今月の農林水産大臣賞 vol.10
時間とコストをかけた品種改良から生まれる 笑顔と幸せを届ける洋らん
全国花き品評会特別賞を何年も連続受賞している、若き育種家。
コチョウランの品種改良に傾けるその情熱の源には、「人を喜ばせたい」「感動を与えたい」というストレートな思いが満ちあふれています。 |
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全国花き品評会は、一般社団法人日本花き生産協会が、農林水産省ほかの後援で毎年開催しています。洋らん部門とシクラメン部門があり、特別賞の最優秀者に農林水産大臣賞が贈られます。 |

農林水産大臣賞を受賞した「エタニティースノー」。室内に手軽に飾れるクオーターサイズの花が特徴。
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有限会社座間洋らんセンター(神奈川県) 加藤春幸さん 1979年生まれ。2001年、東京農業大学卒業後に両親が営む座間洋らんセンターで就農。2004年の法人化に伴い、専務取締役に就任。就農以来、数々のコチョウランの品種改良を手掛けている。 所在地/神奈川県座間市栗原947 http://zamaorchids.sakura.ne.jp/[外部リンク] |
室内に手軽に飾れるコチョウラン
広い温室の中いっぱいに咲き誇る、真っ白なコチョウラン。その名の由来どおり、チョウが一面に舞っているかのような美しさです。でも、よく見ると花の大きさがそれぞれ違うことに気付きます。
「コチョウランというと、白くて大輪の花というイメージが一般的だと思いますが、2000年代からその半分くらいの大きさ、中輪の花が好まれるようになってきました。贈答用だけではなく、自宅にも手軽に飾りたいというニーズが増えてきたからです。すると、今度は中輪サイズでは少し寂しい、大輪サイズと中輪サイズの中間の大きさのものがあったら……という要望が出てきました。そこで品種改良して生み出したのが、クオーターサイズの『エタニティースノー』です」と、座間洋らんセンターの加藤春幸さん。
加藤さんは、雪のように白く輝くクオーターサイズの花が特徴のエタニティースノーで、平成27年度全国花き品評会洋らん部門 特別賞の最優秀者に贈られる、農林水産大臣賞を受賞しました。
広い温室の中いっぱいに咲き誇る、真っ白なコチョウラン。その名の由来どおり、チョウが一面に舞っているかのような美しさです。でも、よく見ると花の大きさがそれぞれ違うことに気付きます。
「コチョウランというと、白くて大輪の花というイメージが一般的だと思いますが、2000年代からその半分くらいの大きさ、中輪の花が好まれるようになってきました。贈答用だけではなく、自宅にも手軽に飾りたいというニーズが増えてきたからです。すると、今度は中輪サイズでは少し寂しい、大輪サイズと中輪サイズの中間の大きさのものがあったら……という要望が出てきました。そこで品種改良して生み出したのが、クオーターサイズの『エタニティースノー』です」と、座間洋らんセンターの加藤春幸さん。
加藤さんは、雪のように白く輝くクオーターサイズの花が特徴のエタニティースノーで、平成27年度全国花き品評会洋らん部門 特別賞の最優秀者に贈られる、農林水産大臣賞を受賞しました。
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品種改良に取り組むために就農
実は加藤さんが全国花き品評会洋らん部門 特別賞に入賞するのは今回が初めてではありません。なんと、2009年の初出品作「チョコレートパール」(農林水産大臣賞を受賞)以来、7年連続入賞という快挙を成し遂げています。
「でも、高校2年まではこの道に入ろうとは全く考えていませんでした」というから驚きです。
加藤さんのご両親が洋らんセンターを開いたのは、加藤さんが生まれた37年前。カトレアの切り花やバラを中心に手がけていました。母親は花に掛かりきりだったという記憶しかなく、農業の大変さや厳しさを目のあたりにして育ったため、加藤少年は自然と両親とは違う仕事に就こうと考えていたそうです。ところが――。
「高校3年になる前の春休みに、父親からシンビジウムの品種改良に成功した方の新聞記事を見せられたんです。『これはおもしろい!』と思いました。新しいものを自分が生み出す。農業にはこんな楽しみもあったんだ、と品種改良に興味を持ちました」
急きょ、進路を変更して東京農業大学へ進学。花きの品種改良について学び、座間洋らんセンターで就農。すでに大学2年のころから、「桜のイメージを持つコチョウランが作れないか」と着想。以来、数多くの新品種をイメージしては改良し、生み出してきました。
実は加藤さんが全国花き品評会洋らん部門 特別賞に入賞するのは今回が初めてではありません。なんと、2009年の初出品作「チョコレートパール」(農林水産大臣賞を受賞)以来、7年連続入賞という快挙を成し遂げています。
「でも、高校2年まではこの道に入ろうとは全く考えていませんでした」というから驚きです。
加藤さんのご両親が洋らんセンターを開いたのは、加藤さんが生まれた37年前。カトレアの切り花やバラを中心に手がけていました。母親は花に掛かりきりだったという記憶しかなく、農業の大変さや厳しさを目のあたりにして育ったため、加藤少年は自然と両親とは違う仕事に就こうと考えていたそうです。ところが――。
「高校3年になる前の春休みに、父親からシンビジウムの品種改良に成功した方の新聞記事を見せられたんです。『これはおもしろい!』と思いました。新しいものを自分が生み出す。農業にはこんな楽しみもあったんだ、と品種改良に興味を持ちました」
急きょ、進路を変更して東京農業大学へ進学。花きの品種改良について学び、座間洋らんセンターで就農。すでに大学2年のころから、「桜のイメージを持つコチョウランが作れないか」と着想。以来、数多くの新品種をイメージしては改良し、生み出してきました。
![]() 現在もカトレアは切り花として生産・出荷している。 |
![]() 家族4人とスタッフ26人の30人で、1200坪ある温室で約4万鉢の洋らんを生産している。 |
![]() 現在、社長を務める春幸さんの母・いく子さん。 |
![]() 着想から誕生までに15年を費やしたコチョウラン「湘南桜」。茎が横に伸びているため、何鉢か並べるとソメイヨシノが咲いているよう。 |
![]() 2009年の全国花き品評会洋らん部門で農林水産大臣賞を受賞した「チョコレートパール」。 |
コチョウランを通して笑顔と幸せを届けたい
しかし、コチョウランの品種改良には7~15年かかります。出荷用の花を育てれば収入につながるスペースを、品種改良用に何年も使用すれば、その分収入は減り、作業には「寝る時間もないほど」の手間が必要。コストも時間もかかるうえ、必ずしも成功する保証はありません。
そのため、今や加藤さんのような洋らんの育種家は国内にも数えるほどしかいないそうです。それなのに、なぜ取り組み続けるのでしょうか。
「僕たちの仕事は、ただ花を咲かせることだけだと思っていないからです。その花を手にしたときの喜び、幸福感、癒やし、慰め……そういった気持ちを届けることが、仕事だと思っています。コチョウランの花言葉は『幸せがやってくる』。その言葉どおり、人に喜んでもらえる花を作りたい。それだけです」
世界のどこかに珍しい原種があると聞くと現地に赴き、現在も数種類の改良を同時進行しています。
「まだまだ作りたい花はいっぱいある」と、若き育種家の夢は膨らむ一方です。
しかし、コチョウランの品種改良には7~15年かかります。出荷用の花を育てれば収入につながるスペースを、品種改良用に何年も使用すれば、その分収入は減り、作業には「寝る時間もないほど」の手間が必要。コストも時間もかかるうえ、必ずしも成功する保証はありません。
そのため、今や加藤さんのような洋らんの育種家は国内にも数えるほどしかいないそうです。それなのに、なぜ取り組み続けるのでしょうか。
「僕たちの仕事は、ただ花を咲かせることだけだと思っていないからです。その花を手にしたときの喜び、幸福感、癒やし、慰め……そういった気持ちを届けることが、仕事だと思っています。コチョウランの花言葉は『幸せがやってくる』。その言葉どおり、人に喜んでもらえる花を作りたい。それだけです」
世界のどこかに珍しい原種があると聞くと現地に赴き、現在も数種類の改良を同時進行しています。
「まだまだ作りたい花はいっぱいある」と、若き育種家の夢は膨らむ一方です。
![]() らんは、栄養ゼリーを入れたフラスコに種をまいて苗を育てる。 |
取材・文/岸田直子
撮影/原田圭介
撮影/原田圭介