
私を支えた「食」
為末大さん(陸上元日本代表)

東京2020オリンピック・パラリンピック大会開催に向け、トップアスリートなどの地元食材を生かした
思い出深い「和食」を紹介します。


家族で囲んだ思い出の
「カキフライ」
8歳から陸上競技を始め、大学に進学するまで故郷の広島市佐伯区で過ごしました。ちょうど安芸の宮島と原爆ドームの間にあり、海と山に恵まれた地域です。自宅は海側にあったので、父が釣りに行くときには、一緒について行くこともありました。
広島はカキの名産地として有名です。地元には加工工場があり、新鮮なカキが1キログラム単位の袋詰めで売られていました。身近な食材だったので食卓にはよくお皿いっぱいの「カキフライ」が並び、家族や親戚とわいわい囲んで食べた思い出があります。他にも、魚介類が豊富だったのでヒラメなどの白身魚も好んでよく食べていました。


現役時代は、とにかく自分に必要な栄養を効率よく摂取することを第一に食事を選んでいました。特にスプリント(短距離)種目は、短時間でパワーを発揮するので酸素負債、つまり運動中の酸素不足が生じます。競技やトレーニング中はこの無酸素運動を繰り返すので、脳への血流量が減り、一時的に脳の機能が低下します。そして、食べ物を受け付けなくなったり、めまいを起こしたりするので、食べるタイミングを間違えると逆に体に大きな負担が掛かってしまいます。そのため、選手は皆、食事の量と質、いつ食べるかを自分なりに研究しているんです。私の場合は、練習後によく「豆腐」を食べていましたね。植物性たんぱく質が豊富であっさりしており、そのまま食べられる点が自分に合っていたと思います。
試合やトレーニングで海外に滞在する機会も多くありました。よく訪れた欧州では、バイキング形式の食事がほとんど。自分で食材や調理法を見極めて選ぶので、食べられるものは限られていました。その点、主菜、副菜などバランスのよい和食に親しんでいる日本の選手は、昔から食へのリテラシーが高い。ベストコンディションを維持する食生活を自分でコントロールし、高いパフォーマンスにつなげていると思います。
選手の動きに注目して
「なぜ」を考えながら観てほしい
日本をはじめアジア人選手は、欧米諸国の選手と比べて骨格に大きな差があります。手足の長さや身長が不利である分、今の選手たちも自分の体、動きをよく研究し、ひたむきに練習をして頑張っています。
陸上競技は「なぜこの動きをするのか」を考えながら、レントゲンを見るイメージで選手の動きに注目すると楽しめると思います。例えば身長差のある選手それぞれの走り方の違い、腕や膝、足首の使い方、ハードルでは選手の跳躍リズムなど。最大のパフォーマンスを発揮するために、選手自身がどのように身体を動かしているのか。生体力学的な観点で見ると非常に面白い。

写真提供/Kensaku Seki
昨今、パラリンピックの世界でも技術革新が起こっています。より合理的な動きを分析、実践することで障害者が健常者に競技で勝つ可能性も高くなってきました。もしかしたら、東京2020でそんな歴史的な瞬間が訪れるかもしれませんね。
陸上競技のルールとメダルへの道

東京2020オリンピックの陸上競技のトラック種目は、オリンピックスタジアム(新国立競技場)で行われる。期間は、2020年7月31日から8月8日(2019年4月現在)。種目は短距離、中・長距離、ハードル、障害、リレーと多種にわたる。短距離ではスプリント力、中・長距離では持久力とラストスパートのスピード、リレーではバトンパスなど「いかに速く走るか」に加え選手の戦略や技術面も重要となる。ハードルは、女子100メートル、男子110メートル、そして男女400メートルの4種。コース上のハードルは10台。故意でない限り、ハードルを倒しても失格にはならない。
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