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農林水産分野の最新研究成果を紹介! アフ・ラボ

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害虫防除の新技術

性フェロモン剤の活用で、りんご栽培に使う農薬を50%削減


害虫防除のため、ひんぱんな農薬散布が必要だったりんご栽培に、画期的な新技術が導入され始めています。「性フェロモン剤」を活用した、新しい栽培方法を紹介します。

使い方は、性フェロモン剤(匂い物質を特殊チューブに封入したもの)をりんごの枝にひっかけるだけ。チューブから匂い物質性が徐々に放出する

使い方は、性フェロモン剤(匂い物質を特殊チューブに封入したもの)をりんごの枝にひっかけるだけ。チューブから匂い物質性が徐々に放出する

性フェロモン剤を設置し、害虫や被害の発生をこまめに観察しながら、農薬散布の要否や内容を決めていった

性フェロモン剤を設置し、害虫や被害の発生をこまめに観察しながら、農薬散布の要否や内容を決めていった

害虫の発生を減らすよ
喫緊の課題だった、害虫を防除する農薬量の削減
りんごを栽培する際、例えば、シンクイムシやハマキムシ(共に蛾の仲間)などの害虫は、果実や葉を食べてしまうため、りんごの商品価値を失うこともあります。このため、農薬の散布が必要ですが、環境への配慮から、その削減が課題となっていました。

農薬などの使用を抑えて栽培した農産物は、「特別栽培農産物」と表示して販売することができます。この表示をするには、農薬の使用回数と化学肥料の窒素成分量について、それぞれ地域の一般的な栽培方法の50%以下で栽培しなければなりません。農研機構東北農業研究センターは、岩手県農業研究センターなどと共同して、これらの条件のうち、農薬を50%削減してりんごを栽培する方法の研究を進めました。

害虫の雄が、雌と出会えなくなる技術
この研究で中心となったのが、性フェロモン(害虫の雌と雄がお互いの居場所を知るために用いる匂い物質)を利用した防除です。これを人工的に合成(性フェロモン剤)し、農園に設置すると、性フェロモンが園内に充満するため、雌雄の出会いが困難となり、次世代が生まれにくくなります。

「性フェロモン剤の唯一の難点は価格の高さ。農家には、殺虫剤を撒いた場合の価格との比較を示した上で使用をお勧めしたのですが、研究を始めた当初、性フェロモン剤が効かないハダニが異常発生して、殺ダニ剤を追加散布したために、通常の防除より高い防除コストを強いる失敗もありました。心苦しく、悔しい日々でしたね」と、農研機構東北農業研究センターの高梨祐明(まさあき)さんは、開発の苦労を語ります。

それでも、農家と情報交換を続けながら本当に防除が必要な害虫の選定、複数の害虫を同時に防除できる殺虫剤の選択、効果的な散布時期の特定などの技術を、総合的に研究しました。その結果、性フェロモン剤を利用することにより、殺虫剤を減らすことに成功。それに加え、除草剤や殺菌剤等の削減技術も含めて、総合的に農薬を50%削減する栽培方法をまとめたマニュアルが完成しました。

殺虫剤散布の有力な代替技術として、性フェロモン剤の利用は福島県や長野県でも広まっています。この研究が、各県における農薬削減の参考になることが期待されます。

性フェロモン剤はなぜ害虫の発生を減らす?

害虫の雄は、農園に充満した性フェロモンと同じ匂いに惑わされ、雌の居場所がわからなくなり、交尾ができなくなるため、次の世代が生まれなくなる。そのため、性フェロモン剤を使った防除は「交信かく乱法」と呼ばれる


独立行政法人  農業・食品産業技術総合研究機構  東北農業研究センター


文/宗像幸彦