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aff 2022 JUNE 6月号
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廃校再生プロジェクト

廃校再生プロジェクト

第1回 都市交流施設・道の駅 保田小学校[千葉県安房郡] 第1回 都市交流施設・道の駅 保田小学校[千葉県安房郡]

懐かしい小学校の
雰囲気が人を呼び
地域活性化の起爆剤に

千葉県安房郡鋸南(きょなん)町にある「都市交流施設・道の駅 保田(ほた)小学校」は、直売所・飲食店・宿泊所・日帰り浴場などを備えた複合施設です。2014年3月に廃校となった町立保田小学校を転用し、2015年12月にオープンしました。随所に残る元の小学校の雰囲気が「懐かしい」とメディアやSNSで話題になり、町外からの来訪者を大いに呼び込むことに。逆転の発想で、廃校を地域経済の活性化につなげた取り組みに迫ります。

地域と都市の
交流拠点をつくる

施設の目の前に広がる里山ののどかな風景

房総半島の南西部に位置する鋸南町は、温暖な気候と豊かな自然に恵まれた里山です。主要産業は農業と水産業。農業は特に食用菜花と日本水仙の栽培が盛んです。近年は人口減少と少子高齢化が進み、農林水産業の後継者不足や地域の活力低下が深刻な課題となっています。明治時代に開校した歴史ある保田小学校も、そうした町の趨勢に伴い廃校が決まりました。
学校跡地については、介護施設をつくるのはどうか、校舎を壊して商業施設をつくった方がよいのではなど、さまざまな意見が出されましたが、最終的に採用されたのは、都市部から人を呼び込む拠点にしようという“攻め”の活用案でした。地域を元気にするにはどうしたらいいかを自由に話し合う懇話会で住民から出たアイデアがきっかけとなり、本事業に着手したのです。

旧体育館が大空間の直売所「きょなん楽市」に

「地域住民と都市部からの来訪者が交流する『たまり場』をつくるというのがプロジェクトの原点。名称に『都市交流施設』が付くのはこのためです。交流を通して鋸南町の魅力を知ってもらいたいという想いが込められています」。そう話すのは、施設の運営責任者で校長兼駅長の肩書を持つ大塚克也さんです。
幸い、保田小学校があるのは高速道路のインターチェンジからほど近い県道沿いという交通の要所。東京都心からアクアライン経由で1時間半弱とアクセスが良く、多くの人に来てもらいやすい立地です。

地元の新鮮な朝採れ野菜を販売

「この場所で野菜や花など町の特産品を直売すれば、農家の経営が安定します。飲食店を設ければ、来訪者にくつろいでもらえ、雇用も生まれます。飲食店で使用する食材は、もちろん地元の農産物や魚介類が中心です。さらに宿泊機能まで備えれば、長く滞在する分、町を回遊してもらえるでしょう。それなら道の駅にも登録できるのではないかと、プロジェクトの構想が固まっていった」といいます。

小学校の面影を色濃く残し、
ノスタルジーを喚起

旧教室を利用した簡易宿泊所「学びの宿」

「とはいえ、全国には1,200近い道の駅があり、ここ房総半島だけでも12駅がひしめき合っています。人口1万人を下回る小さな町が、ほかと同じような施設をつくっても、すぐに飽きられてしまう。何かユニークな個性を打ち出さなければ生き残れないと思いました」
そこで町が考えたのは、廃校活用の前面アピールです。校舎を取り壊して新たな施設をつくるのではなく、校舎の佇まいをできるだけ残したままリノベーションし、“学校らしさ”を貫くことにしたのです。
この‟わかりやすい”廃校活用のコンセプトは、設計事業者の選定段階より話題を呼び、全国から多数の応募がありました。最終プレゼンは公開で行われ、住民も見学したということです。結果的に都内の5大学と連携する設計チームが、このプロジェクトチームに加わることになりました。

校舎の佇まいがそのまま残っている

困難とされた予算の確保は、農林水産省から約3億円の農山漁村活性化プロジェクト支援交付金(当時)を受けたのをはじめ、国や県からも各種補助を受け、総事業費13億円のうち町の負担は約5億円となったそうです。
グラウンドは広場や駐車場に、体育館は直売所に、校舎1階の教室は飲食店や子どもの遊び場、ギャラリーなどに、2階の教室は簡易宿泊所や音楽室に生まれ変わりました。机、椅子、黒板、ロッカーなど学校の備品も再利用しています。コストの削減になるだけでなく、来訪者に小学生時代を思い出してノスタルジーを感じてもらいたい、という狙いがありました。

備品の再利用はSDGsの観点からも注目されている

旧保田小学校の卒業生でもある鋸南町町長の強いこだわりから、施設名はずばり「都市交流施設・道の駅 保田小学校」に決まりました。とてもキャッチーでインパクトがあります。
2015年12月にオープンすると、“小学校感”満載の面白い道の駅だとメディアやSNSで取り上げられ、休日はいつも駐車場が満車になるほどの盛況に。初年度目標の年商2億7,000万円を半年で達成したのです。

ここならではの体験を提供し、
唯一無二の道の駅に

「里山食堂」の定番メニュー「保田小給食」

懐かしさを感じるのは、校舎や備品だけではありません。「里山食堂」や「Cafe金次郎」といった施設内の飲食店には、味も見た目もかつての給食そのもののメニューがあり、食べていると小学生時代にタイムスリップする感覚を味わえます。
直売所「きょなん楽市」には、100種類以上もの「道の駅 保田小学校オリジナル商品」がずらり。施設が企画開発したお菓子や文房具は、ここでしか買えないため、多くの人がお土産用に買い求めるそうです。オリジナル商品目当てのリピーターも多いといいます。

ピーナッツやびわなど、地元の農産物を使ったお菓子が並ぶ

毎朝、営業開始の15分前から広場で行われるのは、大塚さんによるラジオ体操です。「最初は宿泊客のために始めたのですが、そのうち地元のお年寄りが集まってきて、車で立ち寄った方も参加してと、人数が増えていきました。みんなで一緒にラジオ体操をするという良い交流の場が生まれています」
9時になると懐かしい学校のチャイム音が鳴り、続いて旧保田小学校の校歌が流れ、校旗が掲揚されて一日が始まります。

毎朝、営業開始時間に校歌が流れる

こうしたさまざまな工夫が功を奏し、オープンから7年半を経た現在も賑わいは続いています。大塚さんによると「年商約6億円、年間来場者数は約100万人。2019年の台風15号で施設が大きな被害を受けるなど大変な時期もありましたが、コロナ禍でも比較的落ち込みは少なく営業しています。混沌とした今のような時代に、ノスタルジーを感じることは心の安らぎにつながるのかもしれません」

地域住民からも
愛される場所に

住民のアート作品を展示する「まちのギャラリー」

また、施設での雇用者数は約60名、施設へ農産物などを出荷する生産者数は約250名、施設内で出店している業者数は約20社と、多くの方がこの施設を活用し、地域経済の活性化に大きく貢献しているといえます。
「まちのギャラリー」「まちの縁側」「こどもひろば」「みんなの家庭科室」「音楽室」など、地域住民同士が交流する空間も多彩に用意しています。持続可能な運営を続けていくためには、住民に愛される施設でなければならないという考えからです。

遊具や絵本コーナーがある「こどもひろば」

現在、施設の拡張計画が進められています。「隣接する旧鋸南幼稚園と周辺を改修整備し、既存の都市交流施設にない新たな機能を加えて、地域内外の人々の滞在時間と回遊性を高めようというものです。特徴的なのは、地域の子育て世代が集える育児支援施設が加わること。町の人口減少に歯止めをかけられるのではないかと期待が寄せられています」と大塚さん。
オープン予定は2023(令和5)年夏。廃校活用に続く「廃園活用」の行方からも目が離せません。

都市交流施設・道の駅 保田小学校

今回お話を聞いたのは…

都市交流施設・道の駅 保田小学校
校長兼駅長
大塚克也さん

千葉県君津市出身。流通業を経て、2002年に茨城県の「道の駅いたこ」を立ち上げ、運営責任者を務める。その経験を活かし、「道の駅 保田小学校」でもプロジェクト立ち上げから参画。校長兼駅長として運営責任を担う。

お問合せ先

大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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