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農林水産省

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  • aff03 MARCH 2022
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オールジャパンで取り組む 日本産ブランド産品の魅力を世界へ伝える 日本産食材の海外へのプロモーション

写真:南部美人

美味しくて高い品質を誇る日本産食材。その魅力をより多くの海外の消費者に届けるために欠かせないのが、それぞれの国のニーズを踏まえたプロモーションの取り組みです。今回は、近年、海外への輸出が増加している日本酒を事例として、岩手県二戸市の蔵元「(株)南部美人」と、日本産食材のオールジャパンでの海外プロモーションを目指して設立された「JFOODO(ジェイフードー)」のそれぞれが行ってきたプロモーションの取り組みに迫ります。

日本酒の魅力を
岩手から世界へ!
「南部美人」の挑戦

写真:南部美人イメージ

1902年創業の岩手県二戸市の「(株)南部美人」は、海外において日本酒の魅力を広めるため、20年以上にわたって日本酒の輸出に向けた活動を精力的に行なってきました。今回は、同社の社長であり、海外輸出を志す蔵元の団体である「日本酒輸出協会」の立ち上げのメンバーでもある久慈浩介さんに、日本酒の海外に向けたプロモーションの取り組みについて伺いました。

今回教えてくれたのは・・・

プロフィール画像

(株)南部美人
代表取締役社長

久慈 浩介 さん

1902(明治35)年に創業の老舗の酒蔵。2013年に代表取締役に就任。日本酒の海外への輸出や新たな醸造技術の向上、さらにその技術を活かしたリキュールの可能性を広げる活動に取り組む。同社は、平成29年度輸出に取り組む優良事業者表彰において、食料産業局長賞を受賞。

Q1

日本酒の海外輸出に取り組んだ
きっかけを教えてください。

A1

高校三年生の時にアメリカに1ヶ月留学をした際、日本の文化や食材が現地でとてもリスペクトされていたのを目の当たりにし、それまではまったく別の進路を検討していましたが、家業である日本酒の醸造に目が向きました。大学を卒業し実家に戻った当時、国内は地酒ブームで盛り上がっていたものの、単体で輸出できる体力がある蔵元はまだ少なく、大量生産を行うことができる醸造メーカーのみが輸出している状況でした。大きな転機となったのは、1997年に島根県と大阪府の蔵元にお声がけいただき、「日本酒輸出協会」の発足に携わる機会を頂いたことです。海外輸出を目指す蔵元が共同でプロモーションを行うことを目指して結成された「日本酒輸出協会」での活動は、今の南部美人の海外向けプロモーションの礎にもなっています。

コロナ禍以前は久慈社長自らが海外に出向き、商談に応じることも多かった。

Q2

日本酒輸出協会の発足当初、
どのような活動をされて
いたのでしょうか?

A2

ありがたいことに、発足してすぐに、ジャパン・ソサエティー(日本の伝統文化をニューヨークおよび世界の人々に伝えることを目的とした全米随一の規模を誇る日米交流団体)から試飲会を開催してほしいという希望がありました。自分たちで運べる最大限の日本酒をアメリカへ運び、講演と試飲会を行なったのですが、これが驚くほどの大盛況で。日本在住のアメリカ人日本酒ジャーナリストであるジョン・ゴントナー氏(現・日本酒輸出協会理事)に講演をお願いしたことで、わかりやすく、かつ的確な表現で現地の方へ日本酒の魅力を伝えることができました。このときの反応が世界中に広がり、香港、ロンドン、アメリカ各地からも声がかかり、発足から5年ほどで各国を回りました。

岩手県二戸市にある南部美人本社。

Q3

日本酒の海外での認知がすすんだ
きっかけとなる出来事について
教えてください。

A3

クールジャパン戦略の中で、日本酒を「國酒」のひとつとして、政府一丸となって世界に向けて発信するようになったことは大きなきっかけでした。海外で試飲会を行うときにも多くの取材が入るようになりましたし、様々なレセプションや外交パーティーで各国大使が集まるときには日本酒で乾杯されており、日本酒を認知してもらえる重要な機会になっています。

毎年、11月から翌年5月にかけて仕込みが行われる。

Q4

海外での新たな販路拡大に向け、
どのような取り組みを行って
いますか?

A4

人種や宗教を超えて日本酒を飲む層を広げるために、コーシャ(ユダヤ教の食事規則)認証や、ヴィーガン(完全菜食主義)の国際認証を取得しました。コーシャ取得後は、エミレーツ航空やエティハド航空(アラブ首長国連邦)の機内酒としても採用されました。 また、毎年行われているインターナショナルワインチャレンジ(IWC)でグランプリ獲得を目指して酒質向上に向けた改革をすすめ、2017年度に同大会で「南部美人特別純米酒」が“チャンピオンサケ”を獲得しました。世界最大規模・最高峰とされる酒類のコンペティションで、国際的評価をいただいたことは輸出拡大をする上で大きなアドバンテージとなっています。

2017年に「南部美人特別純米酒」が「チャンピオンサケ」獲得した際の授賞式の様子。同酒は、二戸産オリジナル酒造好適米「ぎんおとめ」と、折爪馬仙峡の清らかな伏流水で作られている。

Q5

輸出を拡大する上での課題が
あれば教えてください。

A5

現地醸造のものが増えている今こそ、それらと差別化を図るために、業界全体で「メイドインジャパン」の価値をもっと訴求していくべきだと考えています。日本で生産された米を原料として、日本国内で醸造された清酒のみが「日本酒」と名乗れるのですから、海外で醸造された「SAKE」との差別化をしていき、その優位性をもっと生かしていきたいと考えています。そこで、まずは自社の取り組みの一つとして、「南部美人」では裏のラベルに日の丸国旗を入れて、「メイドインジャパン」を一目瞭然にしています。 一方で、日本酒全体に対するイメージ向上のために、海外で醸造された「SAKE」の品質を向上させることも課題です。その一環として、海外に向けた醸造のWEBセミナーも開催しています。

海外では必ず原材料の産地や詳細を問われるとのこと。南部美人では、主に地元岩手県産の米を使用している。

Q6

日本酒の輸出拡大のために、
現在取り組んでいることや、
今後の目標を教えてください。

A6

アメリカでは輸出拡大に成功していますが、ヨーロッパではなかなか苦戦しています。これはワインを飲む文化が影響していると考えられるのですが、それを打破すべく、今はヨーロッパ、特にフランスのトップソムリエに日本酒を知ってもらおうと活動をしています。香りや味に敏感なソムリエは、日本酒の良さをわかってくれる人も多く、スパークリング日本酒などに興味を持ってくれるケースも増えています。また、ヨーロッパでは自然に近い形で醸造されているワインが好調なこともあり、日本酒に酸化防止剤(SO₂)が入っていないことをもっと広めた方が良いとのアドバイスももらい、最近では「NON SO₂」を表示するようになりました。一言で海外輸出といっても、アメリカとヨーロッパでは、輸出拡大に向けた戦略は異なります。それぞれの国の風土や食文化に合わせたプロモーション方法を常に考え、自社だけでなく日本酒業界全体の輸出拡大を目指せるよう、その道を切り拓いていきたいと思っています。

)本社脇にある蔵の中の井戸からは折爪馬仙峡の伏流水が湧き出ている。
)洗った米を「甑(こしき)」という蒸篭のようなものに入れて蒸しあげ、醸造する日本酒の種類に合わせた温度まで冷却し、仕込みに入る。

オールジャパンで
日本産
農林水産物・食品の
プロモーションを

JFOODO(日本食品海外プロモーションセンター)は、日本産農林水産物・食品のオールジャパンでの輸出拡大を目指したプロモーションの専門機関として、2017年に(独)日本貿易振興機構(JETRO:ジェトロ)内に創設された組織です。今回は、JFOODOがこれまで行ってきた日本酒のプロモーションに向けた取り組みに迫ります。

今回教えてくれたのは・・・

プロフィール画像

日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)
海外プロモーション事業課 課長

武田 三範 さん

国内大手製造業、外資系大手小売業にてマーケティングコミュニケーション、新規事業開発、海外営業に従事。2017年にJFOODOへ参画。

Q1

JFOODOの役割について
教えて下さい。

A1

JFOODOは、海外消費者向けの日本産農林水産物・食品のブランディングを専門にしている機関です。各国の市場・消費者・競合品を分析し、プロモーション戦略を立案し、各事業者がそのプロモーションに参加できる場を提供しています。このプロモーションは、現地からの情報、文献、関係団体との意見交換や、前年度までのプロモーションのPDCAを踏まえて立案します。

「自社にふさわしい販路をJFOODOのプロモーションをきっかけに見つけてほしい」と語る武田さん。

Q2

日本酒に関して行ってきた
プロモーションについて
教えてください。

A2

日本酒は海外では和食を食べるときに合わせるお酒、というイメージが強く、和食を食べる時以外には飲んでもらう機会が多くありません。和食を食べる機会自体も少ない海外で、どのように伝えたらもっと飲んでもらえるか、と考えた結果、まずは、「魚介類といえば日本酒」という連想関係をつくることにフォーカスしました。「魚介類といえば白ワイン」というイメージがありますが、「日本酒のうま味成分が魚介類のうま味を増幅させる」、「白ワインのように生臭さを発生させる原因となる鉄分を含有せず、さらに魚介類の持つ生臭さをマスキングする効果がある」という科学的知見を活用しながら、「魚介類に最も合うアルコール飲料は白ワインではなく日本酒」というポジションを確立するための取り組みを行っています。

Q3

プロモーションの具体的な
取り組みについて
教えてください。

A3

例えば、ニューヨークでは2020年に、コロナ禍でも人と人が接触することなく料理の受け渡しができるフードロッカーを活用した「Restaurant UNLOCKEED TO GO」という、魚介類の料理を詰めた“BENTO BOX”と日本酒のペアリングを試してもらえるイベントを行いました。
利用者は事前に専用サイトから予約してもらい、スマートフォンでロッカーの鍵を解除し、“BENTO BOX”を取り出し、合わせて日本酒5銘柄のうち1銘柄を選び、そのペアリングを楽しんでもらうというものです。
その際に、どれだけうま味が増幅するのかをスコアで表現したコンテンツも用意し、魚介類を使った料理と日本酒の相性を知ってもらうことが目的でした。また、このとき提供した日本酒にはQRコードつきのネックタグをつけ、それを読み込むと動画で参加事業者の蔵元バーチャルツアーが楽しめる仕掛けも用意しました。これらがSNSなどで拡散されたことで、日本酒と魚介類のペアリング(料理との相性の良さ)を多くの人に知ってもらう機会を創出することができました。

ニューヨークに設置したフードロッカーと、その中に入っているBENTO BOX。

Q4

プロモーションは国によって
変えているのでしょうか?

A4

プロモーションの骨子、例えば日本酒であれば「魚介類といえば日本酒」というコアコンセプトはそのままですが、見せ方や訴求の仕方は各国の食文化や消費者の動向によって変化させています。
例えば、香港はアルコール市場全体に占める日本酒の金額シェアが3パーセントと、他国に比べて高くなっています。ですから、日本酒への理解度は比較的高いと見込み、「いつも食べている魚介類を使った広東料理に合う」という切り口で訴求し、日常的に飲めるお酒だということを伝えています。一方で、中国は和食店が世界で一番多いにもかかわらず、日本酒のシェアが低いこと、中華料理には味つけが濃い魚介類の料理が多いこと、さらにコロナ禍で来日できない状況の中で、和食店で日本気分を味わいたいという現地のニーズをとらえて、「魚介類中心の和食店で日本酒を飲もう」という切り口にして、和食店を訪れたら日本酒を飲むのがおすすめ、という伝え方にしています。

Q5

今後の目標について
教えてください。

A5

JFOODOの名称には、「食の道」を“風土”とともにアピールするという意味合いも込められているのですが、産品が生産されている日本各地の“風土”や背景のストーリーを、客観性を持って見出していき、それをうまく訴求できるようなプロモーションも考えていきたいですね。例えばフランスのワインは、ボルドーとブルゴーニュで明確な特徴の差を出しつつ、フランス産ワインというカテゴリー全体の認知拡大にも成功しています。各事業者が自らの強みを理解して、海外で勝ち目のあるマーケティングを企画・実行することができれば、カテゴリー全体にも波及して盛り上がると思うので、そのきっかけを投じられるような存在でありたいと思っています。

JFOODOのロゴマークは、都道府県の数と同じ47個の「◯」でできています。
これは各都道府県の面積を数値化し、図形化したもの。日本全国が一丸となって、協力し合う様子を表しています。

関係者が一体となった
オールジャパンでの
輸出を目指して
~品目団体の組織化に
向けた取り組み~

先進国の多くでは、それぞれの国の主要な輸出品目ごとに、生産から販売に関わる関係者が一体となって輸出に取り組む「品目団体」を組織し、政府もその活動を支援しています。たとえば、米国では、乳製品、肉、大豆などの品目団体があり、海外事務所も設置しています。米国政府は主要消費国に「米国農産物貿易事務所」を設置して、品目団体の活動を支援しています。
一例として、肉の品目団体である「米国食肉輸出連合会」は、アメリカンビーフやポークについて日本国内でSNSや電車内広告、店頭でのキャンペーン、イベントの実施などを行い、日本での販売の促進を行っています。アメリカンポークをPRする「ごちポ」の広告を見かけた方も多いのではないでしょうか。
日本でも、輸出重点品目について、このようにオールジャパンで輸出拡大に取り組む団体の組織化を推進しています。

おいしさを世界へ 日本産食材の輸出

編集後記

見ず知らずの方々に、そのものの魅力やアピールポイントを正しく、そして分かりやすく伝えることって、本当に難しいことだなと、特に広報の仕事を担当するようになって以来、日々感じています。相手に押しつけるようにぐいぐい伝えても魅力は伝わらないですし、かといって謙遜しすぎるのも良くないですよね。JFOODOの日本酒のプロモーションの取材をとおして、「科学的な知見に基づいて客観的に」伝えることの重要性に改めて気づかせて頂いたような気がします。affを通じて、美味しくて品質の高い日本産食材の魅力を、国内外問わずより多くの人に伝えることができるよう、私自身もさらに精進していきたいと思います!(広報室AY)

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大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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