いちご栽培におけるUV-B(紫外線)を活用したうどんこ病の予防的防除
農林水産省では、「環境負荷低減技術」と「省力化技術」を取り入れた「グリーンな栽培体系」への転換を推進しています。
今回は、いちご栽培におけるうどんこ病対策として、UV-Bを活用し、化学農薬の散布回数の削減による環境負荷低減と省力化に取り組んでいる、栃木県佐野市の農業者の島田 博之(しまだ ひろゆき)さんと栃木県の担当者にお話を伺いました。
- グリーンな栽培体系の詳細は こちら
- UV-B:波長が280~315nmの紫外線。UV-Bの照射により植物体の防御関連遺伝子が発現し、うどんこ病に対する抵抗性が誘導されることが確認されている。
検証農家プロフィール
目次
インタビュー
長年悩まされてきた、うどんこ病
今回の検証に取り組まれたきっかけは何ですか?
島田 さん
現在、「とちあいか」や「とちおとめ」といった品種を栽培しているのですが、毎年うどんこ病が発生していて、かなりの被害を受けていました。そんな時、栃木県安足農業振興事務所から、UV-Bの導入について提案があったんです。それまでUV-Bについて知りませんでしたが、「うどんこ病の予防に効果がある」という点を魅力に感じて取組を始めてみました。
栃木県 担当者
うどんこ病はいちごの栽培期間をとおして発生する重要病害で、化学農薬を主体とした防除を行っています。ただ、うどんこ病は感染スピードが速く、1か所で発生するとすぐにハウス全体に広がってしまうため、農薬散布による労力だけでなく、精神的負担も大きいと聞いていました。そこで、UV-Bによって、うどんこ病防除にかかる農家さんの身体的・精神的負担が少しでも軽減できればと考え、今回の検証を実施しました。
また、栃木県では、「とちおとめ」よりも耐暑性の高い「とちあいか」の作付を推進しています。令和5年度の作付面積は55%で、初めて県内で1番となりました。「とちあいか」ではUV-Bによるうどんこ病防除の効果を確認できていなかったため、島田さんのご協力のもと、検証を行いました。
参考:検証概要
- 品種
- とちあいか、定植時期:9月中旬
- ほ場
- 5m x 47m 東西単棟ハウス
- UV-B照射
- 令和5年10月25日~令和6年2月20日 23時~翌2時、令和6年2月21日~令和6年5月20日 22時~翌1時
- 化学農薬の使用
- 病害虫の発生状況により実施
UV-B照射でうどんこ病が大きく減少、農薬の散布回数も約半分に
UV-Bの効果について教えてください。
島田 さん
うどんこ病が広まりにくくなりいちごの被害が大きく減りました。確かにUV-Bの照射によっていちごの免疫力が向上している(病害抵抗性が誘導されている)んだなと感じました。うどんこ病に対する農薬の散布回数も7回(令和3年~5年の平均)から4回に減り、身体的にもかなり楽になりましたね。

UV-B区:11月5日、1月19日、3月27日、4月10日 うどんこ病発病果率(令和5年度産)
30株の総果実(未熟果実を含む)のうちうどんこ病を発病している果実の割合
UV-Bを導入して一番良かったことは何ですか?
島田 さん
うどんこ病の防除に関して気持ちの面で楽になったことが一番大きいですね。
UV-Bの導入前は、うどんこ病が極一部にでも発生すると一気に蔓延してしまうので、すぐに農薬を散布する必要がありました。ただ、収穫時期になると、早朝から収穫~パック詰め~出荷などの作業が立て込みます。この忙しい時期に、収穫作業をしながらうどんこ病が発生していないかをよく確認したり、もし発生しているのを見つけたら速やかに農薬の種類やタイミングを考えて散布したりしなくてはいけないので、それはもう精神的な負担が大きかったんです。UV-Bを設置しているほ場では、 うどんこ病を気にし過ぎることなく安心して作業ができます。
栃木県 担当者
農薬散布はコストも労力もかかり、「減らせるのであれば減らしたい」というのが農家さんの心情だと把握しているので、農薬散布回数が減ったことは良い結果だと思います。また、栃木県では天敵を活用したハダニ類やアザミウマ類の防除が広く行われていますが、UV-Bによって防除効果に影響があったという声は聞いていません。今までの防除体系に悪影響がないことは普及の上でもプラスになると考えています。
UV-Bって簡単に使えるの?~タイマー設定で楽々管理~
島田 さん
UV-Bの照射について
「UV-Bは深夜に照射しますが、点灯と消灯のタイミングはタイマー設定によって自動で管理できます。季節によって日の出・日の入りの時間が変わるのでタイマー設定を変えることもありますが、基本的には何もしなくて良いのでとても楽です。」
UV-Bの設置について
「今回は業者とJAの方に設置してもらいましたが、やろうと思えば自分でもできそうです。たいていの場合は自分で設置できると思います。」
UV-Bの設置と照射時間
UV-Bの設置は、概略図のように1棟のハウス内に2列のケーブルを渡し、それぞれに等間隔で設置する。
また照射時間については、毎日、夜中に4時間程度照射した後、日の出までの3~4時間照射をしない時間を設けることが必要となる。なお照射開始の時間は季節ごとの日の出、日の入りに併せて調整をする必要がある。

単棟ハウス(間口6m x 奥行 30m)の場合
UV-B ランプ:16個、4mピッチ、取付高さ1.5mで設置
検証を踏まえて
UV-Bを導入した率直な感想を聞かせてください。
島田 さん
うどんこ病の被害程度は年によって差がありますが、UV-Bを設置していることで発生してもすぐには広がらないという安心感を得ることができます。導入コストはかかりますが、うどんこ病の防除がかなり楽になったので、私のほ場では導入して本当に良かったです。うどんこ病に悩まされている農家にとっては良い技術だと思うので、ぜひ検討してみてほしいですね。
ありがとうございました。栃木県としては、UV-Bの普及に向けてはどのようなお考えなのでしょうか?
栃木県 担当者
UV-Bで予防に重点を置いた防除を行うことで農家さんの身体的・精神的負担を軽減できることがわかりました。普及にあたっては導入コストが課題ですが、うどんこ病被害の大きい農家さんにとっては、コストに見合った効果のある技術だと考えているので、今後は、うどんこ病の被害状況を踏まえ、導入した方が良いと判断される農家の方に対して積極的に導入を勧めていきたいです。県のHPにマニュアルも掲載しているので、関心のある方はぜひご覧ください。
- 栃木県のUV-Bマニュアル(PDF:1,1621KB)(外部リンク)

- 取材日:令和6年8月7日
- 本事例の取組内容については、栃木県経営技術課(電話028-623-2285)までお問合せください。
今回は、栃木県のいちご栽培におけるUV-Bを活用したうどんこ病対策の事例を紹介しました。
全国でも、「グリーンな栽培体系への転換サポート」を活用して、UV-Bを活用した化学農薬の使用量低減の検証が行われており、すでに検証を終えた地区では、検証結果を踏まえた「栽培マニュアル」が策定され、各自治体等のHPに掲載されています。
農林水産省HPでは、掲載ページのURLをまとめて公表していますので、ぜひご覧ください。
お問合せ先
農産局技術普及課
担当者:みどりユニット
ダイヤルイン:03-6744-2107