5 食料供給のリスクを見据えた総合的な食料安全保障の確立
(1)不測時に備えた平素からの取組
「緊急事態食料安全保障指針」(令和3(2021)年7月改正)に関するシミュレーション演習を実施します。
食料の安定供給に影響を与える国内・国外のリスクについて、その影響度合い等について分析・評価を行います。
大規模災害等に備えた家庭備蓄の普及のため、家庭での実践方法をまとめたガイドブックやWebサイト等での情報発信を行います。
(2)国際的な食料需給の把握、分析
省内外において収集した国際的な食料需給に係る情報を一元的に集約するとともに、我が国独自の短期的な需給変動要因の分析や、中長期の需給見通しを策定し、これらを国民に分かりやすく発信します。
また、衛星データを活用し、食料輸出国や発展途上国等における気象や主要農作物の作柄の把握・モニタリングに向けた研究を行います。
さらに、海外の食料の需要や生産の状況、新型コロナウイルス感染症による食料供給への影響の実態も踏まえた新たなリスクについて調査・分析を行い、我が国の食料安全保障の観点から中長期的な課題や取り組むべき方向性を議論し、関係者で共有します。
(3)輸入穀物等の安定的な確保
ア 輸入穀物の安定供給の確保
(ア)麦の輸入先国との緊密な情報交換等を通じ、安定的な輸入を確保します。
(イ)政府が輸入する米麦について、残留農薬等の検査を実施します。
(ウ)輸入依存度の高い小麦について、港湾スト等により輸入が途絶した場合に備え、外国産食糧用小麦需要量の2.3か月分を備蓄し、そのうち政府が1.8か月分の保管料を助成します。
(エ)輸入依存度の高い飼料穀物について、不測の事態における海外からの供給遅滞・途絶、国内の配合飼料工場の被災に伴う配合飼料の急激な逼迫(ひっぱく)等に備え、配合飼料メーカー等が事業継続計画(BCP)に基づいて実施する飼料穀物の備蓄、不測の事態により配合飼料の供給が困難となった地域への配合飼料の緊急運搬、災害に強い配合飼料輸送等の検討の取組に対して支援します。
イ 港湾の機能強化
(ア)ばら積み貨物の安定的かつ安価な輸入を実現するため、大型船に対応した港湾機能の拠点的確保や企業間連携の促進等による効率的な海上輸送網の形成に向けた取組を推進します。
(イ)国際海上コンテナターミナル、国際物流ターミナルの整備等、港湾の機能強化を推進します。
ウ 遺伝資源の収集・保存・提供機能の強化
国内外の遺伝資源を収集・保存するとともに、有用特性等のデータベース化に加え、幅広い遺伝変異をカバーした代表的品種群(コアコレクション)の整備を進めることで、植物・微生物・動物遺伝資源の更なる充実と利用者への提供を促進します。
特に、海外植物遺伝資源については、二国間共同研究等を実施する中で、ITPGR(食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約)を活用した相互利用を推進することで、アクセス環境を整備します。また、国内植物遺伝資源については、公的研究機関等が管理する国内在来品種を含む我が国の遺伝資源をワンストップで検索できる統合データベースの整備を進めるなど、オールジャパンで多様な遺伝資源を収集・保存・提供する体制の強化を推進します。
エ 肥料の供給の安定化
化学肥料は、主要な原料である尿素・りん酸アンモニウム・塩化加里のいずれも埋蔵・産出量ともに特定の地域に偏在し、我が国はその多くを海外からの輸入に依存していることから、肥料原料の海外からの安定調達を進めつつ、土壌診断による適正な肥料の施用、化学肥料から家畜排せつ物や下水汚泥等の国内資源の有効活用による代替等、海外依存の低減に向けた取組を強化します。
(4)国際協力の推進
ア 世界の食料安全保障に係る国際会議への参画等
G7サミット、G20サミット及びその関連会合、APEC(アジア太平洋経済協力)関連会合、ASEAN+3(日中韓)農林大臣会合、FAO(国際連合食糧農業機関)理事会、OECD(経済協力開発機構)農業委員会等の世界の食料安全保障に係る国際会議に積極的に参画し、持続可能な農業生産の増大、生産性の向上及び多様な農業の共存に向けて国際的な議論に貢献します。
また、フードバリューチェーンの構築が農産物の付加価値を高め、農家・農村の所得向上と食品ロス削減に寄与し、食料安全保障を向上させる上で重要であることを発信します。
イ 飢餓、貧困、栄養不良への対策
(ア)研究開発、栄養改善のためのセミナーの開催や情報発信等を支援します。
(イ)飢餓・貧困の削減に向け、米等の生産性向上及び高付加価値化のための研究を支援します。
ウ アフリカへの農業協力
農業は、アフリカにおいて最大の雇用を擁する産業であり、地域の発展には農業の発展が不可欠となっているため、農業生産性の向上や持続可能な食料システム構築等の様々な支援を通じ、アフリカ農業の発展への貢献を引き続き行います。
これに加え、近年、気候変動の議論において、農業に起因する森林伐採や過放牧等の環境負荷が課題となっており、環境に調和した農業の確立が求められています。
令和4(2022)年にチュニジアで開催されるTICAD8(第8回アフリカ開発会議)において、各国との連携を図りつつ、各農業上の課題解決に取り組みます。
また、対象国のニーズを捉え、我が国の食文化の普及や農林水産物・食品輸出に取り組む企業の海外展開を引き続き推進します。
エ 気候変動や越境性動物疾病等の地球規模の課題への対策
(ア)パリ協定を踏まえた森林減少・劣化抑制、農地土壌における炭素貯留等に関する途上国の能力向上、耐塩性・耐干性イネやGHG(温室効果ガス)排出削減につながる栽培技術の開発等の気候変動対策を推進します。また、気候変動緩和策に資する研究及び越境性病害の我が国への侵入防止に資する研究並びにアジアにおける口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ、アフリカ豚熱(ぶたねつ)等の越境性動物疾病及び薬剤耐性対策等を推進します。
(イ)東アジア地域(ASEAN10か国、日本、中国及び韓国)における食料安全保障の強化と貧困の撲滅を目的とし、大規模災害等の緊急時に備えるため、ASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)の取組を推進します。
(5)動植物防疫措置の強化
ア世界各国における口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ、アフリカ豚熱等の発生状況、新たな植物の病害虫の発生等を踏まえ、国内における家畜の伝染性疾病や植物の病害虫の発生予防及びまん延防止対策、発生時の危機管理体制の整備等を実施します。また、国際的な連携を強化し、アジア地域における防除能力の向上を支援します。
豚熱や高病原性鳥インフルエンザ等の家畜の伝染性疾病については、早期通報や野生動物の侵入防止等、生産者による飼養衛生管理の徹底がなされるよう、都道府県と連携して指導を行います。特に、豚熱については、円滑なワクチン接種を進めるとともに、野生イノシシの対策として、捕獲強化や経口ワクチンの散布を実施します。
イ家畜防疫官・植物防疫官や検疫探知犬の適切な配置等による検査体制の整備・強化により、水際対策を適切に講ずるとともに、家畜の伝染性疾病及び植物の病害虫の侵入・まん延防止のための取組を推進します。
ウ地域の産業動物獣医師への就業を志す獣医大学の地域枠入学者・獣医学生に対する修学資金の給付、獣医学生を対象とした産業動物獣医師の業務について理解を深めるための臨床実習、産業動物獣医師を対象とした技術向上のための臨床研修を支援します。また、産業動物分野における獣医師の中途採用者を確保するための就業支援、女性獣医師等を対象とした職場復帰・再就職に向けたスキルアップのための研修や中高生等を対象とした産業動物獣医師の業務について理解を深めるセミナー等の実施による産業動物獣医師の育成、遠隔診療の適時・適切な活用を推進するため、情報通信機器を活用した産業動物診療の効率化等を支援します。
エ気候変動等により病害虫の侵入リスクが増加していること、化学農薬による環境負荷の低減が国際的な課題となっていること等を踏まえ、病害虫の国内への侵入状況等に関する調査事業の実施、防除内容等に係る基準の作成等による緊急防除の迅速化、病害虫の発生予防を含めた防除に関する農業者への勧告、命令等の措置の導入、輸入検疫等における対象物品の範囲及び植物防疫官の権限の拡充等の措置を内容とする「植物防疫法の一部を改正する法律案」を第208回通常国会に提出したところです。
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