日本全国の麺文化をご紹介! ニッポン麺探訪 第5回
へぎそば[新潟県]

魚沼地方の棚田(新潟県) |
写真:小川秀一/アフロ |
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ふのりをつなぎに使ったそばを「へぎ」という器に一口ずつ手振りにして盛り付けたもの。つるつるとしたのど越しと歯ごたえのある食感が特徴。魚沼地区は日本有数の米どころだが、そばも救荒作物として古くから栽培されてきた。 |
つるつるとした食感の秘密は"ふのり"
全国にはさまざまなそばがあり、つゆにつけて食べる定番のスタイルから、水で食す、ぶっかけにするなど千差万別。麺にそば粉や小麦粉以外の食材を練り込むタイプもある。その代表格が新潟県の「へぎそば」だ。
へぎそばは、かの川端康成の小説『雪国』の舞台となった越後湯沢(えちごゆざわ)の少し先、小千谷(おぢや)市、十日町(とおかまち)市、津南町(つなんまち)あたりのご当地そば。食べるとあまりのつるつるとした食感に驚く。
「麺に"ふのり"を練り込んでいるんですよ」と店のご主人が言う。ふのりは紫色をした海藻だが、そば自体は緑がかっている。「乾燥したふのりを銅鍋で煮ることで緑色になるんです」と見せてくれたのはゼラチン状に固まった緑色のふのり。通常の水まわしとは違って、そぼろ状のものをがっしり固めていくような珍しい工程だった。
「そもそもなぜ、ふのりを混ぜたんですか?」。ご主人曰く、このあたりは上杉謙信が奨励した麻織物"縮(ちぢみ)"の産地。縮の糸を紡ぐ際に使用していたふのりが、そばのつなぎとして使われるようになったとか。江戸時代後期の掛け軸や随筆にも登場するほど歴史は古く、冠婚葬祭など"ハレの日"のふるまい料理として浸透したという。
美しく盛られたそばをからしで食す!
発祥の地も諸説あり、小千谷市が「へぎそば」を商標登録したことで一時はただならぬ雰囲気だったが、2014年に十日町地域へぎそば組合が「十日町へぎそば」として商標登録したのをきっかけに和解。今は相乗効果でちょっとしたへぎそばブームになっている。
へぎそばは盛り付けも独特だ。ゆで上げたそばを一口分ほどつまみ、水の中で振りながら形を整えて並べる"手振り"スタイル。杉板で作られた「へぎ」に並べるので、へぎそばと言うのだそう。
薬味のわさびを箸でつまんだその時、ご主人が「お兄さん、からしだよ!」とうれしそうに笑う。へぎそばは、かつおなどのだしが効いたつゆに、わさびではなくからしを溶いて味わうのが本来の姿なのだ。なるほど、コシが強くてのど越しが良く、つるつるとした食感の麺に、からし醤油味がぴったり合う。やはりここは伝統にのっとって、からしで頂きたい。
文/はんつ遠藤
1966年生まれ。早稲田大学卒業後、海外旅行雑誌のライターを経てフードジャーナリストに。取材軒数は8500軒を超える。『週刊大衆』「JAL旅プラスなび」「東洋経済オンライン」などで連載中。著書多数。
1966年生まれ。早稲田大学卒業後、海外旅行雑誌のライターを経てフードジャーナリストに。取材軒数は8500軒を超える。『週刊大衆』「JAL旅プラスなび」「東洋経済オンライン」などで連載中。著書多数。