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農林水産省

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  • aff09 SEPTEMBER 2021
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養殖業の発展を支える 水産獣医師の活動

今、養殖業が注目されています。その理由として、育った経緯が分かる安心感や、計画的に生産できて価格が安定していること、そして水産資源の枯渇を防ぐことができることなどが挙げられます。
養殖魚を病気から守る上で重要な役割を担っているのが「水産獣医師」です。今回は、まだあまり知られていない「水産獣医師」の仕事を紹介します。

養殖業の発展と
魚病の現状

過去10年間の養殖業産出額

資料:農林水産省「漁業産出額」
海面養殖業と内水面養殖業の漁業産出額の合計値(種苗生産額は除く)。

養殖業は、海面などの施設において海水を使用して行う海面養殖(ブリ類やマダイの養殖など)と、一定区間の陸上などにおいて淡水を使用して行う内水面養殖(ウナギ、マス類、アユの養殖など)に大別されます。養殖業の産出額は増加傾向にあり、技術の普及や発展に伴い、生産量も安定傾向にあります。

近年の魚病被害推定額の推移

しかし近年、養殖場における魚病による被害が深刻化しており、その被害額は、産出額の3パーセント程度(約90億円)で推移しています。養殖業の成長産業化を進める中で、こういった課題を解決する水産獣医師の重要性はさらに高まることが見込まれます。

水産獣医師ってどんなお仕事?

肉眼で見えない細菌及び寄生虫の検査の様子。

水産獣医師の主な仕事は、魚の病気の原因をみつけて治療する「診療業務」です。魚といっても、個人で飼育する観賞魚などではなく、養殖魚を対象としています。

〈養殖魚の治療プロセス〉

養殖魚の病気は主に、ウイルス、細菌、寄生虫によって引き起こされます。
今回お話を伺った「林兼産業(株)家畜魚類診療所」では、まず養殖事業者の方から検体(死んでしまった魚)を送ってもらい、その検体を水産獣医師や熟練した魚病専門の検査員が目視や顕微鏡で寄生虫の有無を確認したり、細菌培養やウイルスのPCR検査を行うことで病気を特定します。その後、投薬を含めた治療方法についてアドバイスします。
また必要に応じて、現地で直接養殖魚を診察し、魚の泳ぎ方に異常はないか、餌は通常通り食べているか、魚の体色に異常はないかなど、総合的に魚の健康状態をチェックし、その後の治療方針を決めることもあります。

PCR検査の様子。

〈水産獣医師ならではの大切な役割〉

養殖魚の治療薬は、養殖事業者の方が自身の判断で使う薬や、都道府県等の確認が必要な薬がほとんどですが、水産獣医師の診察・処方のもとでしか使用することができない薬もあります。
またその場合、薬の安全性の見極めも水産獣医師の重要な責務のひとつです。魚に対して副作用がないか、薬が規定以上に残留しないかなどを検討しなければなりません。お話を伺った同診療所は大規模な魚の実験施設を備えており、新しい薬は安全性及び残留期間を慎重に確認してから使用しています。

特許取得の治療法で、
日本全国のブリを救う!

ブリの養殖場。

ブリの体内に白いデコボコができてしまう「べこ病」は、寄生虫による病気で、昔から日本全国で被害がみられました。この病気の特徴のひとつに、出荷するまで病気に罹っていることが分からない点があげられます。実は人が食べても健康上影響はないとされていますが、出荷したブリにべこ病が認められると卸値が安くなってしまったり、買い手がつかなくなったりして廃業したケースもあるなど、養殖事業者の悩みの種となっています。
同社の藤田幸辰獣医師は、水産獣医師として活動する中で、多くの養殖事業者の方がべこ病に困っている姿を目にして研究に着手。2年の歳月を経て、べこ病を根絶させる特効薬と治療法を開発しました。
同社は、マルハニチロ(株)、東京大学とともに特効薬と治療法の特許を取得していますが、すべての養殖事業者の方が利用できるように手続きを進めています。

べこ病に罹患したぶり。

飼料の効率を追求して
環境や水産資源を守る

養殖魚の飼料の原料にも魚を利用しています。環境や水産資源を守るためにも、また、養殖事業者が負担するコストの面でも、少ない量の飼料で魚がしっかり栄養を貯えることができる、効率の良い飼料が求められています。
藤田獣医師は2020年から飼料の開発にも着手。栄養生理学的な観点から、魚が効率良く成長できるように、飼料に含まれる脂肪やたんぱく質の研究をしています。

(左)ブリ用配合飼料、(右)マグロ用配合飼料。

今回教えてくれたのは・・・

プロフィール写真

林兼産業(株) 飼料事業部家畜魚類診療所

藤田 幸辰 獣医師

1941年創業で食品や家畜・魚類飼料の製造販売を行う「林兼産業(株)」が1992年に設立した養殖魚の診療所。主に診療業務と研究業務を手がける。
2008年に入社した藤田獣医師は養殖事業者に対するアドバイスや治療法の研究、飼料の開発まで幅広く担当。

小動物の獣医師から
水産獣医師に挑戦!

2002年から約20年にわたり、小動物診療の動物病院を経営してきた「春日丘動物病院」代表の今西修大獣医師。趣味の釣りを通じて養殖業の方と出会ったことがきっかけとなり、2020年12月から「リスト獣医師」(農林水産省が公募する魚病診断に対応できる獣医師)に登録しています。
「もともと、生き物全てが好き。植物でもミジンコでも」と話す今西獣医師。飼い主と動物を直接助けることができる小動物の獣医師の道を選びました。しかし、水産獣医師が少なく、困っている養殖事業者を目の当たりにし、せっかくもらった獣医師免許を養殖業の発展にも役立てたいと、未知の分野である水産獣医師へのチャレンジを決めました。

水産獣医師の魅力はここ!

水産獣医師は養殖需要の高まりを受けて、これからどんどん発展が見込まれる分野です。今西獣医師は「期待されているという実感があります。また、分かっていないことが多いため、新しいことを発見する喜びや、人の役に立てる喜びがあります」と笑顔で教えてくれました。

今回教えてくれたのは・・・

プロフィール写真

春日丘動物病院代表 ぱんだ動物病院代表

今西 修大 獣医師

2002年「春日丘動物病院」を開院。2院を運営し、60名以上のスタッフを抱えるベテラン獣医師。
2020年から水産獣医師としての活動にチャレンジし、「ペット治療の経験が魚の治療にも生きるはず」と、新たな切り口を模索中。

養殖魚の
オンライン診療とは?

いま、水産獣医師が情報通信機器を活用して、病気の魚の写真や動画を元に「オンライン診療」を行う取り組みが広がっています。画像のほかにも、季節や水温、海域の特性、養殖事業者の方からの聞き取りなどを踏まえた幅広い視点で診断を行います。
オンライン診療のメリットの一つは、病気の発見から治療開始までの時間を短縮できること。養殖魚の病気は海水等を通じてどんどん広がってしまうため、他の生け簀や海域全体に病気を蔓延させないためにも、適切な薬を使い、素早く治療することが重要です。
また、水産獣医師が不足する現在、オンライン診療によって全国各地の養殖場の診察がしやすくなるのも大きな利点。獣医師が現場に行かなくても診察を行うことができれば、水産業における獣医療のサポート体制が大幅に強化できます。
より多くの獣医師が水産業に関わることによって、これまで治療することが困難だった養殖魚の病気を治療できる可能性が高まっていくことが期待されます。

画像を元に魚病を診断。

今回教えてくれたのは・・・

プロフィール写真

(株)ゴトー養殖研究所 企画開発事業部

裏南 賢太 さん

埼玉県の本社、及び九州4か所で養殖魚用の飼料や医薬品、栄養剤、稚魚、成魚等の販売を行う。業界唯一の養殖魚専門の総合動物病院を併設し、水産獣医師が魚病の診察を行う他に、病気の予防や講演、水産獣医師の育成にも取り組んでいる。
裏南さんは農林水産省の委託事業で設置した「水産動物における遠隔獣医療ガイドライン策定検討委員会」の委員。「水産獣医師は新しい道がどんどん開けていくジャンル。ぜひ多くの方にチャレンジして欲しい」と呼びかける。

獣医師の仕事大図鑑

編集後記

お店の魚売場で新鮮な養殖のブリやハマチ、鯛、カンパチなどを見かけます。稚魚から大切に育てられた、安全で美味しい養殖魚は、養殖事業者の方々や水産獣医師の皆さんの細やかな対応によって私たちの元に届いているのですね。今回取材の中で獣医師の先生から「生き物全てが好き。植物でもミジンコでも」というお話を伺って、天職だな、素敵だなと思いました!獣医師の仕事の中でもまだあまり知られていないこの分野に興味を持っていただけたら嬉しいです。(広報室KM)

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お問合せ先

大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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