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農林水産省

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株式会社鐘崎

働き方改革インタビュー

   株式会社鐘崎は、仙台発祥の「笹かまぼこ」を中心とする水産物の加工、練り製品の製造・販売を行うかまぼこ事業のほか、牛たん事業、すり身の技を活かした惣菜事業の3部門を展開しています。昭和22年の創業以来、「おいしさ 楽しく」という企業理念のもと、豊かな「食」を提供し続けている食文化創造企業です。
   この度、働き方改革の取り組みについて、代表取締役社長の嘉藤明美さんにお話を伺いましたので、その内容を紹介いたします。

写真中央:代表取締役社長  嘉藤明美様。その他、スタッフの皆様
(2019年11月28日 株式会社鐘崎 本社[笹かま館]にて)
鐘崎の社員
写真中央:代表取締役社長  嘉藤明美様。
その他、スタッフの皆様
(2019年11月28日 株式会社鐘崎 本社[笹かま館]にて)
誇りと働きがいを感じ、
未来に希望を持てる会社を目指して

背景、きっかけ

   弊社は今年で創業73年を迎えます。私は2016(平成28)年に社長に就任して4年目になりますが、創業家とは全く関係がなく、15年前にパートタイマーとして勤めたのが入社のきっかけでした。
   入社当時、弊社には「みんなで自分の会社を良くしていきましょう」という気概があまり感じられませんでした。役員就任をきっかけに、私は会社がきちんと社員を育て、「この会社でずっと働きたい」と思ってもらえるような〝働きがいのある会社〟を目指したいと考え、10年ほど前から様々な取り組みをはじめました。

タテとヨコの
ハイブリッド型組織
(プロジェクトチーム)

   働き方改革を進めるためには、限られた時間の中でどれだけ良いパフォーマンスを発揮してもらえるかが重要です。弊社の場合、製造から販売まで一貫して事業を行っているため、部門が多岐に分かれています。縦型の組織であったことから、横の連携がとりにくく、社員同士のコミュニケーションがあまりにも少ない状況にありました。
   調査してみたところ、例えば本来は一人で出来るはずの作業が、情報共有ができていないために、他部門でも同じ作業が行われていたというような、無駄な作業が多いことが分かりました。
   そこで、部門(縦型)だけでなく、敢えて直接その業務に携わらない人も集めた部門横断のプロジェクトチーム(横型)を編成し、縦と横のハイブリッドで「スピードを持って実行する」ことを掲げ、課題解決に取り組むことにしました。
   テーマごとにチームを編成し、メンバーには、自分たちで数値目標・KPIを掲げ、自ら作成したアクションプランに沿ってPDCAを実践し、最終的には全社員が集まる事業計画発表会で成果報告してもらっています。
   現在、社内には10以上のチームが誕生しています。皆で力を合わせて取り組むことで社員同士のコミュニケ―ションが円滑になるとともに、自ら考え、実践するサイクルが生まれるなど、全体として社員の成長につながっていると感じています。

「鐘崎スタイル」の
接客を目指して

   例えば、「おもてなし隊」というプロジェクトチームがあります。
   接客の目指すところは、店舗の売上目標を達成することにあります。そのために「みんなで一丸となって接客レベルを上げていこう」と、新入社員、ベテラン社員、さらには販売には直接携わらない部門の人まで組み込んでチームを作りました。彼らは、<弊社が目指す「鐘崎スタイルの接客」とは?>について議論を重ね、自分たちで接客ルールを作りました。社内研修も頻繁に実施し、接客スキルの向上を図っています。
   このように弊社では、何かをやろうと思ったらすぐチームを立ち上げ、チーム全員で課題を徹底的に洗い出すところから始めています。自ら考え、自ら行動することで、課題の本質がどこにあるのかも見えてきます。
   会社の事業計画の作成にも、社員を参画させています。参画することで、より仕事や課題に主体的に取り組むようになり、それが結果的に「働きがいのある会社」につながってゆくのではないかと思っています。

社内ロールプレイング大会1社内ロールプレイング大会
「おもてなし隊」主催による社内接客ロールプレイング大会の様子

残業時間の削減を目指して

   残業時間の削減についても、会社側・管理職が一方的に「減らしなさい」と言葉を発しても真の削減には繋がりません。残業をせざるを得ない状況に陥っている要因を解決しなければ、根本的な解決とはならないのです。
   そこで、実際に残業の多い社員を集めてプロジェクトチームを立ち上げ、課題解決のために設定した目標(1か月20時間等)以内に抑えるにはどうしたら良いかを検討するところから始めました。現場の声を聴いて、社員と経営者である私とが一緒に取り組むことが課題解決につながると考えています。
   まだ始まったばかりの取り組みで成果が出るのはこれからですが、必ず目標を達成できるものと期待しています。

働く女性に
輝いてもらうために

   社内で女性が一番多いのは販売(店舗)の仕事ですが、この仕事はシフト制のため定期的に休みが取りにくく、なおかつ年末年始や観光シーズンが繁忙期にあたるため、特に家庭を持つ女性にとっては大変な仕事だと感じています。
   福利厚生として産休や育休もありますが、以前は制度があっても活用するのが難しい実態・風潮がありました。社員は出産、子育て、育休で1年近く休むことで周囲に迷惑をかけることを、また会社もその期間に人材が少なくなるというマイナスの面を気にしていたようです。働く女性に輝いてもらうためには、これを変えなければならないと感じました。私自身も子育てを経験し「子育てをしている時間も人生にとっては大切な時間である」と感じた経験から、安心して子育てができる環境を会社が作ることも大事だと考え、環境の整備に力を注ぎました。その結果、産休・育休に対する理解がだいぶ浸透してきています。
   現在弊社は、女性の割合が6割以上となっています。仕事と子育てを両立しやすい環境が徐々に整備され、いきいきと仕事ができる環境が広がり、「女性にとって働きやすい会社」というイメージが定着してきたようで、新卒採用でも圧倒的に女性の応募者が増えています。それに伴い、女性の活躍に場面は増えてきています。これは、私にとって何より喜ばしいことでした。
   また、3年前から有給休暇をすべて半日単位で取れるようにしました。子育て世代の女性に限らず、家庭や行事を犠牲にするという働き方はすでに時流に合わなくなっています。私は社員全員に、自分の人生を充実させてもらいたいと思っています。

多能工化・平準化を
目指して

   現在、製造部門の多能工化・平準化を積極的に進めています。
   製造部門は80人ほどおりますが、これまでは仕事が固定化し、常に同じ環境で仕事をしているために、モチベーションの維持が難しいのではないかと感じていました。
   そこで、仕事の〝見える化〟を図るプロジェクトチームを立ち上げました。作業項目を細かいレベルまで全て洗い出し、出来る人が出来ない人を教え、どれだけの人がその作業が出来るようになったかを確認できるリストを作成(見える化)しました。
   今後は、専門的な技術を要する一部の仕事以外は、製造部門の全員が全工程の業務を担当できるようにしたいと考えています。
   こうした取り組みは、業務の効率化のみならず、一人一人のスキルアップにもつながっています。また、部門を越えてお互いの仕事を理解しようとする機運も高まってきています。ここから、いい意味での刺激や競争が生まれることを期待しています。

工場の効率化改善に向けて

   2018(平成30)年に、工場の効率化改善プロジェクトチームを立ち上げ、工場内の工程で、どれだけの人員と時間がかかっているのかを洗い出しました。そこで見えてきたのが、「包装された商品をバケットに並べる」という作業でした。
   ほとんどの笹かまぼこの製造から包装までの工程は、機械化されたラインで行われています。その後、包装された商品を納品先ごとに仕分けし、箱詰めするのですが、包装から箱詰めまでの間に「バケットに入れられた商品を1枚1枚人の手で整然と並べ直す」という、人手も時間も要する作業が組み込まれていました。
   そこで、国が主導する復興支援事業の一環である助成金(水産加工業等販路回復取組支援事業助成金)を活用してバケット詰めロボットラインを導入し、余剰人員を商品開発など付加価値向上につながる業務に充てることができました。

工場に定休日を設定

   また、工場定休日を増やしました。
   弊社はGWや年末年始をはじめ、週末が忙しくなります。そのため「時には家族と一緒に週末を過ごしたい」という社員の願いを叶えることができず、心苦しく感じていました。
   工場を通年稼働させていた根底には、「お客様にご迷惑をおかけしてはいけない」とか、「かまぼこは日持ちがしないので作り置きができない」といった思いから派生した、「工場は毎日稼働して当たり前」「工場は休んではいけない」といった固定観念がありました。
   しかし、多能工化や適材適所の人員配置など様々なデータを分析したところ、毎週ではないにせよ、日曜日を休みにできるのではないかという可能性が見えてきました。さらに、毎日工場を稼働させるよりも、定休日を設けて工場のスタッフに一斉に休みをとってもらった方が、シフトが組みやすくなるということも分かりました。
   初めての取り組みですので、当然のことながら営業部門などから「そんなこと出来るわけがない」「そんなことやっていいのか」という声が上がりました。しかし、本当に無理なのか、本当に毎日稼働しなければいけないのかと突き詰めたところ、丁寧に事情を説明し、早目にお伝えすれば、前もって計画的に注文していただけるお客様もいらっしゃるのではないかということが分かりました。
   お客様にご理解いただくための努力や工夫を重ねた結果、定休日を設けることができました。
   また、弊社の場合、お中元・お歳暮にご利用くださるお客様が多いため、繁忙期と閑散期の差が大きいという特徴があります。そのため、仕事量に応じて出社時間を変える変形労働を取り入れる等の工夫も行っています。

失敗からの教訓
(FSSC22000認証を取得)

   以前、細心の注意を払っていたにも関わらず、お客様にご迷惑をおかけする事案が発生してしまったことがありました。
   再発防止のために、チェックリストの作成等も検討しましたが、そこだけを直しても、「食の安全」という問題の根本的な解決にはならず、また、チェックすることの重要度・意味をきちんと理解しないと、いずれまた同様の事故が起きてしまうと感じました。
   そこで、お客さまにより安全・安心な商品をお届けするために、もっとレベルの高い仕事をするにはどうしたらいいかと考えました。
   例えば温度を計るにしても、記録するために計るのではなく、異常値が出たらどう対処すれば良いのかなど、次の行動に移せなかったら意味がありません。そういうことを全ての現場で理解していかないと、安全は実現できないのです。
   「食の安全」を提供するためには、社員の仕事のレベルを上げなければいけない。そのためには、より高いハードル、明確な目標を掲げることが大切だと感じました。そこで、FSSC22000(※)の認証を取得することにしました。
   現場の若いリーダークラスの人たちを責任者にして、全ての業務について一つ一つフロー図を作り直すところから始め、全ての作業に意味付けを行いました。1年かけてじっくり準備を行った結果、平成27年(2015年)、本社工場においてFSSC22000認証を取得することが出来ました。
   この認証の取得は、社員に「国際的な安全基準で仕事をしている」という自覚を促すとともに、自信にもつながりました。

「Food Safety System Certification」食品安全マネジメントシステムの国際規格
企画打ち合わせ風景笹焼工程
笹かま館
1989(平成元)年、本社工場の隣接地に、直売店や笹かまぼこの手作り体験教室、 工場見学、仙台七夕の常設展示を行う施設「笹かま館」をオープンしました。
笹かま館外観笹かま手焼体験
鐘崎屋全体大漁旗イメージ最新大漁旗パッケージ

1階の「鐘崎屋」は、創業当時(1947(昭和22)年)の店構えを再現したもので、 手作りで焼いた出来立ての笹かまぼこと地酒をお楽しみいただけます。

今後

   弊社の取り組みの全てに共通しているのは、部署や上下関係に関係なく、テーマごとにチームを組んで課題を共有し、「まずは、やってみる」というスタイルです。
   失敗することも、成長するための大事なステップであると考えています。
   社員ひとり一人が、自分で考え、自分で気づき、実行に移すことができるようになることで、わが社の働き方改革が大きく前進するであろうと期待しています。
   改革は社長が一人で達成するものではなく、全ての社員が、自分事として取り組むものだと思っています。
   昨年、「10年後のありたい鐘崎の姿」を全社員と共有し、新たなビジョンを掲げ歩み始めました。目指すのは、誰もが活躍しやすい会社をつくり、豊かでより良い未来を描ける会社です。全員が「自分たちがこの会社の未来を作るんだ」という気概を持ち、その実現に向けて懸命にチャレンジを続けていきたいと思います。
   次の世代の人たちが、活気に満ちた環境で誇りや働きがいをもって仕事をし、「ずっとこの会社で働きたい」と未来に希望をもってもらえる会社にしてゆきたいと思っています。

株式会社鐘崎の皆様、
インタビューのご協力
ありがとうございました。

お問合せ先

大臣官房 新事業・食品産業部 新事業・食品産業政策課

代表:03-3502-8111(内線4136)
ダイヤルイン:03-3502-5742