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農林水産省

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今月の農林水産大臣賞 vol.12

先人の教えに創意工夫を重ねて生み出す 至極の宇治抹茶の源 てん茶



日本が世界に誇る、抹茶。その原料となる てん茶で農林水産大臣賞を何度も受賞している京都・宇治の茶農家。
輝かしい実績の背景には、先人たちの教えに独自の創意工夫を重ねた、たゆまぬ努力がありました。


第70回全国茶品評会てん茶の部農林水産大臣賞 受賞 全国茶生産団体連合会などの主催のもと、全国お茶まつりの一環として年に一度開催。全国の茶産地が、その年に収穫した茶を出品、最も評価の高い茶種ごと(全8種類)に農林水産大臣賞が贈られます。


辻さんが丹精込めて育てた、てん茶用品種「あさひ」。鮮やかな濃緑色をしたうまみの強い茶葉が抹茶になる。
辻さんが丹精込めて育てた、てん茶用品種「あさひ」。鮮やかな濃緑色をしたうまみの強い茶葉が抹茶になる。


製茶 辻喜(京都府) 辻 喜代治さん 製茶 辻喜(京都府)
辻 喜代治さん

1969年生まれ。高校卒業後、茶問屋での2年間の修業を経て、20歳で就農。茶農家の5代目を継ぐ。24歳で結婚。長男、双子の女の子に恵まれる。平成16年からさまざまな品評会で農林水産大臣賞を受賞している。
所在地/京都府宇治市白川川上り谷52-1
http://tsujiki.jp/[外部リンク]


珠玉の抹茶の原料こだわりのてん茶
近年、海外でも人気を集めている抹茶。その抹茶の原料となるのが、てん茶です。

てん茶は、煎茶やほうじ茶などのように茶葉に湯を注いで飲むものではないため、てん茶自体を見る機会は少ないかもしれません。栽培法は高級茶として知られる「玉露」と同じ。茶園全体に覆いをかけて遮光する、独特の「覆下(おおいした)栽培」で育てられます。

「日光を遮ると、苦み成分であるカテキンの生成が抑えられ、うまみ成分のテアニン(アミノ酸の一種)が増えるからです。うちでは、遮光ネットを使うほか、よしずとわらをかぶせる、宇治の伝統的な"本(ほん)ず栽培"を行っています」と辻喜代治さん。

また、肥料にもこだわり、厳選した有機質肥料を使用しています。こうして惜しみなく手間暇かけて育てたてん茶の「あさひ」は、第70回全国茶品評会 てん茶の部で農林水産大臣賞に輝きました。


てん茶の加工プロセス
一芽一芽、手摘みされた新芽。
一芽一芽、手摘みされた新芽。
やじるし 蒸したあと揉まずに乾燥させる。
蒸したあと揉まずに乾燥させる。
やじるし 茎や葉脈を取り除き、形を整える。
茎や葉脈を取り除き、形を整える。

上の工程を経たてん茶を、うすでひいて抹茶に仕上げ、薄茶や濃茶として味わう。

上の工程を経たてん茶を、うすでひいて抹茶に仕上げ、薄茶や濃茶として味わう。



日本一のお茶を作りたい
過去にもさまざまな品評会で農林水産大臣賞を受賞していて、今回で通算8回目となる辻さん。宇治茶で知られる京都府宇治市白川の茶農家に生まれました。しかし、茶園を継ぐつもりはなく、高校卒業後は茶問屋でアルバイトをしていたそうです。

「てん茶が抹茶になるまでのプロセスやブレンドの仕組みとともに、よそのいろいろなお茶を見ることができました。すると、自分も日本一のお茶を作りたいという気持ちが芽生えてきて……」

20歳のとき、実家の茶農園で就農。1万5000平方メートルある茶畑のうち、最もいいほ場である1000平方メートルを父親から譲り受けました。辻喜5代目の誕生です。

「茶づくりはすべて独学でした。最初に"名人"といわれている人に教えを請いに行き、どんな品種がいいか、どんな肥料をいつ入れるのがいいか、具体的なアドバイスを求めようとしたのですが、『出品茶園を作りなさい。そして、そこから学びなさい』と言われたんです」。出品茶園とは、品評会に出す茶を作る特級の畑のこと。

そこで、譲り受けた畑の一角を辻喜の出品茶園にすべく、お茶に向かい合う日々が始まりました。お茶は葉の色やつやで自らのコンディションを伝えてくれること。畑によって土壌の構成要素が異なるので、施肥(せひ)や管理は一様ではないこと。そして、800年以上語り継がれてきた先人の教えには、科学的根拠が確かにあること。20歳のころ知りたかった問いへの答を、辻さんはすべて自分の茶畑から得ていったのです。


機械管理しやすいカマボコ型の弧状仕立てではなく、茶の木が自由に枝を伸ばした「自然仕立て」の茶園。二重の遮光ネットとよしずで日照を調整する。 機械管理しやすいカマボコ型の弧状仕立てではなく、茶の木が自由に枝を伸ばした「自然仕立て」の茶園。二重の遮光ネットとよしずで日照を調整する。
機械管理しやすいカマボコ型の弧状仕立てではなく、茶の木が自由に枝を伸ばした「自然仕立て」の茶園。二重の遮光ネットとよしずで日照を調整する。


量より質にこだわり、本物を次世代へ
辻喜では、年に1回5月に新芽を一つ一つ手で摘んで収穫します。最もおいしい一番茶しか摘まないこだわりに、量よりも質を追求する辻さんの矜持(きょうじ)が表れています。

摘採(てきさい)だけは30人ほどの茶摘みさんの手を借りますが、それ以外の時期は、辻さんと両親、妻の4人で茶畑を管理。広大な茶畑を朝夕の2回、葉の状態を見て回ります。

「抹茶ブームで消費のすそ野は広がっていますが、そのためには"山"がなければならず、宇治抹茶はその"頂点"でなければなりません」

高品質産地であり続けるための後継者育成はもちろん、宇治の子どもたちに本物の宇治抹茶の味を知ってもらう活動を行っている辻さん。23歳になる長男も、今春から就農予定だといいます。

すべては、消費者に「おいしい」と言ってもらえる宇治抹茶を次代へ受け継いでいくために――。

辻さんが丹精込めて育てたてん茶は、来月収穫のときを迎えます。


遠くの山並みが見渡せる斜面にある、辻さんの出品茶園。 遠くの山並みが見渡せる斜面にある、辻さんの出品茶園。
毎日、朝夕2回、葉の状態を欠かさずチェックする。
毎日、朝夕2回、葉の状態を欠かさずチェックする。

土の状態や地温によって、水やりや施肥を調整する。
土の状態や地温によって、水やりや施肥を調整する。



取材・文/岸田直子
撮影/原田圭介


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