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農林水産省

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特集1 きのこ(1)

古くより「森の恵み」「秋の味覚」として親しまれてきた「きのこ」。日本には4000~5000種もあるといわれるきのこの世界を、食用から毒きのこまでさまざまな角度からご紹介します。

日本の伝統食材「乾(ほし)しいたけ」栽培の名手 [大分県国東(くにさき)市]





冬に育成した風味や食感の優れたしいたけを原料とする「冬菇(どんこ)」。良質な乾しいたけは肉厚でカサの裏が鮮やかなやまぶき色。
冬に育成した風味や食感の優れたしいたけを原料とする「冬菇(どんこ)」。良質な乾しいたけは肉厚でカサの裏が鮮やかなやまぶき色。
 

冬場、自然な環境の中で時間をかけ、じっくりと育てたものを乾しいたけの材料とする。
冬場、自然な環境の中で時間をかけ、じっくりと育てたものを乾しいたけの材料とする。
ホダ場の散水に利用する山奥のため池は先人が苦労して築いたもの。
ホダ場の散水に利用する山奥のため池は先人が苦労して築いたもの。

適度に日差しが入るように調整されたホダ場。
適度に日差しが入るように調整されたホダ場。



豊かな自然の力を利用し手間と時間を注いで育てる
大分県のしいたけ栽培は江戸時代初期(寛文年間)に始まったとされています。かつて行われていたのは、落葉広葉樹の丸太に切れ目を入れ、自然に菌が付着するのを待つ「鉈目(なため)法」でしたが、昭和初期に種菌の培養技術が開発され、安定的な生産が可能になりました。

大分県は今も乾しいたけの生産量で全国の半分を占める産地です。県内一の生産者である清原米蔵さんは年間6~9トンのしいたけを収穫し、多くの工程を要する名産の乾しいたけ作りを行っています。

紅葉のころ、山でクヌギを伐採し、葉枯らしさせてから1メートル20センチほどに切って菌(種駒〈たねこま〉)を打ち込み、このホダ木を2年間、山中に置いて菌糸を繁殖させたあと、ホダ場に移し、温度や湿度などの刺激を与えて発生させ、収穫後は乾燥機で乾燥させてから選別します。

自然の力を借りた栽培方法で、手間も時間もかかりますが、このやり方にこだわる清原さんは「美しいクヌギ林を守るためにも生産者を増やしたい」と、新規参入研修会で講師を務めるなど、これまで培ってきた知識や技術を惜しみなく伝えるようにしています。

清原さんは原木を確保するため、植林を行っていますが、少しずつ買い足してきた林は20ヘクタールに達するまでになりました。ホダ木は3~5年経つと収量が落ちるため、山で土に還します。

また、ホダ場の湿度を保つために散水しますが、この際に用いるのは、雨の少ない国東半島で昔から利用されてきたため池です。

国連食糧農業機関(FAO)は2013年、原木しいたけ栽培を中心とする「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」を世界農業遺産(GIAHS)に認定しました。



清原米蔵さん
清原米蔵さん
1947年、大分県生まれ。しいたけ作りを父親から引き継いで半世紀を超える清原さんは「厳しい仕事だが、好きだからこそ続けられる」と語ります。



取材・文/下境敏弘
撮影/島 誠



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