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農林水産省

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明日をつくる  東日本の復旧・復興に向けて  vol.7

東北発の食べ物付き情報誌で生産者と消費者をつなぐ!

岩手県花巻市 NPO法人東北開墾 『東北食べる通信』




産地直送の美味しい食べ物が付録の月刊誌。2013年に東北からスタートした新しいタイプの情報誌が人気を集め、これを介した生産地と消費地の双方向のコミュニケーションが、新たな可能性を拓こうとしています。
岩手県花巻市


『東北食べる通信』の創刊号(2013年7月号)でかき生産者の阿部貴俊さんを取材するNPO法人東北開墾の代表・高橋博之さん(写真右) 『東北食べる通信』の創刊号(2013年7月号)でかき生産者の阿部貴俊さんを取材するNPO法人東北開墾の代表・高橋博之さん(写真右)


東日本大震災の直後、岩手県議会議員の高橋博之さんは救援物資を携えて被災地に向かいました。避難所で多くの被災者が毛布にくるまる中、たき火を囲み、話をしている男たちがいました。漁師でした。

「慰めの言葉をかけると、 『いつも食わせてもらっている海だ。全部持っていかれても恨んではいない』。その言葉に圧倒的な自然を相手に生きている人たちの潔さ、すご味を感じました」


新しい情報誌を創刊  生産者の物語・食材を届ける
若い漁師が借金をしてリスクを取り、「故郷を再生する」と前に進もうとしているとき、遠巻きに眺めているわけにはいかない。単に復旧するのではなく、被災地から未来につながる新しいことを始められないか──。漁師たちとの出会いが、高橋さんにヒントをもたらします。

「これまで当たり前のように海の幸を食べてきたけれど、生産者の努力、覚悟、現場でのドラマには思いが至らなかった。自分に限らず、都会の人たちは食べ物を見た目や値段でしか評価していない。この壁が一次産品の買い叩きにつながっていると感じる。何とか生産者と消費者を結びつけられないか」

この思いから、東北各地の生産者と産地情報を取材し、その物語とともに農水産物を定期購読者に届ける情報誌というアイデアが生まれました。高橋さんは政界に別れを告げ、NPO法人東北開墾を設立、2013年7月、『東北食べる通信』を創刊します。


都市と地方を食でつなぎ新しいコミュニティをつくる
情報誌のほか、生産者と消費者の交流を手がけ、生産者を訪ねるツアーやインターネット上のSNSでも展開しています。

「都会の人たちは、意のままにならない自然を相手に知恵を絞る生産者の姿を目の当たりにすると、一様に驚き、感動します。生産者の側も、これまでは流通に乗せれば終わりでしたが、『おいしかった』 『ごちそうさま』という声が直接届くようになったことで、『もっとおいしいものを!』という意欲を高めています」

高橋さんは、こういった交流だけでなく、地縁や血縁を超えた新しいコミュニティの形成という可能性を見ています。

「被災者の力になろうとやって来たはずのボランティアの方たちは、1年くらい経つと、逆に救われたように元気を取り戻して都会に帰っていく。その光景を見て、住民同士が寄り添い、家族のように暮らしている田舎の地域社会が、彼らの心の拠り所になったのだと気が付きました。県議時代の私は、豊かな都市にどうにか助けてもらいたいと思っていましたが、これは"片思い"の関係で、長続きしません。必要なのは、生産者と消費者、都市と地方が連帯し支え合う"両思い"の関係です。まずは移住でも観光でもなく、頻繁に行き来して継続的に関係してくれる人口を増やすことが第一歩です。"食"がその突破口になると思うんです」

高橋さんに共鳴し、全国の自治体や漁協が『食べる通信』を始めたいと続々と名乗りを上げ、すでに全国で17誌を刊行。被災地から生まれた連帯の試みが、各地で消費者と生産者の間の壁を打ち破ろうとしています。


2013年9月号の付録は福島県相馬市の「どんこ」。天候不順で配送が遅れ、漁師がFacebookで謝罪したところ、100通以上の激励のコメントが寄せられた
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読者参加の生産現場ツアーも主催。岩手県久慈市で飼育されている、限りなく純粋な国産牛「短角牛」を見学
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岩手県山田町の漁師グループ第八開運丸の出漁風景(2014年6月号)。「黒いダイヤ」と呼ばれるシュウリ貝やウニ、アワビなどを獲る
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生産者に食材を提供してもらい、これを付録とする月刊誌『東北食べる通信』。会員制で月額2,500円前後。購買会員は5000人に達した
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文/下境敏弘