

品質の高い日本産の農産物は世界から注目を集めています。近年輸出額は増加の傾向にあり、2021年の農林水産物・食品の輸出額は初めて1兆円を超えました。政府は今後2025年に輸出額2兆円、2030年には5兆円を目標として更なる輸出拡大に向けた取り組みを行っています。その取り組みの中で、輸出重点品目(海外で評価される日本の強みがあり、輸出拡大の余地が大きい品目)として、「茶」も選定されています。今回は、日本茶の輸出の状況や輸出事例、世界に向けた日本茶の魅力を伝える取り組みなどを紹介します。
健康志向の高まりと
日本文化の浸透で
緑茶の輸出量増加
この10年間で緑茶の輸出量は大幅に増加し、輸出先の国や地域も拡大しています。この背景には、世界的な日本食ブームや、ヘルシー志向、さらにはお菓子や飲み物のフレーバーとして抹茶の認知が拡大されていることなどがあります。

新型コロナウイルス感染症からの経済活動の回復・在庫の確保などを受け、令和3年の緑茶の輸出額は204億円と、過去最高額を記録しました。

緑茶の輸出実績を形状別で見ると、国により傾向は異なります。全輸出量の約4割を占めるアメリカでは、洋菓子やカフェメニューのフレーバーとして「MATCHA」が広く認知されていることから、抹茶を含む「粉末状の緑茶」の輸出量が多く、一方でEUの一部の国や台湾ではリーフ茶を好む方も多く、「その他の緑茶」の輸出量が多い傾向です。
今回教えてくれたのは・・・
日本茶輸出促進協議会
日本茶の輸出を促進するため平成26年に設立。より多くの国の方々に安全な日本茶を輸出するため、海外でのプロモーションや日本茶輸出先国の残留農薬基準への対応、日本茶の輸出に対応した産地や茶商工業者等の取組支援などを行う。
宇治茶の産地から
日本茶の魅力を
世界へ伝える
宇治茶の産地である京都府和束(わづか)町で宇治茶の生産や製茶を主軸にしながら、それらの輸出や国内外への日本茶の普及活動、日本茶に関する情報発信など、幅広く活動する京都おぶぶ茶苑。今回は同社の取り組みについて、副代表の松本靖治さんに教えていただきました。

宇治茶の産地である京都府和束町にある京都おぶぶ茶苑。
今回教えてくれたのは・・・

京都おぶぶ茶苑副代表
日本茶インストラクター
松本 靖治 さん
ECショップ経営や茶畑オーナー制度、ティーツーリズムの企画・運営を担当。現在は長崎県東彼杵町でもティーツーリズムの基盤を構築中。
同社は、日本茶の通信販売・輸出、オンライン教育部門への参入を通じ、町内ビジネスのDX化推進にも貢献。平成20年から輸出に取り組み、世界116ヶ国に茶葉を直送可能とし、輸出額も900万円(平成27年度)から2,500万円(令和2年度)に増加。これらの取り組みが評価され、第8回ディスカバー農山漁村(むら)の宝アワードにおいて「食ブランド賞」を受賞。
海外に向けて日本茶の魅力を
伝える活動を行っているそう
ですね。
日本の誇るべき文化である日本茶の魅力を世界に伝えるために、さまざまな活動をしています。各国への日本茶の発送や、英語でのECサイト運営などの情報発信をはじめ、新型コロナウイルス感染症拡大以前は外国人インターンの受け入れや、外国人旅行客へのティーツーリズム開催、実際に諸外国へ行って、海外の皆さんと向き合いながら日本茶の魅力を伝える活動も行ってきました。日本茶は116カ国に発送可能で、現在65カ国以上への発送実績があります。

おぶぶ茶苑の敷地内には、茶畑オーナー名が掲示がされており、外国の方の名前も。
また、茶畑オーナー制度という取り組みも行っています。これは、1日50円で茶畑一坪のオーナーになれるという仕組みで、オーナーになると年に4回、その茶畑で収穫したお茶をお送りするほか、茶摘み体験や茶の苗植え体験など、実際に栽培や収穫に参加していただく機会もあります。海外在住の方でもオーナーになっていただくことは可能で、遠く離れていても、会報やホームページ、ブログ、メールマガジンなどで、茶畑の様子や農作業の様子、四季折々の茶畑の風景をお伝えして、日本茶を身近に感じていただけます。

茶畑オーナーになると、海外在住の方にも、季節に一度、お茶と一緒にオーナー通信を受け取ることができる。
どのような国や地域で、
日本茶普及のための活動を
されていたのですか?
2004年から2018年まで、JETRO(日本貿易振興機構)や地元の和束町商工会などの協力をいただきながら、EU諸国やイギリス、アメリカ、台湾などを回りました。現地ではティーソムリエを育成する学校や、日本食レストランなどで日本茶の魅力を伝えるワークショップを開催しました。

2015年スペインのマドリッドでの抹茶のワークショップ参加者と松本さん。
(写真提供/京都おぶぶ茶苑)
例えばイギリスでは、UK TEA アカデミーというお茶のプロフェッショナル育成のための資格認定プログラムを提供する英国の機関で、日本の玉露、抹茶、ほうじ茶、玄米茶などをふるまいながら実施しました。各国のワークショップで日本茶に触れた人たちが、来日した際に当社を訪れてくれたこともありました。

2018年に実施したドイツのベルリン・ティー・アカデミーでの日本茶セミナーの様子。
(写真提供/京都おぶぶ茶苑)
ティーツーリズムや
インターン制度について
教えて下さい。
外国人旅行客の皆さんが茶畑やお茶の生産工場の見学、10種類程度のお茶のテイスティングや、おいしいお茶の淹れ方講座などを4時間程度で経験できるティーツーリズムを行っています。海外の方は旅行中に「どのような経験をしたか」を重要視することが多いので、こういった内容の企画はとても喜んでくれます。

日本茶の淹れ方や作法に興味を持つ外国人も多い。
インターンに参加していただいた方には、観光ビザの範囲内で、共同生活をしながら茶畑での作業を一緒に行ってもらったり、ティーツーリズムのアテンドなども手伝ってもらったりしています。今までで26カ国150人ほどの方が参加してくれて、中にはその後ここで働くようになった方もいます。

おぶぶ茶苑の壁には、世界中に広がる「OBUBU FAMILY」(インターン参加者)の写真が貼ってある。
海外の方は日本茶の
どのような部分が
魅力的と感じるのでしょうか?
イギリスからのインターン生に日本茶の印象を聞いたところ「ファッショナブル」という答えが返ってきます。彼女たちは紅茶の文化を「オールドファッション」ととらえていて、逆に日本茶や抹茶は新しいイメージなんです。これは日本茶が「蒸し」て作られるため、色や香りが紅茶とは全く異なるので、日本人が考える日本茶のイメージとは大きく異なると感じています。

四方に広がるこの茶畑を見て、感動する外国人観光客も多いとのこと。
日本茶の魅力を更に広めていく
ために、
どのような活動を
していきたいですか?
新型コロウイルス感染症拡大により、ティーツーリズムがなかなか実施できていませんので、海外にいながら日本茶を知っていただく機会を作っていきたいですね。日本茶のコミュニティを海外で作ったり、日本茶に関することを学ぶプログラムをオンラインで受けられるようなことなども考えています。

販売されているお茶はすべて英語での説明文が付いている。
また、日本茶の可能性を広げるために、日本らしいフレーバーも面白いですよね。一例として、ここで働くフランス人スタッフが考案してくれた「桜ミントハーブティー」は、茶畑の近くに植っている八重桜の花と、敷地で自生しているミントを乾燥させて作っています。どうしたら海外の方に興味を持ってもらえるかを考えながら商品作りをしていきたいと思っています。

桜ミントハーブティー。飼育しているヤギは除草に大活躍してくれているがミントだけは食べないという。
日本茶の輸出
茶の栽培から製造、系列会社(株)和香園での販売に至るまで一貫経営を行なう、鹿児島県志布志(しぶし)市の鹿児島堀口製茶(有)。同社では、独自の農法により化学農薬に頼らない、輸出に対応した茶葉の生産や、海外での抹茶需要の高まりに対応するため碾茶(てん茶)工場を新設し、高品質な茶の生産体制を構築するなど、幅広い取り組みが行われています。今回は、そうした取り組みについて、同社の堀口大輔さんに教えていただきました。

地元の茶の生産者とパートナーシップを構築しながら、志布志全体で日本の茶業を盛り上げている。
(写真提供/鹿児島堀口製茶(有))
今回教えてくれたのは・・・

鹿児島堀口製茶(有) 代表取締役副社長・
(株) 和香園 代表取締役社長
堀口 大輔 さん
大学卒業後に(株)伊藤園で新産地育成事業に携わり、2010年に鹿児島堀口製茶(有)へ。2018年よりお茶の生産を担当する同社と、販売を担当する(株)和香園で代表取締役を務める。
お茶の輸出をはじめたきっかけを
教えてください。
鹿児島県出身でイギリス在住の方の息子さんが食品卸売に関わる仕事をされていて、2007年にその息子さんからOEMで商品の生産を依頼されたのがきっかけでした。年間で数キロでしたが、深蒸しのリーフ茶や、緑茶粉末などをイギリスへ送り、それがロンドンにあるジャパンセンターという日本食材店に卸されました。

自社茶園120ヘクタール、系列茶畑180ヘクタールの直営茶畑で安定的な生産を行う。(2022年2月時点)
(写真提供/鹿児島堀口製茶(有))
主な輸出先や、主要な輸出商品を
教えてください。
お茶を販売している(株)和香園の輸出先として輸出量が一番多いのは、EU諸国とイギリスです。イギリスからは、カフェでドリンクに使うための抹茶や、粉末タイプの緑茶の注文が多いです。フランスにはリーフのお茶の輸出が多く、現地のお茶屋さんに卸し、一般のお客様や飲食店向けに販売するケースが目立ちます。また、ドイツからは、リーフと粉末どちらの注文もあり、こちらはメーカーからのOEMの希望があったり、一般のお客様へ販売しているお茶屋さんへ卸すケースがあります。

海外での商談会の様子。
(写真提供/鹿児島堀口製茶(有))
どのような点で輸出先から評価を
得ているのでしょうか?
堀口製茶では風圧と水圧で害虫を吹き飛ばす駆除機や、雑草を蒸気で除草するマシンを開発し、農薬や除草剤に頼らないお茶づくりを目指してIPM(総合的病害虫・雑草管理(Integrated Pest Management))を推進してきました。
また、有機JAS認証やASIA GAP、お茶の製造環境の最適化などに関してFSSC22000、レインフォレスト・アライアンス認証などの取得に積極的に取り組んできました。
輸出に際して厳しい残留農薬基準があるEU諸国からは、それに対応できるお茶に対する問い合わせが多いので、自分たちがこだわってきたこうした取り組みが、輸出先にも響いていると感じています。

水と風で害虫を吹き飛ばす「ハリケーンキング」、雑草を蒸気で除草する「スチームバスターSL」などのオリジナルマシンを運用中。
(写真提供/鹿児島堀口製茶(有))
コロナ禍で輸出の動きに
何か変化はありましたか?
6年ほど前から海外の展示会に出展していましたが、コロナ禍でそれが叶わなくなり、代わりにSNSなどを使った問い合わせが増えています。サンプルを送って、オンラインで打ち合わせというケースは多くなっています。
今後どういった取り組みをされていく予定ですか?
いまはカフェのドリンクやスイーツのフレーバーとして海外で「MATCHA」の認知が広がり抹茶人気は高まっていますが、緑茶粉末やリーフ茶を含めたお茶全体の魅力をもっと発信していきたいですね。
そのため、ここ3年くらいは、良いお茶ができたら国内外問わずお茶の大会(コンテスト)に出品するようにしています。客観的に「日本茶はおいしい」という評価を得ることで、興味を持ってもらうことができ、取り扱ってもらえるところが多くなると考えているからです。
また、切り口の一つとして、「お茶は食べられる」という視点から、弊社の横には「茶音の蔵(さおんのくら)」という創作茶膳レストランも併設しています。コロナ禍以前には海外のお客さまもいらしていて、目新しさとおいしさで喜んでいただいていました。レストランは一例に過ぎませんが、どうしたらお茶の魅力をもっと海外に伝えられるか、どう訴求したら海外で取り扱われるお茶の種類が増えるかを、日々考えていきたいと思います。

同社のレストランで提供されるコース料理には、お茶がたっぷり使われている。
(写真提供/鹿児島堀口製茶(有))

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日本茶の輸出
編集後記
緑茶の輸出額も200億円を超えました。グラフで見てみると、特にここ10年は急角度で伸びていることに驚きました。お茶に限らずですが、日本の農産物の良さをさらに多くの方々に知ってもらえたらうれしいですね。
次回のaffは、Webデザインを少しリニューアルして6月から発信していく予定です。引き続きご愛読のほどよろしくお願いいたします。ご意見、ご感想もお待ちしています!(広報室SD)
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