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日本全国の麺文化をご紹介! ニッポン麺探訪 第3回

稲庭うどん[秋田県]




稲庭城天守閣からの眺望(秋田県湯沢市)
稲庭城天守閣からの眺望(秋田県湯沢市)
撮影/ノリット・ジャポン


手延べ製法による秋田南部発祥の干しうどん
手延べ製法による秋田南部発祥の干しうどん。平らな細麺で、しっかりしたコシとのどごしの良さが特徴。製法や産地が限定されており、それ以外のものは「稲庭うどん」とは名乗れないそう。


一子相伝、門外不出の"お殿様のうどん"
雄大な自然に囲まれた秋田県湯沢市稲庭町。栗駒山(くりこまやま)から流れ出る皆瀬川(みなせがわ)の清冷な水と、豊かな土壌に恵まれた山間の小さな集落で「稲庭うどん」は誕生した。

江戸時代初期、秋田藩稲庭村小沢集落で各種麺類を製造していた佐藤市兵衛(いちべえ)の技術を、初代稲庭(佐藤)吉左衛門(きちざえもん)が受け継ぎ、改良を加えて寛文5年(1665年)に製法を確立させたと言われている。それから約100年後の宝暦2年(1752年)、稲庭うどんは秋田藩主・佐竹侯の御用達となった。

その技法は一子相伝、門外不出だったが、二代目佐藤養助(ようすけ)に特別に伝授され、2社での製造が続いた。「つい最近まで、お殿様とか特別な方しか食べられなかったんだよ」と秋田の友人が自慢げに話す。

その製法は実に複雑だ。まず、小麦粉に塩水を入れて練ったあと、数時間かけて何度ももみ直す。そして「手綯(てな)い」という製法で麺を2本のさおに8の字にかけ、120センチメートル程度になるまでのばし、乾燥させてから完成となる。そうめんに似た作り方だが、麺のコシが明らかに違う。そうめんのように油を使っていない点も特徴の一つだ。

2種類のつゆで頂くコシのあるざるうどん
稲庭うどんは温かいつゆをかけて食べるのもいいが、イチオシはざるうどんタイプ。見た目からして完成された美しさだ。早速頂くと、極細のストレート麺はつるつるとした口当たりで、ゆで加減はパスタのアルデンテのごとく、硬めでコシのある仕上がり。

この麺を、かつおなどのだしが効いた濃いめのしょうゆつゆにつけてすする。隙のない仕事に、「さすがはお殿様に献上された逸品だ」と感服していたら、ごまみそベースのつゆもあり、これまたまろやかなごま風味が広がって、美味!

本場で食べる稲庭うどんは、現地のほのぼのとした空気や美しい風景と相まって、格別においしく感じる。もともと2社でしか製造していなかったうどんが全国に広まったのは、昭和47年(1972年)、地場産業育成のために七代目佐藤養助が製法を公開したのがきっかけなんだそう。ということは、ちまたで口にできるようになってからまだ40年ちょっと。そんな話を伺いながら稲庭うどんを味わえば、何だか自分がお殿様になった気分までしてきた。


文/はんつ遠藤
1966年生まれ。早稲田大学卒業後、海外旅行雑誌のライターを経てフードジャーナリストに。取材軒数は8500軒を超える。『週刊大衆』「JAL旅プラスなび」「東洋経済オンライン」などで連載中。著書多数。


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