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農林水産省

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  • aff09 SEPTEMBER 2021
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未来、そして世界へ!獣医師たちの挑戦

写真

産業動物分野の獣医師は、病気の予防や治療だけでなく、畜産業や水産業の発展に向け、幅広く活躍しています。その活動の場は、国内だけにとどまらず、開発途上国や国際機関においても。今回は、若手の産業動物獣医師の畜産業や養殖業のさらなる発展に向けた挑戦や、グローバルに活動してきた獣医師の取り組みを紹介します。

未来を担う
若手獣医師の活躍に迫る

CASE 1

産業動物獣医師の活動と、描く未来

寺内動物病院の保坂獣医師と寺内獣医師。2人は大学時代の先輩・後輩という間柄。寺内獣医師の診療車両は、牛への敬意を表したホルスタイン柄だそう。

疾病治療や予防指導を通し、畜産農家の多面的な支援を心がけているという、寺内動物病院(栃木県)の若き二人の獣医師。現在力を入れている取り組みや将来の目標について伺いました。

病気の治療だけでなく、
畜産農家の方々のサポートを

大学卒業後に北海道で最前線の産業動物獣医療に触れ、後継した寺内動物病院では牛専門の獣医療や、畜産農家のサポートをしています。現在は主に畜産農家を回り、疾病治療や予防指導をはじめ、人工授精、採卵、受精卵移植などを行っています。牛の健康を支え、その能力を最大限に引き出すことで、安全な肉や乳製品を安定的に消費者の方々に届けることが、私たち産業動物獣医師の使命です。そのためには病気の治療や、繁殖業務だけでなく、牛にとって快適な環境にするためのアドバイスをすることも重要な役目の一つ。各畜産農家ごとの特徴を考慮したコミュニケーションを心がけています。(寺内獣医師)

2021年春に寺内動物病院に着任し、現在は蹄病や乳房疾患など、牛特有の疾病治療や繁殖業務を行っています。ここに着任する以前は酪農家に従事していたため、その経験を生かし、治療だけでなく畜産経営の相談役になれればと考えています。畜産経営において、健康的に乳を出せる乳牛や、肉質の良い子牛の繁殖は、非常に重要です。そのため、近年は採卵事業と受精卵移植の精度向上にも力を入れています。採卵とは、血統の良い親牛に過排卵処置を行い、一度に多くの受精卵を作り、子宮洗浄により受精卵を回収する技術です。その後、受精卵の品質を顕微鏡で検査し、別の親牛に移植することで、良い血統の子牛を効率よく増やしていくことができます。(保坂獣医師)

寺内動物病院で飼育している牛の「りょうこ」と生まれたての子牛。

畜産業や養殖業のさらなる発展に向けて

産業動物獣医師の世界はまだまだ発展途上で、獣医師同士が常に切磋琢磨できる環境です。そんな中で、私たちは日本の動物性タンパク質の安全で安定した供給を使命ととらえ、今後は水産動物獣医療の知見も広げていきたいと考えています。日本人が摂取するタンパク質として、魚は大きな割合を占めています。しかし現在、日本の漁獲量は減少傾向です。それを踏まえると、養殖に対する需要は、今後さらに増えていくはず。自然とは違う環境の養殖場なので、感染症を減らしても人の管理によって発生する疾病もあります。個体だけではない群管理の経験から、病気の予防や衛生指導、さらに生産性の向上にも貢献していきたいと考えています。(寺内獣医師)

私たち産業動物獣医師は、畜産農家が多い地域においてインフラ機能であるという意識を持っています。畜産経営の一端を我々が担っているという意識で、情報を提供し続けたい、そんな想いから、最近は忙しい畜産農家の方が作業しながらお役立ち情報を聞けるように、二人でpodcastも始めました。今後も、こうした活動を通して少しでも畜産農家の方々の役に立てることを考え続けていきたいです。(保坂獣医師)

二人が配信している酪農や畜産に携わる方へのお役立ち番組、「らくちっくラジオ」。畜産農家の方から相談を受ける内容を題材にしている。

治療前は自力で立つことができなかった子牛。寺内獣医師たちの治療によって、元気に立てるように。

今回教えてくれたのは・・・

寺内動物病院

保坂 高志 獣医師

2011年に十勝農業共済組合に就職。その後、北海道の酪農家に従事したのち、現在の寺内動物病院に所属。診療だけでなく、畜産農家の経営に関することまで幅広く相談に乗っている。

寺内動物病院

寺内 宏光 獣医師

寺内動物病院3代目後継者。2012年4月より半年間、十勝で酪農の現場業務に従事した後、同年10月より別海町の家畜診療所である(株)トータルハードマネジメントサービスに4年間勤務。2016年に帰郷し後継。診療や牛群管理サポートの傍ら、獣医師や畜産業界の持続可能な在り方についての情報発信なども行う。

寺内動物病院

1949年開業、創業当時は農耕馬を診療。その後、酪農・畜産、ペットと時代に合わせて診療対象を変化・拡大してきた。現在は専門を牛に絞り、診療だけでなくコンサルティングを含めた総合的な牧場サポートを行う。また、ヤギの診療、水産養殖への獣医療的サポート事業を始めている。

CASE 2

乗馬クラブで馬の健康を支える
女性獣医師

乗馬クラブ クレインに所属する馬は全国で約2,900頭。東日本・西日本で担当医を分け、すべての馬を診ている。

全国にネットワーク展開する「乗馬クラブ クレイン」に所属する馬の健康を支えている「大和高原動物診療所」。今回は関西から西のクラブに所属する馬をサポートしている若き女性獣医師、奥原秋津獣医師にお話を伺いました。

馬好きが高じて産業動物獣医師に

小学生のときから乗馬をしていて、とにかく馬が大好き。その想いが高じて、産業動物獣医師を目指すようになりました。大学を卒業後に、乗馬クラブ クレイン・大和高原動物診療所に入社して6年目になります。乗馬クラブ クレインでは、所属する全ての馬約2900頭を診るための診療所が茨城県と大阪府にあり、12人の獣医師が所属しています。診療内容で多いのは、肢の怪我、消化器系疾患、そして感染症の治療。さらに、競技会のシーズンには、出場する馬に事故があったときに備え、獣医師が順番に会場に出向くこともあります。

小柄な奥原獣医師は、大きい馬と接するときは苦労もあるとか。

話せないからこそ、細かい診療が重要

馬は比較的意思疎通ができる動物だと思っており、私が馬を好きな理由もそこにあります。しかし、それでも「痛み」や「異変」がある場所を特定するのが、大きな動物の診断で難しいところです。ですから、しっかり触診をした上で、馬の反応を確認し、問題が起きている場所を徹底的に調べることが基本です。獣医師だけでなく、毎日馬と接している各拠点のスタッフの皆さんや、肢元のスペシャリストと呼ばれる装蹄師の方々の意見も伺いながら、その馬に何が起きているのかをよく把握してから診療することを心がけています。

この診療車両で、関西から西のクラブへ駆け付ける。必要な機材、道具がすべて揃った車両とのこと。

今後は東洋医学的治療も視野に

地域によっては二次診療(より専門的な獣医療を行うこと)ができる獣医師がいないため、なかなかすぐに踏み込んだ治療ができないことが現状の課題だと捉えています。そのため、今は少しずつではありますが、横の繋がりを増やし、情報を共有できるようなネットワークづくりを進めています。また個人的には、今後は鍼治療や整体など、東洋医学的な治療も学び、治療に取り入れていくことも目指しています。

今回教えてくれたのは・・・

プロフィール写真

乗馬クラブクレイン 大和高原動物診療所

奥原 秋津 獣医師

11歳から乗馬を始める。
2016年帯広畜産大学を卒業後、大和高原動物診療所に入社。馬の臨床獣医師として従事。
https://www.crane.co.jp/yamatoko/

開発途上国や国際機関で
活躍する獣医師

CASE 1

海外経験は、6カ国20年以上。
開発途上国における技術協力

キルギス大学の牧場で同僚と帰国前日に撮影した最後の写真。中央が木下獣医師。

JICA((独)国際協力機構)の海外協力隊や技術協力専門家の活動で、獣医師として開発途上国に派遣され、約23年間をさまざまな国で過ごしてきた木下秀俊獣医師。畜産業の発展や、獣医技術協力のためにどのような活動をされてきたのかを伺いました。

過酷な環境のアフリカや、
内戦直後のカンボジアでの経験

学生時代からJOCV(青年海外協力隊)の活動に興味があり、大学を卒業後、農業共済組合家畜診療所勤務などを経て、アフリカ・ザンビアへの派遣に応募し、現地でダニが媒介する牛の疾病対策に携わりました。治療薬がない中、現地の獣医師とともに予防策などを普及させるプロジェクトに従事。停電や断水は日常茶飯事で、マラリアなどがまん延する環境の中、3年ほど活動して帰国。その後は内戦終了直後のカンボジアに、農村開発・除隊兵士の再定住プロジェクトの一員として派遣され、ASEAN諸国の専門家40人と寝食を共にしながら、家畜診療や畜産の技術普及を担いました。5ヵ国から集まった人々との生活は、宗教や食生活の違いもあり、専門家間の潤滑油を目指したものの、苦労も多くありました。

アフリカ・マラウイの人工授精研修にて、現地の方と。

開発途上国で牛の人工授精技術を普及

一番長く活動したのはフィリピンで、牛の人工授精を広める青年海外協力隊のプロジェクトリーダーとして派遣され、技術普及の仕組みづくりを担い、牛はもちろん、農耕に使う水牛の人工授精にも取り組みました。家族と一緒に赴任したので、この地で生まれた娘はフィリピンを第二の故郷ととらえ、大学時代に留学もしたほど、今でも家族全員がこの国に愛着を持っています。2000年代には、牛の人工授精の強化・普及のためにアフリカ・マラウイに着任し、現地での研修などを担当しました。いずれの海外経験も、現地の方々はもちろん、日本の農林水産省や家畜改良センターにも協力していただきました。昨年まで中央アジア・キルギスで牛乳の細菌検査の指導をしていましたが、新型コロナウイルスの影響で急遽帰国することになりました。日本は人口減少などで畜産分野においても外国人が増えており、今は各国で経験したことを生かしながら、日本で働く外国人と迎え入れる日本人がお互いに安心して暮らせるような社会作りを目指し、JICAの国際協力推進員として働いています。

今回教えてくれたのは・・・

プロフィール写真

JICA北見デスク 国際協力推進員
(北海道北見市役所市民環境部勤務)

木下 秀俊 獣医師

CASE 2

国際政府間機関OIEの役割と活動

世界の動物衛生の向上を目的とした政府間機関である、OIE「国際獣疫事務局」。ここで合計11年半に渡り活躍された石橋朋子獣医師に、OIEの役割や、在籍当時の活動内容を伺いました。

182カ国が参加するOIEの一員に

WHOの動物版とも言われる「OIE」は、182の国と地域が参加し、動物の病気が広がらないように、科学的な基準やガイドラインを作る機関です。私は計3回、11年半に渡りOIE職務の一端を担ってきました。一度目は国際基準を作る業務の事務局メンバー、二度目はアジアの地域事務所の運営メンバー、三度目はWHO・OIE・FAOと3つの機関で取り組むフレームワークの中で他の国際機関との調整が主な役割でした。

OIEの本部で各国のメンバーと。前列右から2番目が石橋獣医師。

世界の動物疾病に関わる機会を経験

最初の任期では、検疫措置の国際基準を作る部局での業務を担当。BSE(牛海綿状脳症)が世界的な大問題となっていた時で、科学に基づく措置であること、貿易障壁とならないこと、という非常に大きな課題に関わり、貴重な経験を積むことができました。2回目、3回目の任期では各国や各機関との調整が多岐に渡り、多種多様な国の人とのコミュニケーションを重視した活動となりました。赴任期間中、アジア諸国をはじめとしたさまざまな国を見ることで、農林水産省・都道府県・家畜保健衛生所の3者から成り立つ日本の動物衛生の仕組みを客観的に考え、その仕組みの良さや、今後の在り方などを考えるきっかけにもなりました。今後獣医師の道を考えている人たちには、国際的な立場で動物疾病の解決に貢献ができる公務員獣医師という選択肢があることを知ってもらえるとうれしいです。

今回教えてくれたのは・・・

農林水産省消費・安全局食品安全政策課国際基準室長

石橋 朋子 獣医師

獣医師の仕事大図鑑

編集後記

保坂獣医師の、「自分たちの活動を通して少しでも畜産農家の方々の役に立てることを考え続けていきたい」という言葉がとても印象に残っています。今回ご紹介した産業動物獣医師の方々の様々な取り組みから、「目標に向けて挑戦することの楽しさ」を改めて教えて頂いたような気がしました。社会人になって、日々の仕事に追われ、目標を見失ってしまうことも多い私ですが、さまざまな業務の中で課題を見つけ、その解決に向けた行動の実践を積み重ねていきたいと思います!(広報室AY)

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お問合せ先

大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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