概要
1.直接支払導入の必要性
高齢化が進行する中、農業生産条件が不利な地域があることから、耕作放棄地の増加等により多面的機能の低下が特に懸念されている中山間地域等において、耕作放棄の発生を防止し多面的機能を確保するという観点から、既存の政策との整合性を図りつつ、直接支払いを実施する。
2.基本的考え方
- 導入の必要性、制度の仕組みについて広く国民の理解を得るとともに、WTO農業協定上「緑」の政策とすることが必要。
- 明確かつ客観的基準の下に透明性を確保しながら実施することが必要。
- 国と地方公共団体が緊密な連携の下に実施することが必要。
- 制度導入後も、中立的な第三者機関による実施状況の点検、政策効果の評価、基準の見直し等が必要。
3.各項目についての検討結果
1.対象地域及び対象農地 |
(1) 畑地等水田以外の農地の扱い等
- 畑(肥培管理された牧草地を含む。)についても、土壌浸食防止等の機能は大きく、対象とすることが適当。水田のけい畔も対象とすることが適当。
- 採草放牧地については、傾斜による生産条件格差が設定できる場合には対象とすることが適当。
(2)対象地域(地域振興立法の範囲)
地域振興立法として、従来から中山間地域対策を講じてきた特定農山村法、山村振興法、過疎法、半島振興法、離島振興法、沖縄振興開発特別措置法、奄美群島振興開発特別措置法及び小笠原諸島振興開発特別措置法の8法とすることが適当。
(3)対象農地(農業生産条件の不利性を示す基準)
ア 傾斜度等
急傾斜地(田:01月20日、畑:15度以上)を対象とすることは適当。緩傾斜地(田:01月10日0、畑:8度以上)については、急傾斜地と単価に格差を設定した上で、対象と するかどうか、あるいは対象とする場合に下限を01月10日0(8度)と01月20日(15度)との間のどの水準に設定するのか等について市町村長(又は都道府県知事)の判断に委ねてはどうか。小区画・不整形の一団の水田も対象とすることが適当。
イ その他の条件
(ア)高齢化率及び耕作放棄率の高い一団の農地を対象とするかどうかは市町村長(又は都道府県知事)の判断に委ねることが適当。
(イ)積算気温、積雪、標高等については、全国的な基準として採用することは困難である。しかし、極端に気温が低いため、牧草しかできず、その収量も劣り耕作放棄の懸念が大きい地域の草地については、対象とすることが適当ではないか。
(4)地域の実態に応じた地域指定
8法以外の地域でも自然的・社会的・経済的条件が不利な地域があること、8法地域内でも傾斜度等以外にも生産条件が不利な地域があることなどから、国の負担する額を引き下げる等の歯止め策を講じた上で、一定の基準に基づき算定される都道府県ごとの農地の一定割合の範囲内で、地域の実態に応じた基準に該当する地域を指定できる仕組みを検討してはどうか。
また、地域の実態に応じた基準の設定については、都道府県レベルで設置される中立的な第三者機関で審査・検討を行うとともに、地域間で不均衡が生じないよう国レベルの第三者機関で必要な調整が行われることが望ましい。
(5)対象農地の指定単位
多面的機能を効果的に発揮するとの観点から1ha以上の一定の面的まとまりのある農地を対象農地とすることが適当。
2.対象行為 |
(1)農業生産活動等に加え、多面的機能の増進につながる行為も行うことが必要。しかし、農法の転換まで必要となる環境保全行為は必要ではない。
(2)協定違反の場合には、不可抗力の場合を除き、直接支払いの返還を求めることが適当。
(3)米の生産調整との関係については、両者は本来別個の政策目的に係る問題であるが、農政全体として整合性・効率性を保つことが重要であり、双方の助成の調和が図られるよう、何らかの調整措置が講ぜられるべき。
3.対象者 |
(1)担い手確保・育成政策との整合性
多面的機能の発揮という観点からは、対象者を限定すべきではないこと、小規模農家を排除すると集落協定が機能しなくなること等から、小規模農家も対象とすることが適当。
なお、新規就農の場合や担い手が条件不利な農地を引き受ける場合には上乗せ助成を検討してはどうか。
(2)高額所得者を除外すると集落協定が機能しなかったり、認定農業者が排除されてしまうおそれがあり、対象とすることが適当。
4.単価 |
(1)基本的考え方
中山間地域等の現状を考慮すれば、生産費格差を十分反映した単価とすべきであるという考え方がある一方、生産条件格差をすべて補正することは中山間地域等での生産性向上へのインセンティブを失わせたり、平地地域の農業を圧迫するおそれがあるという考え方がある。この2つの考え方のバランスを採って単価を設定することが適当。
(2)条件不利の度合に応じた段階的な単価設定
条件の不利度、生産条件の格差に応じて段階的に単価を設定することは、一律のバラマキではないことを示す上でも、国民の理解が得られる方法であり適当。
(3) 田・畑・草地・採草放牧地別に単価を設定するとともに、原則として急傾斜農地とそれ以外の農地とで生産条件の格差に応じて2段階の単価設定。
(4)直接支払いの額の上限
ア WTO農業協定の規定や非農家の理解の必要性を考慮すると、1戸当たりの受給総額の上限が設定されるべきである。その水準については、少数の担い手が多くの農地の受託等をする場合もあることを考慮して設定してはどうか。
イ 多数のオペレーターや構成員からなる第3セクター、生産組織等の場合には直接支払いの額の上限を設けることは不適当。
5.地方公共団体の役割 |
(1)実施主体
国が明確かつ客観的な枠組み・基準を示した上で、直接支払いに関する事業は市町村が自主性と責任を持ちつつ実施するのが適当。
(2)費用分担
国と地方公共団体が緊密な連携の下で実施すべきものであり、地元の意欲と責任を引き出していくような事業とするためには、地方公共団体も負担する方向で検討していく必要。その場合、国と地方の負担割合を適切なものとするとともに、地方公共団体の財政負担に対しては、適切な地方財政措置が講じられる必要がある。
6.期間 |
事業自体について5年間というくくりを設けて見直すとともに、当該集落が次の第2ステップへのマスタープランを作成した場合に次の段階の直接支払いの対象とすることが適当ではないか。
7.関連事項 |
森林についても高い多面的機能を有していることから、農地への直接支払いと同様の対策を検討すべきとの意見があったが、森林については、WTO農業協定の対象となっていないこと、森林の多くは傾斜地に存在し、平地との生産条件の格差の是正という制度になじまないこと、治山事業や造林補助事業が既に実施されていること等から、今回の検討対象にならない。森林の多面的機能の維持に資する行為のうち農地と一体になった周辺林地の管理などについては本対策の集落協定の対象となり得るが、森林自体に関する施策については、別途、林政全体の検討の中で、森林・林業の実態や既存施策との関係等を十分踏まえて、総合的な観点から検討されるべきである。
お問合せ先
農村振興局農村政策部中山間地域振興課
代表:03-3502-8111(内線5632)
ダイヤルイン:03-3501-8359