6 需要構造等の変化に対応した生産基盤の強化と流通・加工構造の合理化
(1)肉用牛・酪農の生産拡大など畜産の競争力強化
ア 生産基盤の強化
(ア)牛肉・牛乳乳製品等畜産物の国内需要への対応と輸出拡大に向けて、肉用牛については、高品質な牛肉を安定的に供給できる生産体制を構築するため、肉用繁殖雌牛の増頭、受精卵の増産・利用等を推進しました。酪農については、都府県酪農の生産基盤の維持・回復と北海道酪農の持続的成長を目指し、酪農経営の持続的展開を図るため、都府県における牛舎の空きスペースも活用した増頭・増産に加え、性判別技術の活用による乳用後継牛の確保、高品質な生乳の生産による多様な消費者ニーズに対応した牛乳乳製品の供給を推進しました。
(イ)労働力負担軽減・省力化に資するロボット、AI、IoT等の先端技術の普及・定着、生産関連情報等のデータに基づく家畜改良や飼養管理技術の高度化、農業者と外部支援組織等の役割分担・連携の強化、GAP、アニマルウェルフェアの普及・定着を図りました。
(ウ)子牛や国産畜産物の生産・流通の円滑化に向けた家畜市場や食肉処理施設及び生乳の処理・貯蔵施設の再編等の取組を推進し、肉用牛・酪農等の生産基盤を強化しました。あわせて、米国・EU並みの衛生水準を満たす輸出認定施設の増加を推進しました。
(エ)畜産農家等の経営安定を図るため、以下の施策等を実施しました。
a畜種ごとの経営安定対策
(a)酪農関係では、<1>加工原料乳に対する加工原料乳生産者補給金及び集送乳調整金の交付、<2>加工原料乳の取引価格が低落した場合の補填金の交付等の対策
(b)肉用牛関係では、<1>肉用子牛対策として、子牛価格が保証基準価格を下回った場合に補給金を交付する肉用子牛生産者補給金制度、<2>肉用牛肥育対策として、標準的販売価格が標準的生産費を下回った場合に交付金を交付する肉用牛肥育経営安定交付金(牛マルキン)
(c)養豚関係では、標準的販売価格が標準的生産費を下回った場合に交付金を交付する肉豚経営安定交付金(豚マルキン)
(d)養鶏関係では、鶏卵の取引価格が補填基準価格を下回った場合に補填金を交付するなどの鶏卵生産者経営安定対策事業
b飼料価格安定対策
配合飼料価格の大幅な変動に対応するための配合飼料価格安定制度を適切に運用するとともに、国産濃厚飼料の増産や地域の飼料化可能な未利用資源を飼料として利用する取組等を推進しました。
イ 生産基盤強化を支える環境整備
(ア)増頭に伴う家畜排せつ物の土づくりへの活用を促進するため、家畜排せつ物処理施設の機能強化・堆肥のペレット化等を推進しました。飼料生産については、草地整備・草地改良、放牧、公共牧場の利用、水田を活用した飼料生産、子実用とうもろこし、エコフィード等の生産・利用の拡大等、国産飼料の生産・利用を推進しました。
(イ)和牛は、我が国固有の財産であり、家畜遺伝資源の不適正な流通は、我が国の畜産振興に重大な影響を及ぼすおそれがあることから、家畜遺伝資源の流通管理の徹底、知的財産としての価値の保護強化を推進するため、新たな仕組みについて周知徹底を図ったほか、全国の家畜人工授精所への立入検査、家畜遺伝資源の利用者の範囲等について制限を付す売買契約の普及や家畜人工授精用精液等の流通を全国的に管理するシステムの構築等を推進しました。
(ウ)畜舎等の利用実態を踏まえた安全基準やその執行体制等を検討し、生産コストの低減に資するよう「建築基準法」(昭和25年法律第201号)の適用の対象から除外する「畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律案」を第204回国会に提出しました。
(2)新たな需要に応える園芸作物等の生産体制の強化
ア 野菜
(ア)既存ハウスのリノベーションや、環境制御・作業管理等の技術習得に必要なデータ収集・分析機器の導入等、データを活用して生産性・収益向上につなげる体制づくり等を支援するとともに、より高度な生産が可能となる低コスト耐候性ハウスや高度環境制御栽培施設等の導入を支援しました。
(イ)水田地帯における園芸作物の導入に向けた合意形成や試験栽培、園芸作物の本格生産に向けた機械・施設のリース導入等を支援しました。
(ウ)複数の産地と協業して、加工・業務用等の新市場が求めるロット・品質での供給を担う拠点事業者による貯蔵・加工等の拠点インフラの整備や生育予測等を活用した安定生産の取組等を支援しました。
(エ)地域農業者の減少や労働力不足等の生産構造の急速な変化に対応するため、農業者と協業しつつ、<1>生産安定・効率化機能、<2>供給調整機能、<3>実需者ニーズ対応機能の三つの全ての機能を具備又は強化するモデル性の高い生産事業体の育成を支援しました。
イ 果樹
(ア)優良品目・品種への改植・新植及びそれに伴う未収益期間における幼木の管理経費を支援しました。
(イ)労働生産性の向上を図るため、平坦(へいたん)で作業性の良い水田等への新植や省力樹形の導入に対する支援を強化するとともに、まとまった面積で省力樹形及び機械作業体系の導入等による労働生産性を抜本的に高めたモデル産地の育成を支援しました。
(ウ)省力樹形の導入等に必要となる優良苗木や、国産花粉の安定供給に向けて、育苗圃場(ほじょう)の設置や花粉専用樹の植栽等を支援しました。
ウ 花き
(ア)地域毎に設定した戦略品目について、ニーズの高い品種への転換や省力生産の実証、新たな需要の創出・拡大に向けたプロモーション活動等を支援するとともに、生産性の飛躍的向上が期待される新技術の実証を支援しました。
(イ)輸出等の新市場の獲得に向けた切り花の暑熱対策技術の実証やコールドチェーンの整備、輸出向けの生産拡大に必要な技術導入実証等を支援しました。
エ 茶、甘味資源作物等の地域特産物
(ア)茶
令和2(2020)年4月に公表した「茶業及びお茶の文化の振興に関する基本方針」に基づき、消費者ニーズへの対応や輸出の促進等に向け、新たな茶商品の生産・加工技術や機能性成分等の特色を持つ品種の導入、有機栽培への転換、てん茶等の栽培に適した棚施設を利用した栽培法への転換や直接被覆栽培への転換、新たな抹茶加工技術の実証、残留農薬分析等を支援しました。
(イ)砂糖及びでん粉
「砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律」(昭和40年法律第109号)に基づき、さとうきび・でん粉原料用かんしょ生産者及び国内産糖・国内産いもでん粉の製造事業者に対して、経営安定のための支援を行いました。
(ウ)薬用作物
薬用作物の産地形成を加速化させるため、地域の取組として、産地と実需者(漢方薬メーカー等)とが連携した栽培技術の確立のための実証圃(じっしょうほ)の設置、省力化のための農業機械の改良及び収穫まで複数年を要する薬用作物の新植を支援しました。また、全国的な取組として、事前相談窓口の設置や技術アドバイザーの派遣等の栽培技術の指導体制の確立に向けた取組を支援しました。
(エ)こんにゃくいも等
こんにゃくいも等の特産農産物については、付加価値の創出、新規用途開拓、機械化・省力作業体系の導入等を推進するとともに、新たな需要の創出・拡大を図るため、生産者、実需者等が一体となって取り組む、安定的な生産に向けた体制の整備等を支援しました。
(オ)繭・生糸
蚕糸業の再生と持続的発展を図るため、養蚕・製糸業と絹織物業者等が提携して取り組む、輸入品と差別化された高品質な純国産絹製品づくり・ブランド化を推進するとともに、新たな需要の創出・拡大を図るため、生産者、実需者等が一体となって取り組む、安定的な生産に向けた体制の整備等を支援しました。
(カ)葉たばこ
葉たばこ審議会の意見を尊重した種類別・品種別価格により、日本たばこ産業株式会社(JT)が買い入れました。
(キ)いぐさ
輸入品との差別化・ブランド化に取り組むいぐさ生産者の経営安定を図るため、国産畳表の価格下落影響緩和対策の実施、実需者や消費者のニーズを踏まえた、産地の課題を解決するための技術実証等の取組を支援しました。
(3)米政策改革の着実な推進と水田における高収益作物等への転換
ア 消費者・実需者の需要に応じた多様な米の安定供給
(ア)需要に応じた米の生産・販売の推進
a需要に応じた生産・販売を推進するため、産地・生産者と実需者が結び付いた事前契約や複数年契約による安定取引の推進、水田活用の直接支払交付金や新市場開拓に向けた水田リノベーション事業による支援、都道府県産別、品種別等のきめ細かな需給・価格情報、販売進捗情報、在庫情報の提供、都道府県別・地域別の作付動向(中間的な取組状況)の公表等の環境整備を推進しました。
b国が策定する需給見通し等を踏まえつつ生産者や集荷業者・団体が主体的に需要に応じた生産・販売を行うため、行政、生産者団体、現場が一体となって取り組みました。
(イ)戦略作物の生産拡大、高収益作物への転換
a食料自給率・食料自給力の維持向上を図るため、麦、大豆、飼料用米等、戦略作物の本作化を進めるとともに、地域の特色のある魅力的な産品の産地づくりに向けた取組を支援することにより、水田のフル活用を図りました。具体的には、地域が作成する「水田フル活用ビジョン」に基づき、地域の特色のある魅力的な産品の産地を創造するため、地域の裁量で活用可能な産地交付金により、産地づくりに向けた取組を支援しました。
b野菜や果樹等の高収益作物の導入・定着を図るため、「水田農業高収益化推進計画」に基づき、国のみならず地方公共団体等の関係部局が連携し、水田における高収益作物への転換、水田の畑地化・汎用化のための基盤整備、栽培技術や機械・施設の導入、販路確保等の取組を計画的かつ一体的に推進しました。
(ウ)コメ・コメ加工品の輸出拡大
「コメ海外市場拡大戦略プロジェクト」を通じ、戦略的輸出事業者と戦略的輸出基地(産地)のマッチングの推進、両者が連携した輸出を拡大する国・地域における戦略的プロモーションの実施等に対する支援を通じて、海外の需要開拓を図るとともに、海外市場の求める品質や数量等に対応できる産地の育成等を推進しました。
(エ)米の消費拡大
米の消費拡大に資する飲食店情報の提供や、消費拡大に取り組む企業・団体の応援等、業界による主体的取組を応援する運動「やっぱりごはんでしょ!」の充実を図り、米消費が多く見込まれる消費者層や訪日外国人旅行者を含む新たな需要の取り込みを進めました。
(オ)米粉用米・飼料用米
実需者の求める安定的な供給に応えるため、生産と実需の複数年契約による長期安定的な取引の拡大を推進しました。
a米粉用米
近年の訪日外国人旅行者の急増等により、グルテンを含まない特性を持つ米粉に注目が集まる状況が見込まれることから、国産米粉の優位性の情報発信等の需要拡大に向けた取組の推進や生産と実需の複数年契約による長期安定的な取引の拡大等を推進するとともに、輸出の拡大を図るため、ノングルテン米粉の製造工程管理JASを制定しました。
b飼料用米
地域に応じた省力・多収栽培技術の確立・普及を通じた生産コストの低減やバラ出荷による流通コストの低減に向けた取組を支援しました。また、飼料用米を活用した豚肉、鶏卵等のブランド化を推進するための付加価値向上等に向けた新たな取組生産と実需の複数年契約による長期安定的な取引の拡大等を推進しました。
(カ)中食・外食需要への対応
生産者と実需者のマッチング支援を通じて、中食・外食向けの米の安定取引の推進を図りました。
(キ)米の生産コスト
米の生産については、農地の集積・集約化による分散錯圃(さくほ)の解消や作付けの団地化、多収品種の導入やスマート農業技術等による省力栽培技術の普及、資材費の低減、新市場開拓に向けた水田リノベーション事業の活用等による生産コストの低減等を推進しました。
イ 麦・大豆
短期的な変動はあるものの需要が中長期的に安定・堅調に推移している国産麦・大豆については、「麦・大豆増産プロジェクト」を設置し、実需の求める量・品質・価格に応えるための産地の生産性の向上、生産体制の強化、安定生産の実現等に向けた課題の整理と対策の検討を行いました。
ウ 米・麦・大豆等の流通
「農業競争力強化支援法」等に基づき、農産物流通・加工の合理化を図るため、流通・加工業界の再編に係る取組の支援等を実施しました。また、米・麦・大豆等の物流合理化を進めるため、生産者や関係事業者等と協議を行い、課題を特定し、それらの課題解決に取り組みました。特に米については、玄米輸送のフレキシブルコンテナバッグ利用の推進、精米物流の合理化に向けた商慣行の見直し等によるホワイト物流運動の推進に取り組みました。
(4)農業生産工程管理の推進と効果的な農作業安全対策の展開
ア 農業生産工程管理の推進
農産物においては、令和12(2030)年までにほぼ全ての国内の産地における国際水準のGAPの実施を目指し、「国際水準GAPガイドライン(試行版)」を公表するとともに、国際水準GAPの普及に向けた必要な取組を実施しました。また、畜産物においては、JGAP家畜・畜産物やGLOBALG.A.P.の認証取得の拡大を図りました。
イ 農作業等安全対策の展開
(ア)都道府県段階、市町村段階の関係機関が参画した推進体制を整備するとともに、農業機械作業に係る死亡事故が全体の6割を占めていることを踏まえ、以下の取組を強化しました。
a乗用型トラクターについて、安全フレームやシートベルトの装備、作業機を付けた状態での公道走行に必要な灯火器等の装備の促進
b乗用型トラクター乗車時におけるシートベルト・ヘルメットの着用の促進
c農業機械の定期的な点検・整備の励行
(イ)都道府県、農機メーカーや農機販売店等を通じた事故情報の収集を強化するとともに、その分析を通じた農業機械の安全設計の促進等を図りました。
(ウ)GAPの団体認証取得による農作業事故等産地リスクの低減効果の実証を行うとともに、暑熱対策の実践を通じた熱中症対策の推進、労災保険特別加入団体の設置と農業者の加入促進を図りました。
(エ)農林水産業・食品産業の作業安全対策について、「農林水産業・食品産業の現場の新たな作業安全対策に関する有識者会議」での議論を踏まえ、関係者の意識啓発に活用するための「農林水産業・食品産業の作業安全のための規範」を策定しました。
(5)良質かつ低廉な農業資材の供給や農産物の生産・流通・加工の合理化
ア「農業競争力強化プログラム」(平成28(2016)年11月策定)及び「農業競争力強化支援法」に基づき、良質で低価格な資材の供給拡大や農産物流通等の合理化に向けて以下の取組等を推進しました。
(ア)肥料のパレット流通体制の構築に向け、パレットの規格や合理的な管理体制の検討を進めました。
(イ)「農業競争力強化支援法」に基づく支援措置の活用等を通じ、生産性が低い肥料等の製造事業者や小規模で後継者不足が顕在化している卸売・小売事業者、農産物流通等の合理化の実現に資する流通等事業者の再編、スマート農業技術の普及が期待される農業機械の製造事業者等の参入を促進しました。
イ農産物規格・検査の見直しを検討するため、平成31(2019)年1月より開催している「農産物規格・検査に関する懇談会」において取りまとめた中間論点整理に基づき、告示改正等を行うとともに、以下の取組等を推進しました。
(ア)農産物検査の高度化を進めるため、一部項目は目視に代えて穀粒判別器による鑑定を可能とする見直しを行いました。
(イ)玄米物流の合理化につながるフレキシブルコンテナバッグに推奨規格の設定を行いました。
(ウ)着色粒等の規格に関する検討を進めるため、生産・流通・消費の現状に関するアンケート調査を行いました。
また、令和2(2020)年7月に閣議決定した規制改革実施計画を踏まえ、同年9月に「農産物検査規格・米穀の取引に関する検討会」を設置し、更なる検討を開始しました。この結果、令和3(2021)年3月までに、以下の結論を得ました。
(ア)機械鑑定を前提とした農産物検査規格の策定
(イ)サンプリング方法の見直し
(ウ)農産物検査証明における「皆掛重量」の廃止
(エ)穀粒判別器等科学的検査の更なる精度向上を図るため、AI画像分析等による次世代穀粒判別器の開発を推進
(オ)スマートフードチェーンとこれを活用したJAS規格の制定
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