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日本全国の麺文化をご紹介! ニッポン麺探訪 第1回

越前おろしそば[福井県]




東尋坊(福井県坂井市)
東尋坊(福井県坂井市)


そばに大根おろしを組み合わせた福井のソウルフード。ねぎやかつお節を添えて頂く。「だしと大根おろしを別に入れる」「だしに大根おろしを入れる」「だしに大根おろしの汁を入れる」の3通りの食べ方があると言われている。
そばに大根おろしを組み合わせた福井のソウルフード。ねぎやかつお節を添えて頂く。「だしと大根おろしを別に入れる」「だしに大根おろしを入れる」「だしに大根おろしの汁を入れる」の3通りの食べ方があると言われている。


江戸時代から愛される庶民の味
福井のそば文化は歴史が古く、1400年代までさかのぼる。戦国大名の朝倉孝景(たかかげ)が、異常気象や災害に伴う飢饉や戦時の非常食として、そばの栽培を奨励して広めたのが始まり。当時は粉を練って大きな塊にした「そばがき」として食されていたようだが、江戸時代になってそば切り文化が誕生。福井藩の家老だった本多富正(とみまさ)が、大根のすりおろしをかけたそばを医者やそば職人に作らせ、「越前おろしそば」が誕生したという説がある。

越前おろしそばは「冷やしそば」スタイルが定番で、そこに大根おろしがついてくる。大根おろしは、そばの上に載っていたり、そばつゆの中にすでに投入されていたりと、いくつかの"流派"がある。

僕が初めて福井で食べたものはこうだ。通常、ざるそばは数本の麺を箸で持ち上げ、「辛汁」と呼ばれるそばつゆにちょこんとつけて、さっと手繰(たぐ)るなんて食べ方が、粋とされている。僕も当然、ちょこんとつけて……とやったその時、「ちょっと待った、お兄さん!」とご主人の声が響いたのだ。「福井のそばは違うんだよ」と言った瞬間、そばつゆを取り上げ、そばの上にドバっとかけた。

"すする"のではなくかみしめて味わう
「お上品に食べるんじゃなくて、ぶっかけそばにして、ワシワシ味わうんだよ。まずは、麺そのものをかみしめてごらん」

その言葉にも驚いた。通常、そばはさっとすするものであるが、言われた通りにモグモグとかみしめてみた。「おお、そばの風味が沸き立つとはこのことだ!」。

他地域では、そば粉8割、小麦粉2割の「二八」が定番だが、福井は10割、すなわち全てそば粉で、しかも太めに切るところが多く、風味が卓越している。福井は今もそばの産地として有名で、地元の粉を用いている店も多い。

そして、ぶっかけにした麺をすすれば、大根おろしの爽やかさと辛さとだしの香ばしさが、一体となって伝わってくる。「うちは辛味大根を使っているから、特に辛いよ!」とご主人。さすが、もともと医者などに作らせたというだけあって、身体によさそうな味わいだ。そばの美味しさもさることながら、この大根おろしの辛さも、病みつきになるゆえんかも。


文/はんつ遠藤
1966年生まれ。早稲田大学卒業後、海外旅行雑誌のライターを経てフードジャーナリストに。取材軒数は8500軒を超える。『週刊大衆』「JAL旅プラスなび」「東洋経済オンライン」などで連載中。著書多数。

撮影/原田圭介


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