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農林水産省

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特集1 今、農学部が熱い!(2)

農林水産業の課題に応える!未来を担う農学部



高齢化に伴う就農人口の減少、食料の安定供給など、日本の農業を取り巻く課題は少なくありません。
大学では、それらの解決に向けた実践的な研究が日々行われています。

ICTで省力化を実現!
北海道大学大学院 農学研究院 ビークルロボティクス研究室

北海道大学の野口伸(のぼる)教授は、ロボット技術と情報通信技術を農業に活用する「ICT農業」の第一人者。野口教授が率いる研究室では、農機のロボット化や情報通信システムをはじめとした、革新的なテクノロジーの研究を進め、世界をリードしています。
ICTで省力化を実現!北海道大学大学院 農学研究院 ビークルロボティクス研究室


研究室の学生22名のうち、農家の出身は1~2名。「農業と無縁の学生が新たな風を吹き込むことに期待」(野口教授)
研究室の学生22名のうち、農家の出身は1~2名。「農業と無縁の学生が新たな風を吹き込むことに期待」(野口教授)



耕うんから収穫までを無人化!
GPS(衛星測位システム)受信機を搭載し、操縦をコンピュータで制御するトラクタは、5センチメートル以内の精度で無人走行が可能です。耕うんから播種(はしゅ)、農薬散布、収穫までを完全自動化する実用技術は、世界でも初めて。

ドローン(無人飛行機)で農地や作物の情報を収集
ドローン(無人飛行機)で農地や作物の情報を収集
2台の無人トラクタによる代(しろ)かき。作業効率は2倍に
2台の無人トラクタによる代(しろ)かき。作業効率は2倍に


「ロボット化」と「情報化」でプロ並みの農業が可能に
コンピュータのみならず、さまざまな分野をネットワークでつなぐ「ICT(情報通信技術)」が、日本の農業の"救世主"になろうとしています。

北海道大学では、人手不足の解消と食料の安定供給を目指し、全自動で走行する無人トラクタによる「ロボット化」と、熟練農家の"匠の技"を蓄積したビッグデータを活用する「情報化」を柱に、ICT農業の研究を進めてきました。

「完全無人で耕うんから播種(はしゅ)、農薬散布、収穫まで一貫してできる技術は、間違いなく世界一」と語るのは野口伸教授。狭い農地でも使えるよう、ロボットの小型化に注力しており、同時にロボット自体のコストダウンも進めています。

そして農作物の生産に欠かせないのが、熟練農家のノウハウ。
「これを継承しないと、日本の農業は成り立たなくなってしまう。そこで、いつ何を作るかから始まって、季節や天候に応じた水や農薬の量など、熟練の技術を収集・解析。新規就農者でも、就農直後からプロとして農業ができる技術開発を目指しています」

世界をリードする日本のICT農業が、北の大地から大きく羽ばたこうとしています。


最先端の植物工場で効率生産を可能に!
千葉大学大学院 園芸学研究科 蔬菜(そさい)園芸学研究室

千葉大学は国内の大学で唯一の園芸学部を持ち、100年以上の歴史があります。国内の植物工場研究をけん引する存在で、拠点リーダーである丸尾達(とおる)教授は植物工場の栽培技術に関する第一人者として知られています。
最先端の植物工場で効率生産を可能に!千葉大学大学院園芸学研究科 蔬菜(そさい)園芸学研究室


研究に励む学生たち。実験装置はすべて自前で作っており、電気・水道工事なども手掛ける
研究に励む学生たち。実験装置はすべて自前で作っており、電気・水道工事なども手掛ける



世界でもトップクラスの生産システム
太陽光とヒートポンプによるトマトの高収量生産システム、蛍光灯とLEDを活用した完全人工光型のレタス生産システムでは世界をリード。低コスト大量生産を実現し、国内外の民間企業との連携も進めています。

40品種のトマトを栽培している植物工場
40品種のトマトを栽培している植物工場
実が青いうちに収穫し、人工的に温めて赤くする「青穫りトマト」
実が青いうちに収穫し、人工的に温めて赤くする「青穫りトマト」

人工光で昼夜を作り出す、レタスの完全人工光型生産システム

人工光で昼夜を作り出す、レタスの完全人工光型生産システム
人工光で昼夜を作り出す、レタスの完全人工光型生産システム


技術だけでなく「経営」「グローバル」感覚を教育
農業従事者の高齢化や後継者不足が進む中、少ない労働力で賄っていくためには、施設園芸による生産方法の合理化と技術革新が不可欠です。それを具現化する千葉大学の植物工場では、学生たちが汗にまみれながら最先端の研究を続けています。

「例えば、トマトの実を青いうちに収穫して人工的に温めて赤くする『青穫りトマト』は、日持ちがして味もよくなる。この技術により、日本のトマトを輸出する道が拓けるだけでなく、イチゴなどにも応用できます」(丸尾達教授)

こうした日本独自の研究の積み重ねが世界でも高く評価され、施設園芸先進国であるオランダの種苗会社など海外からの方も含め視察は年間5000人にも上ります。

「日本の農業には、技術と経営感覚とグローバル感覚を兼ね備えた人材が少ない。大学という枠にとらわれず、民間企業とも積極的に協力することで、野菜も人も育てるのが私たちの使命です」

千葉大学では、即戦力となるエキスパートを育てる「園芸産業創発学プログラム」も本格化。農業を産業として強化することで、世界が抱える食料問題解決への貢献も期待されています。


地域の特産品で6次産業化を推進!
山梨大学大学院 総合研究部附属ワイン科学研究センター
地域の特産品で6次産業化を推進!山梨大学大学院 総合研究部附属ワイン科学研究センター

果実酒を専門に研究する国内唯一の研究機関として、1947年に設置。山梨県の特産品であるブドウを使ったワインの製造、品質向上などを研究するほか、人材の育成にも力を入れています。センター長を務めるのが、奥田徹教授です。


ブドウ栽培、醸造などの基礎を学ぶほか、地元ワイナリーでの実習を通じて、実践に即した応用力を習得
ブドウ栽培、醸造などの基礎を学ぶほか、地元ワイナリーでの実習を通じて、実践に即した応用力を習得



国産ワインを担うリーダーを育成
国産ワイン発祥の地として知られる山梨県。山梨大学では、ワインづくりが盛んなこの地で、地元のワイナリーと共同で製品化を進めています。県内に自生する山ブドウと赤ワイン用ブドウとして名高いカベルネ・ソーヴィニヨンを交配。1990年に新品種として登録をしたブドウを使った「ヤマソービニオン」など、同大学発のワインは現在8種類あります。

「基礎的な勉強はもちろん、栽培や醸造の実習や地元ワイナリーでの職場体験も大切。ワイナリーは自らブドウを生産し、ワインに加工して販売するまでを行う6次産業化したビジネスです。ブランドという付加価値を持たせてどう販売するかという経営学も必要となり、学生には実践に即した応用力を身に付けてほしい」と奥田徹教授は語ります。

山梨大学では、地域資源を生かして6次産業化を推進する「ワイン・フロンティアリーダー養成プログラム」を実施。ブランド学や経営学を学ぶほか、フランス・ボルドー大学などからも講師を招き、日本のワインの未来を切り拓くワイン技術者を養成しています。

国産ワインが世界で名を馳せる日も近いかもしれません。



世界に通用する「オンリーワン」のワインづくり
細胞工学や遺伝子工学を駆使した基盤研究から、ワイン用ブドウ栽培、ワイン醸造の実用研究までを行い、地元のワイナリーと共同で製品化。日本でしかつくれない"日本人らしさ"を持ったワインづくりを目指しています。

研究センター前の畑では、メルローなどの品種を栽培

研究センター前の畑では、メルローなどの品種を栽培

フラスコや試験管がズラリと並ぶ研究室
フラスコや試験管がズラリと並ぶ研究室

山梨大学で半世紀以上前に醸造されたワインも保管されている
山梨大学で半世紀以上前に醸造されたワインも保管されている

地下のワインセラーに貯蔵されたワイン樽
地下のワインセラーに貯蔵されたワイン樽

研究センター内の試験工場で瓶詰めされたワイン
研究センター内の試験工場で瓶詰めされたワイン





取材・文/入江 一
撮影/原田圭介(千葉大学・山梨大学<ブドウ畑の写真を除く>)


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