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農林水産省

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ぶどう栽培の土づくりにおけるバイオ炭の活用

農林水産省では、「環境負荷低減技術」と「省力化技術」を取り入れた「グリーンな栽培体系」への転換を推進しています。
今回は、ぶどう栽培におけるバイオ炭の農地施用に取り組んでいる、山梨県笛吹市の農業者の大西 雅明(おおにし まさあき)さんと山梨県の担当者にお話を伺いました。

  • グリーンな栽培体系の詳細は こちら

検証農家プロフィール

目次

インタビュー

土づくりについて探求を重ね、たどり着いた「炭」

バイオ炭の取組を始めたきっかけは何ですか?

大西 さん

ぶどうを栽培する上で「土づくり」が大切と考えていて、特に「健全な根をつくるためにはどのような土壌環境が良いんだろう」といろいろ探求していたんです。その中でたどり着いたのが「炭」でした。炭にもいろいろあるんですが、JAが無煙炭化器を1日500円で貸し出してくれるということもあり、4年前から剪定枝を原料としたバイオ炭の取組を始めました。

剪定枝から作成したバイオ炭
山梨県 担当者

山梨県では、2020年から4パーミル・イニシアチブの取組に参加しています。もともと果樹園で発生する剪定枝は、焼却したり、チップにして土に戻したりしていたので、これをより有効に利活用しようということで「バイオ炭」の取組を始めました。
また、地域全体で一体となって取組を進めるために、無煙炭化器の導入費用の補助事業を実施したり、市町村やJAに4パーミル・イニシアチブの取組推進を働きかけたりした結果、現在では安価に無煙炭化器を貸出できる体制が整ってきました。

  • 4パーミル・イニシアチブ
    世界の土壌表層の炭素量を年間4パーミル(0.4%)増加させることができれば、人間の経済活動などによって増加する大気中の二酸化炭素を実質ゼロにすることができるという考え方で、農業分野から脱炭素社会の実現を目指す取組。2015年のCOP21で提唱され、2020年に山梨県が国内の地方自治体として初めて参加した。

バイオ炭ができるまで~大西さんの場合~

1. 剪定
10~11月に落葉が進んだ後、次のシーズンに向けて剪定を始める。
2. 乾燥
枝の太さにもよるが、剪定直後の枝は水分が多く炭化しにくいため、3~4か月程度乾燥させる。
3. 炭化
よく乾いた小枝や段ボールでおき火を作り、ガスバーナーなどで着火
おき火づくりが大切
燃え始めは白煙が出る
燃焼している状態
容器の8割程度炭が貯まり、燃焼がおさまった所で攪拌
全体が白くなったら完了
水で完全に消火する。消化が不十分だと、再発火することもあるので注意。
4. 散布
翌年の秋に散布。直径20cm・深さ30~40cmの穴(通称「タコつぼ」)に、同量の堆肥とバイオ炭に少量の腐植酸を混ぜたものを入れる。(大西さん独自の方法で、「タコつぼ方式」と呼んでいる。)
大西さんに聞いてみました

ー 炭化のコツはありますか?
枝を乾燥させることですね。しっかりと乾燥させないと炭化の時に白煙が発生して良い炭になりません。3~4年目の太い枝は1年くらいかけて乾燥させています。

ー タコつぼ方式にした理由は何ですか?
土壌中の糸状菌の働きを活用した土づくりを行っているんですが、耕すと菌床が壊れてしまうためタコつぼを掘っています。他にも、糸状菌が多く含まれる堆肥を使ったり、グロースガンを打ち込んで気層を作ったりして、糸状菌の働きを活発にできるよう取り組んでいます。

通称「タコつぼ」
同量の堆肥とバイオ炭に少量の腐植酸を混ぜたものを入れる

毎年の施用で品質の底上げを実感

バイオ炭の効果は感じていますか?

大西 さん

あくまで私の感想なんですが、品質の底上げができたと感じています。良いぶどうを作ろうと思っていても、やっぱり着色が良くなかったり、小粒だったり、糖度が低かったりと、あまり良くないものもあって、そういったものは加工用にしているんですが、最近はだいぶ少なくなってきたんです。農家にとっては、高品質のものを作ることも大切ですが、 いかに低品質なものを少なくして市場に出せる量を増やせるか、というところが最大の課題なので、そこに効果があったのは大きいですね。ただ、すぐに効果があったわけではなく、3年目くらいからようやく効果を感じ始めました。継続的に取り組むことが大切だと感じています。

バイオ炭の取組において課題に感じている部分はありますか?

大西 さん

コストについては無煙炭化器を安く借りられますし、作業についても農閑期で十分できる量なので、これといった課題は感じていません。ただ、最初の頃は炭化の作業に苦労しました。火を消すタイミングが遅すぎてすべて灰にしてしまったこともあります(笑)。その頃は炭の量が足りないので購入していたのですが、今は炭化のコツもつかめたので、ほ場の剪定枝をすべて炭化して、必要な量のバイオ炭をまかなえています。

山梨県 担当者

一連の検証では、バイオ炭の農地施用による作物の収量・品質への悪影響を感じている方は今のところいません。すぐに効果が出るものではないのですが、長期的な視点で、土壌物理性や土壌pHの改善効果を期待しています。

土壌分析でさらなる探求を進める

今後はどのようにバイオ炭の取組を展開させていく予定でしょうか?

大西 さん

引き続きバイオ炭の農地施用を続けていきますが、これからはさらに土壌への影響を注視していきたいですね。具体的には、堆肥メーカーと連携して土壌分析を行い、データの蓄積を進めていきます。糸状菌の成長には窒素・リン酸・加里に加えて、マグネシウムやカルシウムなどの微量元素も重要ですし、糸状菌が活動しやすいC/N比になっているかなども分析しながら、良い土づくりができているのかを確かめていきたいです。その上で、分析結果によってはバイオ炭のより良い活用方法も検討していきたいですね。

生産者も消費者も、地域全体で取り組むために

地域全体としては、今後バイオ炭をどのように普及させていく予定でしょうか?

山梨県 担当者

まずは炭素貯留効果を訴求して普及を進めていきたいです。炭素貯留効果と併せて、物理性改善などの土壌改良効果が期待できることもあり、4パーミル・イニシアチブの認証制度を設けて山梨県農産物の高付加価値化の取組を進めています。
また、消費者の環境負荷低減に対する理解醸成、「エシカル消費」への意識も必要と考えています。令和6年度は、実需者・メディアなどを対象とした産地見学会や、首都圏で4パーミル・イニシアチブ認証農産物の販売フェアを開催しました。今後も 県全体で環境負荷低減に取り組んでいることを知ってもらい、 生産者にも消費者にも環境負荷低減への意識を持ってもらえるよう、取組を推進していきます。

大西さん(左から4人目)と山梨県 及び JAふえふきの担当者の皆さん
  • 取材日:令和6年11月25日
  • 本事例の取組内容については、山梨県農業技術課(電話055-223-1619)までお問合せください。

今回は、山梨県のバイオ炭の農地施用の事例を紹介しました。全国でも「グリーンな栽培体系への転換サポート」を活用して、バイオ炭の農地施用の検証が行われており、既に検証を終えた地区では、検証結果を踏まえた「栽培マニュアル」が策定され、各自治体等のHPに掲載されています。
農林水産省HPでは、「栽培マニュアル」掲載ページのURLをまとめて公表していますので、ぜひご参考ください。

お問合せ先

農産局技術普及課

担当者:みどりユニット
ダイヤルイン:03-6744-2107