8 気候変動への対応等環境政策の推進
食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させるため、中長期的な観点から戦略的に取り組む政策方針として「みどりの食料システム戦略」を令和3(2021)年5月までに策定することとしています。
本戦略に基づき、生産から消費のサプライチェーン全体について、労力軽減・生産性向上、地域資源の最大活用、脱炭素(温暖化防止)、化学農薬・化学肥料の低減の点から目指す姿として、
- 令和22(2040)年までに、革新的な技術・生産体系を順次開発(技術開発目標)
- 令和32(2050)年までに、革新的な技術・生産体系の開発を踏まえ、今後、「政策手法のグリーン化」(補助・投融資・税・制度等の政策誘導の手法に環境の観点を盛り込むことで、環境配慮の取組を促すもの)を推進し、その社会実装を実現(社会実装目標)
という2段階の目標を掲げるとともに、従来の施策の延長ではない形で、サプライチェーンの各段階における環境負荷の低減と労働安全性・労働生産性の大幅な向上をイノベーションにより実現していくための道筋を示します。本戦略の推進に当たっては、生産現場を始めとする関係者の理解を得ることが最も重要であることから、そのことに最大限配慮しつつ、意欲的な取組を引き出すことを基本に社会実装を進めます。
本戦略を、各種政府方針等に反映するとともに、アジアモンスーン地域の持続的な食料システムの取組モデルとして、令和3(2021)年9月開催予定の国連食料システムサミット等において、我が国から積極的に打ち出し、国際ルールメーキングに参画します。
(1)気候変動に対する緩和・適応策の推進
ア「農林水産省地球温暖化対策計画」(平成29(2017)年3月策定)を改定するとともに、同計画に基づき、農林水産分野における地球温暖化対策技術の開発、マニュアル等を活用した省エネ型の生産管理の普及・啓発や省エネ設備の導入等による施設園芸の省エネルギー対策、施肥の適正化を推進します。
イ農地からのGHGの排出・吸収量の国連への報告に必要な農地土壌中の炭素量等のデータを収集する調査を行います。また、家畜由来のGHG排出量の国連への報告の算出に必要な消化管由来のメタン量等のデータを収集する調査を行います。
ウ環境保全型農業直接支払制度により、堆肥の施用やカバークロップ等、地球温暖化防止等に効果の高い営農活動に対して支援します。また、バイオ炭の農地施用に伴う影響評価、炭素貯留効果と土壌改良効果を併せ持つバイオ炭資材の開発等に取り組みます。
エバイオマスの変換・利用施設等の整備等を支援し、農山漁村地域におけるバイオマス等の再生可能エネルギーの利用を推進します。
オ廃棄物系バイオマスの利活用については、「廃棄物処理施設整備計画」(平成30(2018)年6月策定)に基づく施設整備を推進するとともに、市町村等における生ごみのメタン化等の活用方策の導入検討を支援します。
カ気候変動の緩和に資するため、国際連携の下、各国の水田におけるGHG排出削減を実現する総合的栽培管理技術及び農産廃棄物を有効活用したGHG排出削減に関する影響評価手法の開発を推進します。
キ食品関連事業者のTCFD提言に基づく気候リスク・機会に関する情報開示のための手引きの作成、農林漁業関係の脱炭素技術紹介資料の作成、ESG投資のための事例調査等を実施し、フードサプライチェーンにおける脱炭素化の実践とその可視化(見える化)を推進します。
ク気候変動影響評価に関する最新の科学的知見等を踏まえ、「農林水産省気候変動適応計画」(平成30(2018)年11月改定)等を見直し、農林水産分野における気候変動の影響への適応に関する取組を推進するため、以下の取組を実施します。
(ア)中長期的な視点に立った我が国の農林水産業に与える気候変動の影響評価や適応技術の開発を行うとともに、各国の研究機関等との連携により気候変動適応技術の開発を推進します。
(イ)農業者等自らが気候変動に対するリスクマネジメントを行う際の参考となる手引き(農業生産における気候変動適応ガイド)を、都道府県普及指導員等を通じて、農業者への普及啓発に努めます。
(ウ)地方公共団体による農林水産分野の地域気候変動適応計画の策定及び適応策の実践を推進するために、科学的知見等の情報提供、農林漁業関係者とのコミュニケーション等を支援します。
ケ科学的なエビデンスに基づいた緩和策の導入・拡大に向けて、研究者、農業者、自治体等の連携による技術の開発・最適化を推進するとともに、農業者等の地球温暖化適応行動・温室効果ガス削減行動を促進するための政策措置に関する研究を実施します。
コ国連気候変動枠組条約等の地球環境問題に係る国際会議に参画し、農林水産分野における国際的な地球環境問題に対する取組を推進します。
(2)生物多様性の保全及び利用
ア「農林水産省生物多様性戦略」(平成24(2012)年2月改定)に基づき、田園地域や里地・里山の保全・管理を推進します。
イ食料生産が生物多様性に及ぼす影響に鑑み、原材料や資材調達を含めた持続可能な生産・消費の達成に向け「農林水産省生物多様性戦略」を改定し、グローバルなフードサプライチェーン全体における生物多様性保全の視点を取り込みます。
ウ企業等による生物多様性保全活動への支援等について取りまとめた農林漁業者及び企業等向け手引き・パンフレット並びにエコツーリズム、森林ボランティア、藻場の再生等の普及・啓発資料を活用し、農林水産分野における生物多様性保全活動を推進します。
エ環境保全型農業直接支払制度により、有機農業や冬期湛水(たんすい)管理等、生物多様性保全等に効果の高い営農活動に対して支援します。
オ遺伝子組換え農作物に関する取組として、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成15年法律第97号)に基づき、生物多様性に及ぼす影響についての科学的な評価、生態系への影響の監視等を継続するとともに、未承認の遺伝子組換え農作物の輸入防止を図るため、栽培用種苗を対象に、輸入時のモニタリング検査及び特定の生産地及び植物種について、輸入者に対し輸入に先立つ届出や検査を義務付ける「生物検査」を実施します。
カ海外遺伝資源を戦略的に確保するため、締約国として食料・農業植物遺伝資源条約の運営に必要な資金拠出を行うとともに、遺伝資源保有国における制度等の調査、遺伝資源の保全の促進、遺伝資源の取得・利用に関する手続・実績の確立とその活用に向けた周知活動等を実施します。
(3)有機農業の更なる推進
ア有機農業指導員の育成や新たに有機農業に取り組む農業者の技術習得等による人材育成、オーガニックビジネス実践拠点づくり等による産地づくりを推進します。
イ流通・加工・小売事業者等と連携した需要喚起の取組を支援し、バリューチェーンの構築を進めます。
ウ耕作放棄地等を活用した農地の確保とともに、有機農業を活かして地域振興につなげている市町村等のネットワークづくりを進めます。
エ有機食品の輸出を促進するため、有機JAS認証の取得を支援するとともに、諸外国との有機同等性の取得等を推進します。また、有機JASについて、消費者がより合理的な選択ができるよう必要な見直しを行います。
(4)土づくりの推進
ア全国的な土づくりを推進するため、都道府県の土壌調査結果の共有を進めるとともに、堆肥等の活用を促進します。また、収量向上効果を含めた土壌診断データベースの構築に向けて、都道府県とともに、土壌専門家を活用しつつ、農業生産現場における土壌診断の取組と診断結果のデータベース化の取組を推進するとともに、ドローン等を用いた簡便かつ広域的な診断手法や土壌診断の新たな評価軸としての生物性評価手法の検証・評価を推進します。
イ「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(平成11年法律第112号)の趣旨を踏まえ、家畜排せつ物の適正な管理に加え、その広域流通・利活用を図るため、ペレット化や化学肥料との配合等による堆肥の高品質化等を推進します。
(5)農業分野におけるプラスチックごみ問題への対応
農業分野のプラスチックごみ問題に対応するため、施設園芸及び畜産における廃プラスチック対策の推進、生分解性マルチ導入の推進、プラスチックを使用した被覆肥料の実態調査を行います。
(6)農業の自然循環機能の維持増進とコミュニケーション
ア有機農業を消費者に分かりやすく伝える取組を推進します。
イ気候変動や生物多様性等環境に配慮した生産を後押しするため、令和2(2020)年6月に立ち上げた官民協働のプラットフォームである「あふの環(わ)2030プロジェクト~食と農林水産業のサステナビリティを考える~」での活動を通じて、持続可能な消費を促進します。
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