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農林水産分野の最新研究成果を紹介! アフ・ラボ

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大型水槽の活用がポイント

ウナギの大量生産の実現に向けて完全養殖技術が一歩前進!


資源の減少が懸念されているニホンウナギ。平成22年に世界初の完全養殖に成功しましたが、約10ℓの小型水槽でしか飼育できないことが課題でした。しかし昨年初めて1000ℓの大型水槽による飼育を実現。ウナギの安定供給に向け、人工種苗の大量生産技術の研究開発が急ピッチで進められています。

新型水槽は1000ℓの大型サイズ。実験では441尾のシラスウナギの育成に成功

新型水槽は1000ℓの大型サイズ。実験では441尾のシラスウナギの育成に成功



1000ℓ水槽で、飼育したウナギ(184日齢)

1000ℓ水槽で、飼育したウナギ(184日齢)

従来の小型水槽は、10ℓと小さく、生産できるウナギの数も約10尾と少なかった。また、水の交換など飼育の手間がかかり、高価なボウル水槽も必要だった

従来の小型水槽は、10ℓと小さく、生産できるウナギの数も約10尾と少なかった。また、水の交換など飼育の手間がかかり、高価なボウル水槽も必要だった
ボウル水槽で完全養殖を実現するも、手間やコストがネックに……
現在、養殖のウナギは、シラスウナギと呼ばれるウナギの天然稚魚を沿岸で漁獲し、それを養殖し種苗に使って育てたものです。しかし、天然シラスウナギの漁獲量は年々減少し、国際自然保護連合(IUCN)により平成26年6月に「絶滅危惧種」に指定されました。

天然種苗が獲れなければ、人工的に生産したいのですが、マダイなどとは生理・生態がまったく異なるため、ウナギ種苗の人工生産は特別な難しさがあります。採捕した天然のシラスウナギを成熟させた親ウナギから得られた受精卵をふ化させ、仔魚(しぎょ)(レプトセファルス)を経て再び親まで育て、再度受精卵・ふ化仔魚を得る完全養殖の実現は、けっして容易ではありませんでした。

ウナギの仔魚は、タイやマグロのふ化直後の餌に使われるシオミズツボワムシではまったく成長せず、細菌にも弱く常に清潔な水と水槽を必要とします。そこで、国立研究開発水産総合研究センターでは、あらゆる餌を探索してサメ卵が使えることを見出し、さらに10ℓの透明のボウル水槽2台を対にして1日の最後の給餌が終わったら毎日仔魚を清浄な新しい水槽に移し替える手法を開発。その後、サメ卵飼料の栄養成分の改良を重ねた結果、平成14年にシラスウナギの生産に成功し、平成22年、ついに世界初の完全養殖を成功させました。

しかし、このボウル水槽にも課題がありました。10ℓ水槽1台あたりのシラスウナギの生産尾数は、平均約10尾と非常に少ないのです。また、水槽の中の仔魚をパイプで新しい水槽に移す作業が必要であり、取り残された仔魚を専用のスポイトで一尾ずつ吸い取って移動させるなど、大変な手間暇がかかります。

大型水槽に人工水流を起こすことで、難問をクリア!
ウナギの大量生産を実現するには、大型水槽でニホンウナギの仔魚を大量に飼育し、作業の省力化を実現することが必要不可欠です。そこで水産総合研究センターでは平成25年4月から、1000ℓの大型水槽を用いた本格的な研究に着手しました。

「大型水槽では、水槽内の水を捨てて掃除することができないため壁が汚れて仔魚が死んでしまって。そこで、大型水槽の形状や注水方法を工夫して水槽内の水流について様々なアイデアを試したんです」と話すのは増養殖研究所の桑田博さんです。

実験では、1000ℓの大型水槽で様々な調整をしたところ、水槽壁がきれいな下流側の水槽に仔魚がスムーズに移ることがわかりました。

そして、1台の大型水槽に収容した2万8000尾の仔魚のうち、半年後の段階でも900尾のレプトセファルス幼生が生残しており、180日齢から徐々に変態が始まり、514日齢までに合計441尾シラスウナギが得られました。当初は生残率(給餌開始からシラスウナギまで育つ割合)0%も覚悟した大型水槽によるシラスウナギの生産に成功したのです。

また、「飼育水は捨てないでも水槽壁をスポンジでこすればOK」「水槽に残された仔魚をすくう必要はなし」 「大型水槽でも飼える」など、手間やコストが削減できて、大量生産への道が一気に拓けました。

「今後の課題は、ボウル水槽よりはまだまだ劣っている生残率を上げていくこと。そのためには、水槽自体はもちろん、餌の研究や自動給餌機の開発も欠かせません」と語る桑田さん。伝統的な日本の食文化でもあるウナギを守るために、種苗生産の研究が、日夜進められています。

ウナギの卵は、雌親1尾あたり30万~ 100万個取れるが、それをふ化させて仔魚(レプトセファルス幼生)に育てることが、非常に難しい

ウナギの卵は、雌親1尾あたり30万~ 100万個取れるが、それをふ化させて仔魚(レプトセファルス幼生)に育てることが、非常に難しい

水産総合研究センターにおけるウナギ研究の進展


文/宗像幸彦
写真提供/水産総合研究センター