農産物中の汚染物質低減のための指針
農林水産省は、生産段階で農産物中の汚染物質を低減するため、指針や手引き等を策定しています。
1.コメ中のカドミウム及びヒ素低減のための実施指針
・コメ中のカドミウム及びヒ素低減のための実施指針(令和6年6月策定)(PDF : 1,173KB)
・コメ中のカドミウム及びヒ素低減のための実施指針(参考情報集)(PDF : 1,888KB)
指針の概要(カドミウム及び無機ヒ素低減のための基本的な考え方)
カドミウム及び無機ヒ素は、我が国の土壌に広く存在しています。カドミウムについては、土壌中のカドミウム濃度の高い地域が存在し、土壌中のカドミウム濃度が高いほど、コメ中のカドミウム濃度が高い傾向にあるため、土壌中のカドミウム濃度等を基に低減対策が必要な地域を推定することができます。一方で、無機ヒ素については、特定の地域で土壌中の濃度が高いわけではなく、また、土壌中のヒ素濃度が高いほど、コメ中の無機ヒ素濃度が高い傾向にあるものの、土壌中のヒ素濃度が比較的低い場合においても、コメ中の無機ヒ素濃度が高い場合があることから、低減対策が必要な地域を推定することが困難です。また、水管理による低減対策を講じる場合は、カドミウム及び無機ヒ素のいずれか一方の危害要因を抑制するための対策により、他方の危害要因が増加するといういわゆるトレードオフの関係にあることに留意する必要があります。
これらを踏まえ、以下の考え方を参考に低減対策を実施します。
(1)コメ中の含有実態の把握
生産する玄米中のカドミウム及び無機ヒ素の含有実態を把握し、カドミウム及び無機ヒ素の低減対策の必要性の判断、低減対策を行う必要がある場合は低減対策の選定の判断及び低減対策の効果検証に当たって、その情報を活用することが望ましいです。
<留意事項>
・実態調査は、集出荷施設単位で実施することが望ましいです。調査単位が細かいほど低減対策が必要ない地域を多く設定できる可能性があります。
・無機ヒ素については、土壌の性質よりも栽培方法による影響が大きく、同一の地域においても生産者により栽培方法が異なると含有実態が異なる結果となる可能性があるため、生産者ごと等調査単位が細かいことが望ましいです。
・玄米中のカドミウム及び無機ヒ素の濃度が栽培方法や天候等により変動することから、複数年にわたって含有実態を把握することが望ましいです。
(2)地域に応じた低減対策の検討
各地域で生産されるコメ中のカドミウム及び無機ヒ素の濃度に応じて、低減対策を導入することが重要です。
無機ヒ素については、内閣府食品安全委員会が「食品を通じて摂取したヒ素による明らかな健康影響は認められておらず、ヒ素について食品からの摂取の現状に問題があるとは考えていないが、一部の集団で無機ヒ素の摂取量が多い可能性があることから、特定の食品に偏らず、バランスの良い食生活を心がけることが重要」との見解を示しています。また、食品衛生法に基づくコメの成分規格は設定されていませんが、国民の無機ヒ素の摂取をできるだけ抑える観点から、低減対策を行う上での目安として、生産した玄米中の無機ヒ素濃度が0.35 mg/kgを超えることがある地域では、無機ヒ素の低減技術の検討・確立等の対策に取り組むこととします。この低減対策を行う上での目安は、当該目安を超過する場合に健康影響が生じるものとして設定しているものではなく、どのような地域で低減対策をとるべきかの判断に用いる指標です。
また、無機ヒ素に加えて、玄米中のカドミウム濃度が高い地域では、玄米中のカドミウム及び無機ヒ素の双方を低減する必要があるため、カドミウム低減技術と無機ヒ素低減技術を組み合わせて実施します。この場合、水管理による低減対策は、いずれか一方の危害要因※を抑制するための対策により、他方の危害要因が増加する関係にあるため、以下の「カドミウム及び無機ヒ素の双方を低減する場合の組み合わせ例」のように水管理と水管理以外の対策を組み合わせます。地域に導入できるカドミウム低吸収性品種がある場合は、低吸収性品種を導入し、落水管理を実施することが望ましいです。
※危害要因:ヒトの健康に有害影響を及ぼすおそれがある食品中の物質又は食品の状態のこと。ここでは、カドミウム及び無機ヒ素のことを指す。
【カドミウム及び無機ヒ素の双方を低減する場合の組み合わせ例】
○無機ヒ素を低減するための落水管理 + カドミウム低吸収性品種の導入
○無機ヒ素を低減するための含鉄資材の多量施用 + カドミウムを低減するための湛水管理
カドミウムについては、食品衛生法に基づくコメ(玄米及び精米)の成分規格が設定されており、これを遵守できるよう、生産するコメ中のカドミウム濃度が0.4 mg/kgを超える可能性のある地域では、低減対策に取り組む必要があります。さらに、少雨や猛暑による田面の乾燥によりコメ中のカドミウム濃度が上昇する可能性があり、当該規格の遵守を確実にする必要があること、また、国民のカドミウムの摂取をできるだけ抑える必要があることから、低減対策を行う上での目安として、生産した玄米中のカドミウム濃度が0.2 mg/kgを超えたことがある地域においては、カドミウムの低減対策を行う必要があります。
(3)カドミウム及び無機ヒ素低減の効果検証・見直し
コメ中のカドミウム及び無機ヒ素濃度は気温や出穂期の水管理により変動します。したがって、基準値等を満たすことを確認するとともに、低減対策の効果を検証するために、継続的に生産した玄米中のカドミウム及び無機ヒ素の濃度を分析することが望ましいです。
検証した結果、低減対策の効果が不十分であることが判明した場合は、選定する低減対策を見直した上で、その効果を再検証します。
(参考)過去に策定した指針・手引き
・コメ中のカドミウム低減のための実施指針(平成23年策定、平成30年改正)(PDF:1,340KB)・コメ中ヒ素の低減対策の確立に向けた手引き(平成31年策定、令和4年改正)(PDF:2,128KB)
2.大豆のカドミウム吸収抑制のための技術確立マニュアル
大豆は、品種によってカドミウム吸収量が大きく異なるため、カドミウム吸収量の低い品種を栽培するとカドミウム濃度を減らすことができます。また、大豆のカドミウム吸収抑制対策として、コメで紹介した「土壌のpH調整」が有効であるとの研究結果が得られています。
農林水産省では、品種によるカドミウム吸収の違いや土壌pH調整による吸収抑制技術などをまとめたマニュアルを作成しました。
・ダイズのカドミウム吸収抑制のための技術確立マニュアル(農林水産省、(独)農業環境技術研究所)(平成19年4月改訂)(PDF : 466KB)
3.その他のマニュアル等(参考)
- コメのヒ素低減のための栽培管理技術導入マニュアル ~コメの収量・品質への影響を抑えつつ、ヒ素を低減するために~ (第2版)(農研機構 農業環境変動研究センター)(2021年3月)[外部リンク]
- 「コシヒカリ環1号」の判別マーカーによるハイスループットなDNAマーカー選抜実績プロトコール ver 1.0 – DNA抽出から電気泳動まで -(農業環境技術研究所 土壌環境研究領域)(2015年3月)(PDF:1,678KB)[外部リンク]
- コメ中無機ヒ素の簡易分析標準作業手順書(サンプル版)(農研機構)(2024年2月20日)[外部リンク]
- 植物による土壌のカドミウム浄化技術確立実証事業実施の手引(第2版)(農林水産省、国立研究開発法人 農業・食品技術総合研究機構 農業環境変動研究センター)(平成30年1月)(PDF:1,683KB)
- 薬剤による土壌のカドミウム浄化技術確立実証調査計画指針(農林水産省、(独)農業環境技術研究所)(平成 19 年7月)(PDF:813KB)
4.関連するプロジェクト研究等(参考)
(1)イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ)「カドミウム低吸収性イネ品種シリーズの開発」
(ア)研究期間
2014~2018年度
(イ)代表機関
農研機構次世代作物開発研究センター
(ウ)研究内容
現在育成中または育成された業務・加工用品種及び耐暑性等良食味品種に、カドミウム(Cd)低吸収性品種「コシヒカリ環1号」由来のCd低吸収性を導入し、寒冷地、温暖地、暖地での栽培に適したCd低吸収性の業務・加工用品種及び耐暑性等良食味品種を育成しました。
(エ)関連ページ
カドミウム低吸収性イネ品種シリーズの開発[外部リンク]
(2)イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ)「先端ゲノム育種によるカドミウム低吸収性イネ品種の早期拡大と対応する土壌管理技術の確立」
(ア)研究期間
2018~2022年度
(イ)代表機関
農研機構次世代作物開発研究センター
(ウ)研究内容
最先端のDNAマーカー選抜技術を駆使して、全国の主要な水稲品種や多様な業務用米品種に迅速にカドミウム低吸収性を付与するとともに、そうした品種で懸念されるごま葉枯病の発生を抑制する土壌管理技術を確立しました。
(エ)関連ページ
先端ゲノム育種によるカドミウム低吸収性イネ品種の早期拡大と対応する土壌管理技術の確立 [PDF:600KB、外部リンク]
(1)生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発
(ア) 研究期間
2008~2012年度
(イ)代表研究機関
(独)農業環境技術研究所
(ウ)研究内容
コメに含まれるヒ素の低減技術の開発に向けて、土壌や作物中の様々なヒ素化合物の含有実態やヒ素を低減できる栽培方法などについて、基礎的なデータを取得しました。
(エ)関連ページ
生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発[化学物質(第1編)](プロジェクト研究成果シリーズ521)[外部リンク]
(2)加工、調理及び保管過程におけるコメ中ヒ素の化学形態別濃度の動態解析
(ア)研究期間
2012~2013年度
(イ)研究機関
(独)農業・食品産業技術総合研究機構、(一財)日本食品分析センター
(ウ)研究内容
コメ中のヒ素に関する低減措置を検討したり、食品からのヒ素の摂取量をより正確に推定するため、とう精(玄米を精米に加工すること)などの加工、炊飯などの調理及び保管によって、コメ中のヒ素濃度がどのように変化するかを把握しました。
(エ)関連ページ
加工、調理及び保管過程におけるコメ中ヒ素の化学形態別濃度の動態解析
(3)食品の安全性と動物衛生の向上のためのプロジェクト
(ア)研究期間
2013~2017年度
(イ)代表研究機関
(独)農業環境技術研究所
(ウ)研究内容
水稲によるヒ素の吸収を抑制するために水田の水管理方法を変更すると、カドミウムの吸収が増加することが報告されています。そこで、生産現場での実行性や収量・品質への影響も考慮しつつ、水稲によるカドミウムの吸収を食品衛生法の基準値を超えないように抑えると同時に、ヒ素の吸収を抑制する技術を開発しました。
(エ)関連ページ
委託プロジェクト研究成果集 令和2年10月版(水稲におけるヒ素のリスクを低減する栽培管理技術の開発)
(4)有害化学物質・微生物の動態解明によるリスク管理技術の開発
(ア)研究期間
2018~2022年度
(イ)代表研究機関
(国)農業・食品産業技術総合研究機構農業環境変動センター
(ウ)研究内容
コメに含まれる無機ヒ素濃度を低くするため、生産現場での実行性の高い対策技術を確立することを目的に、収量・品質を維持しつつ、カドミウムと無機ヒ素両方を低減できる、現場での実行性の高い水管理を中心とした栽培管理方法を開発しました。
(エ)関連ページ
平成30年度に新規採択された戦略的プロジェクト研究推進事業の概要、実績、成果等(省力的かつ現場で使い易いコメの無機ヒ素低減技術の開発)
(5)コメ中ヒ素濃度に影響がある要因調査(PDF : 1,401KB)
お問合せ先
消費・安全局農産安全管理課
担当者:土壌汚染防止班
代表:03-3502-8111(内線4507)
ダイヤルイン:03-3592-0306