5 食料供給のリスクを見据えた総合的な食料安全保障の確立
(1)食料安全保障の強化に向けた構造転換対策
食料安全保障強化政策大綱に基づき、食料安全保障の強化に向けた構造転換対策として、以下の取組を推進します。
- 水田を畑地化し、高収益作物やその他の畑作物の定着等を図る取組等を支援します。
- 麦・大豆の増産を目指す産地に対し、水田・畑地を問わず、作付けの団地化、ブロックローテーション、営農技術の導入等を支援します。
- 担い手への農地集積や農業の高付加価値化を図るため、農地中間管理機構との連携等により、水田の畑地化・汎用化や農地の大区画化等の基盤整備を推進します。
- 米粉の利用拡大に向け、製粉業者及び食品製造事業者による米粉・米粉製品の製造、施設整備及び製造設備の増設や米粉の利用拡大が期待されるパン・麺用の米粉専用品種の増産に向け、必要な種子生産のための施設整備を支援します。
- 食品産業を持続可能なものとするため、国産原材料切替えによる新商品開発や輸入原材料の使用量節減、環境負荷低減等に配慮した取組等を支援します。
- 実需者ニーズに対応した、園芸作物の生産・供給を拡大するため、加工・業務用向け野菜の大規模契約栽培に取り組む産地の育成等を支援します。
- 肥料原料のほとんどを海外に依存している中で、輸入が途絶した場合にも生産現場への肥料の供給を安定的に行うことができるよう、肥料原料の備蓄及びこれに要する保管施設の整備を支援します。
- 飼料の安定生産のための草地改良や飼料生産組織の運営強化、放牧及び未利用資源の活用等の国産飼料の一層の増産・利用のための体制整備、公共牧場等が有する広大な草地等のフル活用による国産飼料の生産・供給等の取組を支援し、飼料生産基盤に立脚した畜産経営の推進を図ります。
- みどり戦略の実現に向け、化学肥料等の使用量削減と高い生産性を両立する革新的な新品種を迅速に開発するため、スマート育種技術を低コスト化・高精度化するとともに、多品目に利用できるスマート育種基盤を構築します。
- 農業の持続的な発展と農業の有する多面的機能の発揮を図るとともに、みどり戦略の実現に向けて、農業生産に由来する環境負荷を低減する取組と合わせて行う地球温暖化防止や生物多様性保全等に効果の高い農業生産活動を支援します。
- 化学肥料・化学農薬の低減、有機農業の拡大、ゼロエミッション化等の推進に向けて、みどり戦略推進に必要な施設の整備等を支援します。
(2)不測時に備えた平素からの取組
「緊急事態食料安全保障指針」に関するシミュレーション演習を実施します。
食料の安定供給に影響を与える国内・国外のリスクについて、その影響度合い等について分析・評価を行います。
大規模災害等に備えた家庭備蓄の普及のため、家庭での実践方法をまとめたガイドブックやWebサイト等での情報発信を行います。
(3)国際的な食料需給の把握、分析
省内外において収集した国際的な食料需給に係る情報を一元的に集約するとともに、我が国独自の短期的な需給変動要因の分析や、中長期の需給見通しを策定し、これらを国民に分かりやすく発信します。
また、衛星データを活用し、食料輸出国や発展途上国等における気象や主要農作物の作柄のデータの提供を行います。
(4)輸入穀物等の安定的な確保
ア 輸入穀物の安定供給の確保
(ア)麦の輸入先国との緊密な情報交換等を通じ、安定的な輸入を確保します。
(イ)政府が輸入する米麦について、残留農薬等の検査を実施します。
(ウ)輸入依存度の高い小麦について、港湾ストライキ等により輸入が途絶した場合に備え、外国産食糧用小麦需要量の2.3か月分を備蓄し、そのうち政府が1.8か月分の保管料を助成します。
(エ)輸入依存度の高い飼料穀物について、不測の事態における海外からの供給遅滞・途絶、国内の配合飼料工場の被災に伴う配合飼料の急激な逼迫(ひっぱく)等に備え、配合飼料メーカー等が事業継続計画(BCP)に基づいて実施する飼料穀物の備蓄、不測の事態により配合飼料の供給が困難となった地域への配合飼料の緊急運搬、関係者の連携体制の強化、飼料流通の効率化の実証等の災害に強い配合飼料輸送等の検討の取組に対して支援します。
イ 港湾の機能強化
(ア)ばら積み貨物の安定的かつ安価な輸入を実現するため、大型船に対応した港湾機能の拠点的確保や企業間連携の促進等による効率的な海上輸送網の形成に向けた取組を推進します。
(イ)国際海上コンテナターミナル及び国際物流ターミナルの整備等、港湾の機能強化を推進します。
ウ 遺伝資源の収集・保存・提供機能の強化
国内外の遺伝資源を収集・保存するとともに、有用特性等のデータベース化に加え、幅広い遺伝変異をカバーした代表的品種群(コアコレクション)の整備を進めることで、植物・微生物・動物遺伝資源の更なる充実と利用者への提供を促進します。
特に海外植物遺伝資源については、二国間共同研究等を実施する中で、「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(ITPGR)」を踏まえた相互利用を推進することで、アクセス環境を整備します。また、国内植物遺伝資源については、公的研究機関等が管理する国内在来品種を含む我が国の遺伝資源をワンストップで検索できる統合データベースの整備を進めるなど、オールジャパンで多様な遺伝資源を収集・保存・提供する体制の強化を推進します。
エ 肥料の供給の安定化
化学肥料は、粗原料である天然資源が特定の地域に偏在していることから、我が国はその多くを海外からの輸入に依存しているため、肥料原料の海外からの安定調達を進めつつ、土壌診断による適正な肥料の施用、堆肥や下水汚泥資源の利用拡大等、過度に輸入に依存する構造の転換を進めます。
また、肥料原料の備蓄及びそれに必要な保管施設の整備を支援します。
(5)国際協力の推進
ア 世界の食料安全保障に係る国際会議への参画等
令和5(2023)年4月にG7宮崎農業大臣会合を開催し、議長国として、世界の食料安全保障の強化に向けて議論をリードします。G7広島サミット、G20サミット及びその関連会合、APEC(アジア太平洋経済協力)食料安全保障担当大臣会合、ASEAN+3(日中韓)農林大臣会合、FAO(国際連合食糧農業機関) 総会、OECD(経済協力開発機構)農業委員会等の世界の食料安全保障に係る国際会議に積極的に参画し、持続可能な農業生産の増大、生産性の向上及び多様な農業の共存に向けて国際的な議論に貢献します。また、AIM for Climate(気候のための農業イノベーション・ミッション)等に参画し、国際的な農業研究の議論に貢献します。
さらに、フードバリューチェーンの構築が農産物の付加価値を高め、農家・農村の所得向上と食品ロス削減に寄与し、食料安全保障を向上させる上で重要であることを発信します。
イ 飢餓、貧困、栄養不良への対策
(ア)研究開発等に関するセミナーの開催や情報発信等を支援します。また、官民連携の栄養改善事業推進プラットフォームを通じて、開発途上国・新興国の人々の栄養状態の改善に取り組みつつビジネス展開を目指す食品企業等を支援します。
(イ)飢餓・貧困、気候変動等の地球規模課題に対応するため、途上国に対する農業生産等に関する研究開発を支援します。
ウ アフリカへの農業協力
農業は、アフリカにおいて最大の雇用を擁する産業であり、地域の発展には農業の発展が不可欠となっているため、農業生産性の向上や持続可能な食料システム構築等の様々な支援を通じ、アフリカ農業の発展への貢献を引き続き行います。
また、対象国のニーズを捉え、我が国の食文化の普及や農林水産物・食品輸出に取り組む企業の海外展開を引き続き推進します。
エ 気候変動や越境性動物疾病等の地球規模の課題への対策
(ア)パリ協定を踏まえた森林減少・劣化抑制、農地土壌における炭素貯留等に関する途上国の能力向上、耐塩性・耐干性イネやGHG(温室効果ガス)排出削減につながる栽培技術の開発等の気候変動対策を推進します。また、<1>気候変動緩和に資する研究や、<2>越境性病害の我が国への侵入防止に資する研究、<3>アジアにおける口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ、アフリカ豚熱(ぶたねつ)等の越境性動物疾病及び薬剤耐性の対策等を推進します。また、アジアモンスーン地域で共有できる技術情報の収集・分析・発信、アジアモンスーン各地での気候変動緩和等に資する技術の応用のための共同研究を推進します。くわえて、気候変動対策として、アジア開発銀行と連携し、農業分野の二国間クレジット制度(JCM)の案件創出の取組を開始します。
(イ)東アジア地域(ASEAN10か国、日本、中国及び韓国)における食料安全保障の強化と貧困の撲滅を目的とし、大規模災害等の緊急時に備えるため、ASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)の取組を推進します。
(6)動植物防疫措置の強化
ア世界各国における口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ、アフリカ豚熱(ぶたねつ)等の発生状況、新たな植物の病害虫の発生等を踏まえ、国内における家畜の伝染性疾病や植物の病害虫の発生予防、まん延防止対策、発生時の危機管理体制の整備等を実施します。また、国際的な連携を強化し、アジア地域における防疫能力の向上を支援します。
豚熱や高病原性鳥インフルエンザ等の家畜の伝染性疾病については、早期通報や野生動物の侵入防止等、生産者による飼養衛生管理の徹底がなされるよう、都道府県と連携して指導を行います。特に豚熱については、野生動物侵入防止柵の設置や飼養衛生管理の徹底に加え、ワクチン接種推奨地域では予防的なワクチン接種を実施し、野生イノシシの対策として、捕獲強化や経口ワクチンの散布を実施します。
イ化学農薬のみに依存せず、予防・予察に重点を置いた総合防除を推進するため、産地に適した技術の検証、栽培マニュアルの策定等の取組を支援します。また、AI等を活用した精度の高い発生予察を行い、迅速に情報を発出するための取組を支援します。病害虫の薬剤抵抗性の発達等により、防除が困難となっている作物に対する緊急的な防除体系の確立を支援します。
ウ家畜防疫官・植物防疫官や検疫探知犬の適切な配置等による検査体制の整備・強化により、水際対策を適切に講ずるとともに、家畜の伝染性疾病及び植物の病害虫の侵入・まん延防止のための取組を推進します。
エジャガイモシロシストセンチュウ等の重要病害虫の定着・まん延防止を図るため、「植物防疫法」(昭和25年法律第151号)に基づく緊急防除を実施します。また、緊急防除の対象となり得る病害虫の侵入が確認された場合に、発生範囲の特定や薬剤散布等の初動防除を実施します。
オ遠隔診療の適時・適切な活用を推進するための情報通信機器を活用した産業動物診療の効率化、産業動物分野における獣医師の中途採用者を確保するための就業支援、女性獣医師等を対象とした職場復帰・再就職に向けたスキルアップのための研修や中高生等を対象とした産業動物獣医師の業務について理解を深めるセミナー等の実施による産業動物獣医師の育成等を支援します。
また、地域の産業動物獣医師への就業を志す獣医大学の地域枠入学者・獣医学生に対する修学資金の給付や、獣医学生を対象とした産業動物獣医師の業務について理解を深めるための臨床実習、産業動物獣医師を対象とした技術向上のための臨床研修を支援します。
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