
2026年7月号
暑さに向き合う~進む日本の農業~
日本では、長年「寒冷地ならりんごやさくらんぼ」「温暖地ならみかんやびわ」と、地域の気候は栽培する果樹と密接に関わってきました。しかし、地球温暖化によって今後、日本列島の年平均気温が上昇し、気候条件が変化することが予測されています。
これまでの日本の果樹栽培は、寒冷地や温暖地それぞれの気候条件と結びつき、産地が形成されてきました。しかし、近年の温暖化により、その “当たり前” が揺らぎ始めています。果樹の着色不良や日焼け、品質低下はもちろん、「どこでつくることができるか」という問題も見逃せません。果樹は、野菜のように毎年栽培する作物を変えられません。収穫まで数年を要し、長い年月をかけて産地として認知されます。そのため、気候条件の変化は生産者だけでなく、流通や加工産業、さらには地域ブランドにも影響を与える可能性も。栽培適地について考えるうえで、果樹栽培においては、最低気温や土壌条件など様々な栽培環境を考慮する必要がありますが、今回は、「年平均気温」に着目し、栽培適地の変化予測と国内生産地の適応策に迫ります。
温州みかんに見る栽培適地の予測
冬が比較的暖かく、日当たりと排水の良い地域を栽培適地とする温州(うんしゅう)みかん。右図は、年平均気温の変化による栽培適地の変化予測を示したものです。現在、西日本から太平洋側を中心に広がる適地は、2055年までには北へ移動し、内陸部にも広がっていくと予測されています。これは、これまで寒さが制約となっていた地域での栽培の可能性を示唆します。一方で、現在の適地は将来的に高温化し、品質低下や高温障害の影響を受ける可能性があるということも示唆しています。温暖化が進む中、それぞれの地域で、適応策が求められるようになってきているのです。
変わる産地、変わりゆく地域
果樹産地は単なる生産の場ではなく、地域文化や景観そのもの。みかん畑やりんご畑、ぶどう畑は、地域の風景を形成してきました。果樹栽培の変化は、作物だけの問題ではなく、産地・地域・文化の変化として捉える必要があります。こうした中、例えば温州みかんでは、温暖化による着色不良などへの対応として栽培管理の見直しが行われたり、品質低下や高温障害の発生を抑える技術開発、品種開発が進められています。こうした取り組みは、変化する環境に対応しながら、今後も産地を維持・発展させていく上でも重要だと考えられます。さらに、これまで栽培が難しいとされてきた地域でも、新たな果樹産地が形成される可能性があり、実際に、従来品と異なる品目に挑戦する地域も増えてきています。
温暖化によって果樹栽培の適地が変化する中、温州みかんの産地・ 静岡県でも、新たな果樹への挑戦が始まっています。そのひとつが、国産アボカドの産地化プロジェクトです。
今年4月、気象庁は最高気温が40℃以上の日の名称を「酷暑日」と定めました。近年、国内でも顕著な高温が珍しくなく、温州みかんの主産地である静岡県も温暖化の影響を受けています。浜松市では2020年に41.1℃を記録し、当時の国内歴代最高気温に並び、静岡市では2025年に41.4℃と県内最高記録を更新。もはや温暖ではなく、気温40℃超えが現実に起こる高温地域になりつつあります。そこで、静岡県は近年の気温上昇に適応し、かつ今後の国内需要増加が見込まれる新たな果樹品目として「アボカド」に注目し、2025年に「アボカド産地化プロジェクト」を開始しました。国内需要のほとんどを輸入に依存している中、国内のアボカド輸入量は2005年頃の約2万トン規模から増加を続け、2020年前後には、一時8万トン規模まで拡大。需要の高まりを背景に、国産アボカドを静岡県から全国に届け、将来的な産地化を目指した新たな挑戦が始まっています。
温暖化する静岡県で始まったアボカド栽培
プロジェクトを進める静岡県庁農業戦略課の興津(おきつ)敏広さんは、「昨今の温暖化により、みかんでは日焼けや浮皮(うきかわ)が発生するなど果実品質の低下を招いています。特に、浮皮は貯蔵中に腐敗しやすく、出荷量に影響を及ぼします。そこで、温暖化を新たな可能性と捉え、これまで難しかった熱帯果樹も栽培できるのではないかと考え、既存品目を補完する作物としてアボカド栽培に着手しました」と話します。他に、マンゴーやバニラビーンズなども候補に挙がったようですが、実際に農業従事者の畑の隅で育てられているアボカドを見て、静岡県の気候で育てられると確信したそう。また、「森のバター」とも言われるアボカドはオレイン酸たっぷり。“もっとも栄養価の高い果物” としてギネス世界記録に認定されています。メキシコやペルーからの輸入品が国内流通の大半を占めている今だからこそ、国産品の需要が見込めると期待します。
新たな果樹生産の可能性を象徴する
静岡県産アボカド
ただ、アボカドが成木になるまで5年はかかります。現在、静岡県では6軒の協力農家のもと、アボカド栽培を行っている段階で、まだまだ道半ば。「プロジェクト2年目となった今、ようやく課題が見えてきたところ。どの品種が適しているのか研究中です」と興津さん。国産アボカドは完熟状態まで樹上で育てられるため、輸入品に比べて大玉で濃厚な味わいが特徴とされます。現在、和歌山県や愛媛県、佐賀県などで産地化が進み、国内のアボカド栽培面積は、2015年から2023年にかけて2ヘクタール台から40ヘクタール近くまで拡大。収穫量が伸び続ける中、静岡県の取り組みは、温暖化時代における新たな果樹生産の可能性を示しています。
りんごの補完作物として導入したももの栽培。そのチャレンジが温暖化にうまく適応し、産地の北限を押し上げ、ももが青森県の新たな顔になりつつあります。
全国一のりんご産地・青森県でも温暖化の影響が出ています。JAつがる弘前の須藤公輔さんは、「夏季は最高気温30℃以上の真夏日や猛暑日が増加。その影響でりんごの着色不良や日焼け果、落果などの問題が目立つようになりました」と話します。そんな中、約20年前から始まったのがもも栽培。そのきっかけは温暖化ではなく、当時、早生りんご「つがる」の供給過多による価格低迷も背景に、「津軽地方は県内でも温暖な地域であることから、もも栽培に適した環境ではないかと考え、導入を検討しました」と須藤さん。当初、津軽地方の気候では早生(わせ)品種しかつくれないだろうと考えられていましたが、今では気候が徐々にもも栽培に適した環境へと変化。栽培経験の蓄積が進んだことにより、現在では「川中島白桃」のような晩生(おくて)品種まで栽培できるようになりました。
もも栽培が青森県の新たな可能性に
青森県産のももは、市場でも大きな強みとなります。比較的寒冷な地域である青森県では、福島県など主産地の出荷が落ち着いた後でも出荷が可能なため、市場では「アンカー産地」と位置付けられ、盛夏から初秋にかけて引き合いが強まります。さらには、暑さが厳しい年ほど、熟度の前進化や着色遅れが生じにくい青森県産のももが市場で求められるように。また、8月はもも、9月以降はりんごと作業時期を分散することで、夏場の酷暑でりんごに被害が出ても、ももで補うことができ、生産者の経営リスクを分散できる点も大きなメリットとなります。こうした背景もあり、JAつがる弘前のもも生産部会は、2016年の98人から2026年には183人へと増加。販売額も2019年の8,000万円から、5年間で1億8,000万円まで拡大しています。
「次の特産品を」。もものブランド化に挑戦
ももはりんごより摘果作業に時間が掛かり、収穫期間が短いため、一気に栽培面積を広げることは難しいそう。しかし、りんご農家にとって参入障壁は低めなのです。「りんごとももは、使う農機具や設備がほとんど同じなんです」と須藤さん。大きな設備投資を必要とせず、既存経営に組み込みやすいことも生産拡大の背景にあります。一方、もものブランド化や加工品展開は発展途上。現在、6次産業化の取り組みには、「桃じゃむ」と、ももジュース「つがるの桃色」がありますが、次の加工品開発にも取り組んでいます。変化を新たな産地づくりへつなげる挑戦が始まっているのです。
イラストレーション=まえじまふみえ

気温や湿度が上がると、人間は汗をかいて体内の熱を逃し、体温調節を行います。この調節がうまくいかず、体内に熱がこもってしまう状態が「熱中症」です。大量に汗をかくと体内の水分とともに塩分も奪われるため、熱中症予防や、熱中症の疑いがあるときは、水分と塩分を補給して体内のミネラルバランスを整えることが重要です。喉が渇いていなくてもこまめに水や麦茶で水分を、塩飴や梅干しで塩分を補給しましょう。炎天下での農作業などでは、20分から30分ごとに涼しい日陰や、エアコンの効いた場所に移動して休憩を。その際、作業着を脱いで熱を逃がすことも大切です。氷やシャーベット状の飲み物なら、高くなった体内温度も冷やせるので効果的。休憩場所に用意しておくとよいでしょう。適切な温・湿度管理をしなければ、屋内でじっとしていても熱中症の危険はあります。ためらわずにエアコンを使用し、室内でもこまめな水分補給を心がけましょう。『遅発性熱中症』といって、数時間後から翌日にかけて熱中症を発症することもあります。長時間炎天下・高温下で過ごした日は、しばらく注意が必要です。
イラストレーション=シマノアヤ子
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