
2026年11月号
日本の"だし"
和食の決め手"だし"を学ぶ
11月は「和食月間」。昆布やかつお節を中心とした"だし"の種類や、
うま味の仕組みを解説。家庭ですぐに実践できる、簡単「合わせだし」で、
和食のおいしさを再発見しましょう!
和食の味わいの基本となる「だし」。その歴史や味の成分について、(一社)和食文化国民会議の稲田潤さんにお聞きしました。
「だし」とは、水やお湯を使って素材のうま味を引き出した液体のこと。動物の骨や野菜を時間をかけてぐつぐつ煮て、うま味を「取り出す」ブイヨンなどと異なり、昆布やかつお節など、乾燥・発酵等の加工を施した素材からうま味を短時間で「引き出す」ため、だしを「引く」と言われます。だしの歴史は古く、縄文時代に土器で食材を煮ていたころから、人々は意識せずとも、だしのうま味を感じていたと推測されます。その後、時代を追うごとに、だしの材料や引き方が洗練され、和食の文化が構築されました。日本は、世界的にも多様な海産物などに恵まれた立地で、新鮮な食材が豊富です。加えて、日本の水の多くは軟水で、ミネラルが少ないことからうま味を引き出しやすいため、だしをきかせ、食材の味を生かす料理が発展したと考えられます。だしには地域性があり、近海で獲れた魚や、しいたけなどの特産物を使っただしが生まれたほか、だしの文化は輸送経路に沿って各地へと広がっていきました。例えば、北海道の昆布は、北前船(きたまえぶね)によって日本海を経由し、大阪に運ばれたため、北陸や関西では昆布だしが好まれます。また、土地特有のだしを生かした料理が、郷土料理として数多く伝えられています。
「合わせだし」で、うま味が倍増!
和食のだしには、主に昆布、かつお節、煮干し(いりこ)、干ししいたけが使われ、昆布にはグルタミン酸、かつお節と煮干しにはイノシン酸、干ししいたけにはグアニル酸と、異なるうま味成分が含まれています。また、材料によって、だしの味と香りが変わるため、使われる料理も異なります。うま味が主体で香りが控えめな昆布は、湯豆腐など素材の味わいを生かした料理に。一方、香りが強いものの、野菜との相性が良い干ししいたけは、野菜の炊き物などに使われます。また、昆布とかつお節など2つ以上の材料を組み合わせた「合わせだし」も和食の文化であり、1つの材料でだしを引くより、「合わせだし」を使う場合が多いようです。科学的にも、うま味の相乗効果が証明されており、昆布を単体で使う場合に比べ、かつお節と組み合わせると約7倍、干ししいたけと組み合わせると約10倍以上、うま味が増すといわれています。
「うま味」は人類共通の味覚
食べ物のおいしさを幅広く表現する「旨み」に対し、「うま味」は学術用語で、5つの基本味「五味(ごみ)」の1つです。「五味」とは、人間が舌で感じることができる基本の味のこと。「甘味、塩味、酸味、苦味、うま味」の5つがあります。1908年、東京帝国大学理学部化学科の池田菊苗(きくなえ)教授がグルタミン酸を発見し、「甘味、塩味、酸味、苦味」に次ぐ第五の味として「うま味」と名付けましたが、五味に含まれるかどうかは、長らく議論が分かれていました。しかし、2000年代に入り、研究によって、うま味を感じる受容体が舌に存在することが判明。第五の基本の味として、世界的に認められました。うま味は、日本人だけが「おいしい」と感じると思われがちですが、母乳にもグルタミン酸が豊富に含まれており、国や文化を問わず、人々が本能的に求める人類共通の味覚であることも科学的に証明されています。
だしの素材として、広く使われる昆布。種類による特徴や使い方の違いなどを、(一社)日本昆布協会副会長の吹田勝良さんに伺いました。
昆布は一部東北の三陸海岸沿いでもとることができますが、国内の昆布の9割以上は北海道産です。北海道の中でも、産地によって昆布の種類が異なり、だしに使われることが多いのは、利尻・礼文・稚内沿岸でとれる「利尻昆布」、羅臼沿岸でとれる「羅臼昆布」、日高沿岸でとれる「日高昆布」、函館沿岸でとれる「真昆布」の4つです。昆布に含まれるうま味成分・グルタミン酸は、動物性の食材に含まれるイノシン酸と相性が良く、合わせだしとして幅広く活用されています。昆布だしは香りが控えめなため、素材の味や香りを生かす料理に合わせることが多いほか、カレーやパスタなど和食以外の料理に加えても、味を大きく変えることなく、うま味だけをプラスすることができます。
用途や地域によって、だしに使う昆布は様々
昆布の種類によって、だしの味は変わります。利尻昆布を使っただしは、すっきりとした風味で、お吸い物など素材の味を引き出す料理に合います。一方、日高昆布や羅臼昆布を使っただしは濃厚でコクがあり、煮つけやおでんに合う味わいです。このように、料理に合わせて昆布を使い分ける場合もありますが、地域によっても、使われる昆布が異なります。大阪では、江戸時代に北前船で運ばれた真昆布が多く使われますが、富山県では、羅臼に移住した人々が昆布漁を始めたことから、羅臼昆布が好まれます。昆布だしは、約8000年前から使われているといわれていますが、現代では、だしを引くことは手間がかかると思われ、家でだしを引く人が減っているようです。昆布やかつお節の量で、好みの味に調整できますし、簡単につくれる合わせだしもあります。ぜひ日々の食卓に、自宅で引いただしを取り入れていただきたいですね。
撮影=小林久井
次は、昆布と並び、日本のだし文化を支えてきたかつお節に注目します。(一社)日本鰹節協会加盟企業であり、元禄12年創業、300余年続くかつお節専門店、(株)にんべんに話を伺いました。
日本人とかつおの関わりは古く、かつおを調理して保存性を高める文化は古代からありましたが、現在のかつお節につながる「節(ふし)」の製法が確立したのは室町時代。「かつお節づくりの中でも重要なのが、かつおを煮た後に『煙で燻す』という燻煙(くんえん)の工程で、味にも影響を与える大きなポイントです」と、(株)にんべん・経営企画室広報宣伝グループの中村拓美さん。燻して仕上げたものが「荒節(あらぶし)」。その表面の燻煙成分を削り落とし、優良なかつお節カビ付けと天日干しを2回以上繰り返し、熟成させたものが「枯節(かれぶし)」です。カビには脂肪を分解して魚臭さを抑え、枯節特有の芳醇な香りを引き出すほか、乾燥を進めて保存性を高める働きもあります。さらに、カビ付けと天日干しを繰り返して仕上げた「本枯節」は、手間と時間を要するぶん、より上品で澄んだ香りを楽しめる、かつお節の高級品となります。
かつお節や雑節、合わせて広がるだしの味わい
かつお節の魅力のひとつが、手軽にだしを引けること。水にじっくり浸す昆布に対し、かつお節は熱湯に入れて短時間で風味を引き出せます。また、つくり方によっても味わいは様々。荒節は燻煙香が残り、かつおの風味を力強く感じられるのが特徴で、そばつゆやたこ焼きなど、味の濃い料理によく合います。一方、カビ付けした枯節や本枯節は、上品で澄んだ香りが特徴で、お吸い物など繊細な味わいの料理におすすめです。同社・広報宣伝グループの小林優奈さんは、「東京はかつお節文化。一方、関西ではそこに昆布が合わさった『合わせだし』が主流です」と、地域によって好みに違いがあるとも話します。地域によっては、さば節や宗田節、うるめ節など、様々な魚からつくられる「雑節(ざつぶし)」もだしに使われます。また、九州地方では、地元で多くとれるあご(とびうお)などを素材にした「焼きあご」や「あご煮干し」のだしが根強く、特色あるだし文化が育まれています。単にかつお節や雑節と言っても、製法により個性は多様。料理に合わせて使い分ければ、かつお節の楽しみ方はさらに広がります。
画像提供=(一社)日本鰹節協会
画像提供=(株)にんべん
<つくり方>
1 昆布、かつお節、水を鍋に入れて火にかけます。
2 沸騰したら火を止めます。
3 ザルなどで濾(こ)したら完成!
4 ポットなどに移して冷蔵庫で保存※を。冷凍保存も可能です。
冷蔵庫で保存する場合は3日を目安に使い切りましょう。
昆布は、だしの出やすい日高や羅臼がおすすめ。好みに合わせて、昆布とかつお節の量を調整してもOKです。「素材からだしをつくるのは、大変…」。そんな思いを吹き飛ばすほど、あっと言う間に完成する「速攻、合わせだし」。これなら気負わずに、だしを楽しめます。だしを引いた後のだしがらも、捨てずに活用しましょう!
レシピ提供=吹田商店
イラストレーション=田村美佳
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