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農林水産省

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特集1 花(4)

[生産地を訪ねて] 日本一のバラ生産・愛知から全国へ愛を届ける


愛知県豊橋市

記念日などに贈られることが多いバラにもさまざまな品種があります。
産出額全国一の愛知県では、生産者と行政が力を合わせて品質の向上と消費の拡大に取り組んでいました。

山口兵庫さん
山口兵庫さん
1968年、愛知県生まれ。専業農家の父の跡を継ぐため23歳でバラづくりを始める。愛知県花き連ばら部会長やJA豊橋バラ部会長を歴任し、花の消費拡大事業に熱心に取り組む。現在、JA豊橋非常勤理事。

温室の水耕栽培で育つバラはぜいたくな美食家
「フルコースの料理を目の前に並べないと納得してくれないのに、気に入った小鉢だけに手を伸ばす。ぜいたくな美食家のような花です」

愛知県豊橋市のバラ専業生産者、山口兵庫さんは苦笑しながらも、そんなバラが愛しくて仕方がない様子です。温室に並んだ花は水耕栽培で、山口さんが自ら配合した養液を循環させて育てていますが、「特定の栄養素を好み、ほかの栄養素はほとんど吸わないのに、それを薄めてみるとなぜかうまくいかない」のだそうです。

現在、栽培しているのは8品種で、ブライダル用として安定した需要が見込める白いアバランチェなどの主力品種のほか、新しい品種も手がけています。

「私がバラづくりを始めたころは、もっぱら深紅のローテローゼという品種が生産されていましたが、どんどん品種が増えています」

愛知県の農業総合試験場でも花き温室園芸組合連合会と連携して新品種の開発に取り組み、山口さんも協力して県の育成品種を年間10種類ほど試しています。

「効率だけ考えれば品種を集約すべきですが、新しい品種を一つは入れてみたくなるのが、私を含めバラ生産者のさがですね」

バラは毎日の世話が欠かせません」と言う山口さん。週3日、セリが行われる前日は朝4時に起床。トゲから守るため革の手袋をはめて剪定(せんてい)し、午前6時までに出荷場に送る。
「バラは毎日の世話が欠かせません」と言う山口さん。週3日、セリが行われる前日は朝4時に起床。トゲから守るため革の手袋をはめて剪定(せんてい)し、午前6時までに出荷場に送る。

2棟で計20アールの温室でバラの水耕栽培を行っている。
2棟で計20アールの温室でバラの水耕栽培を行っている。
日持ちの良い黄色の花をつけるイリオス。
日持ちの良い黄色の花をつけるイリオス。

結婚式に多く用いられるアバランチェ。
結婚式に多く用いられるアバランチェ。
県から委託を受けて試験育成している品種。
県から委託を受けて試験育成している品種。

全国一の花の産地で花に触れる子どもたち
1962年以降、花き産出額で全国一の座を守り続けている愛知県。2014年の産出額は約605億円、うちバラは約25億円と、これも全国一です。これほど生産が盛んになった背景には、温暖な気候や江戸時代から園芸が盛んだった伝統、大消費地に近いといった地の利に加え、いち早く水耕の培地にロックウール(岩綿)を導入するなどの生産者の努力があります。

愛知県は「花いっぱい県民運動」として県庁舎や名古屋駅の周囲に花壇を設置し、花づくりコンテストや花壇コンクールを実施するなど、需要の喚起にも努めています。

日本での切り花の需要は物日、つまり盆や正月、母の日、彼岸に集中しています。山口さんはこの状況を少しでも変えたいと、愛知県花き連ばら部会長を務めていた2008年、花を持って歩こうという「フラワーウォーク」運動を始めました。生産者の皆さんが先頭に立って活動するほか、県職員も多数参加、購入額の一部は花育の活動資金に充てています。これは生産者や行政が協力して、小学生が花に触れ、飾り、学ぶ機会を設ける試みです。

さらにJA豊橋バラ部会も、毎年6月第3日曜日の父の日に、お父さんへのプレゼント用として約1000人の保育園児・幼稚園児にバラを渡してきました。

「これらの活動を10年以上続けました。最初のころの子どもはそろそろ大切な人に花を贈る年ごろ」と顔をほころばせる山口さん。

「感謝や愛情を伝えられるだけでなく、家に1輪飾れば日常に潤いや安らぎをもたらしてくれる。花は特別な日に欠かせないだけでなく、人生に欠かせないものです」と語ります。

とよはしフラワーウォークの催しでバラを手渡す山口さん。
とよはしフラワーウォークの催しでバラを手渡す山口さん。
6月に豊橋市の老津保育園で行った父の日のプレゼントのイベント。
6月に豊橋市の老津保育園で行った父の日のプレゼントのイベント。



取材・文/下境敏弘
撮影/島 誠


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