5 食料供給のリスクを見据えた総合的な食料安全保障の確立
(1)不測時に備えた平素からの取組
我が国の食料安全保障上の懸念の高まりを踏まえ、食料の安定供給に影響を与える可能性のある様々な要因(リスク)を洗い出した上で、包括的な検証を行い、「食料の安定供給に関するリスク検証(2022)」として公表しました。
ウクライナ情勢等を踏まえた新たなリスクに対応するため、「緊急事態食料安全保障指針」に関するシミュレーション演習について、これまでも実施してきた食料供給が減少するシナリオに加えて、生産資材(肥料、農薬、種子・種苗)の供給が減少するシナリオに基づき実施し、不測時における具体的な対応やその実施手順等を確認しました。
大規模災害等に備えた家庭備蓄の普及のため、家庭での実践方法をまとめたガイドブックやWebサイト等での情報発信を行いました。
(2)国際的な食料需給の把握、分析
省内外において収集した国際的な食料需給に係る情報を一元的に集約するとともに、我が国独自の短期的な需給変動要因の分析や、中長期の需給見通しを策定し、これらを国民に分かりやすく発信しました。
また、衛星データを活用し、食料輸出国や発展途上国等における気象や主要農作物の作柄のデータの提供を行いました。
(3)輸入穀物等の安定的な確保
ア 輸入穀物の安定供給の確保
(ア)麦の輸入先国との緊密な情報交換等を通じ、安定的な輸入を確保しました。
(イ)政府が輸入する米麦について、残留農薬等の検査を実施しました。
(ウ)輸入依存度の高い小麦について、港湾ストライキ等により輸入が途絶した場合に備え、外国産食糧用小麦需要量の2.3か月分を備蓄し、そのうち政府が1.8か月分の保管料を助成しました。
(エ)輸入依存度の高い飼料穀物について、不測の事態における海外からの供給遅滞・途絶、国内の配合飼料工場の被災に伴う配合飼料の急激な逼迫(ひっぱく)等に備え、配合飼料メーカー等が事業継続計画(BCP)に基づいて実施する飼料穀物の備蓄、不測の事態により配合飼料の供給が困難となった地域への配合飼料の緊急運搬、災害に強い配合飼料輸送等の検討の取組に対して支援しました。
イ 港湾の機能強化
(ア)ばら積み貨物の安定的かつ安価な輸入を実現するため、大型船に対応した港湾機能の拠点的確保や企業間連携の促進等による効率的な海上輸送網の形成に向けた取組を推進しました。
(イ)国際海上コンテナターミナルや国際物流ターミナルの整備等、港湾の機能強化を推進しました。
ウ 遺伝資源の収集・保存・提供機能の強化
国内外の遺伝資源を収集・保存するとともに、有用特性等のデータベース化に加え、幅広い遺伝変異をカバーした代表的品種群(コアコレクション)の整備を進めることで、植物・微生物・動物遺伝資源の更なる充実と利用者への提供を促進しました。
特に海外植物遺伝資源については、二国間共同研究等を実施する中で、「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(ITPGR)」を踏まえた相互利用を推進することで、アクセス環境を整備しました。また、国内植物遺伝資源については、公的研究機関等が管理する国内在来品種を含む我が国の遺伝資源をワンストップで検索できる統合データベースの整備を進めるなど、オールジャパンで多様な遺伝資源を収集・保存・提供する体制の強化を推進しました。
エ 肥料の供給の安定化
令和3(2021)年秋以降、肥料原料の国際価格が上昇したことを受け、慣行の施肥体系から肥料コスト低減体系への転換を進める取組に対する支援を拡大したほか、肥料価格高騰による農業経営への影響を緩和するため、化学肥料使用量の低減に向けた取組を行う農業者に対し、肥料費上昇分の7割を支援する新たな対策を講じました。
さらに、肥料原料の大部分を海外に依存している中で、調達先国からの供給途絶等により原料の需給が逼迫した場合にも生産現場への肥料の供給を安定的に行うことができるよう、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」(令和4年法律第43号)における特定重要物資として肥料を指定した上で、主要な肥料原料の備蓄を行う仕組みを創設し、肥料原料の備蓄に要する保管経費と保管施設の整備費を支援するための基金を創設しました。また、肥料の国産化に向けて、堆肥や下水等の肥料成分を含有する国内資源の肥料利用を推進するため、畜産農家や下水道事業者、肥料製造業者、耕種農家等が連携した取組や施設整備等を支援しました。
(4)国際協力の推進
ア 世界の食料安全保障に係る国際会議への参画等
G7サミット、G20サミット及びその関連会合、APEC(アジア太平洋経済協力)関連会合、ASEAN+3(日中韓)農林大臣会合、FAO(国際連合食糧農業機関)理事会、OECD(経済協力開発機構)農業委員会等の世界の食料安全保障に係る国際会議に積極的に参画し、持続可能な農業生産の増大、生産性の向上及び多様な農業の共存に向けて国際的な議論に貢献しました。
また、フードバリューチェーンの構築が農産物の付加価値を高め、農家・農村の所得向上と食品ロス削減に寄与し、食料安全保障を向上させる上で重要であることを発信しました。
イ 飢餓、貧困、栄養不良への対策
(ア)研究開発、栄養改善のためのセミナーの開催や情報発信等を支援しました。また、官民連携の栄養改善事業推進プラットフォームを通じて、開発途上国・新興国の人々の栄養状態の改善に取り組みつつビジネス展開を目指す食品企業等を支援しました。
(イ)飢餓・貧困の削減に向け、米等の生産性向上及び高付加価値化のための研究を支援しました。
ウ アフリカへの農業協力
農業は、アフリカにおいて最大の雇用を擁する産業であり、地域の発展には農業の発展が不可欠となっているため、農業生産性の向上や持続可能な食料システム構築等の様々な支援を通じ、アフリカ農業の発展への貢献を引き続き行いました。また、令和4(2022)年8月にチュニジアで開催されたTICAD8(第8回アフリカ開発会議)において、各国との連携を図りつつ、農業分野の課題解決に取り組みました。
くわえて、対象国のニーズを捉え、我が国の食文化の普及や農林水産物・食品輸出に取り組む企業の海外展開を引き続き推進しました。
エ 気候変動や越境性動物疾病等の地球規模の課題への対策
(ア)パリ協定を踏まえた森林減少・劣化抑制、農地土壌における炭素貯留等に関する途上国の能力向上、耐塩性・耐干性イネやGHG(温室効果ガス)排出削減につながる栽培技術の開発等の気候変動対策を推進しました。また、<1>気候変動緩和に資する研究や、<2>越境性病害の我が国への侵入防止に資する研究、<3>アジアにおける口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ、アフリカ豚熱(ぶたねつ)等の越境性動物疾病及び薬剤耐性の対策等を推進しました。
(イ)東アジア地域(ASEAN10か国、日本、中国及び韓国)における食料安全保障の強化と貧困の撲滅を目的とし、大規模災害等の緊急時に備えるため、ASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)の取組を推進しました。
オ 食料支援等の実施
農林水産省を始めとする関係省庁では、ウクライナ政府からの要請及びG7臨時農業大臣会合でのウクライナ支援に係る各国間の合意を踏まえ、食料品(パックご飯、魚の缶詰、全粉乳及び缶詰パン)等の物資を支援しました。
(5)動植物防疫措置の強化
ア世界各国における口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ、アフリカ豚熱等の発生状況、新たな植物の病害虫の発生等を踏まえ、国内における家畜の伝染性疾病や植物の病害虫の発生予防、まん延防止対策等を実施しました。また、国際的な連携を強化し、アジア地域における防疫能力の向上を支援しました。
豚熱や高病原性鳥インフルエンザ等の家畜の伝染性疾病については、早期通報や野生動物の侵入防止等、生産者による飼養衛生管理の徹底がなされるよう、都道府県と連携して指導を行いました。特に豚熱については、野生動物侵入防止柵の設置や飼養衛生管理の徹底に加え、ワクチン接種推奨地域では予防的なワクチン接種を実施し、野生イノシシの対策として、捕獲強化や経口ワクチンの散布を実施しました。
イ家畜防疫官・植物防疫官や検疫探知犬の適切な配置等による検査体制の整備・強化により、水際対策を適切に講ずるとともに、家畜の伝染性疾病及び植物の病害虫の侵入・まん延防止のための取組を推進しました。
ウ地域の産業動物獣医師への就業を志す獣医大学の地域枠入学者・獣医学生に対する修学資金の給付や、獣医学生を対象とした産業動物獣医師の業務について理解を深めるための臨床実習、産業動物獣医師を対象とした技術向上のための臨床研修を支援しました。また、産業動物分野における獣医師の中途採用者を確保するための就業支援、女性獣医師等を対象とした職場復帰・再就職に向けたスキルアップのための研修や中高生等を対象とした産業動物獣医師の業務について理解を深めるセミナー等の実施による産業動物獣医師の育成、遠隔診療の適時・適切な活用を推進するため、情報通信機器を活用した産業動物診療の効率化等を支援しました。
エ気候変動等により病害虫の侵入リスクが増加していること、化学農薬による環境負荷の低減が国際的な課題となっていること等を踏まえ、病害虫の国内への侵入状況等に関する調査事業の実施、防除内容等に係る基準の作成等による緊急防除の迅速化、病害虫の発生予防を含めた防除に関する農業者への勧告、命令等の措置の導入、検疫対象への物品の追加、植物防疫官の権限の拡充等の措置を内容とする「植物防疫法の一部を改正する法律」が令和4(2022)年5月に公布されました。
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