

2026年6月号
広がる「中食」


高まる中食需要を支えるため、多くの製造現場では自動化やロボット導入が進んでいますが、さらなる「おいしさ」を届けるため、手作り感や思いやりを大切にする中食もあります。
中食のお惣菜は、かつて「手軽で便利な商品」でしたが、現代では多様なライフスタイルを背景に、日々の食卓を豊かにする存在へと変化しています。忙しい日常の中で調理の負担を軽減するだけでなく、 地域の味を伝え、 家族団らんの時間を支える役割も担うように考えられています。「2025 年版惣菜白書」(日本惣菜協会)によると、「おいしいものが多くなっている」「種類が豊富になっている」と感じている人が多く、消費者の間でもお惣菜の価値が見直されています。また、ふだん家庭では調理しにくい料理や、珍しい料理へのニーズに応える存在としても、その役割を広げています。こうした背景から、企業にとってお惣菜は、店舗のブランド力や集客力を左右する重要な商品となっており、より魅力的な商品づくりに加え、売り場づくりへの工夫がなされています。

広がる惣菜ニーズと多様化するメニュー
前述の惣菜白書の調査によると購入頻度の高いお惣菜は、お弁当やおにぎりなどの米飯類のほか、「鶏の唐揚げ」と「コロッケ」が男女ともに上位に挙がっています。また、お惣菜を選ぶ際の基準は、1位「おいしさ」、2位「価格」、3位「メニュー」の順となっています。中でも「おいしさ」と「価格」は、調理方法や原材料の調達、製造効率の改善など、中食産業が工夫を重ねて満足度を高めている要素と言えます。約6割の人が「種類が豊富になっている」と回答したことからもわかるように、現在の惣菜売り場には特別なスパイスや材料を使用するエスニック料理をはじめ、イタリアンやフレンチ、季節限定や地域性のある商品など様々な商品が並ぶようになりました。味の多様化だけでなく、バラエティ豊かなメニューや彩り豊かな盛り付けによって、売り場全体がより華やかな印象になっています。
「出来立て」や「豊富な品揃え」が価値に
また、惣菜売り場では、「多種多様な商品ラインナップ」や「出来立てのおいしさ」が大きな付加価値となっています。販売者は単に商品を並べるだけでなく、売り場全体を魅力的に見せる演出や、出来立て感を感じられる店舗づくりにも力を入れるようになりました。こうした流れのなか、製造現場では調理を機械化しつつ、人の手による最終仕上げや盛り付け、店頭調理を組み合わせることで、「おいしさ」を高めています。



こだわりのメニューと、ひと手間かけた本格的なお惣菜を提供する人気のスーパーマーケット、(株)成城石井(1927年創業、本社神奈川県)をご紹介します。
1970年代、成城石井は女性の社会進出が進む中、「家事に時間を割けなくなった家庭を応援したい」という思いからお惣菜づくりを始めました。「店内厨房で調理する惣菜コーナーからスタートし、1996年に食材の調達や下処理、調理の一部を専用拠点に集約し、各店舗へ供給するセントラルキッチン方式を導入。業界内でも早い段階から、24 時間セントラルキッチンを稼働し、商品を安定的に供給する体制を実現しています」と話すのは、同社の商品部でお惣菜とデザートのバイヤーを務める渡邉裕子さん。おいしさと効率を両立するセントラルキッチン方式の導入に当たり、調理した商品の質を下げることなく店舗へ配送するため、何度も配送テストを繰り返したそう。また、新しい取り組みとして、家庭でチンして出来立ての味を楽しめるレンジアップ商品を多数開発。いかにおいしく食べてもらえるかを追求しています。こうした取り組みが満足度の高いお惣菜の提供につながっているのです。
1トンのジャガイモを手でむく「ひと手間」
成城石井の 「ポテトサラダ」は、30年以上支持され続けるロングセラー。セントラルキッチンでは、1 日約1トン(約5000個)の茹でたジャガイモの皮むきを、10人ほどのスタッフが包丁やピーラーを使わずに手作業で行っています。同社セントラルキッチン工場長の松永圭さんは、「ジャガイモは冷めると皮がむきにくくなるので、熱々の状態で皮だけをむく。皮がするっとむけるので、実を無駄なく残すことができ、ジャガイモ本来のおいしさを楽しめます。でも、大量のジャガイモを前にすると、『機械化したい』と思うこともありますよ(笑)。工程ごとに役割を見極め、効率化できる部分は機械化しつつ、おいしさにつながるひと手間は残しています」と話します。このように、手作業と機械の役割を見極めることで、おいしさと高い生産性の両立が実現しています。


復刻した人気の「成城石井自家製 マスカルポーネのもっちりイタリアンプリン」。こだわりの味わいが人気。
ファンの熱心な声で人気デザートが復活
現在、成城石井で取り扱うお惣菜メニューは約120種。週3品から4品の新商品を開発しているそうです。消費者ニーズの変化に迅速に対応するには、機械に頼りすぎず、人の手による柔軟な対応が必要となります。例えば、社内外の支持を受けて復刻した「成城石井自家製 マスカルポーネのもっちりイタリアンプリン」。元は四角い形状でしたが、型から抜くときに角がくずれやすいのと、作業に手間がかかることもあり、生産を終了していたそう。しかし、社内外からの声を受け、商品の改良を重ねた結果、丸い形状で復活させたといいます。一般的にスーパーにおけるお惣菜の売上構成比は約1割とされる中、成城石井では2割を超えています。これは、創業当初からの「本物の味を、ひと手間かけて届ける」を守り続けているからにほかなりません。


出来立ての香りや食感を提供するため、半加工・半調理後に各店舗へ配送。地域の味と思いやりのお惣菜を販売する(株)八幡(やはた/ 1966年創業、本社石川県)をご紹介。
70種ものお惣菜を量り売りで提供し、出汁(だし)を活用した地域の味を通信販売で全国へ発信する活動などが評価され、第30回優良外食産業表彰の食文化普及貢献部門・大臣賞を受賞した八幡。同社では、工場ですべてを完成させるのではなく、半調理済み食品や、野菜のカットなど下処理を行った状態で配送。その後、各店舗で揚げる・焼く・和えるといった最終調理を行うことで、出来立ての味を提供しています。同社・製造部長兼工場長の田中正貴さんは、「温かいものは温かい状態で提供することが大切。それが『混ぜる』だけであっても、その工程を店舗で行うだけで味が変わりますから」と話します。「仕込み」と「仕上げ」を分けることで、効率良く、出来立てのお惣菜を提供できるのです。こうした工夫が、店舗ごとの出来立て感や満足度向上につながっています。
出汁へのこだわりが味の基盤
煮物など和惣菜の基本となるのが出汁。同社では、昆布や削り節などの素材にこだわり、丁寧に出汁をとっています。「昆布は利尻。それにいくつかの削り節を合わせて出汁をとっています。利尻昆布を使うからこそのうちの味。工場で素材を用意し、店舗で炊いて出汁をとります。そうすることでより自然な風味を引き出すことができるのです。工場で一括して出汁をとり、冷蔵で運んでいてはこのコクは出せません」と話すのは、同社社長の久保圭子さん。石川県は南北に長く、能登は塩味、加賀はしょうゆ味というように地域によって味の好みが異なるそう。そのため、共通の素材を使い、各店舗で出汁をとったあと、最終調理として地域の好みの味になるよう調整しています。


八幡が展開するお惣菜専門店「八幡のすしべん」では、食べたい量だけ購入できるお惣菜バイキングが人気。
ライフスタイルに合わせたバイキング方式
「お惣菜バイキング」として、様々なお惣菜が量り売りされているのも八幡の大きな特徴です。食べたいものを必要なぶんだけ購入できるため、家族構成やライフスタイルの違いに柔軟に対応できます。「少子高齢化や嗜好の違いにより、必要なお惣菜の量は各家庭によって異なります。そうしたニーズに応えるため、必要量だけ購入できる仕組みを取り入れています」とブロック長の橋場裕さん。そんな同社では、新しい取り組みとしてお惣菜の冷凍自動販売機を試験導入中。店舗の営業時間外でも購入できるようにするほか、未出店エリアへの展開も視野に入れ、より多くの人に八幡の味を届ける仕組みづくりを進めています。消費者ニーズに応じたこうした取り組みは、中食が暮らしに寄り添う存在として、今後さらに広がっていくかもしれません。
中食は単なる便利なサービスではなく、日々の食卓を支える生活インフラとして、その役割を広げています。効率化とおいしさを両立しつつ、均一化だけに偏らず、地域性をどう生かしていくのか模索しながら、中食産業はこれからも暮らしに寄り添っていきます。
イラストレーション=ヤマトアノン
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