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農林水産省

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クロロプロパノール類及びその関連物質の健康影響

更新日:2019年3月28日


食品を通じてクロロプロパノール類やその関連物質を摂ると、その量によっては健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
国際的なリスク評価機関であるFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、評価の結果、乳児用調製乳中の3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類の濃度、油脂中のグリシドール脂肪酸エステル類の濃度を下げるための努力が必要であると結論しました。 農林水産省による食品中のクロロプロパノール類やその関連物質の低減に関する取組については、こちらをご覧ください。

3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類による健康影響

実験動物を使った試験では、3-MCPD脂肪酸エステル類は腸管で分解されて3-MCPDを生じること、3-MCPDを長期間にわたって摂りすぎると腎臓への悪影響があることが報告されています。現在の食事内容では、乳児以外の子どもや大人が食品から3-MCPD又は3-MCPD脂肪酸エステル類を摂る量は、一生摂り続けても健康への悪影響がない量であると評価しました。一方、乳児用調製乳だけを飲む乳児については、国によっては3-MCPD脂肪酸エステル類を摂りすぎている場合があると評価し、乳児用調製乳中の3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類の濃度を下げるよう努めることを勧告しました。

1,3-DCPによる健康影響

実験動物を使った試験では、1,3-DCPは遺伝毒性発がん物質であることが疑われたものの、食品から摂る量が少ないため、人の健康に悪影響が生じる可能性は低いと評価しました。

グリシドール脂肪酸エステル類による健康影響

実験動物を使った試験では、グリシドール脂肪酸エステル類は腸管で分解され、遺伝毒性発がん物質であるグリシドールを生じると報告されています。乳児、子ども、大人において、食品から摂るグリシドール脂肪酸エステル類の量は十分に少ないとはいえず、その量が平均的な人であっても、健康に悪影響が生じる懸念があるかもしれないと評価し、油脂(特に乳児用調製乳の原料油脂)中のグリシドール及びグリシドール脂肪酸エステル類の濃度を下げるよう努めることを勧告しました。

3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類による健康影響

JECFAは、2016年の第83回会合で、3-MCPD 及び3-MCPD脂肪酸エステル類のリスク評価を行いました。

毒性評価

ラット等に3-MCPD脂肪酸脂肪酸エステル類を経口投与すると、ほとんどが腸管で分解され、3-MCPDとして吸収されることが報告されています。また、ラット等に3-MCPDを投与した2年間の発がん性試験の結果、3-MCPDには腎臓や雄の生殖器官への悪影響があることが分かり、大量に投与した場合には、発がんも認められました。

JECFAは、これらの結果から、食品から摂る3-MCPD脂肪酸エステル類はすべて分解され、3-MCPDとなって吸収されると仮定し、3-MCPDとしての毒性を評価しました。実験動物に3-MCPDを投与した試験において、投与しない場合と比べて腎臓での有害反応の発生率が10%だけ増加する体重当たりの投与量(BMD10)の、より安全側にたった推定値(BMDL10注1を毒性指標値とし、これを0.87 mg/kg 体重/日と算出しました。

注1 JECFAは、BMDL10として、BMD10の95%信頼下限の値を用いています。詳しくはこちらをご覧ください。

上記の毒性指標値をもとに、動物と人との違いや個人差等を考慮し、人が一生涯にわたって毎日摂っても健康への悪影響がないと推定される一日あたりの量(PMTDI)を、3-MCPDと3-MCPD脂肪酸エステル類注2をあわせて4 μg/kg 体重と設定しました。

注2 3-MCPD脂肪酸エステル類は、3-MCPDに換算して量を計算しています。

摂取量評価

JECFAは、文献情報、各国から提出された食品中の3-MCPD脂肪酸エステル類の含有実態データ、食品の消費量データを活用し、人が食品から摂る3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類の量を推定しました。また、その量がPMTDIに占める割合を算出しました。 その結果、

  • 乳児以外の子どもや大人が一日に摂る量は、とても多く摂る人(高摂取群*)であっても、PMTDIより少ない(表1)
  • 乳児用調製乳だけを飲む乳児が摂る量は、国によっては平均の量でもPMTDIより多い可能性がある(表2)

と結論しました。

表1 3-MCPD脂肪酸エステル類の摂取量推定の結果(乳児以外)
地域/国 集団 推定経口摂取量
(3-MCPD換算)
(μg/kg 体重/日)
推定経口摂取量が
PMTDIに占める割合(%)
平均 高摂取群* 平均 高摂取群*
国際 大人 0.2-1.7 0.4-3.4 5-43 10-85
日本 大人 0.1 - 2.5 -
中国 18-49歳 - 2.6 - 65
7-10歳 - 3.8 - 95
米国 <6歳 - 0.6 - 15


表2 3-MCPD脂肪酸エステル類の摂取量推定の結果(乳児用調製乳だけを飲む乳児)
地域/国 推定経口摂取量
(3-MCPD換算)
(μg/kg 体重/日)
推定経口摂取量が
PMTDIに占める割合(%)
平均 高摂取群* 平均 高摂取群*
EU 2.4-3.2 - 60-80 -
日本、カナダ 5-7 - 125-175 -
米国 7-10 - 175-250 -
米国
(特定の銘柄のみを飲んだ場合)
21 25 525 625

(赤字:推定経口摂取量がPMTDIを超えている場合)

 *3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類を摂る量が、全体の上位5%または上位10%の集団です。


勧告

JECFAは、毒性評価及び摂取量評価の結果を考慮し、以下のことを勧告しました。

  • 乳児用調製乳中の3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類の濃度を下げるよう努めること
  • 油脂を含む加工食品中の3-MCPD脂肪酸エステル類の分析法に関する国際的な共同試験を実施すること
  • 3-MCPD脂肪酸エステル類の生殖毒性を評価するため、新生児に対する毒性試験データを収集すること

(参考)
IARCは、2013年に、3-MCPDについて、ヒトの発がん性に関する証拠はないものの、動物試験の結果、発がん性について十分な証拠があったとして、「ヒトに対して発がん性があるかもしれない(グループ2B)」と評価しました。

1,3-DCPによる健康影響

JECFAは、2001年の第57回会合、2006年の第67回会合で、1,3-DCPのリスク評価を行いました。

毒性評価

JECFAは、1,3-DCPには発がん性があると結論しました。実験動物に1,3-DCPを投与した試験において、投与しない場合と比べて発がんが10%だけ増加した体重あたりの投与量(BMD10)のより安全側にたった推定値(BMDL10注1を毒性指標値とし、これを3.3 mg/kg 体重/日と算出しました。

また、1,3-DCPは遺伝毒性発がん性注3をもつ可能性があるため、人が一生涯にわたって毎日摂り続けても健康への悪影響がないと推定される量を設定するのは適切ではないと結論しました。

注3 理論上、1分子でも細胞のDNAに直接作用して遺伝子の突然変異をもたらし、それが原因となって発がんを引き起こす毒性です。ただし、物質によっては、毒性に閾値がある場合もあります。

摂取量評価

JECFAは、各国から提出されたデータを活用し、人が食品から摂る1,3-DCPの量は、平均的な人では0.051 μg/kg 体重/日、非常に多く摂る人(高摂取群)では0.136 μg/kg 体重/日であると推定しました。これらの値を用いて、毒性指標値が、食品から摂る量の何倍に相当するか(Margin of Exposure ; MOE)を算出したところ、平均的な摂取量の人で約65,000、高摂取群で約24,000となりました。

MOEは、食品から摂る量が少なく安全側に近づくほど大きな数値になります。JECFAは、遺伝毒性発がん物質の場合、BMDL10に対するMOEが10,000以上(食品から摂る量が毒性指標値の10,000分の1以下)であれば、健康への懸念は低いとしています。

食品から摂る1,3-DCPについては、MOEが十分に大きいことから、人の健康に悪影響が生じる可能性は低いと結論しました。

(参考)
IARCは、2013年に、1,3-DCPについて、ヒトの発がん性に関する証拠はないものの、実験動物において発がん性について十分な証拠があったとして、「ヒトに対して発がん性があるかもしれない(グループ2B)」と評価しました。

グリシドール脂肪酸エステル類による健康影響

JECFAは、2016年の第83回会合で、グリシドール脂肪酸エステル類のリスク評価を行いました。

毒性評価

実験動物にグリシドール脂肪酸エステル類を投与すると、ほとんどが腸管で分解されてグリシドールとして吸収されること、グリシドールには遺伝毒性発がん性注3があることが認められました。

JECFAは、これらの結果から、食品から摂るグリシドール脂肪酸エステル類はすべて分解され、グリシドールとなって吸収されると仮定して、グリシドールとしての毒性を評価しました。実験動物にグリシドールを投与すると、投与しない場合と比べて発がんが10%だけ増加する体重当たりの投与量(BMD10)の、より安全側にたった推定値(BMDL10注1を毒性指標値とし、これを2.4 mg/kg 体重/日と算出しました。

また、グリシドールが遺伝毒性発がん物質注3であるため、人が一生涯にわたって毎日摂り続けても健康への悪影響がないと推定される量を設定するのは適切ではないと結論しました。

摂取量評価

JECFAは、文献情報や、各国から提出された食品中のグリシドール脂肪酸エステル類の含有実態データ、食品の消費量データを活用し、人が食品から摂るグリシドール脂肪酸エステル類の量を推定しました。この値を用いて、毒性指標値が、食品から摂る量の何倍に相当するか(MOE)を算出しました(表3)。

MOEは、食品から摂る量が少なく安全側に近づくほど大きな数値になります。JECFAは、遺伝毒性発がん物質の場合、BMDL10に対するMOEが10,000以上(食品から摂る量が毒性指標値の10,000分の1以下)であれば、健康への懸念は低いとしています。

食品から摂るグリシドール及びグリシドール脂肪酸エステル類については、乳児、子ども、大人のすべてにおいてMOEが10,000より小さい(食品から摂る量が、毒性指標値の10,000分の1より多い)可能性があり、健康に悪影響が生じる懸念があるかもしれないと結論しました。

表3 グリシドール脂肪酸エステル類の摂取量推定の結果
  推定経口摂取量(グリシドール換算)
(μg/kg 体重/日)
MOE
(毒性指標値÷推定経口摂取量)
平均 高摂取群* 平均 高摂取群*
成人 0.1-0.3 0.2-0.8 8,000-24,000 3,000-12,000
子ども 0.2-1.0 0.4-2.1 2,400-12,000 1,100-6,000
乳児 0.1-3.6 0.3-4.9 670-24,000 490-8,000

(赤字:MOEが10,000より小さい場合)

* グリシドール及びグリシドール脂肪酸エステル類を摂る量が、全体の上位5%または上位10%の集団です。

勧告

JECFAは、毒性評価、摂取量評価の結果を考慮し、以下のことを勧告しました。

  • 油脂(特に乳児用調製乳の原料油脂)中のグリシドール及びグリシドール脂肪酸エステル類の濃度を下げるよう努めること
  • 生体内のグリシドールばく露量をより精緻に測定するための指標(バイオマーカー)を開発すること
  • 油脂を含む加工食品中のグリシドール脂肪酸エステル類の分析法に関する国際的な共同試験を実施すること
  • 油脂中の含有実態データ及び分析法の情報を提供すること

(参考)
IARCは、2000年に、グリシドールについて、ヒトの発がん性に関する証拠はないものの、実験動物を用いた試験の結果、発がん性について十分な証拠があり、また突然変異原性をもつことから、「ヒトに対しておそらく発がん性がある(グループ2A)」と評価しました。

参考リンク

お問合せ先

消費・安全局食品安全政策課
担当:化学物質管理班
代表:03-3502-8111(内線4453)

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