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農林水産省

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  • aff01 JANUARY 2022
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いま各地でおきている鳥獣被害を考える

写真提供:タウンニュース秦野版

大切に育てた農作物や長い時間をかけて育まれた豊かな森林が、野生鳥獣に食べられてしまうなどの被害が日本各地でおきています。今回はその状況と、特に被害が大きいシカ、イノシシの生態、さらに鳥獣による被害が発生する要因などについて探ります。

野生鳥獣による
農作物や森林被害の状況

グラフ:野生鳥獣による農作物被害(令和2年度)

野生鳥獣による農作物被害額は、2013年頃から減少傾向にあるものの、ここ数年は横ばいが続いており、2020年度の被害額は約161億円になります。そのうちシカとイノシシによる被害額が約63パーセントを占めています。また被害額だけでなく、営農意欲の減退や離農などにも大きな影響を及ぼしています。

グラフ:野生鳥獣による森林被害(令和2年度)

野生鳥獣による森林被害面積は、2020年度で約5,700ヘクタールになります。そのうちシカによる被害が約73パーセントを占めています。

野生鳥獣の生態を知ろう
~シカ、イノシシ編~

野生鳥獣による農林水産業や自然環境への被害が問題となっています。
今回はシカ、イノシシについて、その生態や習性などを詳しくみてみましょう。

シカ

草食性でさまざまな種類の植物の葉や樹皮などを食べます。
繁殖力が強く、栄養状態が良ければ、メスは毎年5、6月頃に1頭の子を出産します。 妊娠期間は約224日です。
通常、メスは血のつながりがなくてもメスだけの群れで子を連れて行動します。オスは単独、またはオスだけの群れをつくることが多く、繁殖期にはハーレムと呼ばれる一夫多妻制の群れをつくることが知られています。
脚には蹄(ひづめ)があり、足跡として細長い跡が2つつきます。その後ろに「副蹄(ふくてい)」という小さな蹄もありますが、付いている位置が高いため、足跡には残りにくく、副蹄の跡の有無でイノシシと区別ができます。

上段:ニホンジカの脚(蹄の様子)、中段:足跡、下段:糞

日中は森林に、夜間は人里に下りますが、慣れると日中も姿を見せるようになります。警戒⼼の強い動物で、危険を感じると「ピイッ」という鳴き声を出して、仲間に危険を伝えます。助走なしで1.5メートル程度を跳ぶことができますが、柵は下からくぐることが多いとされています。

上あごに切⻭と呼ばれる前⻭がないため、上あごと下の⻭で植物をはさみ、ちぎり取るような食べ⽅をします。農業被害に加えて、シカの生息密度の⾼い地域では森林被害も発生していて、シカが口の届く⾼さの草木を食べつくしてしまうディアライン*と呼ばれる状態ができるなど、生態系にも影響をおよぼしています。

*ディアライン:シカの食害によって作られる植生上の線。シカの背丈に沿って、食べられたところ(下草や木の葉がなくなったり、皮を剥かれたりしている)があらわになっている様子。

上:ブロッコリーの食害
下:植栽木(スギ若齢林)の食害(一部にディアラインが見られる)

防護柵の設置、生息環境の管理、捕獲による個体数の調整からなる総合的な対策が基本です。その他、森林被害対策として、ネット巻き、単木防護資材などによる対策も行われています。

主にシカ用の防護対策の事例

上:電気柵(写真提供:長野県小諸市)
下:侵入防護対策
1 金網柵 2 箱罠 3 樹皮への防護ネット巻付け

イノシシ

主に植物を中⼼とした雑食です。繁殖⼒が強く、毎年4月から6月頃に平均して4、5 頭を出産します。 妊娠期間は約120日です。
成長したオスは単独で⾏動し、メスは⾎のつながりのあるものと小さな群れをつくります。嗅覚がすぐれ、鼻先だけで50キログラムから60キログラムのものを持ち上げる力があるとされています。シカと同じように脚には蹄がありますが、シカよりも太く、やや湾曲した2つの蹄の跡がつきます。また、泥のようなところで踏み込んだ場合には、その後ろに「副蹄(ふくてい)」の小さな跡が2個つくのが特徴です。

上段:ニホンイノシシの脚(蹄の様子)、中段:足跡、下段:糞

基本的に昼間に⾏動しますが、⼈⾥周辺では人を警戒して夜間にも活動します。学習能⼒が⾼い動物で、周辺環境に合わせて⾏動を変化させることも多くあります。助走なしで1メートル程度の跳躍ができ、柵は足を折り曲げて下からくぐることが多いとされます。また、寝屋と呼ばれる休息場所、出産床を作ることもあります。ヌタ浴び、ヌタウチと呼ばれる泥浴びと、木にからだをこすりつける木擦りという行動を行います。

イネや果樹、野菜などのほとんどの作物で被害が発生します。農作物を食べるだけではなく、踏みつけや掘り起こし被害も発生しています。

上:水田でのヌタ浴びの被害
下:大豆の踏みつけ及び食害

防護柵の設置、生息環境の整備、捕獲による個体数の調整からなる総合対策が基本です。電気柵の設置については、鼻や腹、足の裏以外は太い体毛に覆われていて電気柵の電気が通じにくくなっているので、体毛が生えていない鼻の高さに合わせて設置する必要があります。

主にイノシシ用の防護対策の事例

上:侵入防護柵(写真提供:長野県小諸市)
下:ワイヤーメッシュ柵

どうして鳥獣被害が
おきてしまうの?

1

何気なく放置している
作物などが
野生鳥獣の
エサになっている

収穫しないままの果実や、農作物の収穫残渣、収穫後のイネのひこばえ(収穫後のイネの株から生えてくる再生したイネ)など、何気なく放置している作物や植物が、野生鳥獣のエサになっていることがあります。

アイコンをクリックして詳しい説明を読んでみよう

1 2 3 4
1

イネのひこばえや収穫物が野生鳥獣のエサとなってしまう

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2

収穫しないままの果実が野生鳥獣のエサとなってしまう

閉じる

3

食品残渣や墓に置かれたお供えものなどが野生鳥獣のエサとなってしまう

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4

道路の法面(のりめん)や畦(あぜ)などの雑草が野生鳥獣のエサとなってしまう

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2

野生鳥獣が
隠れられる場所がある

雑草や草木が生い茂り、見通しの悪い場所は、動物の隠れ場所やエサを食べる場所になってしまいます。また、動物が人に姿をさらすことなく農地にアクセスできる環境を作ることにもなります。藪の刈払いや間伐などの対策を行い、明るく見通しの良い環境をつくることが大切です。

上下:環境整備の様子 (樹を切って明るく、見通しの良い環境をつくる)
(写真提供:長野県小諸市)

3

柵が正しい方法で
設置されていない

柵を設置する際に、囲い⽅が一部分であったり、柵と地面の間に隙間が空いていたりすると、防護柵としての機能が発揮できません。また、電気柵の場合には、通電の良い場所への設置や電圧の管理など、正しい設置と適切な管理が必要です。

イノシシに侵入され折れ曲がったワイヤーメッシュ柵

4

加害個体を
捕獲できていない

野生鳥獣が増えすぎた地域や、集落近くに定着してしまった地域では、それらの鳥獣を捕獲する対策も行われます。被害が発生している集落に近い場所で、被害の原因となっている「加害個体」を捕獲することが有効です。まずは防護柵でしっかり守り、それでも侵入する個体を捕獲することが効果的です。
(*野生鳥獣は「鳥獣の保護及びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」で保護されており、許可を得ずに捕獲することは出来ません。)

対策事例

ICT捕獲機材
1 画像の送信や、わなの遠隔操作を管理する装置
2 動物の接近を感知するセンサー
3 装置に電力を供給する充電池とソーラーパネル

イノシシの学習能力を知る実験

イノシシは学習能力が高い動物です。そんな特徴を裏づける実験結果があります。

4色のコーンの画像

4色のコーンを用意して、その下にエサを隠し、コーンを転がすことでエサを食べることができる仕掛けをつくりました。この実験装置にイノシシを入れると、イノシシは手当り次第にカラーコーンを倒してエサを食べていきます。
次に、4色のコーン全てにエサが入っているものの、青のコーンを倒した時にだけエサが出てくる仕組みに変更して、再び実験装置にイノシシを入れます。イノシシは今までどのコーンを倒してもエサが食べられていたのに、そうではなくなったことにイライラした様子をみせます。

イノシシの行動の画像

この実験を何度か繰り返していくと、イノシシの行動に変化が現われます。コーンを倒しては観察を繰り返したイノシシは、青のコーンを倒した時にだけエサが出てくるこの仕組みを理解し、最終的には実験装置に入れると青のコーンだけを倒すようになります。
このように学習能力の高いイノシシから農作物を守るには、まず集落にエサとなるものがあることを学習させないことが重要といえるでしょう。

画像提供:農研機構
NAROchannel https://www.youtube.com/watch?v=RxGoSXm9onEより転載

今回教えてくれたのは・・・

国立研究開発法人
農業・食品産業技術総合研究機構
畜産研究部門

良質で安全な畜産物の生産向上と畜産資源の有効利用・自給率向上をめざし、草地・飼料作物の生産から家畜生産および 家畜排せつ物の処理・利用まで、畜産に関する研究を一体的、総合的に推進しています。

写真提供:記載しているもの以外は全て農研機構

地域を守る鳥獣対策

編集後記

駐車場に車を停めて外に出たら、すぐ横に大きなシカがいてとても驚いたことがあります。北海道での出来事です。私が住んでいる地域でもハクビシンなどによる被害の話は聞くのですが、その動物の姿を近くで見たことはなかったので(動物が夜行性で目にする機会がなかっただけなのかもしれませんが)人と動物の距離の近さに驚きました。 2021年9月配信のaff連載「大学農系学部に潜入!」では、長野県小諸市の二ホンジカによる被害について紹介しています。バックナンバーページから是非ご覧ください。https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2109/univ01.html(広報室KM)

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大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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