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農林水産省

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ご馳走、東西南北 vol.6

水産煉製品新聞・土井雄弘編集長が案内する 小田原で知る魚食文化「かまぼこ」



魚をよりおいしく食べるために生まれたかまぼこ。伝統食である一方、今も進化を続け、今年は900年を迎えます。水産物の消費量が減少する中、ますます期待されるかまぼこの魅力を探して小田原を訪ねました。

かまぼこ博物館の手づくり体験教室(要予約)。職人の指導のもと、かまぼことちくわを作れる
かまぼこ博物館の手づくり体験教室(要予約)。職人の指導のもと、かまぼことちくわを作れる



水産煉製品新聞編集長 土井雄弘さん 今回の案内人
土井雄弘(どいかつひろ)さん
かまぼこジャーナリスト。食品業界紙数社を経て、20年前に全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会の機関紙・水産煉製品新聞第4代編集長に。全国のかまぼこ職人、企業をはじめ、海外20カ国以上のかまぼこ事情を取材している。



手で板にかまぼこを付ける熟練職人の技術。特別な商品だけの仕事)
手で板にかまぼこを付ける熟練職人の技術。特別な商品だけの仕事

写真提供/鈴廣かまぼこ
かまぼこの蒸し上がり。白さと山高な形が小田原かまぼこらしさ
かまぼこの蒸し上がり。白さと山高な形が小田原かまぼこらしさ



魚をさらにおいしくする先人の知恵と工夫
かまぼこがいつどこで生まれたのかの記録はありませんが、重要なタンパク源である魚を無駄にせず、おいしく食す工夫として、各地で作られていたようです。

平安時代の宮廷の料理や調度を記した『類聚雑要抄』(るいじゅうぞうようしょう)という古文書には、西暦1115年に貴族の引越し祝い膳の一品として「蒲鉾」の絵と文字が記されています。それから900年。11月15日をかまぼこの日として、各地でイベントも行われています。

魚をすり身にして成形し、焼く、蒸す、揚げる、茹でるなど加熱処理をした魚肉の練り製品はすべて「かまぼこ」と呼ばれる。形や加熱方法の違いで、竹輪、板かまぼこ、さつま揚げ、はんぺんなどのさまざまな製品となる。

箱根のほど近く、「鈴廣 かまぼこの里」の一画にかまぼこ博物館があります。ここは鈴廣蒲鉾の工場でした。かまぼこが何からできているのか知らない子どもたちが増え、もっとかまぼこのことを知ってもらいたいと、平成8年に工場を半分だけ残して、あとのスペースを博物館に改装したそうです。

かまぼこ職人の手仕事を目の当たりにしたり、板付けに挑戦したり。かまぼこに親しむ貴重な場となっています。 「小田原のかまぼこが有名になったのには、3つの理由があると言われています。箱根を越える東海道五十三次の宿場町で、参勤交代など人の往来が多かったことと、海が近いこと。そしていちばん重要なのが、かまぼこ作りには欠かせない、水に恵まれていたことです」と鈴廣の広報・柏木一順さんは言います。

小田原の蒸しかまぼこの製造工程は、「魚の身を取る→水に晒(さら)す→水分を絞る→身をする→板付け→蒸す」のおよそ6工程。

丸う田代のご主人、田代勇生さんは、「日本の水は軟水ですが、小田原の水は軟水の中では少し硬度が高く、ミネラル分が多い。これがかまぼこ作りに適しているのです。水が変わると“晒しがきかない”ということも起こります」と水の秘密を教えてくれました。小田原の水がミネラル分豊富な地下水だったからこそ、余分な脂分と臭みを落とし、上品な魚の旨味だけを残した、真っ白なかまぼこ作りが可能となったのです。





小田原かまぼこ豆知識

かまぼこになる魚
かまぼこになる魚
小田原かまぼこの特徴は「あし」と呼ばれる弾力にある。独特な弾力を生むのが原材料の魚、ぐち(いしもち)。長崎や東南アジアで漁獲され、生のままか、すり身にして運ばれる。

写真提供/丸う田代 總本店


魚の身を晒(さら)す水
魚の身を晒す水
おいしいかまぼこを支える、富士山や箱根、丹沢山系の豊かな伏流水。鉄分、カルシウムなど小田原の水の豊富なミネラル分が、魚を洗う作業(晒し)に重要な役目を果たす。


国産材を使う取り組み
国産材を使う取り組み
小田原蒲鉾協同組合を中心に、森林組合や漁協などがスギ間伐材を利用したかまぼこ板を開発。相模湾の地魚と地元の木材による商品は、海と森をつなぐ象徴となっている。


鈴廣 かまぼこの里 鈴廣 かまぼこの里
「かまぼこ博物館」、「鈴廣蒲鉾本店」、かまぼこや小田原名産品を扱う「鈴なり市場」、食事処の「千世倭樓」やバイキングレストラン「えれんなごっそ」など、かまぼこや小田原のおいしいものが集まる場所。

神奈川県小田原市風祭245

かまぼこ博物館
TEL:0465-24-6262
営業時間:9時~17時
鈴廣蒲鉾本店
TEL:0465-22-3191(代)
営業時間:9時~18時



伝統を継承しつつ、新たな商品や取り組みにチャレンジしている鈴廣蒲鉾本店
伝統を継承しつつ、新たな商品や取り組みにチャレンジしている鈴廣蒲鉾本店
板付けから蒸し上げまで、職人が手作りする「古今」。1本3,500円(税別)
板付けから蒸し上げまで、職人が手作りする「古今」。1本3,500円(税別)


機械化される前は手作業で魚をすっていた
機械化される前は手作業で魚をすっていた
館内に展示されているガマの穂。かまぼこが生まれた当時、串にすり身を巻きつけた形が「ガマの花穂」に似ていたので「蒲鉾」と名付けられたという
館内に展示されているガマの穂。かまぼこが生まれた当時、串にすり身を巻きつけた形が「ガマの花穂」に似ていたので「蒲鉾」と名付けられたという
かまぼこ博物館の手作り教室(要予約)。すり身の板付けに夢中の子どもたち
かまぼこ博物館の手作り教室(要予約)。すり身の板付けに夢中の子どもたち



晒しの技こそ小田原かまぼこの強み
江戸時代には、他の地域同様小田原でも、地元で獲れた魚がかまぼこの材料でした。しかし、おいしいかまぼこをと切磋琢磨していく過程で、ぐちが使われるようになったと思われます。小田原のかまぼこの「あし」と呼ばれる弾力は、ぐちによるところが大きい。大正から昭和の初め、長崎や下関でぐちが大量に揚がるようになると、小田原では貨物列車でぐちを仕入れ始めました。

「冷凍車もない時代、獲ってから3、4日かけて氷詰めで着くので、腐る寸前だったでしょう。でも、アミノ酸が増えて、いちばんおいしい状態だったと思われます。その臭みを取り旨味を残すのに重要な役割を果たすのが、職人の勘で行う水晒しという工程です」と田代さん。やはり、小田原の水があり、その晒しこそ小田原かまぼこの職人技なんだと再認識しました。晒しの回数は「職人が魚を見て決める」と言われます。

他の地域ではほとんどが地場の魚を使っているのに、小田原だけが何百キロも離れた場所から魚を調達した。流通の発達した今ではあたり前ですが、当時では途方もないことです。日本中のかまぼこ店から小田原はバカなことをやってる、魚が腐ってしまうじゃないかと言われたそうです。無謀な賭けに出ても、弾力のある上質なかまぼこを作ろうという、小田原の気概を感じるエピソードです。

昭和34年、冷凍すり身技術が開発され、かまぼこ作りは大きな転換期を迎える。かまぼこの原材料は地元の魚が主流だったのが、すけそうだら、えそ、みなみたら、いとよりなどの冷凍すり身に変わっていく。小田原でも冷凍すり身に加工されたぐちを使い始める。

籠清の石黒太郎専務は、年に2、3回は東南アジアにあるぐちのすり身工場を訪問するといいます。「ぐちも自然界のもの。時期によって良し悪しがあり、そのばらつきの調査などをしていたのですが、このところの漁獲量減少で、量の確保も年々難しくなっています。小田原かまぼこを作り続けていくためにも、貴重な資源は上手に使わなければと感じています」と現状を案じておられます。

職人の技術の継承や水産資源の保護など、課題も多いなか、冷凍すり身による味の均一化に負けず、地魚の特色を打ち出したかまぼこ作りも続けられています。

小田原では、伝統的な手作りを絶やさぬための職人育成、森づくりなどの環境保全といった地道な活動も始まっていると聞きました。 150年、200年と続く老舗の底力に、かまぼこの未来が託されているのです。



小田原 籠清本店 小田原 籠清本店
文化11年創業、今年で201年を迎える老舗。伝統の製法でしなやかな弾力と魚の旨味をもったかまぼこを守る。近くの小田原漁港で揚がる地魚を使った季節商品にも取り組む。

神奈川県小田原市本町3-5-13
TEL:0465-22-0251(代)
営業時間:8時30分~18時30分


商品説明をする石黒太郎専務
商品説明をする石黒太郎専務(左)
創業200年記念かまぼこ
昨年発売した創業200年記念かまぼこ。原材料にぐち、むつ、おきぎすを使ってしなやかさと弾力を出している。1本2,100円(税込)




丸う田代 總本店 丸う田代 總本店
明治初年の創業以来、かまぼこ作り一筋に打ち込んできた老舗。変わらぬ味と品質を守り続け、2019年には150周年を迎える。

神奈川県小田原市浜町3-6-13
TEL:0465-22-9222
営業時間:8時~19時
*12月31日は8時~17時
1月3日~6日は8時~18時
定休日:1月1日~2日

商品の「冨士」を手に、かまぼこの話が尽きぬ田代勇生社長(左)


愛知の白みりんをふんだんに使うのが丸うの特徴。店内には、80年以上前の醸造元特製、みりんの名入り鏡が今も飾られている
愛知の白みりんをふんだんに使うのが丸うの特徴。店内には、80年以上前の醸造元特製、みりんの名入り鏡が今も飾られている。
小田原蒲鉾 上小板
魚の旨味が凝縮された「小田原蒲鉾 上小板」。930円(税別)



日本津々浦々、魚別かまぼこ案内
目の前の浜で揚がった魚を無駄なく生かすために、日本各地でかまぼこが作られてきました。その浜ならではの魚を使い、焼く、蒸す、揚げる、茹でるなど、加熱方法もいろいろ。地方色豊かなかまぼこを、日本の伝統食として未来へつなげたいものです。

鰈を使ったかまぼこ 味の濃い北海道産宗八がれいのすり身50%と弾力のあるしろぐち50%を使って、100年前の味を再現したかまぼこ。1枚700円(税込)。

復古版 宗八入角焼
大八栗原蒲鉾店
TEL:0134-22-2566
真鯛を使ったかまぼこ ひらめ、きちじなどの白身魚の身を包丁でつぶして、平たく木の葉形にして焼いて作られたのが笹かまぼこのはじまり。写真は、たら、いとより、ぐち、きちじの他に天然真鯛を加えたこだわりの品。1枚250円(税込)。

阿部の笹かまぼこ 吟撰笹
阿部蒲鉾店 フリーダイヤル:0120-23-3156


鮫を使ったかまぼこ
さめのすり身に、山芋やでんぷんを加えて茹でたものがはんぺん。写真は生のよしきりざめやあおざめを使って一枚一枚手作業で型どりして茹で上げたもの。1枚422円(税込)。

手取り半ぺん
神茂 TEL:03-3241-3988


鱧を使ったかまぼこ
播磨灘で揚がったはも100%のかまぼこ。すり身をはもの皮に付けて焼き上げ、一匹まるごとの形に仕上げてある。1枚3,402円(税込)。

鱧皮かまぼこ
ヤマサ蒲鉾 TEL:079-335-3555(代)


鱈を使ったかまぼこ
風味かまぼこの原点、かにかまぼこ。主な原材料はすけそうだらの冷凍すり身。かにかまぼこは、昭和40年代後半に生まれ、今では海外のレストランでも利用されている。

フィッシュスチック
大崎水産 TEL:082-277-1291


えそを使ったかまぼこ
山口県仙崎港に揚がる近海産の天然えそのみで作ったかまぼこ。板の上下から焼く「焼き抜き」という製法のため、板が薄く、かまぼこの背が低いのも特徴。1本972円(税込)。

浜千鳥(大板)
大和蒲鉾 TEL:0837-26-0611(代)


ほたるじゃこを使ったかまぼこ
宇和島近海で獲れたほたるじゃこや小魚を丸ごとすりつぶし、水晒しせずに揚げたかまぼこ。1枚160円(税別)。

手造りじゃこ天
河内屋蒲鉾 TEL:0895-22-7700(代)



取材・文/一志りつ子  撮影/永野佳世