の収穫、枝豆を使ったメニューを考案し、スタジアムでの販売等を行っています。
このような取組を通じて、給食やおやつを通して子供たちへ採れた大豆を食べる機会を作れていること、障がい福祉サービス事業所へ選別等の作業を行った分の工賃をお支払できていること、更には課題であった遊休農地の解消に成功し、農家の方々が喜んでくれていること等の成果が生まれています。
今後も、地域の皆様やファン・サポーターの皆様と共に地域での活動を広げていき、食育活動に取り組んでいきます。
1 就学前の子供を保育の必要の有無にかかわらず受け入れ、教育と保育を一体的に提供する、いわば幼稚園と保育所の両方の機能を併せ持ち、保護者や地域に対する子育て支援も行う施設
地域と連携し、選手と一緒に食と農を体験する機会を提供する
(第8回食育活動表彰 農林水産大臣賞受賞)
株式会社千葉ジェッツふなばし(千葉県)
プロバスケットボールチームの「千葉ジェッツ」では、「“ささえる”からはじまる社会貢献」をスローガンに、行政やJA、生産者と連携し、選手主導の農業体験や料理教室等の食育活動、こども食堂の開催、フードドライブ等、地域の課題解決を目指して取り組んでいます。
千葉ジェッツは、チームの成長を支えていただいたファンやパートナー企業、協力団体への恩返しとして地域貢献プロジェクト「JETS ASSIST(ジェッツアシスト)」を立ち上げました。
プロジェクトでは、令和2(2020)年から地元のフードバンクと連携して試合会場でのフードドライブを開催し、支援が必要な方へ食品を届けています。また、船橋(ふなばし)市主催の中学生による地域振興策「子ども未来会議室」で出たアイディアの実現に協力し、地元食材や規格外の食材を使用した肉まんの販売やスポーツイベントでの地場産野菜の販売等を行い、中学生が地産地消や食品が消費者の手に届くまでを学ぶ機会となりました。
さらに、選手主体の取組として、地元食材を使用して選手と一緒に作る料理体験の開催や、選手と一緒に子供たちが田植えや稲刈り等の農業体験を行いました。料理体験では、参加者との質問タイムで選手が食事面で気を付けていること等、食育に関する内容についても交流しました。農業体験に取り組んだ選手は、「お米を作る中で、予想よりたくさんの人の労力が注がれているものだと再確認できました。」と話すなど、選手自身も食の生産現場を体験することで地域の課題を知り、また参加者は選手と一緒に体験することで、深く印象に残る食育体験の機会となっています。
そのほか、特産品である「船橋にんじん」をブランドとして発信するため、チームのデザインが入ったオリジナル出荷箱を製作しました。また、地産地消の取組として、地元農家から提供いただいた商品として出荷できない規格外野菜等を選手食堂で活用しています。
さらに、フードドライブ等の取組が評価され、令和3(2021)年12月に日本財団によるアスリートやスポーツに関する社会貢献活動の優れたロールモデルを表彰する「HEROs AWARD(ヒーローズアワード)」を受賞し、その賞金でこども食堂を開催しています。こども食堂では、食材に地元食材を使用するなど食育につながる工夫をしているほか、行政と連携することで、地域の小学生や、ひとり親家庭や様々な事情のある家庭に向けても周知をすることができました。こども食堂の参加者は「ゆっくり親子でご飯を楽しめた。」、「苦手な食材も完食できた。」等の声が聞かれました。
今後も、「千葉ジェッツを取り巻く全ての人たちとともにハッピーになる」という理念を基に、地域課題の解決を目指すべく、地域に根差した活動を続けていきます。
プロチームの管理栄養士から学ぶ!保護者のための「スポーツ栄養講座」
沖縄県南風原町(はえばるちょう)
沖縄県南風原町では、平成27(2015)年から、プロサッカーチームである名古屋グランパスの春季キャンプを受け入れており、町を挙げて良質な練習環境の提供を行っています。この10年間チームとやり取りをしていく中で関係者とも信頼関係を築いてきており、南風原町×名古屋グランパスによる「春季キャンプ連携事業」を実施してきました。令和6(2024)年には、地域のサッカー協会から「スポーツ少年団に所属する子供の保護者から、栄養に関する指導をしてほしいという声があった。」という要望を受けて、名古屋グランパスの管理栄養士による講座を対面形式で開催しました。
具体的には、町内のスポーツ少年団に所属する小学生の保護者を対象に、チームの管理栄養士の方から、通常のトレーニング期における栄養(食事)のとり方や、試合前から試合中、また、試合後の回復のために効果的な栄養摂取の方法等について講演いただき、質疑応答を行いました。子供たちの間では、試合直前に消化が良くない食べ物を食べるなど、好ましくない習慣が広まっているほか、たんぱく質の過剰摂取等、必ずしも成長期の児童・生徒にとって望ましいとは言えない知識や習慣が、保護者も含め浸透していた状況でした。講座の中では、子供の発達段階や試合までの時間別等の状況に応じた適切な栄養のとり方等について指導が行われ、参加した保護者からは好意的な反応を頂きました。講座終了後のアンケートでは、「特定の栄養素を多く摂取するのではなく、家庭でのバランスの良い食事が基本であるということが印象的だった。」、「正しい知識や根拠を理解した上で、子供に合った食事を提供していきたい。」といった声が聞かれ、着実に講師の伝えたい内容が響いた取組であったと感じました。
本事業は、講師側である名古屋グランパスが提供できるリソースと食について学びたい保護者の関心事項が上手くマッチングした結果、良い反応につながったのではないかと考えています。一方で、食に対して特段関心や意識のない層にどう響かせるのか、ということは町としても今後の大きな課題です。引き続き、部活動に取り組む中学生・高校生や保護者に対象を広げたり、スポーツに限らず、例えば体型維持をしたい若い女性、筋トレをしたい若い男性等の「大人の食育」にもターゲットを当てたりするなど、より効果的な食育の取組を実施していけるよう、町民の健康維持に向けて尽力していきます。
事例:生徒の手によるブランド米「幻の天日干しコシヒカリ」がつなぐ持続可能な農業への架け橋
学校法人佛教(ぶっきょう)教育学園東山(ひがしやま)中学・高等学校(京都府)
京都(きょうと)市左京(さきょう)区にある東山中学・高等学校では、令和5(2023)年3月から「東山中高ブランド米プロジェクト」と題して、田植えから、稲刈り、脱穀、販売までのサプライチェーンの一連の流れを生徒が主体的に取り組むプロジェクトを行っています。本プロジェクトは、学校長が、国際情勢による食料価格の高騰をはじめ、日本の食料自給率の低さに危機感を抱いたことをきっかけに、国内において自給率100%に近いお米に着目し、生徒たちに米作りを通じて社会課題について考えてほしいというところからスタートしました。取組の中では、関係者が相互に連携し、農家や企業だけではなく、生徒や学校といった関係者全てが笑顔になれることを一つの大きな狙いとしています。
生産に当たっては、機械化が進み、伝承する担い手が減って継続が困難になりつつある「天日干し」の製法を取り入れ、「幻の天日干しコシヒカリ」と命名し、生徒が自ら生産したというところも付加価値としてブランド化し販売することを目指しています。生産方法の指導や日常的な水田の管理は生産者に協力を得ているほか、販売に当たっては、価格設定や宣伝方法等、地元企業の方から御指導いただきつつ企画しています。天日干しの作業は、伐採した竹を梯子状に組み、一定の間隔で稲をかけて乾燥させるため、機械では代替できず、時間も労力もかかります。これを生徒が行うことで、高齢化等により人手不足な生産者にとっても大幅な作業効率の向上につながることや、学校のプロジェクトとして実施するため、取組に係る分の米はまとめて学校が買い上げることで、学校側だけではなく生産者側にとっても安定した収益になるなどのメリットがある形となっています。なお、収穫した米はオンラインでの予約販売に加えマルシェにて販売し、令和6(2024)年度は前年よりも作付面積を増やしたことも相まって、800キログラムの予定販売数を完売し30万円を超える利益を上げるまでに至りました。
唯一無二のおいしさがあるものの、生産には手間とコストがかかるという天日干し米の栽培から販売までを実際に体験することで、付加価値を付けて販売していくことの難しさや、農業そのものの大変さや有している課題、また経済の流れを学ぶ貴重な機会となっています。活動を通して、農業が直面している技術的・環境的な課題の現状が明確になり、生徒たちの中に、これらを将来的に解決していかなければならないという気持ちも芽生えました。
今後は生徒が実際に携わる日々の農作業についても積極的に増やしていくほか、今回出た利益により脱穀機を購入して天日干しできる稲の量を増やしていく予定です。持続可能な農業の未来を構築するため、様々な課題と向き合いながら、生徒と農家、地域社会をつなぐ架け橋としての役割を果たせるよう、引き続き取り組んでいきます。
事例:食べるって楽しい!~食育推進校による実践を地域へ広げる~
高知(こうち)市教育委員会(高知県)
高知市では、各学校のカリキュラムにおいて学校給食の献立と教育活動を連動させる見通しを立てやすくするため年間の献立を前年度に計画し、統一献立による給食を実施しています。これにより、各学校において、より実践的な食育の取組につながっています。また、各学期に一度、自由献立の日を設定し、「地産地消の日」として、各学校で特色のある献立を実施しています。
統一献立案については、栄養教諭が持ち回りで年間計画を作成し、最終的には公益財団法人高知市学校給食会の審議機関である献立作成委員会で承認されています。市内の栄養教諭同士は、各専門委員会や連絡会、打合せ等で顔を合わせ、情報交換を行うなど、日ごろから横のつながりを持ちながら食育の推進に努めています。
さらに、地場産物活用の推進や保護者・地域との連携、学校給食を生きた教材として食育を効果的に実施することを目的とした「食育・地場産品活用推進事業」を平成15(2003)年から実施しています。本事業では、毎年「食育推進校」を指定した上で、各学校が教科等と連携した特色のある食育の取組を実践しており、一年間の取組成果を発表する場を設けるなど、学校給食を中心に食育を家庭や地域へ広げる貴重な機会となっています。以下に、食育推進校として活動した学校の取組について紹介します。
●高知市立高須(たかす)小学校
高須小学校は、理科教育を中心とした教育活動に力を入れており、他教科とも連携し合いながら、自らが問題を見出し解決していく学びを大切にしています。本校は、令和4(2022)年度に食育推進校に指定され、「食で育てる高須っ子」をテーマに、各教科等のカリキュラムと結び付けた食育活動を実践しています。各学年で授業と関連する野菜等を、主に学校の敷地内にある畑で育て、収穫したものは給食の食材として使用しています。
例えば1年生では、国語の教科書に出てくる童話「おおきなかぶ」に合わせてかぶの種をまき、収穫したかぶは、給食のすまし汁に入れて提供しました。また、5年生では、社会科及び総合的な学習の時間と関連付け、校区内にある水田を借りて米作りを行いました。活動に当たってはJA高知市、農協青壮年部東部支部をはじめ、多くの地域の方の支援を受けており、単なる収穫体験にとどまらず、食に対する学びを深めることにもつながっています。そのほか、オンラインでの工場見学や企業の方を講師に迎えた食品ロスに関する授業に加え、高知大学の教員を講師に迎えたSDGs(*1)等に関する講演など、一歩踏み込んだ深い学びを実践してきました。
なお、毎日の畑の手入れについては、有志の「農業ボランティア」の児童が担っており、委員会やクラブ活動といった組織ではないにもかかわらず、自主的に学校の畑の手入れに携わっており、全校児童が行う食育活動を大きく支えています。各学年のカリキュラムで栽培する品目以外にも、空いている畑を耕して、自由献立や調理実習に使用する野菜を育てました。
活動を通して、子供たちの農作物への興味関心が一層深まり、食に対しての意識が高まりました。また、自分たちで栽培した野菜を給食で活用することにより、農作物の生産の苦労に対する理解が深まるとともに感謝の気持ちが生まれ、給食の残食を大幅に減らすことにつながりました。活動に当たっては資金の確保等の課題がありますが、今後も継続して食育の取組を行っていきます。
1 Sustainable Development Goalsの略
●高知市立昭和(しょうわ)小学校
昭和小学校では地域と連携し、各学年において児童が主体的に取り組んでいけるような食育体験活動を行っています。本校では、学校の屋上に田んぼを整備して米作りを行ったり、各学年で食と深く関わる行事を設けたりするなど、学校全体で食育に力を入れています。令和3(2021)年度には食育推進校に指定され、特に力を入れている「下知(しもぢ)ねぎプロジェクト」を実践しています。本プロジェクトでは、4年生が中心となって地域の伝統野菜である下知ねぎについて総合的な学習の時間や社会科等を利用して学ぶとともに、校内の畑で本格的に栽培し、植え付けや収穫等を行っています。プロジェクトを通して下知ねぎを復活させ、下知ねぎの伝統が途絶えてしまわないように守り続けていくことで、子供たちが食の大切さを学べるように取り組んでいます。
「下知ねぎプロジェクト」では、下知ねぎの苗植えから収穫までを児童自身が行います。畑の整備等も児童が主体となって行うため、栽培することの大変さを学ぶ機会となっています。また、高知県立大学名誉教授から下知ねぎをテーマに講話をいただく機会もあり、下知ねぎの歴史や栽培方法等について学ぶきっかけとなっています。さらに、自由献立の日に児童が考え試作を重ねた料理を給食として提供するなど、下知ねぎを身近に感じてもらうように取り組んでいます。
下知ねぎのおいしさを地域へ発信することにも力を入れており、児童が考えた下知ねぎのアイディア料理を地域のお店に提案したり、実際に販売したりするなど、地域住民が下知ねぎを知り、食べる機会づくりを行いました。そのほか、下知ねぎのことをより多くの地域住民に知ってもらおうと、下知ねぎに関連したグッズやオリジナルソング等を作成し、そのオリジナルソングに合わせた「下知ねぎ体操」を運動会等で披露するなど、積極的に周知を行っています。
このような取組を通じて、子供たちが地域の産物や郷土食への関心を深め、地域に対する誇りを持ち、地域を愛する心を育てることができました。また、「下知ねぎプロジェクト」に取り組んだねぎ嫌いの児童から「これなら食べられる。」という声も多く聞かれ、ねぎが好きになる子供も増えました。
今後も食文化を大切にする心を育んでいけるように、学校全体で継続して食育活動に取り組んでいきます。
事例:生産現場を学校で体験!生産者と学校をつなぐ出前授業の取組
千葉県八千代(やちよ)市
千葉県八千代市では、子供たちの「食べ物を大切にする心・感謝の気持ち」を育むことを目的に、生産者による出前授業「めざせ!食の達人農業の先生とのふれあい授業」を実施しています。授業は小学3年生を対象に、主に社会科で行われ、市内の人参、ネギ、梨等の生産者、酪農家を講師として招いています。毎年、市内のほぼ全ての小学校で出前授業を実施し、市内に住む子供たちが一度は生産者と直接会う食育授業が経験できるように学校への定着を図ってきました。
市内の生産者には、子供たちが地元の農産物について知り、ふだん食べている野菜や牛乳を身近に感じてもらいたい、将来の職業選択の幅を広げてほしいなどの思いで積極的に出前授業に協力していただいています。協力酪農家の一つである加茂(かも)牧場では、牛を連れた出前授業を行っています。授業では、始めに、校庭で子供たちが乳搾り体験や子牛と触れ合う体験を行います。その後、加茂さんによる講話があり、牧場現場の様子や酪農を通じた食の循環、命をいただく大切さについて、映像やイラストを使って分かりやすく説明しています。さらに、実際の飼料の匂いを嗅ぐなど、五感を使って酪農について学べる内容になっています。
授業に参加した子供たちからは、「牛に触るとあたたかかった。」、「命の大切さや「いただきます」、「ごちそうさま」の意味が分かった。」、「牧場でお仕事をしてみたい。」等の声が聞かれ、授業後のアンケートでは多くの子供たちが食べ物を大切にしたいと感じていることが分かりました。また、授業を受けた卒業生からは、「農家さんからお話を聞いたことを今でも覚えている。」といった声も聞かれ、子供たちにとって心に残る貴重な経験となっています。さらに、子供たちと一緒に授業を聞いた学級担任、栄養教諭・学校栄養職員にとっても八千代市の農業や酪農について理解を深める機会となっています。
なお、この取組の実施に当たっては、「八千代市健康まちづくりプラン」における食育の目標を実現するために、平成23(2011)年度に、PTA連絡協議会、校長会、学校給食センター、保健体育課、農政課、母子保健課で立ち上げた「やちよ食育ネットワーク協議会」の下、関係部局が連携して学校への出前授業の調整を行ってきました。活動が根付き、学校と生産者の間で直接調整を行えるようになったことから、令和4(2022)年に協議会は解散し、現在は、各学校が主体的に出前授業に取り組んでいます。
今後も学校と生産者のつながりを大切に、出前授業を継続し、子供たちの心に残る食育に取り組んでいきます。
事例:生産者と交流し、1週間の滞在を通して食の裏側を学ぶ
株式会社雨風太陽(あめかぜたいよう)(岩手県)
株式会社雨風太陽は、産直アプリの運営、生産者側の情報発信、生産者の元での滞在体験等、生産者と消費者をつなぐ取組を実施しています。
主軸の事業は、産直アプリの運営で、農林水産物及びその加工品等を取り扱っています。生産者は自分自身で売価を設定して出品し、消費者は生産者と直接やり取りし、商品を購入します。
また、生産者の情報を発信する取組として、冊子と食品をセットで販売する「食べる通信」、イラストが中心の子供向け食育冊子「こども食べるしんぶん」等を発行し、食べ物の生産過程や生産者の思い等、食べ物の背景にある情報を発信しています。
さらに、産直アプリに出品している生産者がいる地域に親子で1週間程度滞在し、生産現場での体験や生産者との交流を通して食の裏側を学ぶ「ポケマルおやこ地方留学」も行っています。滞在先では、親はリモートワークを行う環境が整えられており、子供は生産者とともに農林漁業体験や狩猟体験等を行います。例えば猟師とともに鹿猟に同行するメニューでは、目の前で仕留められた獲物を子供たちが自らの手で解体し、調理して食べます。収獲から消費までの一連の流れを体験でき、実体験から、命をいただくことや、食や生産者への感謝の念を育む機会を創出しています。ほかにも、いけすでのえさやり体験、畑での種まきや収穫体験、畜舎の手入れ等の酪農体験といった様々な体験メニューを用意しています。参加者は、五感を使った様々な体験や生産者との交流を通して、生産現場や生産者の暮らしを知り、農林漁業への理解を深めます。また、帰宅後に滞在中に関わった生産者の商品を産直アプリで購入することで、生産者とのつながりを維持・継続することができます。
参加者からは、「鹿という動物がお肉という食べ物に変わるまでの流れを知りました。人間の都合で害獣として扱われ殺されてしまうのはかわいそうだけど、農業をやっている人の生活を考えるとしかたない気もします。いただいた命はせめておいしく食べよう、残さず食べようと思いました。」、「ツアー参加後はスーパーで買物をする際も、食品の産地をチェックするようになった。食卓に上がる食べ物がどこからやってきたのか、考えるようになった。」という声が聞かれています。
今後も、生産者と消費者をつなぎ、地域を持続可能にし、将来にわたって活力ある日本社会を残したいという思いを持って、たくさんの人に食の裏側を知ってもらい、生産者と消費者の相互理解を深める取組を続けていきます。
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ダイヤルイン:03-3502-1320



























