私たちにとって、大切な家族の一員であるペット。近年は、犬や猫だけでなく、さまざまな種類の動物が一般の家庭で飼育されるようになっています。しかし、そうした動物たちの中には、診療できる動物病院が少ないなどの理由から、十分な治療が受けられないことも。今回は、さまざまな工夫や、高度な検査技術で、こうした動物たちを救う診療の現場に迫ります。
動物の種類に応じて治療法を工夫
犬や猫と比較してまだまだ診療できる動物病院が少ない、小鳥やハムスター、さらには、爬虫類や両生類などの動物たち。こうした動物たちに特化し、試行錯誤しながらその診療に取り組んでいる、千葉県千葉市の動物病院small animal clinicの院長、常住直人獣医師のもとを訪ねました。
-
Q1
どのような動物が来院しますか?
-
A
犬、猫、有毒ヘビ、サル以外を対象としているのですが、中でも多いのはウサギ、インコ、ハムスター、カメです。以前から人気のハムスターですが、コロナ禍でお子様が自宅にいることが増えたこともあり、飼育される方がさらに増えたようです。ちなみに、今まで診療した中でめずらしかった動物はナマケモノです。
-
Q2
どのような症状で
来院されますか? -
A
食欲不振や吐き気、皮膚の痒みなど、日常的におこる症状から、腫瘍や痙攣まで多岐にわたります。治療や対応もさまざまで、見た目の異常や過去の症状、飼い主の方からの情報から、その場で診断がついて治療に入れるものもありますが、なんだか様子がおかしいなど、はっきりと原因がわからないケースもあります。その場合は、血液検査やレントゲン検査など各種必要な検査を行い、過去のデータと照らし合わせながら、体調不良の原因を絞り込み、治療していきます。
-
Q3
動物たちの診療や
そこでの工夫について
教えて下さい。 -
A
来院する動物たちの診療は、犬や猫の獣医療に比べると未開拓な部分の多い分野だと思います。初めて遭遇する症状や症例の数が山のようにあり、その場合は、前例を調べ、それに倣った対応をするか、前例がない場合は似ている例を検証しながら、総合的に診断をしていくという思考力と判断力が必要になります。また、小さな動物を対象としているので、診療器具も規格外のことが多いのが特徴です。首の周りにつけるカラーや麻酔用のマスクなど、鳥やハムスター用に手作りして対応しているものもあります。
-
Q4
来院される飼い主の方との
コミュニケーションで
大切にしていることは
どんなことですか? -
A
まず飼い主の方が問題と捉えていることをお聞きし、実際に動物が抱えている問題と同じであるかの確認を行う様にしています。もし違えば、真の問題点を飼い主の方と共有し、目指すべき治療の方針を早めに示せるように心がけています。また、飼育環境の不備によって体調不良をおこす動物が多いので、飼い主の方に正しい餌の与え方や飼育環境の整え方を伝えることが、病気を未然に防ぎ、寿命を長くすることにつながると思っています。
-
Q5
獣医師を目指した
きっかけは何ですか? -
A
自然豊かな地域で生まれ育ったため、幼少期より魚、虫、鳥、カメ、ザリガニといった動物が身近な存在で、図鑑で生態を学ぶことも好きでした。漠然と動物や生物を学びたいと思っていたのですが、獣医学科に進学しようと思ったのは高校生の頃。興味のある学科のオープンキャンパスに参加して、研究室の先生に話を聞き、細胞レベルを扱う生物学より、個体としての動物を学びたいという思いが強くなりました。中でも犬や猫に比べて、まだ生態や病気がよく知られていない動物たちについて、検証しながら解明していくという過程にも興味を持ちました。
-
Q6
今後の課題と展望を
教えて下さい。 -
A
飼育に関する情報の充実したデータベース化が必要だと思います。飼育動物としての歴史が長いウサギや、インコなどの小鳥は、罹りやすい病気や適切と思われる飼育方法がある程度わかってきていますが、そのほかの動物はまだこれからといった状況。僕らのような小動物臨床に従事する獣医師間での情報共有はもちろん、動物園の獣医師や大学の研究室などとも連携した情報共有がその手助けになると思います。
-
Q7
獣医師の仕事の魅力とやりがい、
今後獣医師を目指す方への
メッセージを教えてください。 -
A
先ほども触れましたが、前例のないものに対してどのようにアプローチしていくか、ということがやりがいの1つです。仮説と検証、考察を繰り返し、その結果、動物が元気になると非常に嬉しいですね。このため、本分野を目指す方には数学や生物学などの学問に通ずる、自然科学的な視点が不可欠だと思います。動物が好きという情熱はもちろん必要ですが、自分で問題提起をし、確実な証拠を集めて検証し、実証するということが重要です。
今回教えてくれたのは・・・
small animal clinic 院長
常住 直人 獣医師
2012年に日本大学生物資源科学部獣医学科を卒業後、田園調布動物病院に勤務。
2016年にsmall animal clinic を開院し、哺乳類に加え、鳥類や爬虫類、両生類など幅広い種類の動物の診療を行う。
高度な検査技術で
動物たちの健康を支える
北海道大学動物医療センターでは、2018年7月にエキゾチックアニマル科を開設し、大学病院ならではの機能を生かし、より精密な検査ができる設備を備えたセンターと専門的に診断できる各科が連携して治療を行っています。代表的なのが画像診断科と連携したCT検査やMRI検査です。
「主治医の病院でレントゲン撮影をしても原因がわからなかった食欲不振のチンチラが当センターに来院したのですが、CT検査で歯の根っこが折れていることがわかりました。見逃してしまいそうな原因をきちんと把握し、治療に生かせるのが強みですね」と非常勤講師として同科で診療する亀山獣医師。さらに、CTやMRIを含む検査の際には、麻酔科との連携も。
「CTやMRI検査には全身麻酔が必要で、動物によっては採血やレントゲン撮影でも鎮静程度の軽い麻酔が必要です。様々な動物と関わる上で専門的な知識を持った麻酔科との連携は心強いです」
また、動物を飼育する方へのメッセージとして「近年はブームもあり、SNSだけの情報をもとに、準備をあまりしないなかで飼育を始める方が多いように感じます。特に動物が特殊であればあるほど、飼育環境が健康の決め手となります。まずは書物や経験者からしっかりとした知識を得た上で、飼育を始めて頂きたいと思います。」と同科を担当する伊村獣医師は語ります。
今回教えてくれたのは・・・
北海道大学動物医療センター
北海道大学動物医療センター
伊村 啓 獣医師
北海道大学動物医療センター
亀山 健吾 獣医師
北海道大学大学院獣医学研究院附属動物病院
特任助教
永田 矩之 先生
北海道大学大学院獣医学研究院獣医内科学教室
助教
佐々木 東 先生
この記事のPDF版はこちら
(PDF : 986KB)
-
未来の獣医師を育てる
「獣医学部」ってどんなところ? -
家畜の健康を支える
獣医師の仕事を知ろう -
養殖業の発展を支える
水産獣医師の仕事 -
未来、そして世界へ!
獣医師たちの挑戦 -
治療をあきらめない!
工夫や高度技術で
さまざまな動物を救う
編集後記
エキゾチックアニマルという言葉を、今回の特集初めて知りました。そして同時に、この言葉の定義が人によってマチマチなことも知りました。そこで私も、自分がイメージするエキゾチックアニマルを定義すべく、共通点を探してみました。結果は、「餌の食べ方が"ユニーク"な生き物」。皆さんにとってのエキゾチックアニマルとは?(広報室YT)
お問合せ先
大臣官房広報評価課広報室
代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449