

暖かな太陽の光や爽やかな風、雄大な河川。そして、農畜産業や豊かな森林に由来する生物資源。私たちの身の回りにあるこうした資源はいずれは枯渇する恐れのある化石燃料とは異なり、自然の中で絶えず補充され、温室効果ガスを増加させない、「再生可能エネルギー」のエネルギー源として期待されています。今回は、再生可能エネルギーの特徴や可能性に迫ります。
農山漁村は再生可能
エネルギーの宝庫!
再生可能エネルギーとは、絶えることなく補充される自然のサイクルに由来するエネルギーのことをいい、太陽や水、風、地熱、そして農林漁業に由来する生物資源などからつくられるエネルギーのことをいいます。豊かな自然資源が豊富な農山漁村は、再生可能エネルギーの宝庫といえます。イラストを通して、具体例をみていきましょう。
をクリックして詳しい説明を読んでみよう





木質バイオマス発電
林業や木材の加工を行う過程で発生する間伐材や未利用木材。こうした木質資源を収集、破砕してつくる「木材チップ」を燃料として発電を行うことができます。
営農型太陽光発電
農業を行って作物を生産しながら農地の上には太陽光パネルを設置し、降り注ぐ太陽光を活用して発電を行います。
小水力発電
農業を行う上で欠かせない農業用ダムや農業用水路。こうした農業水利施設では、流れる水の水位差を活用して、小規模な水力発電を行うことができます。
畜産バイオマス発電
畜産や酪農を行う過程で発生する家畜排せつ物。これらを、微生物の力で発酵させて発生する「バイオガス」を燃料として、発電を行うことができます。
再生可能エネルギーを
導入して地域を豊かに
再生可能エネルギーで発電した電気は、政府の定める一定価格で一定期間、電力会社が買い取ることを保証する「固定価格買取制度」を利用し、売電収入を得ることができます。しかし、農山漁村で再生可能エネルギーを導入した場合、こうした収入面でのメリットのほかにもさまざまなメリットをもたらし、地域の活性化につながることが期待されます。
1.地域の雇用創出
発電設備の維持管理や周辺事業での雇用が生まれます。木質バイオマスを例にとれば、燃料となる木材の収集やチップへの加工など、関連産業への雇用につながり、その地域の活性化につながります。
2.災害時の電力供給
自然災害により大規模電源による電力の供給ができなくなっても、太陽光発電を非常用電源とすることで、地域の公共施設などに必要なエネルギーを供給することが可能となります。
3.農林漁業の課題の解決
畜産の過程で発生する家畜排せつ物を燃料としたバイオマス発電により、悪臭などの課題の解決にもつながります。また間伐材を木質バイオマス発電に活用することで、森林の整備や林業の振興にもつながります。
4.農林漁業のコスト削減
例えば水力発電であれば、発電で得られた収入を農業水利施設などの維持管理費として活用したり、バイオマス発電であれば、発電の際に生じた熱を施設園芸や養殖施設で活用することで暖房費を削減するなど、農林漁業におけるコストの削減につなげることができます。
再生可能エネルギーの
種類
太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、水力発電、地熱発電、熱利用など、さまざまな再生可能なエネルギーがあります。今回はその中でも、特に農林漁業との関わりが大きい3種についてご紹介します。
数字をクリックして詳しい説明を読んでみよう
1
バイオマス発電

メタン発酵施設(廃棄物系バイオマス発電施設)(写真提供:農研機構)
バイオマスとは、「バイオ」(生物資源)と「マス」(量)を合わせた造語です。「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されます。バイオマス発電は、動植物に由来する有機物である資源(化石資源を除く)を燃料として直接燃やしたり、バイオガス化(メタンガス化)したりすることで発電する方法です。
バイオマスの種類

❶廃棄物系バイオマス
家畜排せつ物や食品廃棄物、廃木材、下水汚泥、水産物の加工過程で出る水産残さなど、通常であれば廃棄物としてコストをかけて処理されるものがあてはまります。

❷未利用バイオマス
稲わら、もみ殻などの農作物の非食用部や、果樹の剪定で生じる剪定枝、さらに森林の間伐の際に出る間伐材や台風で倒れた被害木など、未利用の資源があてはまります。

❸資源作物
サトウキビなどの糖質資源、コメやトウモロコシなどのでんぷん資源、ナタネなどの油脂資源、ミドリムシなどの微細藻類などがあります。
バイオマスの活用方法

食品廃棄物(野菜残渣)(写真提供:農研機構)
バイオマスから電気、熱といったエネルギーを得るための方法は、バイオマスの種類によってもさまざまです。ここでは、私たちの日常生活で最も身近なバイオマスである食品廃棄物からエネルギーを得る方法を見ていきましょう。
メタン発酵のプロセス

食品廃棄物は、「メタン発酵」という方法でエネルギー利用することができます。
これは、原料となる食品廃棄物を無酸素の状態(嫌気状態)で温めることで微生物が有機物を分解し、「バイオガス」を発生させる方法です。バイオガスに含まれるメタンは燃えやすく、電気や熱などのエネルギーとして利用できます。また、原料からバイオガスを除いた後に残る「消化液」は、肥料として農業に活用することもできます。
カーボンニュートラル
バイオマスは、燃やしてもCO₂の増減に影響を与えない「カーボンニュートラル」という特徴があります。植物は燃やすとCO₂が発生しますが、植物の成⻑過程でCO₂を吸収するので、ライフサイクル全体でみるとCO₂の排出と吸収は実質ゼロになります。

近年では、それが概念化され、CO₂の増減に影響を与えない性質や、二酸化炭素の排出量と吸収量のバランスが優れている状態を表す際にも、「カーボンニュートラル」と表現されます。具体的には、CO₂排出量を削減するための植林や再生可能エネルギーの導入など、人間活動におけるCO₂排出量を相殺することもカーボンニュートラルと呼ばれています。
バイオマス発電の利点と課題

稲わら(未利用バイオマス)(写真提供:農研機構)
バイオマス発電は、農林水産業で発生する生物資源を活用するため、太陽光発電のように天候に左右されることなく安定した発電をすることができ、発電量をコントロールしやすいのが利点です。一方で、バイオマス発電の原料は農山漁村の中に「広く薄く」存在していることから、原料の効率的な収集と運搬の仕組みを地域の中で確立することが課題となります。
2
水力発電(小水力発電)

山梨県韮崎市の徳島堰入戸野発電所(写真提供:全国小水力利用推進協議会)
水力発電は水の位置エネルギーを利用し発電する方法です。このため、十分な水位差と流量が存在する地域が小水力発電の候補地となります。大きなダムを利用するイメージがありますが、近年は中小水力発電施設の建設が活発化しており、農業用水や上下水道を利用する場合もあります。主に1,000キロワット未満の水力発電を小水力発電として取り扱っています。水位差と流量が必要となるため設置できる地点は限られますが、太陽光や風力と異なり、天候に左右されず、昼夜、年間をとおして安定した発電を行うことができるという長所があります。
農業用水を活用した発電事例

青森県十和田市の稲生川(いなおいがわ)小水力発電所
青森県十和田市のほか1市4町にまたがる三本木原台地は、稲作を中心として同県でも有数の農業地帯です。この地域の農業を支える三本木幹線用水路にある、総水位差9.1メートルの 急流工を活用して小水力発電を行っています。発電により得られた収入を活用して農業水利施設の維持管理や修繕を行っており、地域の農業を支えています。
農業用ダムを活用した発電事例

愛媛県西条市の志河川(しこがわ)ダム発電所
瀬戸内海に面した愛媛県西条市の道前平野にある志河川ダムは、年間降水量が少ない同地域の農業を支えてきました。ダムからの放流水(水位差約25.0メートル)を活用して小水力発電を行っています。発電で得られた収益は、土地改良区が管理している農業水利施設の維持管理費に活用され、負担軽減に役立っています。
日本の農業と小水力発電

水力発電は高い山々や高低差の大きい河川が多い日本に向いている発電方法です。特に小水力発電は、稲作のための農業用水路が整備されているわが国に適しています。上記の事例のように、小水力発電で得られた収益は、農業水利施設の維持管理費などに活用することで、地域の農業の持続的な発展に利用することができます。
3
太陽光発電
(営農型太陽光発電)

静岡県の茶畑で行われた、営農型太陽光発電の実証試験風景(写真提供:静岡県)
営農型太陽光発電とは、農地で農業生産を行いながら、支柱を立てて上部に太陽光パネルを設置することで発電も行う仕組みです。発電によって得られた電気を売ることで収入を得たり、農機具や施設園芸の電源として利用するなど、農業経営のさらなる改善が期待されます。実施にあたっては、太陽光パネルを支える支柱の基礎部分について、農地法に基づく一時転用許可が必要になります。また、毎年農業委員会に、一時転用許可期間中の農作物の生育の状況を報告することになります。なお、作物の種類や生育環境によっては、収量や品質の低下が発生することもあるため、栽培する作物や遮光率は慎重に検討することが必要です。
営農型太陽光発電での
高収益農業の実証試験(静岡県)

営農型太陽光発電設備を設置した茶畑(写真提供:静岡県)
営農型太陽光発電設備の設置が進む一方、発電設備の設置が作物の収量や品質に及ぼす影響に関する情報はまだまだ少ないのが現状です。そこで静岡県では、同県の特産物の中でも、生育特性などから営農型太陽光発電での栽培に適していると考えられる茶、ブルーベリー、キウイフルーツについて、発電設備の下での収量、品質および作業環境などへの影響を調査しました。


発電設備下での農機具の使用状況
左:トラクタ 右:ロボット芝刈機(電動:太陽光発電の電力を使用)(写真提供:静岡県)
発電設備下での農機具の使用状況
上:トラクタ 下:ロボット芝刈機(電動:太陽光発電の電力を使用)(写真提供:静岡県)
営農型太陽光発電と
農作物との実証結果
ブルーベリーとキウイフルーツでは、遮光率が30パーセント程度において、また茶では遮光率が50パーセント程度でも、開花や収穫の時期に変動があるものの、収量や品質への影響はないことが明らかになりました。
また設備の設置によって日陰ができ、特に夏場の作業環境が改善されたこと、茶では、凍霜害が発生しにくくなったり、キウイフルーツでは、風雨に当たりにくくなったことで果実軟腐病や傷、汚れ果が減少するなど、発電機を設置したことによる効果も見られたそうです。


営農型太陽光発電で生産されたブルーベリーとキウイフルーツ(写真提供:静岡県)
一方で、支柱の配置や間隔を作業の際に支障がないように設計したり、品目によっては枝がパネルを覆うことで発電の効率が低下しないよう、管理を徹底することが必要であることなども明らかになりました。
再生可能エネルギーの
現状と展望

2019年度の発電電力全体に占める再生可能エネルギーの割合は、2010年度の9.5パーセントから18パーセントへと大きく上昇しており、2030年度には36パーセントから38パーセントへを目指し、さらなる普及が期待されます。今後、農山漁村への再生可能エネルギーのさらなる導入にあたっては、地域の農林漁業の発展や、国土の保全機能などの農山漁村が持つ重要な機能の発揮に支障をきたさないよう、地域の方々の理解も得ながらその導入を進めていくことが重要です。
今回教えてくれたのは・・・
(国研)
農業・食品産業技術総合研究機構
(農村工学研究部門)
我が国の農業と食品産業の発展のため、基礎から応用まで幅広い分野で研究開発を行う機関。
全国各地に研究拠点を配置して研究活動を行う。
静岡県 経済産業部
農業局農業戦略課
静岡県の農業の達成すべき目標を明確化し、目標の達成を管理するとともに、革新的技術の開発の支援や現場実装の促進、新たな農業技術の速やかな普及を通じて、同県の農業の振興に取り組む。

この記事のPDF版はこちら
(PDF : 2,039KB)

-
自然の恵みを活かす!
再生可能エネルギーを知る -
バイオマス発電で実現!
エネルギーの地産地消で
まちを元気に! -
再生可能エネルギーで目指す
持続可能な農業
~営農型太陽光発電編~ -
再生可能エネルギーで目指す
持続可能な農業
~木質バイオマス発電編~
編集後記
「農林水産省のWebマガジンなのに、再生可能エネルギーの特集?」と、最初は疑問に感じた方も多いことと思います。しかし、最後まで読んで頂いた方は、再生可能エネルギーと農林漁業が深く関わりがあることを実感できたのではないでしょうか。最近頻繁に耳にする再生可能エネルギーという言葉ですが、その特徴や、導入によるさまざまな効果についても、本特集をとおして理解を深めて頂ければ幸いです。さて、次回以降は、再生可能エネルギーを活用した循環型の地域づくりやこれからの農業について、事例を交えて紹介しますので、お楽しみに!(広報室AY)
お問合せ先
大臣官房広報評価課広報室
代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449