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農林水産省

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ご馳走、東西南北 vol.8

料理研究家・平野由希子さんが案内する 岩手・大迫(おおはさま)風土と向き合うワイナリー



北上山地の主峰、早池峰山(はやちねさん)をはるかに望む里山、大迫町(おおはさままち)。傾斜地という地形と石灰質の土壌、そして寒暖差のある気候は、まさにワイン品種のぶどう栽培に適した風土といえます。そんな大迫の丘にエーデルワインのワイナリーがあります。

ぶどう栽培のプロフェッショナル、エーデルワインの原料調達責任者・佐々木俊洋氏に今年のぶどうのお話をうかがう
ぶどう栽培のプロフェッショナル、エーデルワインの原料調達責任者・佐々木俊洋氏に今年のぶどうのお話をうかがう



平野由希子さん 今回の案内人
平野由希子さん
料理研究家。素材のもち味を引き出すシンプルなレシピに定評あり。東京・大井町にワインバー「8huit.」を、根津にワインに合う焼き鳥がメインの「76vin」をオープン。雑誌、書籍、料理提案などの仕事のかたわら、週に1回ほど店に立つ。近著は『本気の肉レシピ』(ぴあ刊)。2015年、フランスの農業発展に貢献した功績を評価され、フランス政府より農事功労章シュヴァリエを受勲



高品質なワインを生む4億年以上前の地質
数年前、エーデルワインのワイナリーを訪問して、そのワインのポテンシャルの高さに驚いた記憶があります。気候、地形、土壌などの特性を活かして、ここでぶどうを栽培すると決めた方は素晴らしい判断をされたと思います。

エーデルワインのある岩手県花巻市大迫町は、北上山地の山麓にある。ここは4~5億年前の古生代に形成された極めて古い地質で、弱アルカリ性の石灰質の、ワイン醸造用のぶどう栽培のためにあつらえたようなテロワール(土壌)。

傾斜地の中腹にあるワイナリーを訪ねたのは、エーデルワインの主力品種のひとつ、「ツヴァイゲルトレーベ」の収穫が終わり、醸造の仕事が始まっている時期でした。忙しい合間をぬって、広報担当の佐藤竜太さん、製造部の原料調達責任者・佐々木俊洋さん、醸造技師の責任者・行川裕治さんが、花巻市葡萄が丘農業研究所の共同研究圃場へ案内してくださいました。

エーデルワインと花巻市が共同で運営しているのが葡萄が丘農業研究所。この圃場で新たな品種導入に向けた醸造用のぶどうの試験栽培を行っている。また、エーデルワインでは、原料となる醸造用品種ぶどうのほとんどを契約農家から調達している。こうしてエーデルワインが農家の安定した経営を支える一方、大迫町内の契約農家はすべてエコファーマーの認定を受け、減農薬・低化学肥料で良質なぶどうを生産することによって、ワイン造りを支えている。

「農家あってのワイナリー」という佐藤さんから、エーデルワインと農家の素敵な取り組みを教えていただきました。

栽培農家の畑ごとにワインを醸造し、収穫した翌年の3月には、生産者の方々に自分が育てたぶどうのワインを味わってもらうというもの。

「自分のぶどうが最終的にどういうものになるのかを知っているのと知らないのとでは、栽培への気持ちも全く違うと思います。今年のワインはおいしくできたとか酸っぱくなったとか、自分の舌で確かめることがぶどう作りの励みにつながるはず」と、佐藤さんはおっしゃいます。

農家の意識を高めることがワインのポテンシャルを引き上げる基本。実現するには農家との細やかな連携が必要です。ぶどうの品種選定や栽培指導など、原料調達の佐々木さんたちが続けてきた地道な交流。そうした関係のもとで育まれたぶどうだからこそ、テロワールを映すワインを醸してくれるのかもしれません。



丘の上から見た大迫町。昼夜の温度差が大きく降雨量が少なく、傾斜地という地形はまさにワイン造りの理想ともいえる風土
丘の上から見た大迫町。昼夜の温度差が大きく降雨量が少なく、傾斜地という地形はまさにワイン造りの理想ともいえる風土


栽培されている主なぶどう

エーデルワインと契約している大迫の醸造用品種ぶどう栽培農家は、エコファーマーの認定(土づくりと化学肥料・農薬の低減を一体的に行う農業者の認定制度)を受け、良質なぶどう作りに取り組む。ぶどうの品種は土壌や微妙な気候の違いを見極め、その土地に適したものを選び栽培


リースリング・リオン
リースリング・リオン
甲州三尺とリースリングを交配した白ワイン用品種。のびやかな酸味とほのかな青りんごの香り、そして土地由来のミネラルが際立つワインになる

ツヴァイゲルトレーベ
ツヴァイゲルトレーベ
オーストリアで広く栽培されている赤ワイン用品種。やわらかい渋みと心地よい酸味に加え、スパイシーでベリー類を彷彿させる香りのワインに

メルロー
メルロー
早熟で育てやすく冷涼地での栽培にも向く赤ワイン用品種。渋みや酸味はやや少ないが、カシスやベリーなど凝縮された果実香を感じるワインに

キャンベル
キャンベル
渋みは強くなく、華やかなフルーティさが特徴。「エーデルワイン」の名で最初に醸造した赤ワインはこのキャンベルを使用したもの

ナイアガラ
ナイアガラ
寒冷地でも栽培しやすい白ワイン用品種。マスカット、杏、ライチなど豊潤な果実香が際立つ。極甘口から辛口まで作られている

















写真提供/エーデルワイン




栽培農家の努力の結晶を試飲
まず、「リースリング・リオン」の2014年を試飲させてもらいました。土地の持つきれいなミネラル感とリースリング・リオンの酸味のバランスが素晴らしく、食中酒として最高の白に仕上がっています。

「30年ぐらい前から栽培を始めた品種で、毎年いいワインを造ってくれます。2014年は天候にも恵まれて」と行川さん。醤油からオリーブオイルまで幅広い調味料に合う、日本の食卓向きの白ワインです。

ワインの味を表現するとき、よく「ミネラル感」という言葉を使う。このミネラルとは、ミネラルウォーターのミネラルと同じく、カリウム、カルシウム、鉄などの鉱物のこと。ワインのミネラルは、ぶどうが育つ土壌に由来する。1億5千年~2億年前のジュラ紀の地質と言われるブルゴーニュ地方のシャブリなどもミネラル感のあるワインの生産地だ。ミネラルはワインの味の骨格を作るとも言われ、大事な要素のひとつ。

次にいただいたのが「シルバー  ツヴァイゲルトレーベ2012」。大好きな品種のひとつです。

「ツヴァイゲルトレーベは雨にあたると実が割れてしまう。放っておくとそこからカビが発生するので、割れた実をこまめに取り除くことが必要な、手間のかかるぶどうです。いいぶどうはこうした農家さんの努力の結晶」と行川さんはおっしゃいます。

タンニンがまろやかで、スパイシー。ミネラル感が立つことで、奥行きのある赤ワインになっています。鹿肉や短角牛など、赤身の肉にぴったり。魚だとまぐろとか、こっくりと煮た肉じゃがなんかも合いそう。

最後にいただいた「メルロー’12年」は、佐々木さんの実家で栽培したぶどうで造られたワインだそうです。これは今年のウィーン国際ワインコンクールで金賞を受賞。「日本で栽培されたメルローでこんなに果実の凝縮感が出るのは珍しく、しっかりとした渋みと黒い果実を思わせる香りがする」という行川さんの解説をうかがいながら、香りをきき、ひと口。今はまだ渋みが立ちますが、3年ぐらい寝かせて飲むと最高のワインになる予感がします。

初めてエーデルワインをいただいてから数年経ちますが、変わらぬおいしさには感動を覚えます。大迫町のテロワールの豊かさだけでなく、手抜きのないぶどう栽培、そしてぶどうの力を見極めた醸造技術が、さらにワインに磨きをかけていると再認識。これからがますます楽しみなワイナリーです。


樽に移されてセラーで寝かされる赤ワイン。静かな熟成の時がおいしいワインを育む
樽に移されてセラーで寝かされる赤ワイン。静かな熟成の時がおいしいワインを育む
醸造技師の責任者、行川裕治氏が、一次発酵を終え圧搾された赤ワインの味を確認
醸造技師の責任者、行川裕治氏が、一次発酵を終え圧搾された赤ワインの味を確認


酸とミネラルのバランスが素晴らしい白。日本の家庭の食事を引き立てて豊かにしてくれるワイン
酸とミネラルのバランスが素晴らしい白。日本の家庭の食事を引き立てて豊かにしてくれるワイン
左から「ハヤチネゼーレ メルロー熟成樽2012」「シルバー ツヴァイゲルトレーベ2012」「五月長根葡萄園 リースリング・リオン2014」(すべてオープン価格)
左から「ハヤチネゼーレ メルロー熟成樽2012」「シルバー ツヴァイゲルトレーベ2012」「五月長根葡萄園 リースリング・リオン2014」(すべてオープン価格)



エーデルワイン  ワインシャトー大迫 エーデルワイン  ワインシャトー大迫
1962年、大迫町のぶどうの生産振興を目的に設立されたエーデルワイン。地元農家と連携し、ワイン醸造技術に磨きをかけ、国内外で評価されるワインを醸す

岩手県花巻市大迫町10-18-3
TEL:0198-48-3200
営業時間:9時~16時30分
*5月1日~10月31日は17時まで延長
休館日:年末年始(12月31日~1月3日)


食料自給率170%の町で始まった新たなチャレンジ
大迫町の隣町、紫波(しわ)町は食料自給率170%という驚異的な地産地消の町。県内でも産直の町として知られ、町内に10カ所の産直物販売所があります。

都市再生整備事業「オガールプロジェクト」の施設のひとつ、オガールプラザには、農村と都市をつなぐ拠点「紫波マルシェ」がある。紫波全域の食材が手に入る「オール紫波」をコンセプトに、生鮮食料品3品(青果、肉、魚)を揃え、惣菜や加工品などにも力を注ぐ。

産直の町だけあって、紫波町の魅力は何と言っても食材。マルシェには、新鮮で彩り豊かな青果物やブランド牛など、自然の恵みが溢れています。

県内有数のぶどうの産地でもある紫波。その恵まれた土壌から生まれたワインにも魅力を感じていましたが、縁あって、このマルシェの棟続きにあるカフェのプロデュースをすることに。地元ならではの食材とそれらに合うワインを多くの方に味わってほしいという思いから、紫波、岩手の食材を扱うコーヒー&ワインの店として、リニューアルしました。

食材を求めて、マルシェや地域の生産者を訪ねて回っていると、また新たな出会いや発見があります。そうしたご縁も大切にしながら、この恵み豊かな地域の魅力をつないでいきたいと思います。




オガールプロジェクト

JR紫波中央駅前町有地の都市再生整備計画事業「オガールプロジェクト」。官民連携で、公共施設、商業施設、サッカー場、住宅など、都市と農村が共生する街を目指す。「オガール」は、仏語のガール(駅)と紫波方言「おがる」(成長)の合成語。
岩手県紫波郡紫波町紫波中央駅前二丁目3-3
TEL:019-681-1316

オガールプロジェクト




紫波マルシェを運営するオガール紫波の代表取締役・佐々木廣氏は「地元産なら何でもそろう」マルシェを目指している
紫波マルシェを運営するオガール紫波の代表取締役・佐々木廣氏は「地元産なら何でもそろう」マルシェを目指している
オガールプラザ紫波マルシェ(産直部門)

オガールプラザ紫波マルシェ(産直部門)
「オール紫波」をモットーに野菜・果物、魚、肉の生鮮品の他、乾物、農畜産物の加工品など、豊富な品揃え。また地元農家の女性たちが作るお惣菜も人気

TEL:019-672-1504
営業時間:9時~18時40分
定休日:1月1日~4日


マルシェで売られている、「自園自醸ワイン紫波ヤマソービニオン」 (左・1,404円)、「自園自醸ワイン紫波リースリング・リオン」(右・1,620円)
マルシェで売られている、「自園自醸ワイン紫波ヤマソービニオン」 (左・1,404円)、「自園自醸ワイン紫波リースリング・リオン」(右・1,620円)
青い大豆(100グラム250円)、茶豆(1キログラム680円)など珍しい豆も
青い大豆(100グラム250円)、茶豆(1キログラム680円)など珍しい豆も


9月の取材時にはかぼちゃが豊富に並ぶ。新品種のロロンかぼちゃ(200円)
9月の取材時にはかぼちゃが豊富に並ぶ。新品種のロロンかぼちゃ(200円)






オガールプラザ  coffee & wine 4832 オガールプラザ  coffee & wine 4832
平野さんがプロデュースするカフェでは、紫波を中心に岩手の食材を使った滋味豊かな料理が楽しめる

TEL:019-601-6988
営業時間:11時~21時
定休日:12月31日~1月3日
(年によって異なる)


紫波マルシェからの野菜サラダ(1,200円)  (1)
紫波マルシェからの野菜サラダ(1,200円)  (1)
岩手山形村のコンビーフやハム、岩手産豚のパテ・ド・カンパーニュやリエットなど、ワインに合う料理が揃う(2)
岩手山形村のコンビーフやハム、岩手産豚のパテ・ド・カンパーニュやリエットなど、ワインに合う料理が揃う(2)















(1)(2)撮影/ツチダユリコ


*価格はすべて税別
豆、かぼちゃ等は価格変動あり


取材・文/一志りつ子  撮影/永野佳世