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農林水産省

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特集2 盆栽(2)

名人に学ぶ初めての「盆栽」



難しいのではないか? 枯らしてしまうのではないか?
未経験者には疑問や不安が多く、難しそうに感じる盆栽。
その始め方と奥深さを盆栽師・浜野博美さんに伺いました。

1鉢だけでは手入れを怠りやすいため、3~5鉢くらいは持ちたい。写真は真柏(左)と紅紫檀(右)。
1鉢だけでは手入れを怠りやすいため、3~5鉢くらいは持ちたい。写真は真柏(左)と紅紫檀(右)。

いつまでも完成しない深みのある盆栽
枝が伸び、枯れ、新たに芽吹く。常に形が変化して、いつまでたっても完成しない。大切に育てれば手がけた人間より長く生きるため、最期まで追求するべき美の要素が残り続ける。そうした深みのある趣味が盆栽です。

興味を持たれたのであれば、鑑賞するだけでなく、ぜひ購入して手元に置いてください。初めてのものは高価でなくて構いません。初心者が選びたがる華やかな実もの、花ものは育てるのがやや難しい。おすすめは松柏で、中でも真柏は丈夫です。

世話の基本は水やりです。春と秋は1日に1回、夏場は2回、冬は1週間に2~3回というように季節で量を調整します。また夏は光合成をしたがりますので3日以上続けて室内に置かないようにしてください。冬場は寒さに当てないこと。寒い思いをさせると風邪をひいたように元気をなくします。

枝を整える針金かけや、数年おきに行う植え替えといった作業は、第2段階です。先に進むには師匠を作るのが早道です。かつての盆栽は一子相伝的で、大宮の盆栽村も私が青年部の頃は外部の人に技術を秘していました。今はどこも門戸を開いていますから、親切にいろいろ教えてくれるはずです。盆栽教室を行っている園もありますので、参加するのもよいでしょう。愛好家同士の交流も楽しみの一つです。

愛情を持ってかわいがれば必ず応えてくる
盆栽に大切なのは一にも二にも愛情です。かわいがれば必ず応えてくれます。そして時とともに盆栽との関係は変化していきます。私は50歳を過ぎてようやく「早く水がほしい」「虫がいるから取ってくれ」など植物の求めていることが会話でもするかのように分かるようになりました。

盆栽は作者不明で、絵画のような落款(らっかん)もなく、かつて手がけた人間のことは忘れ去られますが、この年になって、それがよいのだと思うようになりました。

時間を費やして、いたわりの心を知り、もののあわれを知る。盆栽は人生そのものです。

■日常的な手入れの例
水やりは木の上からではなく、土の表面にそっと。専用のジョウロもあるが、小さい盆栽であれば霧吹きを用いてもいい。
水やりは木の上からではなく、土の表面にそっと。専用のジョウロもあるが、小さい盆栽であれば霧吹きを用いてもいい。
2~3日面倒を見られないときは、濡らしたミズゴケやタオルをあてがい、土が乾きにくくしておく。
2~3日面倒を見られないときは、濡らしたミズゴケやタオルをあてがい、土が乾きにくくしておく。

バランスを見ながら伸ばしたくない枝をせん定。「リズムやメロディが感じられるよう」(浜野氏)に枝を作っていく。
バランスを見ながら伸ばしたくない枝をせん定。「リズムやメロディが感じられるよう」(浜野氏)に枝を作っていく。

ベランダなどで育てる場合、濡らした砂を入れた箱で管理する方法も。受け皿の水を鉢の底から吸わせることを「腰水」という。
ベランダなどで育てる場合、濡らした砂を入れた箱で管理する方法も。受け皿の水を鉢の底から吸わせることを「腰水」という。

藤樹園 園主 浜野博美さん 藤樹園 園主
浜野博美さん

1937年、埼玉県生まれ。1961年、早稲田大学法学部を卒業後、損害保険会社を経て盆栽師に。大宮盆栽協同組合理事長を務める。

大宮盆栽村&大宮盆栽美術館の歩き方
江戸時代には大名庭園があり、庶民の間でも園芸が盛んでした。明治になると多くいた植木職人のうち盆栽職人に転じた人たちがいます。

1923年の関東大震災後、こうした職人が盆栽の栽培に適した土壌や水を求め、東京を離れて氷川神社の北に次々に移り住みました。二階家は建てない、生け垣とするといった取り決めをつくり、自治的共同体として生まれたのが「大宮盆栽村」です。

最盛期の30園からは減ったものの、現在も浜野博美さんの藤樹園など6つの盆栽園が残り、それぞれで園主こだわりの盆栽を鑑賞できます。

また毎年5月3~5日には「大盆栽まつり」が開催されます。名品の特別展示、市民盆栽展、盆栽・盆器の即売会などが行われ、多くの人出でにぎわいます。

大宮盆栽村から閑静な住宅街を数分歩いたところには、「さいたま市大宮盆栽美術館」があります。盆栽文化の調査、研究や国内外への情報発信を目的として、2010年3月に開館した世界初の公立の盆栽美術館です。

静かな雰囲気の中、日本を代表する名品を間近に鑑賞することができます。
さいたま市大宮盆栽美術館(埼玉県さいたま市北区土呂町2-24-3)
さいたま市大宮盆栽美術館(埼玉県さいたま市北区土呂町2-24-3)

浜野園主の盆栽園「藤樹園」(埼玉県さいたま市北区盆栽町247)
浜野園主の盆栽園「藤樹園」(埼玉県さいたま市北区盆栽町247)

盆栽修業生 森 友美さん
私が盆栽の魅力にはまった訳

──モデルとしてテレビや雑誌で活躍された後、盆栽の世界へ入られたきっかけは。
昔から日本庭園が好きで、それを小さな鉢で表現できる盆栽に出会って興味を持ち、4年前に愛知県稲沢市で喜洞園を営む新海勲さんに弟子入りしました。

──難しさ、魅力をどのようなところに感じますか。
77歳の師匠が「死ぬまで勉強」と言うくらいで、やればやるほど、やるべきこと、覚えることが出てきて終わりが見えてきません。しかし、将来の持ち主に迷惑をかけたくない、恥ずかしくない木を伝えたいという思いで取り組んでいます。まあいいや、と思えば、まあいいや、という木になってしまいます。きちんとした仕事をするには、ふだんの生活から律しないといけないということを盆栽から教わりました。忍耐、優しさ、思いやりを映す鏡のようなものでもあり、子育てにも似ているような気がします。

──将来の目標を教えてください。
愛情を持ち、手間をかけるほどきれいになっていく。そんな盆栽の魅力を少しでも多くの人に伝えられるよう腕を磨いていきたいです。特に若い愛好家、女性の愛好家に増えてもらいたいですね。知らないのがもったいないくらい奥深くてすてきな文化ですから。

盆栽修業生 森 友美さん 盆栽修業生
森 友美さん

1987年、愛知県生まれ。名古屋文理大学在学中にモデルの仕事を始め、5年間の芸能活動を経て、郷里に戻り、盆栽の道へ。




取材・文/下境敏弘
撮影/長谷川 朗


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