日本全国の麺文化をご紹介! ニッポン麺探訪 第8回
瓦そば[山口県]

関門橋(山口県下関市)
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写真提供/一般社団法人山口県観光連盟
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山口県下関市豊浦町発祥の麺料理。ゆでた茶そばをよく熱した瓦の上にのせ、その上に錦糸玉子、牛肉、のり、レモン、もみじおろしなどをトッピングしたもの。しょうゆベースのつけ汁で食べる。 |
愛くるしい姿をした至福の麺料理
僕と「瓦そば」との初めての出会いは、青い海と白い砂浜が広がるハワイの地だった。ショッピングセンターの一角に、瓦そばを出す店があったのだ。
テーブルに運ばれてきたそれは、熱々に焼かれた瓦の上で、茶そばがジュージューと音を立てていた。茶そばの上には錦糸玉子、牛コマ切れ、レモンの輪切り、もみじおろし、刻んだ長ねぎにのり。愛くるしいその姿に、僕は一瞬にしてとりこになってしまった。
パリパリになった茶そばの食感をダイレクトに味わったり、かつおと昆布のだしが効いたしょうゆベースのつけ汁で楽しんだり……。さらにはレモンの酸味やもみじおろしのピリ辛さにも手を染め、そのすべての根底に広がる美味なる甘さに打ちのめされた。最終的には錦糸玉子、牛コマ切れなどの具も堪能し、まさに至福の時を過ごしたのだった。
ひと言で言えば「おいしい、何だこりゃ?」である。そばと言いながらも一般的なそばとは全く違う。それでいて、うまい。調べてみると、山口県のご当地麺料理とのこと。数年後、僕は発祥の地、川棚(かわたな)温泉を訪ねたのだった。
薩摩軍の陣中食をヒントに考案
下関港から北に25キロメートルほど行ったところに位置する川棚温泉は、室町時代に掘り当てられたと伝わる歴史ある温泉地。瓦そばは、そこにある威風堂々としたたたずまいの旅館(現在は飲食店)で誕生した。
瓦そばのルーツには、西郷隆盛率いる薩摩軍と明治政府が戦った、明治10年の西南戦争がかかわっている。長い野戦の合間に、薩摩軍の兵士たちが身近にあった瓦を使って野菜や肉などを焼いて食べたというエピソードをヒントに、考案されたものだという。
実際に頂いてみると、ハワイで食べたときには気づかなかったが、茶そばに油が塗られている。香ばしい香りが湯気とともに立ち上り、パリパリとした焦げ目とまろやかな味わいが、より強調されていた。
1店舗からスタートした瓦そばは、今や山口県のご当地麺にまで成長した。宴会料理のシメとして振る舞われたり、ホットプレートを使った家庭料理としても親しまれている。そこにはおいしさはもちろん、楽しさもある。山口名物となり得た理由が分かる気がした。
文/はんつ遠藤
1966年生まれ。早稲田大学卒業後、海外旅行雑誌のライターを経てフードジャーナリストに。取材軒数は8500軒を超える。『週刊大衆』「JAL旅プラスなび」「東洋経済オンライン」などで連載中。著書多数。
1966年生まれ。早稲田大学卒業後、海外旅行雑誌のライターを経てフードジャーナリストに。取材軒数は8500軒を超える。『週刊大衆』「JAL旅プラスなび」「東洋経済オンライン」などで連載中。著書多数。