2 中山間地域等をはじめとする農村に人が住み続けるための条件整備
(1)地域コミュニティ機能の維持や強化
ア 世代を超えた人々による地域のビジョンづくり
中山間地域等直接支払制度の活用により農用地や集落の将来像の明確化を支援するほか、農村が持つ豊かな自然や食を活用した地域の活動計画づくり等を支援しました。
また、地域で共同した耕作・維持活動に加え、放牧や飼料生産等、少子高齢化・人口減少にも対応した多様な農地利用方策とそれを実施する仕組みについて、有識者から成る検討会において総合的に検討しました。
イ 「小さな拠点」の形成の推進
(ア)生活サービス機能等を基幹集落へ集約した「小さな拠点」の形成に資する地域の活動計画づくりや実証活動を支援しました。また、農産物販売施設、廃校施設等、特定の機能を果たすために設置された施設を多機能化(地域づくり、農業振興、観光、文化、福祉、防犯等)し、地域活性化の拠点等として活用していくための支援の在り方を検討しました。
(イ)地域の実情を踏まえつつ、小学校区等複数の集落が集まる地域において、生活サービス機能等を集約・確保し、周辺集落との間をネットワークで結ぶ「小さな拠点」の形成に向けた取組を推進しました。
ウ 地域コミュニティ機能の形成のための場づくり
公民館がNPO法人や企業、農業協同組合等多様な主体と連携して地域の人材の育成・活用や地域活性化を図るための取組を推進しました。
(2)多面的機能の発揮の促進
日本型直接支払制度(多面的機能支払制度、中山間地域等直接支払制度、環境保全型農業直接支払制度)、森林・山村多面的機能発揮対策を推進しました。
ア 多面的機能支払制度
(ア)地域共同で行う、農業・農村の有する多面的機能を支える活動、地域資源(農地、水路、農道等)の質的向上を図る活動を支援しました。
(イ)農村地域の高齢化等に伴い集落機能が一層低下する中、広域化や土地改良区との連携による活動組織の体制強化と事務の簡素化・効率化を進めました。
イ 中山間地域等直接支払制度
(ア)条件不利地域において、中山間地域等直接支払制度に基づく直接支払を実施しました。
(イ)棚田地域における振興活動や集落の地域運営機能の強化等、将来に向けた活動を支援しました。
ウ 環境保全型農業直接支払制度
化学肥料・化学合成農薬の使用を原則5割以上低減する取組と併せて行う地球温暖化防止や生物多様性保全等に効果の高い営農活動に対して支援しました。
エ 森林・山村多面的機能発揮対策
地域住民等が集落周辺の里山林において行う、中山間地域における農地等の維持保全にも資する森林の保全管理活動等を推進しました。
(3)生活インフラ等の確保
ア 住居、情報基盤、交通等の生活インフラ等の確保
(ア)住居等の生活環境の整備
a住居・宅地等の整備
(a)高齢化や人口減少が進行する農村において、農業・生活関連施設の再編・整備を推進しました。
(b)農山漁村における定住や都市と農山漁村の二地域居住を促進する観点から、関係府省が連携しつつ、計画的な生活環境の整備を推進しました。
(c)優良田園住宅による良質な住宅・宅地供給を促進し、質の高い居住環境整備を推進しました。
(d)地方定住促進に資する地域優良賃貸住宅の供給を促進しました。
(e)「地域再生法」(平成17年法律第24号)に基づき、「農地付き空き家」に関する情報提供や取得の円滑化を推進しました。
(f)都市計画区域の定めのない町村において、スポーツ、文化、地域交流活動の拠点となり、生活環境の改善を図る特定地区公園の整備を推進しました。
b汚水処理施設の整備
(a)地方創生等の取組を支援する観点から、地方公共団体が策定する「地域再生計画」に基づき、関係府省が連携して道路及び汚水処理施設の整備を効率的・効果的に推進しました。
(b)下水道、農業集落排水施設、浄化槽等について、未整備地域の整備とともに、より一層の効率的な汚水処理施設整備のために、社会情勢の変化を踏まえた都道府県構想の見直しの取組について、関係府省が密接に連携して支援しました。
(c)下水道及び農業集落排水施設においては、既存施設について、維持管理の効率化や長寿命化・老朽化対策を進めるため、地方公共団体による機能診断等の取組や更新整備を支援しました。
(d)農業集落排水施設と下水道との連携等による施設の再編や、農業集落排水施設と浄化槽との一体的な整備を推進しました。
(e)農村地域における適切な資源循環を確保するため、農業集落排水施設から発生する汚泥と処理水の循環利用を推進しました。
(f)下水道を含む汚水処理の広域化・共同化に係る計画策定から施設整備まで総合的に支援する下水道広域化推進総合事業や従来の技術基準にとらわれず地域の実情に応じた低コスト、早期かつ機動的な整備が可能な新たな整備手法の導入を図る「下水道クイックプロジェクト」等により、効率的な汚水処理施設の整備を推進しました。
(g)地方部において、より効率的な汚水処理施設である浄化槽の整備を推進しました。特に、循環型社会・低炭素社会・自然共生社会の同時実現を図るとともに、環境配慮型の浄化槽(省エネルギータイプに更なる環境性能を追加した浄化槽)整備や、公的施設に設置されている単独処理浄化槽の集中的な転換を推進しました。
(イ)情報通信環境の整備
高度情報通信ネットワーク社会の実現に向けて、河川、道路、下水道において公共施設管理の高度化を図るため、光ファイバ及びその収容空間を整備するとともに、施設管理に支障のない範囲で国の管理する河川・道路管理用光ファイバやその収容空間の開放を推進しました。
(ウ)交通の整備
a交通事故の防止、交通の円滑化を確保するため、歩道の整備や交差点改良等を推進しました。
b生活の利便性向上や地域交流に必要な道路、都市まで安全かつ快適な移動を確保するための道路の整備を推進しました。
c日常生活の基盤としての市町村道から国土構造の骨格を形成する高規格幹線道路に至る道路ネットワークの強化を推進しました。
d多様な関係者の連携により、地方バス路線、離島航路・航空路等の生活交通の確保・維持を図るとともに、バリアフリー化や地域鉄道の安全性向上に資する設備の整備等、快適で安全な公共交通の構築に向けた取組を支援しました。
e地域住民の日常生活に不可欠な交通サービスの維持・活性化、輸送の安定性の確保等のため、島しょ部等における港湾整備を推進しました。
f農産物の海上輸送の効率化を図るため、船舶の大型化等に対応した複合一貫輸送ターミナルの整備を推進しました。
g「道の駅」の整備により、休憩施設と地域振興施設を一体的に整備し、地域の情報発信と連携・交流の拠点形成を支援しました。
h食料品の購入や飲食に不便や苦労を感じる「食料品アクセス問題」に対する市町村独自の取組や民間事業者と連携した取組を推進しました。
(エ)教育活動の充実
地域コミュニティの核としての学校の役割を重視しつつ、地方公共団体における学校規模の適正化や小規模校の活性化等に関する更なる検討を促すとともに、各市町村における検討に資する「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」の更なる周知、優れた先行事例の普及等による取組モデルの横展開等、活力ある学校づくりに向けたきめ細やかな取組を推進しました。
(オ)医療・福祉等のサービスの充実
a「第7次医療計画」に基づき、へき地診療所等による住民への医療提供等農村を含めたへき地における医療の確保を推進しました。
b介護・福祉サービスについて、地域密着型サービス拠点等の整備等を推進しました。
(カ)安全な生活の確保
a山腹崩壊、土石流等の山地災害を防止するための治山施設の整備や、流木被害の軽減・防止を図るための流木捕捉式治山ダムの設置、農地等を飛砂(ひさ)害や風害、潮害から守るなど重要な役割を果たす海岸防災林の整備等を通じて地域住民の生命・財産及び生活環境の保全を図りました。これらの施策の実施に当たっては、流域治水の取組との連携を図りました。
b治山施設の設置等のハード対策と併せて、地域における避難体制の整備等の取組と連携して、山地災害危険地区を地図情報として住民に提供するなどのソフト対策を推進しました。
c高齢者や障害者等の自力避難の困難な者が入居する要配慮者利用施設に隣接する山地災害危険地区等において治山事業を計画的に実施しました。
d激甚な水害の発生や床上浸水の頻発により、国民生活に大きな支障が生じた地域等において、被害の防止・軽減を目的として、治水事業を実施しました。
e市町村役場、重要交通網、ライフライン施設等が存在する土砂災害の発生のおそれのある箇所において、砂防堰堤(えんてい)等の土砂災害防止施設の整備や警戒避難体制の充実・強化等、ハード・ソフト一体となった総合的な土砂災害対策を推進しました。また、近年、死者を出すなど甚大な土砂災害が発生した地域の再度災害防止対策を推進しました。
f南海トラフ地震や首都直下地震等による被害の発生及び拡大、経済活動への甚大な影響の発生等に備え、防災拠点、重要交通網、避難路等に影響を及ぼすほか、孤立集落発生の要因となり得る土砂災害の発生のおそれのある箇所において、土砂災害防止施設の整備を戦略的に推進しました。
g「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号)に基づき、土砂災害警戒区域等の指定を促進し、土砂災害のおそれのある区域についての危険の周知、警戒避難体制の整備及び特定開発行為の制限を実施しました。
h農地災害等を防止するため、農業水利施設の改修等のハード対策に加え、防災情報を関係者が共有するシステムの整備、減災のための指針づくり等のソフト対策を推進し、地域住民の安全な生活の確保を図りました。
i橋梁(きょうりょう)の耐震対策、道路斜面や盛土等の防災対策、災害のおそれのある区間を回避する道路整備を推進しました。また、冬期の道路ネットワークを確保するため、道路の除雪、防雪、凍雪害防止を推進しました。
イ 定住条件整備のための総合的な支援
(ア)定住条件が不十分な地域(中山間・離島等)の医療、交通、買物等の生活サービスを強化するため、ICTを活用した定住条件の整備のための取組を支援しました。
(イ)中山間地域等において、必要な地域に対して、農業生産基盤の総合的な整備と農村振興に資する施設の整備を一体的に推進し、定住条件を整備しました。
(ウ)水路等への転落を防止する安全施設の整備等、農業水利施設の安全対策を推進しました。
(4)鳥獣被害対策等の推進
ア令和3(2021)年9月に施行された改正後の「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」(平成19年法律第134号)に基づき、市町村による被害防止計画の作成及び鳥獣被害対策実施隊の設置・体制強化を推進しました。
イ関係府省庁が連携・協力し、個体数等の削減に向けて、被害防止対策を推進しました。特にシカ・イノシシについては、令和5(2023)年度までに平成23(2011)年度比で生息頭数を半減させる目標の達成に向けて、関係府省庁等と連携しながら、捕獲の強化を推進しました。
ウ市町村が作成する被害防止計画に基づく、鳥獣の捕獲体制の整備、捕獲機材の導入、侵入防止柵の設置、鳥獣の捕獲・追払い、緩衝帯の整備を推進しました。
エ「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律の一部を改正する法律」(令和3年法律第71号)が令和3(2021)年6月に成立したことを踏まえ、「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための施策を実施するための基本的な指針」の一部を改正しました。
オ鳥獣の生息環境にも配慮した森林の整備・保全活動等を推進しました。
カ東日本大震災や東電福島第一原発事故に伴う捕獲活動の低下による鳥獣被害の拡大を抑制するための侵入防止柵の設置等を推進しました。
キ鳥獣被害対策のアドバイザーを登録・紹介する取組を推進するとともに、地域における技術指導者の育成を図るため研修を実施しました。
クICT等を活用した効率的なスマート捕獲の技術の開発・普及を推進しました。
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