汚泥肥料に関する基礎知識(一般向け)
平成24年9月26日更新
A1:東京電力福島第一原子力発電所の事故により、首都圏等の下水処理場等の汚泥から高濃度の放射性セシウムが検出されました。放射性セシウム濃度の高い汚泥を原料とする汚泥肥料を農地に施用すれば、農地土壌が放射性セシウムにより汚染されてしまいます。そこで、非汚染農地への放射性セシウムの拡散を防ぐとともに、放射性セシウムの自然低減を遅らせることのないよう、肥料原料となる汚泥に基準を設定しました。この基準が守られるよう、適切な管理が行われているか監視していきます。
A2:独立行政法人農業環境技術研究所が核実験や他国での原発事故の影響等を調査するために、1959年から約50年間農地土壌での放射性セシウム濃度を測定した結果によると、東京電力福島第一原子力発電所の事故以前における全国の農地土壌の放射性セシウム濃度の平均は約20 Bq/kg、最大値は約140 Bq/kgでした。 今回、(1)非汚染農地土壌10アール(土壌量約150トン)当たり4トンの放射性セシウムを含む汚泥を毎年施用、(2)すべて半減期の長い放射性セシウム137(半減期:約30年)と仮定し、さらに土壌中及び汚泥中の放射性セシウムは、自然減少しかしないとした場合の農地土壌の放射性セシウム濃度の変化を試算しました。 汚泥中の放射性セシウム濃度が200 Bq/kgであれば、施用を40年程度続けても土壌中の放射性セシウムの濃度が100 Bq/kg(事故前の最大値を切り下げた値)を超えないという結果が得られました。しかし、汚泥は約2週間ごとに更新されるため、実際の農地土壌中の放射性セシウム濃度は、これほど高くはならないと考えています。 すなわち、排水処理場の汚泥が200 Bq/kgという基準を満たせば、その汚泥を肥料として利用し続けた場合でも、過去の農地土壌の放射性セシウム濃度の範囲に収まります。 基準の設定に当たっては、汚泥を原料とした肥料を農地に散布する作業者の安全が十分確保できるかについても検討しており、今回設定した基準は原子力安全員会が示した基準(PDF:114KB)(外部リンク)を満たしています。
A3:今回、環境に放出された放射性セシウムには、放射性セシウム134(半減期:約2年)と放射性セシウム137(半減期:約30年)がほぼ同量の割合で含まれています。しかしながら、汚泥の基準設定の際には、全てが半減期の長い放射性セシウム137として評価をしています。 放射性セシウム134と放射性セシウム137の濃度がほぼ同量である現状において、Q2と同じ条件で施用すると、非汚染農地の放射性セシウム濃度の最大値は50 Bq/kg程度です。 さらに、下水処理場において汚泥は約2週間ごとに更新されます。原発から放射性物質が新たに放出・降下することがなければ、汚泥中の実際の放射性セシウム濃度は、より速く低下し、農地土壌中の放射性セシウム濃度の増加量は、試算より著しく少なくなると考えられます。
A4:下水道汚泥には、主に公共下水施設から発生する汚泥と集落排水施設などから発生する汚泥があります。 東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、原発から比較的近い地域では、下水処理施設周辺の農地土壌中の放射性セシウム濃度と比較して、公共下水汚泥中に含まれる放射性セシウム濃度は数倍程度と高く、集落排水汚泥中に含まれる放射性セシウム濃度は低くなる傾向にあります。 特例措置の各々の根拠は以下のとおりです。 1)の根拠: 今回、(1)農地土壌10アール(土壌量約150トン)当たり4トンの放射性セシウムを含む汚泥を2年間施用、(2)すべて半減期の長い放射性セシウム137(半減期:約30年)と仮定し、さらに土壌中及び汚泥中の放射性セシウムは、自然減少しかしないとした場合の農地土壌の放射性セシウム濃度の変化を試算しました。 2)の根拠 6月3日、原子力安全委員会より、「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響を受けて廃棄物の処理処分等に関する安全確保の当面の考え方について」が示されました。この中で、放射性物質を含む廃棄物を再利用する際は、市場に流通する前に10 µSv/年以下(クリアランスレベル)を満たす必要があるとされました。 これに基づき、今回、(1)施肥作業(散布機への肥料の積込み、散布作業)時を評価対象、(2)年間作業時間を15時間(農地面積1.5 ha。10 a当たり汚泥4 t施肥するのに必要な作業を1時間と設定)、(3)汚泥中の放射性物質は全てセシウム134と仮定した場合の外部被ばく量を試算しました。 その結果、汚泥中の放射性セシウム濃度が1000 Bq/kgであれば、外部被ばくが10 µSv/年を超えないことがわかりました。
A5:Q3にあるように、汚泥中の放射性セシウム濃度は、放射性セシウム134(半減期:約2年)の減少や汚泥の更新に伴い、急激な低下が見込まれます(原発からの新たな放射性物質の放出がない場合)。 そこで農地土壌への放射性物質の負荷をできる限り抑えるためにも、2年後を目途として、基準の引き下げ(より厳しい基準の設定)も含めて検討します。
A6:東京電力福島第一原子力発電所の事故により、首都圏等の下水処理場等の汚泥から高濃度の放射性セシウムが検出されました。他方、農村地域では、地域内の資源リサイクル推進の観点から、集落排水等の汚泥が肥料原料として利用されています。 肥料利用できない汚泥の基準を明確にしないと、公共事業体である排水処理事業者から、高濃度の放射性セシウムを含む汚泥が不透明な形で肥料生産業者に渡ってしまい、その汚泥肥料の施用によって、農地土壌の汚染を招く恐れがあります。 そこで、肥料原料として搬出できない汚泥の基準を示すとともに、排出事業者が基準を遵守しているか、国が適切に監視を行うこととしました。
A7:基準濃度の汚泥を利用した汚泥肥料を土壌に施用した場合、玄米中の放射性セシウム濃度は、食品の基準値(玄米 100 Bq/kg以下)より低い値です(玄米における放射性セシウム濃度の試算は以下のとおり)。 試算の前提条件:
※公表されている移行の指標0.1は、米の安全を確保するため、移行係数の上限値に近い数値を指定したもの 試算の式:((1) Bq/kg + (2) Bq/kg × 4 t ÷((3) t + 4t ))× (4) (1):農地土壌の放射性セシウム濃度(20 Bq/kg) (1)放射性セシウムの玄米への移行係数の幾何平均値(0.012)を用いた場合
(2)放射性セシウムの玄米への移行の指標(0.1)を用いた場合
なお、移行の指標からみて米の作付が可能な農地であっても、玄米中の放射性セシウム濃度が高くなりそうな地域では、収穫後に玄米中の放射性セシウム濃度の調査を行います。
A8:東京電力福島第一原発周辺の公共下水汚泥の放射性セシウム濃度については、そのほとんどが基準の200 Bq/kgを超過しており、肥料原料として利用することができません。
A9:東京電力福島第一原子力発電所事故以前の全国の農地土壌の放射性セシウムの濃度の範囲は0.5 Bq/kg~140 Bq/kg程度です。 農業環境技術研究所のHP内(http://psv92.niaes3.affrc.go.jp/vgai_agrip/soil_samples)にデータが掲載されています。
A10:汚泥を焼成する過程で汚泥中の水分が蒸発し、放射性物質が10倍程度に濃縮される場合があります。 このため、肥料の原料とする焼成汚泥については、焼成後の放射性セシウム濃度を200 Bq/kg以下との基準を定めました。
A11:事故後の東京電力福島第一原子力発電所の周辺における放射性物質の測定結果(文部科学省)から、ストロンチウムの濃度は放射性セシウムに比べ相当低く(400分の1程度)、そのほとんどは原発事故以前のストロンチウム濃度の範囲に収まっています。 また、放射性セシウムの濃度を測定する場合、結果が出るまでに1日程度ですが、ストロンチウムではその結果が出るまでに長い時間(1ヶ月程度)が必要となります。 今後、もしストロンチウムの濃度が高くなるようなことがあれば、その時点で基準が必要であるかどうか検討します。
A12:汚泥肥料は、植物に有益な窒素、リン酸などの栄養分が豊富である一方で、排水に含まれていたカドミウムや水銀などの有害な重金属が汚泥による処理や肥料製造工程によって濃縮し、高濃度になる可能性があります。 このため、汚泥肥料には以下の表のとおり有害な重金属に対する規制があります。
なお、汚泥中の放射性セシウム濃度の基準200 Bq/kgは約0.0000001 mg/kgに相当します。
A13:今後、原発事故の推移や原発から放出される物質に変化がある場合には、必要に応じて基準等を見直します。
A14:国際的な基準はありません。
A15:今回の東京電力福島原発の事故以前でも、全国の農地土壌から放射性セシウムが検出されています。 このため、全国の下水道汚泥等は、濃度に差はあるものの、放射性セシウムを含んでいると考えられます。したがって、全ての汚泥肥料に「放射性物質を含んでいる」と表示する必要があることになります。 むしろ重金属などの有害物質と同様に放射性物質の基準値を定め、これを上回った下水処理場の汚泥が肥料の原料として利用されないよう監視していくことが重要です。 なお、肥料取締法により、汚泥を原料としているものには「汚泥肥料」である旨の表示が義務付けられています。
A16:天然の鉱物中にも微量ではありますが放射性物質が存在しています。例えば、肥料の原料となるカリウム鉱石中にも天然に存在する放射性カリウム40(半減期:約12億年)が含まれており、カリウムを含んだ肥料は放射性カリウムを含有することになります(天然のカリウム中に含まれる放射性カリウムの割合は約0.01 %)。 平常時でも「15-15-15肥料」(窒素、リン、カリウムを各々15 %以上含有することを保証する肥料)の放射性カリウム濃度は約3000 Bq/kgです。 ただし、放射性カリウムによるヒトへの影響は低いため、放射性セシウムと放射性カリウムを単純に比較することはできません。 |
Q17:基準を超える汚泥はどうなるのでしょうか。 |
A17:基準を超える汚泥を肥料利用することはできません。
8,000 Bq/kgを超えるものについては、申請により特定廃棄物に指定され、国が直接処分を行います。また、それ以外のものは「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づき特定一般廃棄物又は特定産業廃棄物として処分を行ってください。環境省のHP内(https://www.env.go.jp/press/press.php?serial=14643)にガイドラインが掲載されていますので、ご参照下さい。
また、詳しくは、各々の事業を所管する省庁にお問い合わせください。
- 公共下水:国土交通省 水管理・国土保全局下水道部下水道企画課
電話:03-5253-8111(代表)、内線:34164
- 集落排水:農林水産省 農村振興局整備部農村整備官付
電話:03-3502-8111(代表)、内線:5512
- し尿施設:環境省 大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課
電話:03-3581-3351 (代表)、内線:6857
Q18:基準を上回る汚泥肥料が流通しないよう監視はしないのですか。 |
A18:今回の通知は、汚泥を排出する事業者に、放射性セシウム濃度や誰に対してどの程度の量を引渡したかなどを記録し、それを国に報告することを義務付けています。また、国が行う肥料生産業者への立入検査などにより、汚泥等の放射性セシウム濃度を監視します。
これらを通じて、基準を超える汚泥が肥料利用されないよう監視を行います。
お問合せ先
消費・安全局農産安全管理課
肥料企画班、肥料検査指導班
代表:03-3502-8111(内線4508)
ダイヤルイン:03-3502-5968
汚泥肥料に関する基礎知識とQ&A(一般向け)
Q1:なぜ、今回、汚泥に含まれる放射性セシウム濃度の基準を設定したのですか。
Q2:なぜ、肥料として利用できる汚泥の放射性セシウム濃度が200 Bq/kg以下となったのですか。
Q4:なぜ、特例措置として、1)農地土壌の放射性セシウム濃度より低く、かつ、2)1000 Bq/kg以下となったのですか。
Q6:なぜ、放射性物質を含む汚泥を肥料利用することを認めたのですか。
Q7:汚泥肥料を施用した農地で栽培された作物を食べても大丈夫ですか。
Q8:東京電力東京電力福島第一原発周辺の汚泥を利用した汚泥肥料が全国に拡散するのでないですか。
Q9:東京電力福島第一原子力発電所事故以前の農地土壌の放射性物質セシウム濃度は何ベクレルですか。
Q11:ストロンチウムなど、放射性セシウム以外の基準は必要ないのですか。
Q14:汚泥を肥料利用する際の放射性物質に関する国際的な基準はありますか。
Q15:汚泥肥料に「放射性物質を含んでいる」との表示はされるのでしょうか。