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農林水産省

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水稲栽培におけるマメ科緑肥と流し込み追肥の取組

~化学肥料の使用量低減に向けて~

農林水産省では、「環境負荷低減技術」と「省力化技術」を取り入れた「グリーンな栽培体系」への転換を推進しています。
今回は、水稲栽培において、マメ科緑肥による化学肥料の使用量低減に取り組んでいる、福島県喜多方市の農業者の新田 義智(にった よしとも)さんと福島県の担当者にお話を伺いました。

  • グリーンな栽培体系の詳細は こちら
  • 緑肥:栽培している作物を収穫せずにそのまま田畑にすき込み次に栽培する作物の肥料にすること、またはそのために栽培する作物のこと。緑肥をすき込むことで土壌に多くの有機物が供給されるが、特にマメ科緑肥は、根に共生する根粒菌の働きで空気中の窒素ガスをアンモニアに変換(窒素固定)することができるため、多くの窒素を供給することができる。
    (参照: 緑肥利用マニュアル(PDF:13.4MB))(外部リンク)

検証農家プロフィール

目次

インタビュー

「環境にやさしい農業」のさらなる拡大に向け、『マメ科緑肥』に取り組む

今回の検証に取り組まれたきっかけは何ですか?

新田 さん

これまでも堆肥の施用や緑肥(イタリアンライグラス)のすき込みといった「環境にやさしい農業」に取り組んできたんです。特に堆肥については、地域の畜産農家の方と堆肥ともみ殻を交換しながらやってきていて、今後もこういった取組を続けていきたいし、他にも良い取組があるなら色々と試してみたいと考えていたんですよね。そんなときに、喜多方農業普及所さんから「マメ科緑肥」の取組の紹介があって、今回の検証に取り組みました。

福島県 担当者

喜多方管内は、環境保全型農業直接支払交付金を活用してイタリアンライグラスの緑肥の導入が進んでおり、同交付金対象面積は620haで、約150名の方が取り組んでいます。
ただ、昨今の肥料価格高騰があり、窒素固定効果が高く、より地力の増進が期待できるマメ科緑肥の検証に取り組むことにしました。イネ科であるイタリアンライグラスは、米の品質を低下させる斑点米カメムシ類の繁殖地となってしまうので、緑肥をマメ科に代えることで斑点米カメムシ類対策になることも期待しました。
また、この地域は積雪が多いため、発芽率向上と生育量確保のため、通常の稲刈り後の播種に加えて、稲刈り前に行う立毛間播種にも取り組みました。

検証概要

面積
30a
水稲の品種
天のつぶ
緑肥の種類
レンゲ、ペルシアンクローバー、クリムソンクローバー(R4)、ヘアリーベッチ(R5、6)
播種量
4kg
緑肥作業と水稲作業のスケジュール
※ 横スライドが可能です。
緑肥作業と水稲作業のスケジュール

緑肥の生育のためには「播種時期」と「排水対策」が重要

マメ科緑肥の検証状況を教えてください。

新田 さん

1年目(令和4年度)は、レンゲ、ペルシアンクローバー、クリムソンクローバーで、2年目(令和5年度)は、ヘアリーベッチで立毛間播種の検証を行いました。
融雪後も枯れずに生育することが確認できましたが、粘土質な土壌の影響によって発芽があまり良くなかったり、スズメノカタビラなどの雑草が発生してしまったりして、十分な生育量が確保できませんでした。
そこで今年(令和6年度)は、立毛間と比べて播種時期は遅くなりますが、稲刈り後に耕耘してから播種することで発芽率を確保しようと思いました。
ただ、今年は天候の影響で稲刈りが遅くなり、結局播種できたのは 10月18日になってしまい、発芽率はいまいちでした。
やっぱり寒い地域なので発芽率と生育量の確保には難航していますが、例年通りの稲刈り時期であれば発芽率は確保できたと思いますし、検証も3年目になって、生育量を確保するためのコツもつかめてきたと感じています。

令和4年度の検証の様子(赤枠がレンゲ)
発芽したヘアリーベッチ(赤枠)

これまでの検証を踏まえてつかんだ「コツ」とは何でしょうか?

新田 さん

播種時期が遅くならないように気を付けるのはもちろんですが、 1番重要になるのは排水対策だと思っています。ヘアリーベッチは耐湿性があまり良くないので、水はけが悪いと「赤ベッチ」と呼ばれる、株の消失や生育停滞の症状が出てくるんです。実は、昨年度に検証したほ場は水はけが良くなかったのと、暗渠パイプの蓋が壊れていたのに気づかなくて、排水対策がきちんとできていなかったんです。今後は、ほ場の選定と、場合によっては弾丸暗渠を掘ることも検討しながら、排水対策に気を付けていきたいですね。

流し込みで追肥を省力化!

基肥の代替として緑肥を使うと追肥が必要になるため、省力的で安価な「流し込み追肥」の検証にも併せて取り組みました。

流し込み追肥の概要 尿素の入ったポリタンクを用水の水口にセットし、ホースで点滴のように流し込む。
実施時期:中干し後の6月後半~7月(*緑肥の肥効により時期を調整する。)

流し込み追肥の様子
新田さんに聞いてみました

ー 作業のコツはなんですか?
尿素は溶けづらいので前日から溶かしておく必要があります。また、水尻まで肥料を届かせるためには田面が濡れている必要があるので、雨の日に作業しました。雨が降っていない日に作業する場合は、走り水程度に水をかけ流してから作業すると良いと思います。

ー 流し込み追肥の感想を教えてください。
所要時間は20分/30aくらいなのですが、肥料がほ場全体に行き渡る時間は計算できるので、タイマーを使って管理すれば、他の作業をしながら追肥ができて非常に楽です。水持ちの悪いほ場だと、肥料が水尻まで届かなかったり、均一にならなかったりするので、水位センサーを活用して水持ちや止水のタイミングを把握すると、十分な効果を発揮すると思います。

データの蓄積により地域全体での活用を目指す

これまでの検証を通して、マメ科緑肥への感想を教えてください。

新田 さん

1番は手間がかからないところが良いな、と思っています。播種は動力散布機を背負いながらほ場を歩くだけなので5~6分/30aで終わるし、種子自体が軽いので身体的な負担はほとんどないです。生育もほとんどほったらかしで問題ないですね。私は水稲のほかに麦やネギも栽培していてほ場管理が大変なので、「省力化」という点は非常にうれしいですね。

今後の展望を教えてください。

新田 さん

まずは緑肥の生育量を確保し、安定した効果が発揮できるようにしていきたいです。また、今回は耐倒伏性の高い「天のつぶ」で検証していますが、将来的には特別栽培米の主力品種であるコシヒカリでも導入したいと考えています。緑肥の肥効を見極めながら、流し込み追肥のタイミングや回数を調整できれば、コシヒカリでの導入も可能になると思うので、今後も検証を継続していきます。

福島県 担当者

マメ科緑肥は、生育量をきちんと確保できれば草丈20cm程度で基肥4kg分の窒素を供給できるという結果が出ており、環境保全型農業直接支払交付金を活用することで肥料コストの低減にもつながると期待しています。地域にある特別栽培米部会でもマメ科緑肥への関心は高く、今回の新田さんの検証結果も部会内で共有しています。今後も検証を継続し、緑肥の生育量の確保やその再現性の確認、肥効特性による稲への影響などのデータを蓄積し、地域への普及につなげていきたいです。

新田さん(左から2人目)と福島県の担当者の皆さん
  • 取材日:令和6年11月1日
  • 本事例の取組内容については、福島県会津農林事務所喜多方農業普及所(電話:0241-24-5745)までお問合せください。
  • 福島県の栽培マニュアルはこちら(PDF:6.7MB)(外部リンク)

今回は、福島県の水稲栽培におけるマメ科緑肥を活用した化学肥料の使用量低減の事例を紹介しました。全国でも「グリーンな栽培体系への転換サポート」を活用して、緑肥による化学肥料の使用量低減の検証が行われており、既に検証を終えた地区では、検証結果を踏まえた「栽培マニュアル」が策定され、各自治体等のHPに掲載されています。
農林水産省HPでは、「栽培マニュアル」掲載ページのURLをまとめて公表していますので、ぜひご参考ください。

お問合せ先

農産局技術普及課

担当者:みどりユニット
ダイヤルイン:03-6744-2107

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